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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第二章
146/170

第百四十六話「彼の目的」「そしてこれから」

『マルカ村』での一件から暫く経った。


悪魔と契約したカイトの手で負傷した『サザール騎士団』の皆の怪我は治ったものの、ユキナとの戦闘にラウの足止めと連戦が続いた上、少数だけど斬り殺された。消耗は激しく、帝国への恨みは更に増し、殺意だけが皆の原動力となってしまい、かつてのアットホームな雰囲気は完全に消え去った。


瀕死の状態で見つかった『聖女』アリシアは未だ目を覚まさず、カイトとの協力関係(確定扱い)について聞き出したいジブリール様は、優れた治癒魔法使いを招集し、一日でも早く快復させようとしている。


「───どうして言ってくれなかったんですか?」


そして今、私は王都の相談役として名高い『黒兎亭』の店主のフェイルメールさんに詰め寄っていた。


「オウカには秘密にしてくれ、って言われていたの。それに、あなたから聞かれなかった。それだけのことよ」

「こんなことが起こると分かっていながら、カイトが裏切ることを、フェイルメールさんは黙っていたと言うんですかっ? 共犯だと疑われてもおかしくないんですよ!?」

「そうね……まさか騎士団の中から死者がでるとは思ってなかったのだけれど、そう思われても仕方のないことだわ。ごめんなさい、オウカ」

「あの、オウカさん、お姉ちゃんも全て知っていたわけじゃないんです。それにお姉ちゃんは誰が相手でもこのスタンスなので……」


淡々と謝罪するフェイルメールさん、その隣でアンリスフィさんがフォローしながらも、諦めが入った感じで言う。



 ───事の発端は少し前、レンくんから話があると呼ばれ、人目につかない場所として『黒兎亭』に集まった。そこにはルイズちゃん、フェイルメールさん、アンリスフィさんがいて、見張りとしてロルフが外で伏せていた。


「カイトさんから、これを渡されました。フェイルメールさん、そしてオウカさんと読め、と……」

「それ、カイトが使っていた手帳……てっきり騎士団が押収したと思ってたけど、ずっと持ってたんだ」

「内容は偵察班としての仕事のメモに、ちょっとした日記に、これは誰かと会う日時かしら? ……あとは、フフ……オウカへの贈り物のリストね、どれも高級品だわ」


手帳に隙間なく小さな字で書かれた内容を見ていく。カイトは暇さえあればいつもなにかメモをして、何度も読み返していた。足りなくなったら紙を増やし穴に紐を通して縛るタイプのそれは手帳にしてはやや分厚い。紙もよれよれで破れてしまいそうだった。


「読んでもらいたいのは最後のページです。───『これを読んでいるということは、俺は上手く渡せたようだな。こんな形でよりは本人の口から聞きたい方がいいだろうからここには軽く、俺の目的について書いておく。どうしても殺さなきゃいけない奴が出来たから殺しにいく、帝国に鞍替えすれば手伝ってくれると約束してくれたからそうする。裏切ってすまん』……と」


本当に軽く、目的、理由、経緯、謝罪が書かれたとても分かりやすいメッセージだった。ただ、あまりにもあっさりし過ぎていていて、端折り過ぎだと殴りたい気分になった。


「王国を裏切って、騎士団のみんなを殺して、悪魔と契約までして、そうしてでも殺したい相手って……」

「決まってるじゃない。オウカ、あなたの復讐相手よ。カイトが殺したいのは」


私の疑問に答えたのはフェイルメールさんだった。


「全く、そこに『オウカの為に』と書かないあたり相当な殺意を抱えてるのね、カイトは。……そう、なにもかも自分でやるつもりだったのに、帝国に鞍替えしたのはそういうことだったのね」

「え、待ってフェイルメールさん……フェイルメールさんはカイトがやろうとしてたことを知ってたの!?」

「具体的にどうするのかまでは分からなかった。けど、あなたと同じくらい、カイトは相手を赦せなかったのは知っていたわ」

「なんで、なんで───どうして言ってくれなかったんですか?」


なぜフェイルメールさんは黙っていたのか、私に教えてくれなかったのか。私がどんな思いをするのか分かっていながら、なにも言ってくれなかったのか。私の中で疑問はしだいに怒りに変わり、気づけばその小さな体に掴みかかっていた、というわけである。



「───私は聞きもするし、探りもする。その結果、知ってしまったことは口外しない。でも例外として私が目をかける人には教えるわ、聞かれなければなにも言わないけどね。それが相談役としての、私の流儀よ」

「レン、オウカさんの復讐相手って……」

「たぶん……、かな……」


じゃないとうっかり口を滑らせでもして貴族に目をつけられちゃうもの、とフェイルメールさんは言う。レン君とルイズちゃんは二人でなにか話していたけど、それを気にする余裕はなかった。


「でも、私からすれば……カイトの行動を全く気にもせず、なんの疑問を持たなかったのかと、あなたに言いたいわね。これだと確信はなくても、もしかしてと思えるようなことはあったはずよ」

