第二十三話「いつ付き合うんだ?」「急かすんじゃないわよ、それでいつ付き合うの?」
「団長、戻りました」
砦の内部調査を終えて戻った時には深夜になっていて、起きていたのは団長に副団長にあとオウカや見張りの騎士くらいで後はテントで寝ていた。俺を単独で行かせようとしたベルン先輩が待ち構えているかと思ったけどアイツは真っ先に寝たようだ。
「おう、ご苦労。オウカの『野狐』からこっちもある程度は把握したぞ」
「使い魔との視覚共有、俺も欲しいですが……確か魔法適正がないと契約すら出来ないんですよね」
『キュウ』
先行して安全確認してくれたコンは頭の上で丸くなっている。
「お帰り、カイト。無事に帰ってこれて良かった」
「ああ、お前が送ってきたコンのお陰でな。助かった」
コンをオウカに手渡して、彼女の頭をポンポンと撫でてやる。帰ったらやろうと考えていたがどんな反応をするのかと見てみると、
「っ……そ、そう……なら良かった……」
少しピクッと硬直した後、頬を赤くしながらそっぽ向いた。でも耳がペタンとなってるしユラユラと尻尾が揺れている。うん、可愛い。日本にいた頃はケモ耳好きではなかったんだが新しい扉でも開いたかもしれん……。
「ふふ、じゃあカイト君、報告お願いできる?」
「……ハッ!?」
いかん、サラサラな金髪の触り心地が良くて時間を忘れてしまう。
「名残惜しいならまた後でやったらいいじゃない、オウカちゃんも満更では無さそうだし?」
「あ、アーゼス副団長、べつに満更って訳じゃ……!!」
おう、今度は真っ赤になった。耳もピーンって立ってる。
「偵察班の中でも期待の二人組、仲が良くて結構結構。なんなら今以上の関係になっても良いぞ。別に恋愛禁止にしてる訳でもないからな」
「シム団長まで!?」
「ハハハ……」
前から思ってたが、この二人はオウカのことを娘でも見てるような目をしてるんだよな。特別扱いしてる感じではないにしても、他の騎士に向けてる目ではない。
オウカ・ココノエ。おうか・ここのえ、桜花九重───騎士団の中で彼女だけが漢字に変換できる名前をしていることと何か関係がありそうだが、今は報告するのが先だな。
「───さて、報告ですが……コンと視覚共有したオウカから聞いた通り、囚われた奴隷は見つけた限りは全員手遅れでした」
酷い有り様だった。こちとら異世界生活半年で少しは耐性が付いて来たから良かったもののそれ無しでいきなり見せられたら間違いなく吐いていた。しかし奴隷になった者の末路はだいたいがあんなもので、それがこの世界では当たり前。反吐がでるよ。
「ああ、助けられなかったのは残念だった。いくら奴隷だとしてもあんな終わり方は心が痛む。それでカイト、この後の予定はどうするつもりだ? 確か砦の制圧すると言っていたが……」
「奴隷の救助が必要なくなったのなら砦の制圧。その予定は変わりません。ただ、あんなことを平気でやるような盗賊の奴等だけは捕まえた程度で終わらせたりはしませんよ」
元よりこれは征伐、一人残らず討つのみ。遠慮無く、俺のやり方で、追い詰めてやる。
「ちょうど良い道具があります。皆さんには明日の朝、砦に攻め入ってくれれば簡単に制圧できると思います」
「……カイト君はどうするの?」
そう聞いてくる副団長に俺は笑みを隠しもせずに言った。
「ちょっとしたたちの悪い安眠妨害ですよ」
■■■
カイトの作戦はたぶん騎士としてはらしくないモノだと思う。けど私や偵察班の騎士たち騎士団の汚れ役は大賛成だった。偵察班は文字通り偵察するだけではなく、どんなに汚い手であろうと己の仕事を全うするのだから。
「先ずは今いる見張りを音も無く暗殺して下さい」
見張りの数は十二人。闇夜に紛れて暗殺するくらい造作もない。
「……霜針」
「あ、ァ───?」
刺した箇所から霜が降りるように対象を凍らせる魔法で見張りの塔にいる盗賊を凍死させる。凍らせる速さは私次第で、今回は最速。不意討ちなら対処は不可能だ。
「見張りを全員仕留めたら、俺は砦に潜入して地下通路のところへ移動するので砦の内部を探索して地下通路がまだないか探して下さい」
ここまで言われて偵察班のみんなはカイトの狙いが分かった。私はカイトと組んでたから直ぐに分かったけど、彼が本気で嫌がらせをするとなったら徹底的にやるから少しは相手に同情してしまう。
「カイト、地下通路はここだけみたい」
「なら砦の外で待機。もし煙が上がったら、そこを潰して欲しい」
「分かった。コン、伝えてきてくれる?」
『キュイ』
コンが走り去って行くのを見送り、私はカイトと地下通路の前に立つ。
「少し進んだ所で投げ入れる。オウカは気流操作だ」
「相変わらずえげつない事をするよね、カイトは」
円筒形のものを持って指示を出すカイトにそう言ってみる。
「嫌いになるか?」
「味方なら良いけど、敵になったら罵詈雑言かな」
「うわ、それは勘弁してくれ。他のヤツならどうでもいいが、お前から言われるとダメージがデカイんだ……」
「それは、どういう意味で……?」
カイトは少し恥ずかしそうにしながらも言った。
「お前とは一番早く親しくなれたし、付き合いも長いからなぁ……今では俺の相棒で代わりのいない大事な人だ、そんな人から嫌いだのなんだのと言われた日には間違いなくショックで寝込むね」
「大事な、人……私が……」
つまり私は彼にとってはとても大きい存在なんだと言ってるようなもの、だよね。
それはなんというか、嬉しい、かな……。
「ふふ、そっか」
「……? なんだがご機嫌だな」
「だって、カイトのご機嫌は私の言葉次第ってことでしょ? なんだか私が主導権を握ってるみたいで支配してる感がある」
「えぇ……」
あっ、なんか引かれた。どうしよう、すごいショックなんだけど。私の言い方が悪かった? 流石に支配は変だったかな、それか私もカイトに嫌われる方がイヤって言えば良かった?
「あー、とりあえず行くか……」
「うん……」
■■■
「ねえシム、あの二人どう思う?」
「オウカは自覚はしてないが実は、って感じだろ。あんなに顔を真っ赤にしたってのに」
「そうよね……自分で言ってても、自分で思ってても……たとえ相手からであっても結局は気づかない重度の無自覚。でも本能とかではカイト君の事を……」
「昔のお前みたいだな。───ああ、だからオレとお前で煽ろうって言ったのか」
「そうよ、私たちみたいになるのを見たくはないでしょう」
「……そうだな。ところで、カイトの方はどう思う?」
「カイト君は……」
「───よく分からないのよね。気があるようで、でも手を出さない……まるで決して踏み込まないようにしてるような……」




