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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第二章
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第百五十話「安い喧嘩の代価」「あの人の不穏な変化」

フィールドのあちこちで、連続でカイト様が放った手榴弾が爆発する。相手は氷属性の防御魔法で自身を覆い、爆発と手榴弾の破片から身を守るのを見てワタシは内心で舌打ちする。


「ふむ、中々に凶悪な代物ですな」


隣では、相変わらずお茶を啜りながら『泰山公』イブキ様が、目の前で停滞する手榴弾の破片を見て呟いた。


「ただ爆発するだけでなく、破片までとは。これでは爆発から逃れてもこの破片で負傷するでしょうな。これ、破片の方が被害を及ぼす範囲が広いのでは?」

「は、はい!! カイト様からはそう聞いています、なので使用する際は、遮蔽物に身を隠しながらでないと自身も巻き込まれるので注意しろと」

「なるほど、なるほど。……あのサイズで威力も十分とは末恐ろしい。複数個投げられれば【身体能力】が防御系の特化型でも無傷とはいきますまい?」

「そうですね……」


二次被害を防ぐ為に流れ弾を阻むようフィールドに張られた結界の外でワタシは手榴弾について話す。


「まともに受ければ負傷させることは可能だと思います。でも通用するのはBランクまで、AランクやSランクが相手ではそこまで期待はできないかと。カイト様はあれで倒そうとは考えていませんし……」


三男坊が防御を解いて動く。爆煙の中で立つカイト様の影へ一直線に迫るも、踏み込んだ足の真下から爆発が起こり吹き飛ばされる。あれはリモート爆弾だ。たぶん煙に紛れて仕掛けていたんだろう。


「おのれェ!!」

「ククク……ハハハハハッ!! そらそら、休んでる暇は無いぞ」


投げつけられる手榴弾。地面に仕掛けられたリモート爆弾。繰り返される爆発でフィールドは巻き上げられた土と煙でよく見えなくなっている。その中から聞こえる、とても楽しそうな笑い声。


「いつまでそっちを見ている」

「ごっ、ガフッ!?」


そして手榴弾が飛んできた方向にいると早合点し視線をそちらに向けていると、その反対側からカイト様が現れて数発殴打を繰り出し、反撃される前に煙の中へと消えていく。


「良い動きをしますな。あの動きに拳撃は前世で学んだものでしょう。足音で場所を特定しようにも、ああも爆発を何度も受ければ聴覚がおかしくなる。あれでは対応が遅れるのも無理はありません。……しかし、逆にカイト殿は見失う気配はない、これはいったい?」

「イブキ様、上を見てください」

「上? ……あれは、炎?」


フィールドの上空を指差し、イブキ様は眼を見開く。その先には炎の球体がゆっくりと落ちてきているところだった。


「カイト様の話では、あれを打ち上げると周囲を照らし、遮蔽物があっても関係なく敵の居場所が分かるようなんです」


フレアガン。別名、照明弾。ワタシはまだ使ったことはないけど【保管庫】にどんな武器があるかチェックしていた時に見つけ、どんな物がカイト様から聞いていた。敵に直接当てれば小規模な爆発と炎で燃焼を引き起こし、上空に撃てば照明兼索敵として使えると。


「なんと……ではカイト殿は爆発と煙に気を取られている隙にアレを打ち上げていた、ということですな」

「はい、あれだけ爆発されては、ワタシ達も上に目が行きませんし、先ほどイブキ様が仰ったように照明を打ち上げる音を聞き分けることもできないでしょう」

「……ははは、見事という他ありませんな。我も気づけなんだ。多種多様な小道具を使い、有利になるよう立ち回る……帝国人から見れば姑息だなどと酷評するでしょうが、カイト殿にとってはむしろ褒め言葉になりますな!!」


ハハハ、と愉快そうに笑うイブキ様。


カイト様が休養中、ワタシは『訓練所』で剣聖様やイブキ様にお願いして鍛錬に付き合って頂いていた。


剣聖様とは木剣を使って体力が限界になるまで戦い、もう立てないというタイミングに仕掛けてくる猛攻をワタシができるだけ長く凌ぐというのを繰り返し、イブキ様はそれを観戦し、合間を見てワタシの動きについてアドバイスや、手本を見せて頂いたりした。


