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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第一章
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第十六話「刃物向けてすいませんっ」「冷や汗やばい」

とんでもない素早さだ。

数歩ほど離れた位置にあった刀まで行き、それを手に取り、俺の目の前まで移動して抜刀する。

その一連の流れが一回瞬きする間に終了していた。ルイズの声が無ければそのまま刀は俺の首をスッパリ斬っていた。だが、


「落ち着けよ、小僧」

「───っ!?」


レンは自分の腹部に押し付けられたモノを見て目を見開く。


「そっちがその気なら俺はこのまま後ろのルイズごと吹き飛ばす。もう一度言うぞ、とりあえず落ち着け」


一発の威力を重視したポンプショットガンの銃口は容易くレンの体に大穴を開け、後ろにいるルイズの頭を無慈悲に肉片に変える。ルイズからはレンが陰になってこの銃が見えていないから、彼女からしたらレンがなぜ固まったのか分からないだろう。


「『蒼白ノ水月』……俺はその字が読める、この意味が分かるだろ?」

「まさか……カイトさんも───」


ハッとしたレンが離れると同時にポンプショットガンを消す。しかし、まさか子供を相手に銃で脅すような真似をすることになろうとは……。


「ああ。俺は転生者、日本人だよ」


そう告白するとレンは刀を鞘に納めて力が抜けたのか息を吐きながらしゃがみ込んだ。よほど気を張ってたのか、俺の銃が原因か、暫く立てずにいたレンをルイズは心配そうな目をしながら彼の手を握っていた。



レンがなんとか立てるようになった後、俺は先ず自分のことについて話した。

どうやって転生したのか、それはいつか、どれだけこの世界で過ごしたか、その期間で他に同じ転生や召喚でこの世界に来た者がいるのかの調査結果、などを。


「半年、その期間で見つけたお仲間はお前だけだ。馬鹿勇者と国王の手で既に処刑されたかと思ってこっそりと王宮に忍び込んで、これまでに行われた処刑者のリストを見たがそれらしき人はいなかった」

「国王直属の騎士が何してるんですか……」


呆れた様子のルイズから突っ込みを入れられた。


「灯台もと暗し、だ。しかしまあさっきの抜刀からして、ルイズからは自分の正体がバレないようにと言い付けられてたみたいだな? 最悪殺してでも他者には知られるな、と」

「召喚したのはわたしですから。召喚した者としての責任が、わたしにはあります」


彼女が言っていた身の上話の中で『貧困街』の人間に絡まれてレンに助けられたという話。それは本当ではあるが、実際は『貧困街』の人間数人に襲われ、その最中にルイズが『召喚魔法』を発動しレンを召喚した、というのが付け足される。


「助けてくれるなら召喚するのは何でも良かったんです。でも、まさか人を、異世界の人を召喚するなんて思わなくて……」




■■■




「ハァ───ハァ───ハァ───ハァ───」


雨の中、ゴミだらけの路地裏を必死に駆け抜ける。


「待ちやがれェ!!」

「あのガキを殺すだけで金貨五十枚だ、絶対に逃がさねえぞ!!」

「ヒャヒャヒャ、いくら逃げても無駄だぜお嬢ちゃんよぉ!!」


後ろからはバタバタと何人もの男たちが下卑た声で叫びながらわたしを追ってくる。


「もう少し、もう少しで『平民街』に、家に……っ」


全てを失って一週間ほど経った頃、色んな物が散乱している路地裏を見て家の修繕とかで使えそうな物があるかと思って入ったのが悪かった。まるで待ち構えていたように男たちが現れて、斧や短剣を持って襲ってきた。


わたしを殺して、それで金貨を。彼らの声からこれはただの追い剥ぎなどではなく、誰かが雇った上でわたしの命を狙った殺し屋だと分かった。

なぜわたしを狙うのか、雇い主は誰か、わたしを殺して特をするのは誰か、そんなもの考えるまでもない。


(お父様のことを悪く言い、国王にあること無いこと証言したあの貴族たちしかいない!! お父様だけじゃあきたらず、わたしの命までっ……!!)


わたしは必死に逃げた。


それでも最後は袋小路に追い詰められた。


「鬼ごっこは終わりだ、ここで大人しく死にな」

「ひっ───いや、死にたくない、だ、誰か……」


恐怖で声が震える。


助けなんて来ないのは分かってる。


わたしは詰んでいるって理解している。


それでも、まだ死にたくない。迫る死から逃れたいと。助かりたいと。わたしの体はその終わりを拒むように魔力を全身に巡らせる。


「あァ? 噂の『召喚魔法』か、素質も無いのにやろうってのかよ。今ならやれるとかそんな都合が良いこと起きる訳ねぇだろうがよォ!!」


殺し屋が飛びかかる。

その凶刃で、わたしの心臓を貫くつもりだ。


「お願い、お願い、お願いっ!! わたしはまだ死にたくない、わたしにはやらなきゃいけないことがあるの!! 何でも良い、誰でも良いから───」


足元に展開される魔法陣。いつもならここで頼りない小さな魔獣が出てきて終わり。でもやらなければわたしはここで死ぬ。それだけは、絶対に嫌だった。

この際、召喚するモノは問わない。何でも、何処からでも、とにかくこの状況からわたしを助けてくれるなら()()()()()()()()()()()()()()!!


「独りぼっちのわたしを助けて!!」




「───その声、確かに聞いたよ」




■■■




何でも。何処からでも。それこそがレンを召喚した原因だろう。

先ず『召喚魔法』は基本的には魔獣や精霊を召喚する魔法でありそれ以外の召喚となるとそれこそ勇者召喚くらいなもの。魔法に関してはあまり知り尽くしてないが、勇者召喚以外で人間を召喚するのは滅多に無いんだとか。


(なんかの本にあったな、魔獣と人間とでは魂の質が違うとかなんとか。よく分からん)


平常でも異常でも、助けてくれるなら『何でも良い』。『何でも良い』ならこの世界に限らくてもいい、つまりは『何処からでも良い』。

その結果、異世界から人間を呼び寄せることになった、と。


「次はレンから見た話を聞こうか。ルイズ視点だと彼女の声を聞いてお前が来たようだったが」

「はい、確かに僕はルイズが助けを求める声を聞きました」


レンは召喚された時の日を思い出しながら話す。


「僕はまだ学生で、通っていた学園が……」

(歳が17だと高校二年生くらいか)

「法剣士養成学校である廻王学園なんですけど」


ん? なんか聞いたことない単語が出なかったか?


「……僕はあの刀が異法武器で」


いほうぶき? えっ、違法武器?


「まだ二十人くらいしか斬ってない新米なんですが」


二十人? 斬って?


「カイトさんの異法武器はやはりさっきの……」

「待ってくれレン、その……色々と確認するべきことがある」


確信した、レンがいた日本は俺が知ってる日本じゃねえ!!

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