第百五十五話「剣聖様、今のは……」「うん、あっちが彼の本領だからね」
(あー、そっちの試験も兼ねやがったな。確かに試すにはちょうどいいと思うが、ああもガチガチに固められると、俺としては困るんだが……)
開幕と同時に死刑囚たちの手枷が外れ、俺は発砲。死刑囚たちは丸出しの頭部のみを守って弾丸を受けるが、鎧を貫通するどころか火花を散らして弾かれた。そして塗装が剥がれたのか黒い跡ができていて、その色で気付いた───あの鎧は、俺の義手を作るのに使われた特殊合金と同じだ、と。
(最高レアリティのLだぞ、距離減衰もない、なのにまともに受けて凹みすら無いか!!)
この時点で、アサルトライフルとそれより口径の小さいサブマシンガン、ピストルでは鎧の突破は不可能、良くて牽制の足止めにしかならないことが確定した。
「死ねぇえええええ!!」
「テメェに一発当てれば死刑されずに済むんだ!!」
俺の武器が通じないと分かるや五人の内、二人が突撃してくる。彼らに武器は与えられていないようだが、恐らく義手に付与されたように、鎧にも身体強化の効果があるはず。となれば、いくらシールドがあるとはいえ、攻撃を受けるのはまずい。
「チィッ!!」
二人へアサルトライフルで発砲する。
だが、やはり鎧で防がれる。両腕の籠手で頭部を守りながらなおも突っ込んでくる。いくら鎧を突破しないとはいえ、その衝撃は相当なもののはずなのに、涼しい顔で迫られると精神的にくるものがある。
鎧の性能はもとより、他国より優れた帝国人特有の身体的・精神的な強さが、この驚異的な突破力を可能にしているのだろう。
……………本当に、羨ましい限りだ。
(雑な狙いは鎧で阻まれて無意味、となると狙うは関節が定番だよな。あとは頭部だが、兜を被ってないのは、そこへ狙いを誘導させる為か?)
兎にも角にも先ずは迫る二人の対処だ。
「喰らえええ!!」
「その腹、ぶち抜く!!」
「いやコワッ」
大きく飛んでの頭頂部を狙った踵落とし、時間差で来る低い体勢による下からの拳撃。どちらも喰らえば即死も有り得る。いつもならここで、脚力特化型としての力で脚力がBからSに一気に上がるところだが、
「そこまで大袈裟だと怖くないな」
軌道修正できない落下攻撃はそこからちょっと離れるだけで空振りになる。轟音と共に地面を破壊した踵の衝撃は凄まじいが、離れれば大したことはない。
「そして───」
「なに!?」
「ごへ」
踵落とししてきた野郎の首根っこを掴み、今にも拳撃を繰り出そうとして来た奴の目の前まで引っ張っていく。……うん、まあ、ようするに肉盾だな。
「プレゼントだ、受け取りな」
肉盾にした野郎を蹴飛ばして押し付け、同時にインベントリから手榴弾を一つ取り出してヒョイと投げる。
「「ぎゃああああああ!?」」
爆発で吹っ飛ぶ二人。だが、頑丈な鎧は二人を爆発から見事守ってみせた。意図せず帝国騎士の強化に貢献してしまったことに内心舌打ちをする。
(単純に物理的に硬い相手……俺にとって天敵すぎるだろ、これで大盾でもあったら最悪だったな)
どうせそれも後で製作するんだろうと思うとますます帝国騎士と戦うのが嫌になってくる。
(爆発はまだ有効。銃で使えそうなのは威力の高いショットガン、リボルバーやハンドキャノンくらいか、スナイパーライフルを使おうにもこのフィールドの広さじゃ簡単に詰められるし───)
爆発をくらった二人はゆっくり立ち上がり、残りの三人はと視線を移すと、揃ってもう目の前まで来ていた。
「っ!?」
【脚力強化:B→S】
「消え───」
「後ろだッ!!」
「なんで分かるし」
高速回避からの背後を取り、ショットガンで一人の頭を吹き飛ばそうと引き金を引く。しかし目で追われたかあるいは感知されたか、あっさり回避されてしまった。
■■■
「カイト様の武器の仕様上、どうしても単純に物理的な防御に優れた相手には弱いです。魔力を使わず、それ故に探知されず、遠距離から獲物を仕留められるといえば聞こえはいいですが、少々相手を選びます」
「弱いといえば、あとは動きが早い相手だね。撃ってから当たるまでに数秒かかる。自動追尾なんてものはないし、技量でカバーするにも限度がある。それから環境……とくに強風か、弾が風で流されるんだっけ」
ワタシが銃について話すと、隣で剣聖様が補足する。
「はい、そのへんは弓兵と似た感じですね。弓を使っている方々がいれば想像してみて欲しいのですが……弓の最大射程距離ってあるじゃないですか、それよりも何倍も離れた場所から対象へ弓を射れますか?」
そう言って軽く周りを見ると、何人かが無理だと頭を横に振っていた。
「カイト様の武器なら難しくとも可能です。姿が見えず、魔力探知は無意味、当たれば即死または負傷する、十分すぎるほどに脅威です。……そしてこれは自論ですが、もし仮に外したとしても、常にお前を狙っていると───相手を精神的に追い詰められることこそが、あの武器の一番恐ろしいところかもしれません」
■■■
(よく分かってるじゃないか、ラウ)
解説席から聞こえる声に、五人の死刑囚に囲まれながらも、俺は思わず拍手しそうだった。
