表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第一章
22/170

第二十二話「初の戦闘シーンが僕だなんて」「だって俺は銃だし近付かないし」

訓練所とは言っても見てくれはコロッセオのような円形闘技場。

広い砂地のフィールドを囲うように観客席があり、イベントとなれば何万もの人が収容できる巨大建造物。


「今回はどこまで出すんですか?」

「前回と同じだよ、私は刀しか使わない。迎撃の抜刀のみでこちらからは攻めたりはしないから思う存分にかかってきなさい」


フィールドの中央で僕の問い掛けにユキナさんはそう答えた。


「ふふ、舐められてる、他の人ならそう思って心を乱すんだろうけど」


いくらAランクだろうと武器のみで攻めもせず迎撃だけともなればそう思っても仕方がない。


でも違うんだ。あの人は相手を舐めたりはしない。たとえ相手がどんなに格下だろうと相対するならそれは敵であり倒すべき存在。敵ならば慈悲も容赦もなく討つのみ。そんな人だ、ユキナさんは。


そして今からやるのは手合わせ。弟子の成長を確かめる為に、ひとまずは前回と同様に僕の実力に合わせてなるべく彼女も力を抑えてくれているに過ぎない。

まあそれでも、どれだけ手加減をしてくれたところでその実力は変わらず達人級だ。


「初めて見た時から敵わないと感じてました。抜刀だってユキナさんの得意技って訳じゃない、でも今の僕の技量に対してユキナさんは()()()()()()()で事足りる。それほどに決定的な差がある」

「その通り。でももし、この手合わせで私とレンくんが一度でも鍔迫り合ったのならそれは私が抜刀のみの技量でレンくんを抑えられなかったということを意味する。つまり私の負けだ」


ユキナさんは左手に持った鞘に納まった刀を前につき出す。


「『絶圏(ぜっけん)の剣聖』───攻撃手段は抜刀のみ、間合いの内側への侵入を許さない絶対的制空圏を築くAランク冒険者。その実態は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()A()()()()()()()()()()()()()()()……世の中の強さの基準甘くない?」

(基準が甘いんじゃなくてユキナさんの強さがイカれてるだけだと思うな……)


自分に制限をつけてもその力がAランクなら、彼女が本来発揮する実力はいったいどれほどのものになるのか。あまり考えたくないけど人外クラスと言われても信じれるよ。


「ここ一年は抜刀ばかりだったからなのか、そこそこ上達しちゃってさ。たぶん前よりもキツいと思う。いやぁ、まだ上に行けるというのは嬉しいことだね」

(まだ上達するの!? 限界とかあるのかな、この人は)

「さて、それじゃあ、そろそろ始めようか……」


静かな宣言と同時に、空気が変わる。


さっきまでの無邪気で明るい女性から一変。表情が消え、正気より狂気の濃さが増した白い瞳に見られた瞬間、まるで世界が凍結したかのように錯覚し超極寒の向かい風を受けているように体がこわばる。


「レンくんの実力、見極めさせてもらうよ……」


僅かに右足を前に、やや腰を落として前傾姿勢を維持し、左手に持った刀の柄に添えられた右手はいつでも抜刀できるように待機。何度も見た抜刀の構えだ。そして前髪の隙間から見える瞳は真っ直ぐに、僕へ向けられている。


(見える、ユキナさんの胴を中心に全方位を包む球状の結界のようなものが……)


半径は二.五メートル前後。それは腕と刀の長さ、そして軽い踏み込みを合わせた合計の長さでありユキナさんの攻撃の最大到達点。その内側全てが彼女の間合いだ。


(鍔迫り合いをした時点でユキナさんの負け、なんて言ったけどユキナさんの刀の刀身を見るなら他にも手段はある。なにも鍔迫り合いに拘る必要はない)


左手で柄を握り、そこに刻まれた文字を指で触れる。


「……我が心、月を映す水面の如く、一切の揺らぎ無く、蒼白の光を我が眼に(とも)さん……」


即ち『蒼白ノ水月』。これは感情を糧にする異法を扱う為の心構えとしてこの刀を手にした時に決めた言葉。感情に左右されるなら、そうならないように心を落ち着かせ、変動しないようにすればいい。


「我、名刀『月夜祓(つくよのはら)』を振るいて───参る!!」


勢いよく刀を抜き、上段に構える。


(初めから全力でいく───)

「"水天一碧"……流れは不変、我が前に阻むもの無し」


異法の中で一番得意なのは自己強化。


そしてこの"水天一碧"は主に眼と足捌きを強化するもので、どんな悪路だろうと見た瞬間に理解、適応。最適なルートを割り出し、まるで平地を行くかのように駆け抜けることを旨とする自己強化。


これが平地の場合なら、足から伝わる感触から最適な動きに随時修正、無駄を無くして体力の消耗を極限に抑えられるだけではなく、強化された眼は高速で迫るものを見逃さずに対応するという訳だ。


全身を淡い青色の光が包み込む。足を包む光の色は濃く、蒼い。


「シッ───!!」


強化された体は動きの始動となる体重移動や力みを感じさせないほど自然に、そして滑らかに、不敵に笑い構えるユキナさんへと疾走する。

彼女に出し惜しみしてる余裕は皆無だ。ならば、と更なる自己強化を発揮させる。


「"一気呵成"……為すは連刃、空を割る稲妻の如く」


次に移動速度と攻撃速度を強化。全身と刀に紫電が纏い、雷の速さを体現し一息で数十の斬撃を可能とする。



「───二重強化"流一心(ながるるいっしん)(らん)"!!」



今出せる全力を以て、ユキナさんの絶圏を突破する!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