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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第二章
135/170

第百三十五話「「カイト様!!」」「増えすぎだバカ」

剣聖様が騎士団を相手取っていた数刻を使い、カイト様がいる洞窟までのルートに仕掛けていた罠───計二十個のリモート爆弾を一斉に作動。進行していた騎士団は左右から来る爆風でサンドイッチにされた。


(手間だったけど、山道の両側に仕掛けて正解だった……)


全て同じタイミングではなく仕掛けた順に爆発したから場所によっては間一髪で防ぐことは可能だろう。でも魔力を察知して素早く対応するのが当たり前のこの世界において、この魔力に頼らない武器はあまりにも有効過ぎた。


今、騎士団はいきなりのことに混乱している。


被害は三割か、四割。爆風に挟まれて気絶した程度のようで負傷者はあまりいない。予想より被害が少ないのは、彼らの装備が新調されているからと判断。


(有効ではあるものの、その全ての攻撃は物理防御で防げる。相手の純粋な守りが固ければ固いほど威力は下がる。……だからカイト様は───)


そこで思考を中断。騎士団の団長が声を張り上げて立て直しを図っている。重騎士が周囲を固めて追撃を警戒、内側に集まった騎士が結界を張って気絶した人たちを起こそうとしている。


(カイト様が戻るまで、王国騎士はここで釘付けにする)


余計なことをする必要はない。ワタシはカイト様のご命令を、忠実に、完璧に、遂行するだけでいい。それがワタシの喜びであり……償いなのだから。



「───『ワタシたち』に告ぐ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」




■■■




「な……なにが、なにが起きているっ!?」


守りを固めていたのが幸いした。


嫌な予感がして結界の強度を上げるよう指示を出した途端、空から何かが猛スピードで飛来し、近くに着弾すると地面が吹き飛んだ。


その『砲撃』は一発で終わらず、雨のように騎士団がいる周辺に降り注ぐ。


先の爆発よりも強力で、直撃したら絶対に助からないそれがカイトの武器によるものだと理解した時には、もう動くことが出来なくなっていた。


「ぐぅ、結界で耐えられないことはないが、ここまで激しいと結界の維持で手一杯だな……っ」

「今までカイトが使った武器のどれにも当てはまらない威力です!! 隠してやがったな、あのクソ野郎!!」

「爆発の規模、威力、飛来してくる方角から、恐らく使っている武器は一種類。それを複数使って我らを囲んでいるんだ!!」


先ほど騎士団がユキナに対してやったような、徹底した面での制圧戦をより激しくしたような砲撃の雨に、騎士たちはただただ守りを固めることしか出来ないでいた。


 ───それを見て、襲撃者は更に攻勢を強める。


「あれは……っ!?」


何か、この状況を変えられる何かがないかと砲撃を防ぎながら右へ左へと視線を動かしていた騎士団の団長シムは、砲撃が及んでいない離れた位置にある木々の陰から出てきたものを見て目を見開く。


「黒いマントの帝国騎士の女……報告にあった、ラウ・カフカかッ!? それにあの武器は───」

「『ワタシたち』、銃火器による一斉射開始」

「お前ら、もっと結界を固めろぉぉ!!」


砲撃の次は銃弾が降り注ぐ。


その射手───()()()()()()は、一か所に固まった騎士団を囲み、絶対に逃さないとばかりに、それぞれ持った銃火器で射撃を始める。


アサルトライフル。サブマシンガン。ミニガン。連射力に優れた武器を持ち、一切の油断も加減もなく、己の役目を果たすべく攻撃の手を緩めない。


「敵、数は三十、なんてことだ、全員がラウ・カフカです!! それにカイトの武器を使っています!!」

「銃が帝国の手に渡ったというのか!!」

「攻撃が激し過ぎます。一瞬でも結界を解いたらその瞬間に我々は蜂の巣、反撃は困難です。向こうが弾切れになるまで待つしか……」

「無茶言うなっ、結界だけならともかく、魔導盾まで使ってんだぞ。先にこっちの魔力が無くなりそうだ!!」


銃火器だけなら結界か魔導盾のどちらかで防げる。


しかし、遠距離からの砲撃という高火力を叩き込むことで二つの手段どちらも使わせ、そこに追い撃ちを仕掛け、結界をより強化させることで更に消耗を激しくさせた。


「こりゃ、まずいなっ」


魔力にはまだ余裕はあるが、このままでは一時間、いや三十分ももたないだろう。騎士たちも、魔力量には差がある。一人でも魔力が尽きればそこが綻びとなって守りは崩れる。


「───……んん?」


その時、シムは砲撃で吹き飛んだ地面を見た。爆発で抉れた地面。その抉れ具合は飛んできた方角を、その深さは砲撃の威力を示す。


この砲撃だけでもなんとかなればかなり余裕が生まれる。


砲撃している場所は恐らく傾斜の向こう側。正確な場所は分からなくても、方角が分かればあとはそこを叩くだけ。威力からして大きいと予測し───



「お前ら、ちょっと耳貸せ」




■■■




ワタシがカイト様から預かったのは、カイト様の能力である指輪型の【場違いな人工物(オーパーツ)】もとい【保管庫】。どのような武器があるか詳しい説明も無しに、それでも最適だと思う物を選び取って、騎士団の進行を抑えていた。