(解説を聞いて、死刑囚たちも警戒している。銃についてある程度は理解しただろうな。元々、冒険者や傭兵だったりと、戦闘が多い職業だったみたいだし、当然といえば当然か)
この世界において、スナイパーライフルによる狙撃は、特別な武具や一部の遠距離攻撃魔法を除けば、弓矢や魔法よりも射程距離が長いことは分かっている。よほど目が良くなければ、直ぐに位置バレすることはない。……まあ外したり、驚異的な速さで詰められても、シールドや離脱用の道具があるから安心───なんて思わず全力で逃げて狙撃地点を変えるが。
「戦場で一番嫌われるタイプの武器だな」
死刑囚の一人が嫌悪感たっぷりの顔で言う。
「ああ……しかも、この世界でオンリーワンときた。軽率に撃てば疑われることなく犯人確定。使いづらくて困っちまう」
「困ってる顔には見えないがな。だが、だから……『王国の裏切り者』か。国に管理され、全うなことに使っていれば、まだマシだったんじゃないか?」
「管理なんかゴメンだ、俺は自由を愛するんでな」
話しながらも両手で持つショットガンはいつでも撃てるようにする。
今回選んだのはタクティカルショットガンという、一発の威力が高く連射性が低いポンプショットガンとは逆の性能をしている。対集団戦闘のようにいちいちリロードする暇はないこの状況では、これが最適だろう。
レア度はもうL一択。
アサルトライフルよりはまだマシのはずだ。
「悪魔と契約までした男に自由はあるのか?」
「命運は定められても、死に方くらいは自由だろ」
「……その小せえ自由が叶うことを祈るよ」
「アンタ、死刑囚のくせにいい奴だな、気に入った。殺すのは最後にしてやる」
そして後ろにいる死刑囚へ発砲する。
「がっ!?」
目視せずの感任せで撃った散弾は右肩に命中。鎧には僅かに凹みができ、大きく仰け反らせた。───なら、最初はお前にしよう……。
そいつが体勢を立て直す前に駆け寄って義手の左手で首を掴み、
「オ、ご……ぇ───?」
手首に仕込まれたナイフが突き出て喉を突き貫く。貫いたままナイフを横に一閃、容易く首の骨もろとも斬り落とした。
「先ずは一人」
『タタル、仕込みナイフにしては切れ味が良いようだな?』
『鎧の特殊合金を作る副産物で、武器に使えそうな合金も出来たから鍛冶職人に作ってもらったのよ。ただこれは加工するのが難しくて、扱える鍛冶職人も少ない。量産には向かないわね、オーダーメイド用かしら』
『フム……であれば、我専用にそれで仕込み刀を作ってほしいですな』
『あ、ズリぃぞイブキの旦那。俺も特注で暗器を作ってほしいぜ』
……義手の作成させただけなのに帝国製の武具がグレードアップしていくぅ。
「このぉ!!」
「一撃、一撃当てればァ!!」
次は左右からの挟み撃ち。
次にインベントリから出したのは銀色の球体。それを左から来た死刑囚へ投げ、俺は右から来る死刑囚を迎え撃つ。
銀色の球体は直ぐにボンと弾け、間近にいた死刑囚は大きく吹き飛ぶ。
「うおおっ!?」
ダメージは無い。これは鎧のせいではなく、球体の仕様だ。弾けると周囲に衝撃波を放ち、問答無用で吹き飛ぶだけの害のない投げ物───バウンドボム。
「その頭、ぶち抜くぞ!!」
「くっ!?」
そして俺はタクティカルショットガンを向けながら叫ぶと、死刑囚は慌てて両腕を交差させて頭を守る体勢になる。威力は見せている。この言葉が脅しではなく、紛れもない事実だと理解したことだろう。
(タクショでも鎧を凹ませるしかできなかった。だが、そうだ、その体勢にさせることこそが俺の目的だ)
───ああ、それでいい───
その瞬間、死刑囚は何かに頭を強く殴られたように上半身が横に揺れ、即頭部から血を噴き出しながら倒れた。
「───なに?」
「お、おい、何が起こった!?」
「なにもされてないのに死んだぞ!!」
困惑する残りの死刑囚。
「これで二人。……忠告しといてやる、お前ら全員───立ち止まると死ぬぜ?」
タクティカルショットガンを右手に、そして左手に新たなにインベントリから出したのは、アサルトライフルほどの大きさで銃身には三十センチはある太めの銛がついた銃……のような物。
ハープーンと呼ばれる、射出した銛が突き刺さるとワイヤーで巻き取り、対象を引き寄せる武器だ。
レア度はRで固定されている。しかし、この武器はなぜか銃よりも対物性能は高く設定されている。
「よ、鎧がっ!?」
銛を射出。頭を守れば安全と思い込んでいる死刑囚の、がら空きになった胴体を狙う。流石に背中まで貫通しなかったが、肉体に刺さらずとも鎧の守りを抜いた。
「よっと」
ワイヤーが巻き取られ、引っ張られて死刑囚は俺へと近づいていき、慌てて銛を抜こうと両腕を下げた瞬間、焦る死刑囚の顔をタクティカルショットガンで吹き飛ばす。
「やはりこのコンボは良い。これで三人目、そして……」
「ヒッ───」
笑みを浮かべながら視線を向け、直ぐにソイツは二人目と同じように、眉間に穴が空き血を流しながら即死した。
「だから立ち止まるなと言ったのに。……これで、四人と」