「それ、は……」


そう言われて思い返す。……彼女の言う通り、よく考えれば思い当たる節はあった。私に黙ってどこか行ったり、夜遅くに外出しての朝帰りが増えたことだ。


「大方、カイトに甘えて甘やかされて、すっかり疑問に思うことができなかったってところね。無自覚な初恋に心は幸せで一杯だったのよ」


なんだろう、否定したいのに否定できない。実際、カイトといる時はいつも心地よかったのは事実だから、反論する言葉がでなかった。


「わたしも、都市の見回り中でも二人でイチャコラしてるところは何度か見たわね。苦い紅茶が飲みたくなるほどの絡み具合だったわ」

「僕も見た。冒険者の間でもかなり噂になってたよ。ひそかにオウカさんを狙ってた輩がいたけど、次の日にはカイトさんに忠誠を誓いだしてね」

「レン、その話詳しく」

「はいはい、それは後にしておきなさい。それでレン、カイトからのメッセージはまだあるのかしら?」


フェイルメールさんに促されてレン君が手帳に視線を落とす。


「あ、はい。───『目的を達成させるついでに、崖っぷちの状況にある王国をどうにかするべく、帝国と連合軍の戦争の原因となったモノを手に入れた。それが王国と帝国の戦争を回避する為の、唯一の鍵になるはずだ。ただ、それは戦争を回避するどころかもっと事態が悪化するかもしれない。上手く()()()()を作り出して盤を一変させれば、あるいは……』ここで、文章は途切れています」


次にレン君が読み上げた内容にみんなの顔つきが変わる。当然、私もだ。これは目的を達成する為とはいえ、帝国騎士となった者がやることではない。


「それは『ついで』で済ませていいことなのかしら……」

「カイトさんと戦った時、僕や騎士団の皆さんを殺せるはずだったのにそうしなかったのは、これが理由なのかもしれませんね」

「お姉ちゃん、これも、もしかしたらオウカさんの為なのでは?」

「そうね、アンリスフィ。彼自身、王国に思うところはなくても、そこがオウカの第二の故郷なら、なにもしない訳がないもの」


孤軍奮闘することが決まっている今の王国は確かに崖っぷちの状況だ。それを気にして、裏切ったにも関わらずどうにかしようとしている。つまりカイトは、完全に帝国の側についた、という訳ではなかったということだ。


「カイトさんは、帝国の内部に潜り込み暗躍して、影から王国を助けるつもりなのかな?」

「それは、いくらなんでも無茶よ。相手の規模が大きすぎる。一つの組織どころの話じゃない。たった一人で国を相手取るなんて出来るはずがないわ……!!」

「でもカイトなら……やる、やってしまう……」


要塞竜(フォートレスドラゴン)討伐の時もそうだった。たった一人で挑み、要塞竜(フォートレスドラゴン)の鎧に紛れた大型弩砲を全て破壊した。やるべき事が明らかで、それをする為の手段があってそれが可能なら、カイトは多少無茶してでもやる。



「───はー、なにを企んでいるかと思ったら、そういうことだったんスか」



その時、外からそんな声がしたかと思ったら、扉が開いて入ってきた人物にみんなが立ち上がる。


「「ジブリール様!?」」

「えっ、ちょっと待って、見張りさせてたロルフはなにをしてたのよ!!」

「キュゥン(ごめんなさいのポーズ)」

「あら、久しぶりねジブリール」

「……どうも」


驚愕する私とレン君、ロルフを睨みつけるルイズちゃん、いつもと変わらずにこやかに迎えるフェイルメールさん、アンリスフィさんはペコリとお辞儀をした。


「どうもッス。ロルフは餌付けしたらそっちに夢中になったッスよ。少し時間に空きができたんで、久々に寄ってみたッス。そしたらすごい話が聞こえてきたじゃないスか」


やほー、と右手をヒラヒラさせながらジブリール様は適当な空いた席に座る。すかさずアンリスフィさんが水が入ったコップを出して、礼を言ってからちびちびと飲んだ。


「ジブリール様、確か今日は一日中会議だったはずでは?」

「まあそうだったんスけどね? カイトさんが悪魔と契約して、レンさんを抑え込んだと聞いて、みんな完全に諦めムードになっちゃったんスよ」

「すみません、僕が勝てなかったから……」

「別に責めてるわけじゃないッス。元々、勝率は高くない戦争だと思ってたんスから。それに戦力が削られていたとはいえ『サザール騎士団』と他三つの騎士団の騎士を加えた精鋭部隊がたった三人の相手に何もできなかったとなれば、流石に意気消沈するッスよ」


ははは、とジブリール様は笑う。しかしその笑いが、笑ってなきゃやってられないという彼女を心情を表しているのは、容易に見て取れた。


(ユキナとラウ、あの二人だけで騎士団は激しく消耗、そこに悪魔と契約したカイトの手でまとめて戦闘不能にさせられた。……待ち構えられていたんだろうね。誘い込んで仕留めるやり方は、私とカイトがよくやっていたっけ)


ユキナの強さなら納得するとして、ラウのしぶとさには驚かされた。帝国騎士にしては弱いのに、あれだけ追い詰めたのにも関わらず力尽きる気配が全くなかった。それに、カイトの能力を使ってのデコイ戦術で私と騎士団を同時に相手取った。


「報告書を読んだッスけど、カイトさんの能力が譲渡可能だったことと、遠距離から砲撃可能な大きな兵器まで使えることが大きく影響したと思うッス。オウカさん、カイトさんの能力が無しのラウ単騎なら勝てたッスよね?」

「そうですね……ラウは、今まで戦った帝国騎士よりも下級だったように思えます。情報を聞き出そうと思って加減はしましたが、苦戦するような相手ではなかった」


私の言葉にうんと頷いたジブリール様は、一度私達を見回して、こう言った。



「───どんな事情があろうと、彼の所業、そして能力、悪魔と契約したこと、これらから王国は彼を第一級危険人物と断定。対策を講じて、見つけ次第無力化して拘束もしくは排除することに決めたッス」



オウカさんには悪いッスけどね、とジブリール様は申し訳なさそうに、しかし撤回はしないと力強く宣言したのだった。

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