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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第二章
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第百四十五話「悪魔に天使そして羅刹女」「ワタシ、霞んでません?」

「なるほど、堕天するとこうなるのか……」


ネルガが戻って来て気絶したアーゼス副団長を再び時計塔の軟禁部屋に運ぶ。


ベッドに寝かせた彼女は容姿こそ変わっていないものの、身につけていた騎士団の鎧は漆黒に染まり、背中には純白の羽根の代わりに、鎧と同じ漆黒の羽根が生えていた。魔力も変質したのが感じ取れる。


あとは精神面がどう変化したか、だな……。


まあここからは俺の出番だ。目が覚めたらサシでの対話といこうじゃないか。


「羽根を引き千切ってたが大丈夫なのか?」

「あれは天使の力で作られたものだから取ったところでまた勝手に生えてくるわ。……はー、天使と聞いて楽しみにしてたのにあまりにもお粗末、拍子抜けもいいとこよ」

「お前にとってはそうだろうけど、こっちからすれば手が付けられない化け物クラスの力だ。ぜひとも欲しい」

「目的の為なら使えるものは使うってやつ? テメェの場合、目的ってよりは手段の一つとして確保するって方がしっくりくるけどな。あの小娘みたいに」


そう言ってネルガは水に沈むように俺の影へと入っていく。


「今回、私が了承してやったことだから、テメェの時間外労働を肩代わりしてあげたけど……二度とタダ働きはしねぇからな?」

「分かってる。今日はありがとな、ネルガ」

「ふん、悪魔に礼を言うなんて変な奴」


その変な奴と契約したお前はなんなのか、と言ったら面倒なことになりそうだから止めておくか。触らぬ神に祟りなしって言うし。……触るどころか契約してっけど。


「ん───」

「おはようございます、まだ夜中ですが」

「カイト、くん…………わた、し、は…………」

「んん?」


起きたアーゼス副団長はボーッとしているというか、意識が混濁しているというかで、目も虚ろ。さっきまで元気に反発していたのが嘘だったようだった。


「自分がどうなったか分かりますか?」

「私、ああ、羽根が黒く……。そっか、堕天使に……」


自分の羽根を見ても反応が薄い。しかし、堕天使になったことは理解したらしい。


俺はいくつか質問して、その答えを聞きながらアーゼス副団長の状態を探っていき───そして分かったのは、基本的には俺やネルガに従うようになっている、つまりは従属している状態にあるということだった。


(記憶も問題ない。虚ろな様子とは裏腹に、話してる内に受け答えもハッキリしてきた。……それに、彼女の心臓にある『核』が闇属性の魔力で閉ざされている。『核』そのものも魔力が浸透しているな。感情の起伏が抑えられている原因はこれか? シム団長に知られたら殺されるな)


悪魔が大の嫌いなアーゼス副団長だ。堕天したとなれば彼女の心はその事実に耐えきれず壊れてしまう可能性は、無いとは言えない。そうなっては使い物にならなくなり、連れてきた意味がなくなる。だからこそ、


(……『核』を心ごと閉ざして感情を抑え込んだのか。恐怖で叫ぶ様を見て笑いながら、彼女が壊れてしまわないように、使い物にはなるように。アイツ、ただ壊すだけの存在じゃないってわけか)

「悪魔に負けて、堕天したのよね……カイト君は私をどうするつもりなの?」

「これから俺の副官として働いてもらいます」

「従うしか、ないようね……」


()()()()()()。今の状態なら落ち着いて俺の話を聞いてくれるだろうし、使い易いに越したことはない。


「先ずは俺が王国を裏切り、帝国側についた経緯から説明します。俺は───」


ラウにはまだだが後で説明するとして、アーゼス副団長には言っておいた方がいい。『アイツ』を愛するのなら絶対に無視はできないのだから。


「俺の目的は……帝国のとある貴族三人を、家族もろともこの手で殺し尽くし、その血筋を絶やすことです。セレネスを通じてジルク殿下と取引をし、貴族を殺していい代わりに帝国に協力することになりました」


感情を抑え込まれていても、俺の目的が予想外だったのかアーゼス副団長は驚いた様子で息を呑んだ。そりゃそうだ、帝国に寝返ったのに帝国の貴族を殺すんだ、当然の反応だ。


王国の貴族や騎士団の皆を殺したのは帝国に協力したから。


要塞竜(フォートレスドラゴン)(『泰山公』の助力)の騒ぎに乗じて、デコイで貴族暗殺担当、要塞竜(フォートレスドラゴン)討伐担当、騎士の抹殺担当に分けて、それぞれが動いた。ちなみに本体の俺は騎士抹殺担当。アーゼス副団長が駆け付けることは想定済みだったから、こうして連れ去る事ができた。


