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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第二章
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第百六十四話「なんか悪寒が」「風邪ですかカイト様」

「ハァ、ハァ、ハァ……」

「うん……やればできるじゃない、オウカ」

「……アーゼス、さんっ」


数多の魔法による応酬で更地となった地面に立ち、私は未だ空にいる彼女を見上げる。


「獣化による身体強化、そして使い魔と連携しての魔法戦闘。とても見事だったわ。これからも精進して、もっと強くなりなさい。そうでないと私も、彼も、取り戻せないわよ」


そう言うとアーゼスさんは都市へ向けていた『ガルガンチュア』を消し、ゆっくりと地上に降り立つ私へ歩み寄ってくる。……敵意は感じない。もう、戦闘は終わりってことなのかな。


「ねぇオウカ、あなたはなんの為にここまで来たの?」

「?……カイトに会う為」

「会ってどうするの? 今や彼も帝国の人間、あなたが何よりも殺したい存在よ。それに、あなたの代わりに復讐を果たそうとしている」

「復讐は、したい……。でも、なんでカイトが私の代わりにやろうとするのかをまだ知らない。だから知りたい。会って、ちゃんと話したい」


アーゼスさんからの問い掛けに、私は正直な気持ちを答える。


カイトは、私の復讐相手を殺したいから殺す為に、そしてついでに王国と帝国の戦争を回避する為に、悪魔と契約し、王国を裏切って、鞍替えしてでも帝国に行ったことを、預かった手帳を通じて知った。


それを知って私が抱いた感情は、怒りだった。


王国を裏切ったことへの怒り。仲間を殺したことへの怒り。よりにもよって大嫌いな帝国に鞍替えしたことへの怒り。───そしてなによりも、私の告白の返事もせず、なんの相談もなく、なにも言わずに出て行って、しかも隣に帝国騎士の女を連れていることへの怒り。


一度、会って詳しく話を聞きたいのは本当だ。殺したいから殺す……それはカイトの話であって、私から離れて行った理由にはならない。なにか別の理由があるはずだからそれを知りたい。今後どう動いていくかを決めるには必要なことだから。


……でも、この怒りの感情を彼に思いっきりぶつけて文句を言いたいのも、紛れもない本音だ。


「なら、次はカーウェル領に行きなさい」

「え?」

「次はそこの領主、アドソン侯爵が標的よ」


標的、それはカイトが次に殺す貴族ということ。でも、なぜそれをわざわざ敵であるアーゼスさんが言うのかと疑問に思った。


「どうして貴女がそれを───、っ!?」

「ちぃっ!!」


殺気を感じてしゃがむと同時に、猛烈な速さで頭上を炎を纏ったなにかが舌打ちしながら通り過ぎ、アーゼスさんの隣に着地する。


「勘のいい女狐ですね、オウカ・ココノエ」

「ラウ・カフカ……っ」


浅くとも全身に傷を負いながらラウ・カフカが戻ってきた。


「レンくんはどうしたの……?」

「殺してはいません。片腕は折りましたがね。殺すのが目的ではないので森の奥に置いてきました」

「目的が違っていたら殺せるってことね」

「それがカイト様のご命令なら、ワタシは必ずそれを果たします」


はっきりと言い切ったラウ・カフカ。


正直、前まではレンくんを殺せるような実力はなく、そこまで脅威になるとは思えなかった。でも今は違う。彼女はこの短期間で、真正面からレンくんを力技で押し通るほどの力を身につけてきた。


(これは、分が悪いか……)


単身でラウ・カフカとアーゼスさんを同時に相手にするのは得策ではない。それにレンくんの容体も気になる。ルイズちゃんの治癒魔法は骨折を治せるほどのレベルではない。早く合流しないと、


「───……二番手。カイト様が目的を果たしたようです。ワタシたちも戻りましょう」

「分かったわ」


アーゼスさんが黒い翼を羽ばたかせ、ラウ・カフカを抱きながら飛び立つ。


「アーゼスさん!!」

「またね、オウカ。次に会う時は容赦しないから」


そう言ってアーゼスさんは物凄いスピードで飛び去って行った。




「ちょっと見てくるね」

「はい、気をつけてくださいね」


その後、私はレンくん達と合流。負傷したレンくんに治癒魔法をかけてから休ませて、私はグローブ侯爵の城塞に潜入して中の様子を確認する。


「これは……っ」


生きている人は誰もいなかった。


衛兵は全員撃ち殺されて無惨な姿に、そして最上階にはグローブ侯爵とその家族と思われる残骸が散らばり、頭を撃ち抜かれた護衛と思われる神父が近くで横たわっていた。神父の方はなんらかの方法で蘇生することを考えてか、頭に三度、心臓に二度も撃っている。