一番驚いたのは、アドバイスしている時のイブキ様が、親切で面倒見のいい親戚のおじさんに見えるというか……すごい温かい眼をしていて、それをつい本人の前で言ってしまった時、ニンマリと笑って、無限にポケットから飴玉を出してきたことだろうか。ホントに沢山出てきて、ちょっと処理に困ってる……。


「あー、やっぱしぶといな。ここまでやっても決定打にならない。いや、しこたま手榴弾投げて軽傷なのおかしいだろって言いたいが、まあここ異世界だし、相手があの帝国人だからってことで無理矢理納得するとして……勘が冴えてきたなお前、魔法での反撃の狙いが良くなってきた」


爆発が止まり、煙が晴れる。カイト様と三男坊は決闘が始まる時と同じようにフィールドの中央で向かい合うように対峙していた。


「はぁ……はぁ……はぁ……貴、様ッ───」

「ゲームとリアルとでは違いがあるのは分かるんだが、なんかゲームと比べて使いづらくなったな。離れてても破片でシールドが削れちまう」


そう愚痴をこぼしながらカイト様は両腕の袖をめくり義手の左腕を露になってワタシは思わず目を反らす。


思い浮かぶのは、あの日の光景。


ワタシを庇って呪毒を受けてしまい、切断するしかなく、失ってしまったカイト様の左腕。


強くなる理由は強敵との戦いでワタシがもっとお役に立つ為というのもあるけど、それ以上に……あのような失態を二度としないようにしたいから、というのが一番の理由だった。だから必死に努力しているところに喧嘩を売って邪魔してきたあの三男坊は、本当ならワタシがこの手で始末したかった。


「……イブキ様、カイト様の実力を知るいい機会だから、今回の決闘をお認めになったのですか?」

「おお、気付かれてしまいましたな。……実はセレネス殿を通じてカイト殿から、鍛えてくれないかと頼まれましてな」

「やはり……」

「セレネス殿が認め、悪魔と契約したとしても、実際にちゃんと戦うところを見た者がいないが故に、まだ彼を侮っている者が多い。なら一度、誰でもいいから戦わせて完全屈服させるさまを見せれば、余計な喧嘩を売られなくて済むのではと考えたのです」

「カイト様があれを屈服させるという確信が?」

「もちろん、ありますぞ。カイト殿が戦士のようにまともに戦う人種ではないのは分かってます」


結果がどうなるのかもう分かっているかのような言い方が気になったけど、カイト様ならそうするだろうという確信めいたものはワタシも感じていた。そしてこの決闘の後、カイト様が余計に周囲から嫌われるのだろうということも。


「そろそろ終わらせようぜ、三男坊。父親に合わせてやる」

「ほざけ、悪魔憑き!! 貴様が俺に殺されるのだ!!」


三男坊が突撃する。その速さは見習い騎士にしては上位と言える速度だろう。だけど、ワタシが王国で戦った誰よりも明らかに───遅い。あれならカイト様でも反応できる。カウンター狙いか、それとも罠が仕掛けてあるのか、どのような策で倒すのかと思っていた時、



 ───パシュッ



「っ……? な、に───」

「はい、おしまい」


カイト様が突き出した義手の左腕から、なにか小さく光るものが射出されたように見えた。すると三男坊は急にバランスを崩し、うつ伏せに地面に倒れてしまった。


「義手の隠し武装その一、仕込み針。神経毒でコーティングされていて、刺された相手は全身の力が抜け、おまけに痛覚を遮断する。射出機構や他の武装との兼ね合いで針は五本のみ」


倒れた三男坊に近寄りながらカイト様は足を使って仰向けにさせ、わりと強めにドカッと腹部の辺りを蹴った。普通なら悶絶しそうだけど、蹴られた三男坊は痛みで顔を歪めるどころか驚愕していた。


