第二話「取説は読むタイプ?」「サラッと見て後は勘」
『Firstnite』もしくは『ファーストナイト』──略称『ファストナ』が俺を魅了したゲームの名前だ。
大きな島に百人のプレイヤーが輸送機から降下し、フィールドに点在する宝箱から物資をあさり、最後の一人になるまで戦うパトルロワイヤル性のFPSゲーム。
各シーズンで島の広さや建造物が変わったり、マンガやアニメとのコラボイベントが高頻度で行われ、運営はちゃんと休めているのかと思うほど新情報は絶えない。
「ぐ、お……ぉぉ」
そして……俺はその『ファストナ』で出来る全てを神から授けられた訳だが、それを確認する前にさっきからズキズキと痛むこの頭をどうにかしなければならない。
「神が言ってたアレかっ……なるほど、この世界の一般的な知識の量を一気に記憶させるから頭に負荷がかかる、とっ……ぐうぅ」
ゲームアップデートとかでゲーム機が物凄い音をたててあっつくなるが、それと似たような現象なのかもしれない。
「っ──今のところ敵はいない、ここは落ち着いて……頭の中の情報を整理するか」
幸い俺がいるところは丘のように盛り上がっていて遠くまで見渡せる。
平原は領土より外側だとしても、人や獣……魔獣が通り掛かるかもしれない。周囲を警戒しながら一つずつこの世界の情報を整理しよう。
異世界『オースティナント』。
この世界に関することはよく読んでいたファンタジーものの小説の内容とだいたい似たようなものだ。人以外に、獣人やエルフといった人型の種族、それら種族の共通の敵である魔獣という怪物がいると。
そんで強さによってランク付けされたり、一定の強さを越えると風貌や扱う武器の特徴で二つ名がつく。
次、俺が目指すべき国の『アテリア』は先に異世界から召喚された勇者の件があって、かなり面倒だがそこが現状では一番安全とのこと。
正式名称は『神聖アテリア王国』。他国からは『王国』と呼ばれている大国。
戦争中だという他国の情報もあるがひとまずは除外。この世界の歴史や神話は、それ関連の話が出た時にその都度『○○な感じだっけ』って言える程度にはしておこう。ちょっと興味あるしな。
「──あと神から聞いた感じ、俺や勇者以外にも転生や召喚でこの世界にきた人がいそうだな。会ってみたくはあるが勇者や『アテリア』の国王の目があるからなぁ……あまり派手には動けないな」
まあ、派手にやるつもりはないからいいのだが。
「先ずは『アテリア』に行って拠点探しだ。金稼ぎは冒険者になるのが無難、あと異世界転生には付き物のお決まりイベントが実際に起きるのかも気になる。それ次第では今後の身の振り方が決まるかもだ」
とりあえず雑に頭の中を整理する。今後の方針については決まったようで決まってないに等しく、ほぼ運任せで行き当たりばったり。うん、困った時の俺のやり方だ。
「……………よし、もう良いな」
頭痛は治まったようだ。なにかのワクチン接種の副作用で寝込んだ時もこんな感じだったなぁと、転生前のことを思い出すよ。
「さて、お待ちかねの俺の能力がどうなってるか。確かめるとするか。えーと、ここは『ステータスオープン』とか言えばいいのか……?」
なんてことを呟いていると、
【プレイヤーネーム:ok狭間】
【使用スキン:黒羽(迷彩マント無し)】
【種族:人間(上位種)】
【職業:偵察兵】
おお……空中に文字が浮かんだ。しかも日本語じゃなくてこの世界の言語だ。一般的な知識があるからなのか普通に読める。
プレイヤーネームは『ファストナ』での俺の名前だ。皆さんご存知、あの戦いの舞台となった場所の名前をいじったもの。
そして使用スキンの『黒羽』とは、カラスをモチーフに黒く染められた革と布で作られた衣装をまとったキャラクターで偵察を得意とする一族の一人、というキャラ設定。職業の『偵察兵』はこれからきているのだろう。
可能な限り露出を減らし、最低限の黒塗り防具、顔は目元以外は黒布のマフラーで隠しており、物陰や暗闇に潜むことが多い俺のプレイスタイルにぴったりで最も使用回数が多いスキンだ。
オプションで迷彩マントがあり、色彩が自由に変更できるが、今はそれを外した状態。
「種族の、人間の上位種ってのは……ああ、召喚されたり転生したヤツはだいたいこれなのか。基礎ステータスが一般人よりは高めと。これが勇者にバレたら面倒だな。次に能力は──」
【能力:保管庫(指輪として装着済み)】
【保管庫を最小化し、初期デザインの指輪として装着します。凹凸がある部分を手のひら側になるように左手人差し指にはめてあり、凹凸を押し込むと欲する武器、物資、乗り物が召喚されます】
【召喚された銃の再装填が必要になった場合、自動で空の弾倉マガジンが銃から外れ、新たな弾倉が召喚されます】
【使用可能な武器の閲覧も可】
【同時に召喚できる武器の数に制限はありません】
【能力者の承諾が無ければ他者が保管庫の物を使うことが出来ません】
「『保管庫』って、そのまんまだな……」
『ファストナ』ではイベントやシーズンごとにその環境を考えてフィールドに出現する武器が変わることがある。
かなり前から使用出来なかった武器が復活、新武器の登場により同じカテゴリーの武器をいくつか使用不能になるといった変更。そうしてゲームで登場したり
、しなくなった物をリスト化したものをゲーマーたちは『保管庫』と呼ぶ。
つまり俺はこれまでゲームに出てきたアレやコレやを自由に出し入れして使えるわけだ。
未来の道具がしまってあるポケットみたいだな。
「そしてもう一つの能力が……【設定変更】か」
【能力:設定変更】
【ステータス、ゲームモード、スキン、武器のレア度、部隊への参加、フレンドサーチ、チャット全般などの設定を自由に変更できます】
【現在は標準仕様】
【都合が悪いものは今のうちに偽装しましょう】
【バレません】
「種族の『人間(上位種)』を『人間』に偽装」
【種族:人間(上位種)→人間】
【偽装完了しました】
「バレませんってあるしこれでなんとかなるな。あとついでに名前も変えよう。『ok狭間』から……普通に本名の『カイト』に変更だ」
【プレイヤーネーム:ok狭間→カイト】
【変更完了しました】
【他に変更するものはありますか?】
「せっかくだ、スキン『黒羽』の迷彩マントを装備する。色は緑系統。明度と彩度は低く」
【変更完了しました】
【迷彩マントを装備します】
出現した全身を隠せるくらいの迷彩マントを羽織る。ふふん、こういうマントとかロングコートを着てみたかったんだよな。風でヒラヒラ揺れるとことか、カッコいいじゃん。
「能力は、この二つか」
うん──強いな、これ。
『ファストナ』で出来る全てを能力に、って話だったけどこれプレイヤーが出来ることを越えている。保管庫から出し入れとか運営側がやってることだし、設定の変更も使い方次第ではこれも武器になる。
「能力の把握もしたし、武器の召喚を試してみるかね。『ファストナ』の初期勢じゃないから流石に全ての武器を知らない、空いた時間で閲覧するとして、最 初は───あん?」
指輪を見て武器を召喚しようとした時、突然どこからか大きな音が聞こえた。
「あー……もしかして、イベント発生?」