んで、王国貴族も実は殺す対象。その時は王都にレンがいたから邪魔されないようセレネスを呼んで、相手をしてもらっている内に始末した。


騎士団の方は、王国の戦力を調べ、可能なら戦力を削ぐ。そして国内に騒ぎを起こし混乱させる───そう、ジルク殿下から頼まれたからそうしたというわけだ。


「……どうして、貴族を殺すの? カイト君は理由もなく人を殺すとは思えない」


うん、それは俺が、相応の理由があれば躊躇いなく人を殺す人間だって言ってるのかな、それは。いやそうだけど。やっぱ分かるのかね、そういうの。



「アーゼス副団長……いや、副官だから、これからはアーゼスさん、貴女は二十年前の『獣人移民虐殺事件』を覚えてますよね?」



アーゼスさんの表情に大きな変化があった。


「忘れられる訳がないわ、あんなの……同じ人がやったとは思えないくらいに、酷かったから……」


感情が抑えられているとは思えないくらいに憎しみがこもった目になり、手を握りしめる。そして話の流れから察したのだろう。まさか、と彼女は顔を上げる。


「殺したい三人の貴族って、もしかして───」

「はい、あの事件に深く関わっていた者です」


『獣人移民虐殺事件』───これは、協定によって人間と獣人が少しずつ友好関係を築いていた最中に起きたもの。何が起こったかはその名の通り、国外からこの大陸に海を渡って来た獣人の移民たちが虐殺された、というものだ。


()()()()()()……なら、カイト君は赦せないわよね。でも、それはあの子から奪うことになるのよ?」


あの子、とは言うまでもない。


もうほぼ察してくれたアーゼスさんは俺に問う。それでいいのか、と。帝国についた今それを問われてもな、なんて思いながら俺はこちらを見る彼女と視線を合わせる。


「………………」


やはりアイツの話題ともなれば感情が顔に出てくる。それだけ大事で、大切で、愛情を込めて親の代わりをしてきたんだろう。俺よりもアイツのことを理解しているんだろう。だが、


「俺は、アイツを泣かせた奴らを残らず消す。誰であっても」


強い殺意と憎しみを視線に込めて、俺は答える。


「俺はそういう人間だ。人を使い、己も使い、アイツの盤から邪魔な駒をこの手で排除する。徹底的にだ」

「その為なら自分がどうなっても、あの子の殺すべき対象になっても、いいっていうの?」

「もちろん」

「カイト君にならあの子を任せてもいいと……私も、シムも、そう思っていたのよ?」

「期待を裏切ってしまい申し訳ないです」

「もう、何を言っても無駄ってことね。───それで、今後の予定はどうなっているの?」


アーゼスさんの漆黒の羽根が僅かに輝くと光の粒子となって消えた。


「暫くは休養、そして左腕の具合を確かめつつ特訓です。それが済んだら目的を果たすべく行動します。それまでアーゼスさんはまた軟禁生活ですね」

「この部屋にこもるのも飽きたのだけれど……せめて時計塔の中を出歩けるくらいには、出来ないかしら」

「……セレネスに伝えておきましょう」


従属状態とは言っても、支配や洗脳ではないから自分で考え、自分で行動できる。感情も抑えられてるだけで無感情ではない。腹のうちではどう思っているのか分からないし、完全に自由にさせることだけはしないでおこう。


「では、これからよろしくお願いします。アーゼスさん」


一先ず話すことは話した。今日のところはこれで退散、と部屋から出ようとした時、


「ねえ、カイト君。最後に一つだけ聞いてもいいかしら。───もしあの子と戦場で会った時、カイト君はどうするの?」


そう呼び止められて俺は足を止める。


「あの子、絶対に追ってくるわ。そしてどうして裏切ったのか問いただしてくる。そうなった時、カイト君はどうするの?」


ああ、その光景が容易に想像できる。


王国に潜入していた時、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。今はまだ王国にいるだろうが、転移で積雪に関係なく帝国に来れる。王国と連携して情報収集でもしてそうだ。となると、必ずどこかで接触する。そうなった時、俺はどうするか……。


「そんなの聞かなくたって分かるでしょう」


もちろん想定して色々考えてはみた。想像して、その時の状況で、俺が取れる行動はなにか考えた。……何度考え直しても、答えは同じだったが。



「───アイツに銃は向けられない……」



俺の答えにアーゼスさんは、そう、としか言わなかった。……ああ、こればかりはどうしようもない。俺が愛に生きられる人間だったならどれだけ幸せだったか。


あれだけ愛して、告られておきながら返事もせず、身内を殺して敵になり、再会したと思ったら嫌いな帝国騎士になるどころか悪魔と契約して、おまけに帝国騎士の女連れだ。


謝って済むなんて思ってない。


殺されたって文句は言えない。


それでも───どうしても俺の手でやらなきゃ気がすまないからやるのだ。


「………………」


俺は部屋を出て、自室に戻る。流石に疲れた。二日くらい休んだらタタルと義手の調整をしつつイブキに教えを乞うとして、アーゼスさんにラウを紹介に、ああ、商会の若旦那とも会っておきたいな。


「あ、そうだ……」


能力【設定変更】からボイスチャットを起動する。久々に連絡するな、最後に話をしたのは『魔剣武闘会』の時以来だったか。


『───カイト殿、ですか?』


聞こえるのは女性の声。この通話は俺の能力が可能としているから分かるものだが、かなりほったらかしだったから相手が誰か確認してしまうのは仕方のないことだよな。


「そう、俺俺、カイトだ。久しぶりだなアネットさん」

『お久しぶりです。すみません。この時期はほとんどの獣人は冬眠期間に入ってまして、動ける獣人が少なく忙しいのです。手短にお願いします』

「あー、そうだった。ちょっと確認したいことがあったから連絡したんだ」







「───レジスタンスの件、今どうなってる?」



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