第十七話「連休と言ったなアレは無しだ」「うわぁぁぁ!!」
自身がいる世界とは完全に異なる法力である『異法』。
その力を発揮する武器の『異法武器』。
それを扱う者を総じて『法剣士』と呼び、武力を必要とする職業に就くにはある程度の『法剣士』としての実績が必要となった世界。
僕はその世界の『ニホン』出身だ。
どのように『ニホン』に流れ着いたのかは分からない。異法は一時期は未知のもので忌避されていたけど、異法が現れる前から元々あった法力が弱まり徐々に失われつつあったことで、科学のみでは将来に不安を感じた多くの人間が異法に乗り換えた。
『ニホン』の科学技術は法力ありきのものだったから、それをよく理解している科学者や専門家たちは、法力が失われる将来を思い恐怖したことだろう。
そして一年も経たず、元々あった法力は完全に消え、代わりに異法が科学技術と並んで『ニホン』を支える新たな力となった。多少の練習を要したけど、法力を発揮するのとほぼ同じ感覚で異法を発揮出来たのもあり、あっという間に国中に浸透した。
『異法は法力と同じ。善にも悪にもなる力である』
『どんな影響があるかも分からない、くれぐれも注意して欲しい』
しかし誰もが使えるようになった力だけど、誰もが使いこなせる訳じゃない。
科学技術と並ぶ前の、これまでの法力とは明らかに違いがあるのにそれがまだ分かっていなかった時期。異法を用いた犯罪が行われ、その結果犯罪者は恐ろしい怪物へと成り果てた。
法力は自身の『気』即ち気力もしくは精神力を用いる。
異法はそれに加えて人の感情を糧にする。
たとえ『気』が無くとも何か激しい思いや欲望があればその思いが善しでも悪しでも例外なく力を発揮する。
どれだけ思いが歪んでいたのか、異法を乱用した犯罪者はそれを体現するかのように肉体が変異し、他者を殺し周囲を破壊する怪物となった。そんな怪物が何体も現れるようになって初めて異法の解明が求められ、異法が感情を糧にするだけでなく感情のコントロールを失うと身体に異常を与えることが判明した。
ただ『気』を消費して使うだけだった力が、まさか感情に左右されることになるとは思わなかった人々は異法を使うことに抵抗を感じながらも、以前から続く法力と科学の利便性が頭から離れられず、結局は異法を容認することになった。
『異法を用いた犯罪はこれからも出てくるだろう。我らはそれに対抗する術を持たなければならない。よって異法犯罪対抗組織の設立と、異法を正しく使う方法を学ぶ為の養成学校を新たに作ることを約束する』
当時の国のトップの言葉通りに異法犯罪対抗組織『スサノオ』と、僕が入学することになる法剣士養成学校『廻王学園』が誕生したのだった。
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情報量が、情報量が多いっ。
あまりにも俺がいた日本と違い過ぎて頭がいたくなってくる。なんだっけ、こういうのがロー・ファンタジーって言うんだっけ? レンがいた世界はノーマルなんかじゃねえよアブノーマルの間違いだよ。
「えぇっと……つまり僕とカイトさんは同じ国だけど……」
「全く別の世界の住人ってことだな……」
「???」
置いてけぼりをくらってるルイズは俺とレンの話が理解出来なくて首を傾げている。
「それで、お前は学園に入学して、実地研修みたいな感じで……なんだっけ、異法犯罪者? ……と戦ってきたと?」
「それなりの実績はあると自負してます」
「俺より年下なのに命のやり取りを、ね……。信じられねぇわ。戦国時代の武士かよ」
「僕からするとカイトさんの世界の方がおかしいと思えますよ。ただ科学技術のみだなんて信じられません。エネルギー問題とかどうなってるんですか。僕の世界が戦国時代ならそちらは平安時代ですか」
「古代と中世ほどの大差はついてないと信じたいな。というかお前、なにさりげなく中世マウントとってやがる」
時代とかは同じなのかよ、意味わかんねぇ!! どこだ、どこでおかしくなった!!
「年下ですから、舐められたらいけないと思ってせめて話題ではマウントとって優位に立とうかと」
「立たんでいい」
やれやれ、同じ時代を経て、同じ言語の、同じ名前の国だから生前の……というかもう前世か、年下でも同じ日本人と会えたと思ったのに。あっちもあっちでファンタジーな世界だったよ。
「魔法が使えるか聞いた時に長い間があったのはその異法のせいか」
「はい、この世界の魔法とも違いました。そしてこの力があるからなのか、魔法は使えません」
「俺からすればその異法とやらも十分に魔法だわ」
レンの世界はどっかの時代で法力が普及してそのまま時代が進んだんだろう。
でも次第に法力が弱まり、将来が不安になってた時に異法が現れた。なんかタイミングが良すぎるが、それが『たまたま』なのか『狙って』なのかを確かめる術はもうない。考えるだけ時間の無駄か。
「異法について、他の冒険者からは何か言われたか?」
「僕の異法は肉体を強化するものがメインなので、ルイズの支援魔法ってことにして誤魔化してます」
「問題ないならそれで良い。あまり目立ちすぎず、少しずつ力を付けていった方が安全だ。勇者と国王の方針は知ってるだろ。なるべく接触は避けてくれ」
「そのつもりです。もう彼はわたしの大事な従者、処刑されてたまるものですか」
うん、言うまでもなかったな。しっかり者のルイズがいればレンもこの世界に馴染めるだろう。今日は新たに護衛役の番犬が一頭増えたし、戦力は足りているから安心だ。
「じゃあ俺はこれで帰るとするわ。もし面倒なことに巻き込まれたり不味い状況になった時は、行けたら行く」
「それだいたい来ない言い方よね!?」
「良いリアクションありがとう。遠征とか仕事中とかだと簡単には抜け出せないからな、騎士は」
じゃあなー、と俺は手を振って二人の家を出る。
「二人をしっかり守ってやりなよロルフ」
「ウォン!!」
家の前でお利口にお座りしているデカい番犬の頭を撫でながらそう言うと自信に満ちた返事が返ってくる。うん、いい毛並みだ、今度来たら思いっきりモフモフしよう。
「さーてと、今日は自室にこもってダラダラ過ごすかねぇ」
思わぬ出会いに予定が先送りになったが、連休はまだ始まったばかりだ。これまで忙しかった分この連休を有意義に使ってゆっくり体を休めるとしようじゃないか。
「あっ、お帰りカイト。遅かったじゃない。団長には私が報告しておいたからね」
「悪いなオウカ、あとで何か奢る。ちょっと生意気な子供に絡まれたから相手しててさ」
隊舎に戻るとオウカが待っていた。相棒として組むようになってからというもの、彼女といる時間は中々に心地よいものになっている。気が合うのもあるが、やはり彼女に実った二つの巨峰が素晴らしゲフンゲフン。
「コホン、それで……見ないふりをしてたけど、この慌ただしさは……」
隊舎の敷地に入ってから他の騎士たちがあっちに行ってはこっちに行ってと荷造りしている。『サザール騎士団』を拠点に半年過ごして、騎士たちがいったい何をやっているのか分からないほど馬鹿ではない。
「これって……遠征の準備、だよな?」
嘘だよな? 嘘だと言ってくれ、そんな俺の願いを残念そうな顔をしながらオウカはバッサリと切り捨てた。
「北にある廃村を盗賊たちが占拠して砦を築いたって報せが来たの。その征伐に行くことになったから悪いけどお前たちの休みはまたの機会に、ってシム団長が」
だからカイトも準備して、とオウカが俺の手を引いて隊舎の中へ。ああ、折角の連休が……。
「Jesus……」