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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第二章
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第百五十四話「「ラウ様、至急『訓練所』へ」」「何ごとですかあ!?」

「とっっっっっても、苦労したのよ? 材料の厳選と内部機構の精密化なんかは特にねっ、あんな注文、二度と受けないんだから!!」

「あー……うん、ありがとう」


疲労の色が見える顔でラウンジのソファに座り、ヌルに肩や腕をマッサージされながら、これまでの苦労を語るタタル。こちらとしても無茶なのは分かってて焚き付けたので多少の罪悪感はある。それでもこうして完成させる辺り、流石は天才といったところか。


「いくつもの金属を使い、魔力を多く含むことによる実質的な高い魔法防御力、軽量でありながら物理的な衝撃に強い性質を兼ね備えた特殊合金───先ずはそれの完成を目指して日夜、鍛冶職人たちと研究して……っ」


タタルはまだ言い足りないのか完成までの流れを語りだす。


「次は義手としての機能を損なわないよう注意しながら、隠し武装の配置と設計を見直してダウンサイジング、それから機構そのものと義手自体の強度を更にアップさせる方法に頭を悩ませて……っ」


ヌルが淹れた紅茶に一つ、二つ、三つと角砂糖を投入。更にはミルクをドバドバいれ、手早くかき混ぜると一気に飲み干した。


「……ぷはぁ───そうして思いついたのが刻印を刻んでの魔道具化よ!! パーツの一つ一つに強度向上と身体強化の効果を付与したの、あんなに細かい作業は久しぶりね!!」


よほど目を酷使したんだろう。やや充血した目を大きく見開いて、生きてるって素敵ネ、なんて言いながら高らかに笑うハイな彼女の姿を見ていると、ちょっといたたまれなくなる。


その物自体に特殊な刻印を入れることで、空気中にある魔力を取り込み、半自動で可動する───それが魔道具だ。


自動昇降機や帝国製のスノーモービル、除雪機など大きな物は外付けの魔力タンクを取り付けることで可動させているが、腕輪のような小さな装飾品……それこそ義手などはタンクは使わず、魔力を吸収することでそれをエネルギーにして可動するという。


刻印については俺も軽く調べた。


どうやら刻む刻印の形によって様々な役割や法則があるらしい。勉強すれば扱えるとのことだが、全種類覚える暇が無さそうだったんで、とりあえずはルーン文字のようなもの、と俺の中で結論づけだけして、考えるのを止めた。


「つまり、素の状態でも頑丈だし、戦闘中は周囲の魔力を吸収して更に頑丈になる、俺にも身体強化が付与されるってことだな」

「端的に言えばそうなるわね!!」


なんとも高性能な義手に仕上がったもんだ。この礼はたっぷり弾ませなければな。もちろん彼女だけでなく、義手の製作に関わった人たち全員にだ。


「…………ん、問題無し」


取り付けた新しい義手の感触に頷く。


黒く染められた無骨なそれは、見た目は試作のとそこまで変わらない。流石に右腕よりは多少太いが、あれだけ詰め込んだのだから当然といえば当然。重心が傾かないよう右腕と同じ重さになっているし、文句の付け所がない。


「あとはこの後の最終試験での性能テストね。もし異常があれば、試験を一時中断して。私が調整するわ」

「一時中断って、できるのか?」

「貴方が貴方の為にやる試験でしょ? だったら、貴方が満足する形でやって、試験を終わらせなきゃ。まあ、相手に『待った』をかけてそれに従ってくれるなら、だけど」

「別に従わせる必要はないだろ。従わないなら、無理矢理にでも押さえつけるさ。あとは俺がこれを使いこなせるか、だ」


手段は多いに越したことはない。……が、ちと多くなりすぎな気が、しなくもない。


【保管庫】の百を超える道具だけでも多いってのに、【設定変更】による様々なサポート、そこに悪魔の力を応用した戦術、義手の隠し武装、その場しのぎの近接戦闘術、あとは広げに広げた人脈……全部活かしきるのも大変になってきた。


「義手の身体強化は、通常の身体強化魔法よりは劣るよな?」

「まあ、そうね。空気中にある魔力は微量だから、どうしても通常のそれには劣る。膨大な魔法が飛び交ってるなら十分な供給を得られるなら、そこで初めて同等になるって感じよ。でも、今の貴方には魔力があるんだし自分でも身体強化魔法を使って、二重強化状態になるのもいいんじゃない?」

「俺の魔力なぁ……」

「なによ?」


確かに、俺が自分の魔力で身体強化魔法を使えば、たとえ義手の身体強化はオマケ程度の効果でも、二重にすればその強化倍率は上がり、大きなアドバンテージとなりえる。……戦闘が終わるまで維持できるのであればの話だが。


「王国から戻ってきた時、俺が倒れただろ?」

「え、ええ。極度の疲労とストレス、それから背中の呪いで弱っていたから……」

「ああ、俺も最初はそう思ってたんだが、もう一つ……原因があったんだ」

「まさか……魔力切れ?」


正解だ、と頷く。


手であり、目であり、口である。その特性を使い、口であるなら『出入口』になるはずと試しにやってみた、影を通っての長距離転移。結果は成功し、無事に帝国に帰ることができた。ネルガと契約して得た、魔力全てを使い切ることで。