徹底的に、かつ確実に。絶対に殺害するという意思に満ちた惨状。ただただ殺したいから、という理由でこれを彼がやったことに私は薄ら寒さを感じた。


城塞を出たところで帝都から来たのか『赤枝騎士団』が到着。


まるでこうなることを分かっていたのか、血濡れとなった現場を見ても何も言わず、淡々と死体処理を始めるのを見ながら、私はレンくん達と再度合流した。


「確か、カイトさんは放送で、皇太子と獣王から命じられた征伐だって言ってましたよね。この手回しの良さからして、死体処理の他にも空席になった領主の座に座らせる後釜も用意してるんじゃ……」

「だと思うわ。王国を裏切る前からずっと、彼は帝国と綿密に打ち合わせをしていたのよ。行動を始めたらあとは決めた通りに動けるように」


帝国騎士に見つかる前にハヴルム領を出た私たちは、ロルフに乗せられて移動しながら、帝国の動きの早さから推測する。


「うん、カイトは騎士団にいた時もそうだった。戦闘中、長々と話し合う余裕はないから、適切に対処できるようにと、あらかじめ何通りか作戦をたてるの」


彼はいつもそうだった。


いくつか作戦をたてて、それでも対処できない想定外のことは起こる時はある。しかし彼は落ち着いて、まるで予想していたかのように対応する(ただし対人に限る)。


作戦立案。そして手際や用意の良さ。これらもカイトを相手にする上で警戒すべき要素だ。


騎士団恒例の、シム団長が他の誰かに指揮権を無理やり持たせて任務を遂行させる行事で鍛えられたのが、今は少しだけ悔やまれる。シム団長や先輩たちからも教えを乞い、作戦に無駄がなくなっていくのをそばで見ていたから。


「それでオウカさん、次はカーウェル領で良いんですか?」

「うん。この方向のまま進んで、山を越えた先にカーウェル領がある」


次の目的地はカーウェル領。


アーゼスさんがどうして教えてくれたのかは分からない。けど、頭の中で帝国の地図からカイトが狙っている貴族の領地の位置を思い浮かべると、彼の狙いがなんとなく分かってきた。


「たぶん、最終目標をクライト公爵家にしてるんだと思う。クライト公爵は帝都近郊に住んでるから、そこから動かさないよう、外側から攻めてるんだ」


帝都から離れたグローブ侯爵とアドソン侯爵の二つを先に攻めることで、共謀者同士の連携を封じ、更にはクライト公爵家を完全に孤立。あとは悠々と、弱るまで痛めつけてから殺す算段か。


本当に、カイトは敵と定めた者には容赦しない。


今回は不意打ちも同然に、グローブ侯爵がいる城塞を攻め落としたけど、次はどんな手でくるのか。相棒として一緒に行動していた身からすれば、少しだけ楽しみにしているところはある。


それはそれとして───私が先に殺したい、という思いもある。


グローブ侯爵の残骸を見つけた時、薄ら寒さと同時に自分の中で別の黒い感情が湧き上がっていた。せめて自分の手で殺したかった思い。死んでせいせいしたという思い。……そして、仲間を返してという。


本人のものらしき肉片を何度も踏みつけ、叫び、罵倒して、少しは気を晴らしたけど足りない。


(やるか……)


やはり自分の手でやらなければ気がすまない。


あの日、私になにも言わず、メッセージだけ残してカイトは行ってしまったのだ。少しはやり返しても文句は言ないだろう。先に仕掛けて侯爵を殺し、カイトを待ち伏せる。これなら確実に会える。


うん、そうしよう。


「…………みんな、山を越える前にどこかで一泊しようか。特に、治癒魔法で回復させたとはいえ、レンくんはまだ消耗してるだろうし」

「そうですね、確か治癒魔法って……その人の自然回復力を無理やり高めるから、その反動で回復後は体が疲労するんですよね?」

「うん。私も魔力をかなり消費したし、このままノンストップで山を越えるのは得策じゃない。暗くなる前に村とかあればいいけど、無かったら……かまくらでも作ろうか」


魔法を使えば崩れない大きなものを作れるし、あとは見つからないよう結界を張ればいいだろう。


「なら、聞いたわねロルフ。このまま進みながら、村を探すわ。気配を探りなさい」

「ワォォン!!」


ルイズちゃんの号令でロルフが速度をあげ、私は周囲を警戒しながら、流れ行く雪景色を眺める。


……今回は、アーゼスさんやラウ・カフカが邪魔してきてカイトに会えなかった。でも、次こそは会って、話をしたい。


「カイト……私、もう直ぐ会えるよ」


届いていないと分かってはいながら彼へと向けて口から出た言葉。まるで返事をするかのように追い風が吹き、僅かに笑みを浮かべる。


正直、今回は無意識に体が加減をしていた。育て親だったアーゼスさんが敵となって、私は本来の力を出し切れていなかった。でも、もうそんなことはしない。


誰にも邪魔させない。


障害は排除する。


もう相手が誰でも躊躇わない。


 ───全ては、また彼の前に立つまで。



「早く会いたい……そしたら、二人で■し合おうね」 



なにか、重くドロッとした思いがその言葉に込められていたことに、その時の私は気づかなかった。

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