「そんなっ、確かに蹴られたはず……」

「即効性の神経毒だからな。もうなにをされても、お前は痛みを感じることなく、ただされるがままってわけだ」


カチンと音がして義手の手首から刃幅の広いナイフが飛び出した。


「隠し武装その二、ナイフ。仕込み針のように、射出機構を使うことによりこれも飛ばすことが可能。切れ味に優れ、そこそこ頑丈……あっ、指切った」


うっかり切ってしまった右の人差し指を舐めるとナイフを三男坊へと向ける。


「なにを、する……つもりだっ」

「前から気になってたんだよな。こういう神経毒はどの程度までの痛みを感じなくさせているのか、さ」

「ま、まさか……おい、やめ───」

「なあに、殺しはしないさ。……さて、切開の時間だ」


まるで、蟻を踏み潰したらどうなるのかと無邪気に、しかし蟻にとっては残酷なことをする子供のように。カイトは躊躇いもなく、好奇心で、三男坊の制止の声も聞かずに、左肩へナイフを突き刺した───。









「「………………」」


その光景に、こればかりはワタシやイブキ様も、言葉を失った。悪魔と契約して性格になんらかの変化が見られるという話は聞いていたけど、まさか()()()()とは思わなかった。


先ずカイト様は三男坊の両腕両足を丁寧に斬り落とした。


その後、その腕の皮膚のみを切り開き、筋肉や骨がどうなっているのかを三男坊に見せつけた。次に両足も、足首、膝、付け根と順に切除した。この時点で三男坊は泣き叫んでいた。


それから胴体。胸から腹部までを文字通り切り開き、血が顔に跳ねても気にせず、臓器の一つ一つを触ってはどう感じるか三男坊に聞き、神経毒が効いていることを確認すると、嬉々として笑っていた。


(まるで解剖だ……)


学園では捕らえた魔獣を使って解剖を行い、解体技術を学んだり、その生態や弱点を研究する授業があるけど、カイト様はそれを人を使ってやっているようだった。


「カイト殿、流石に惨すぎますぞ」

「だからなんだ? 爺さん、アンタが言ったんだぜ、協力者や部外者が援護したり乱入したりしないなら何をしてもいい、と。俺はルールを破ったか?」

「………………」

「そうだよな、破ってないよな。だったらアンタからとやかく言われる筋合いはない。見届人なら見届人らしく終わるまでただ見ていろ」

「あ、ぁ……そんな」


見兼ねたイブキ様が声をかけるけどカイト様はなにも間違ったことはしていない。逆に言い返されてイブキ様は何も言えなくなってしまった。三男坊が助けを求めてイブキ様を見ていたけど、その最後の希望も潰えた。


「いやだ……だれか、たすけてくれ……」

「おいおい、決闘を仕掛けておいて助かろうなんざ虫が良すぎるだろう。どちらかが死ぬか、戦闘不能になるまでこの決闘は終わらない。それが帝国でのやり方なんだよなあ? 」


ドクン、ドクンと。切開されて露出した彼の心臓が、目前に迫る『死』の恐怖で大きく鼓動する。


「まあいい、解剖もそこまで愉しくなかったしな。ほら、タタルが作った薬だ。これを飲めば助かるぜ。どうする?」

「のむ、のむ……から、おれのまけで……いい……たすけて」


懐から取り出した透明な液体が入った試験管を見て、口を開けて懇願する三男坊。カイト様は頷き、中身を流し込む。


(あんな状態の彼が助かるほどの薬? タタル様が作ったにしても、異様に効果が高すぎるような気が───はっ!!)

「カイト様、それは!!」


嫌な予感がしてワタシが止めようとしたけど遅かった。


「あ、がっ、ァあああああ───ッッッ!?」


体を切開されても反応がなかった三男坊の体が仰け反り、絶叫が響き渡る。それが彼の断末魔であることは明白だった。手足もないのに身をよじり叫ぶ彼をカイト様は、



「ククク……」



良いものを見たと思っているかのように、笑って見ていた。


 ───後から聞いた話では、カイト様が飲ませた薬は神経毒を治し、痛覚を元に戻す解毒薬だったらしい。だから三男坊は戻った痛覚で発狂死したのだろう。そして『飲めば助かる』という言葉の意味が、死こそ救済だ、という意味なのだとも理解した。


性格に変化が見られる、なんてものじゃない。


カイト様は、あそこまで残虐で残酷ではなかったし、断末魔を聞いて喜ぶような人じゃなかった。


悪魔と契約したらこうも変わってしまうのか……。


「俺やラウに喧嘩を売りたければ好きにするといい。コイツのように、泣き喚き、絶叫し、惨たらしい終わり方で人生を締めくくりたければな」


最後にカイト様はそう言い残し、決闘は静かに終わったのだった。

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