そう、あの時倒れたのは、タタルが言ったいくつかの要素で弱っていたところに追い打ちをかけるようにしてきた、魔力を使い切ったことによる身体的負荷によるものだったわけだ。


あとで魔力量について調べると俺の魔力量はそこまで多くないことが分かった。


身体強化魔法も一応は使えなくもないが、戦闘時はずっと維持するというのは難しい。ネルガ曰く、『テメェに魔法適性があれば魔力量はもっとあっただろーなザァコ』とのこと。


あの長距離転移はネルガが足りない分の魔力を寄越してくれたからできたものだった。


「二重に強化するのは一つの手段、よほど切羽詰まった時にしか使わんさ。それに、ちょっと思い付いたこともある」

「そう、なら貴方の担当医として、この後の最終試験の健闘を祈るわ。頑張りなさい」





そうして、最終試験───セレネスから、用意が出来たと、連絡がきた。その日のうちに始めると伝えて俺はまたまた『訓練所』へ赴く。


「おっと、妙に人の気配がすると思ったら、先輩方に加えて、お偉いさんまで勢揃いときたか……」


『訓練所』に入ると一つのフィールドに大勢の人集りがあり、それが見習いたちではなく、セレネスを含めた『四公』と、ジルク殿下に『予言者』ネラリア、そして臣下である貴族たちだったことに、俺は思わず呟いた。


「同士の力に興味があるそうだ。前回の決闘騒ぎを直に見られなかった者も多い、最終試験を行うと聞いたジルク殿下がせっかくだからと引き連れて来たわけだ」

「別にいいけどよ、見られても困らない程度にするつもりだったからな。最終試験はあくまで俺個人の実力で臨む。悪魔の力は使わない」

「えーっ!? カイトくん、本気出さないの!?」

「ぐえっ」


急に誰かが後ろからのしかかってきた。


「邪魔だ、退けっての。重い」

「レディに重いだなんて酷いこと言うなー」


帝国で、ここまで激しいスキンシップを取り、俺を『カイトくん』なんて呼び、力を出しきらないことを心底残念そうにするやつなんて一人しかいない。


「やっ、カイトくん。久しぶり」


そいつ───ユキナは悪びれることなく、ニコニコ顔で挨拶してきたのだった。




■■■




「では、これより『撃鉄公』による最終試験を始める。見届人はここにいる全員。解説として、『剣聖』ユキナと『撃鉄公』の副官であるラウに来てもらった」

「解説ってなんなんですかー!!」


休暇で実家に行ってたらいきなり呼び出されたワタシは訳がわからず叫んだ。


「すまない、ラウ。彼のことや武装を理解しているのはきみ以外にはいないものでね」

「まあまあラウちゃん、変なノリに巻き込まれたと思って諦めてよ」

「剣聖様までぇ!!」


と、言うわけでワタシは、カイト様の最終試験を解説するという役目を任された。


「暫く休養をとっていた『撃鉄公』の最後の調整として、悪魔の力は使わず、対集団戦闘をする。相手は死刑囚、五名。もしここで『撃鉄公』に一撃でも入れればその時点でその者の死刑は回避、減刑となる」


フィールドに立つカイト様と、手枷をされた状態で赤黒い鎧で武装した五人の男たち。死刑回避ということもあって、五人の形相は凄まじい。


「嫌らしいことするね。ようするに、死刑回避したければ彼らは己の力で、カイトくんに一撃入れなければならない。出し抜こうとする輩もいるんじゃない?」

「それは彼ら全員がそうだろう。しかし、別に先着一名のみというわけでもない。どんな形でも攻撃を当てればいいのだ。後から仕掛けるのが一番簡単だと、彼らは考えているだろう」


死刑囚たちは、助かるのは自分だけでいい、と考えている。だからこそ漁夫の利を狙う。反撃されて誰かが返り討ちにあっても、その隙に、確実に攻撃を当てればいいのだから。


「他の四人を先に行かせて、自分はカイト様が弱ったところを攻撃すればい、ですか。でも……」


それはそれで、カイト様は上手く利用するのだろう。


五人を前にして立つカイト様は髑髏のフェイスマスクをしていて表情は分からない。


でも、さきほどから腕を組み、軽く空を見て考え事をしている。……あれはたぶん、頭の中でどう動くか決めているのだろう。そこに緊張感はなく、自然体だ。


あの方が嫌う……真正面からの対集団戦闘だというのに、どこか余裕さを感じさせる。


(カイト様の武装は……インベントリという、不可視の空間に隠してある。指輪から武装を取り出すのとは違い、こちらはあらかじめ選んだ武装限定だけど、ノータイムで取り出せる……選んだのは恐らく───)


カイト様は、うんと頷くと一つの銃が現れる。


「アサルトライフル……先ずは、相手の鎧の耐久を調べる為に?」

「そうだね。ねえセレネス、死刑囚の鎧、あれは新作だよね。それもカイトくんの義手と同じ特殊合金を使ってる」

「ああ、タタルは素晴らしい物を生み出してくれた。あれほどの代物、使わない手はないだろう。まだ試作品らしいが、これは鎧の耐久試験も兼ねているという訳だ」


それを聞いて、ワタシはこの最終試験がカイト様にとって困難なものになると理解した。でも、それを伝える時間を頂く前に、



「───最終試験、始め!!」



セレネス様が開始の合図を出してしまった。

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