【保管庫】から召喚したデコイで自分自身を増やし、銃火器で武装し、戦車とその護衛としてデコイを配置。そしてそれらを把握出来る高所で、ワタシ本人が指揮をする。


デコイたちが見ている物は全て共有されている。


そこから必要な情報を下に、自分の手足としてデコイを動かしていくだけでいい。


(デコイに魔力が無いということは、魔法が使えないということ。再現するのは肉体と身体能力のみ。でも、十分な働きはする)


魔力を使わなくても、ワタシたった一人で、王国の精鋭である騎士団を押し留められる、あまりにも破格な能力。使う者が違うば、デコイだけでも恐るべき力となるに違いない。


一応、皇太子殿下からカイト様の監視の役目を命じられているから、このことも報告しなくてはいけないけど、



『───いいか、能力まるごと貸与するのは今回だけだ。お前が最初で最後。これが終わったら返すように』



ああ言ってたから、情報は行くとしても、今後他の帝国騎士や技術開発局に現物が渡ることはない。


元々帝国騎士は兵器には頼らず、突撃する脳筋しかいないし、技術開発局は魔道具や利便性や快適性を上げる道具の開発に力を入れている。銃に興味を持つ人は少ないはずだ。いるとしても、ワタシのような力不足を道具で補おうとする人か、その小ささと殺傷力から暗殺者などの裏社会の人あたりか。


(念の為に、二重に包囲していて良かった……)


騎士団に動きがあった。


それは、突然のことで、でも二重包囲と後詰を待機させていたから冷静でいられた。何らかの方法で砲撃から逃れるだろうとは思っていたけど、まさかそんな方法で来るとは……。


「『ワタシへ』、()()()()()()()()()()()()()()()

「戦車の砲身が破壊、これ以上の砲撃は不可能」

「包囲が二重であることに気づかれました。戦車護衛役と後詰の『ワタシたち』で対応。しかし───」


分かっている。


このままでは長くはもたない。


ワタシがどれだけ死力を尽くそうと、王国騎士には勝てない。デコイが魔法が使えないことも大きい。敵一人に対して三人、いや五人で戦わなければ時間稼ぎすらできないかもしれない。


「まさか、砲撃を受けても安全な深さまで、魔法で穴を掘るなんて……。でも、反撃してくることは想定していた。だからこそ、準備は入念にしていた」


敵を知り、己を知り、手札を増やす。


たとえ勝てなくても負けないようにすればいい。


それこそがカイト様が教えてくれた、ワタシが生き抜く為の方法。



「……所持しているデコイを使用、減らされるよりも早く増やし続けて数的優位を保ちます。そして洞窟前に集結、防衛戦へ移行!!」



デコイに持たせる道具と所持数を指定できることはカイト様から教わっている。


そしてカイト様もワタシも、これしかないと、迷わず選び、設定した。それが、()()()()()()()()()()()()デコイ。


武装したデコイが、新たに武装したデコイを出す。そのデコイも同じデコイを持っている状態で出てくる。


 ───即ち、ワタシとデコイが全滅しない限り無限に増え続ける人海戦術。


「ワタシも移動します。そうだ、洞窟へ行く途中でリモート爆弾を」

「見つけたッ!!」

「っ!?」


声が聞こえて直ぐに前へ跳ぶ。振り返ると、さっきまでいた場所に三本の短剣が突き刺さっていた。


「あなたが、ラウ・カフカ?」

「──────」


洞窟がある山の山頂で戦況を見ていたワタシを、冷たい口調で、木の上から、二尾の狐妖族の女が見下ろしながら言った。


彼女を、ワタシは誰か知っている。


カイト様が、剣聖様が、レンの次に勝てない相手だと、口を揃えて言っていたから。


「オウカ・ココノエ……ッ、どうしてここに? 剣聖様が相手をしていたはずですが」

「私を追い詰めたところで心強い味方が来てくれてね。ユキナも私よりそっちと戦いたいのか、あっさり道を譲ってくれた」

「剣聖様が、戦いたい相手って…………まさか───」


遠くで、激しい剣戟の音が聞こえる。冗談であってほしかった。その味方とやらがワタシの予想通りならこれは最悪の展開だったから。


「ラウ・カフカ、あなたには聞きたいことが沢山ある」

「……生憎と、そう多く語れるほどの情報はワタシは持ってません。というか、素直に言うとでも?」

「無理矢理にでも吐かせる」

「できるものなら、やってみてください!!」


ピストルを抜き、発砲。


オウカが投げたナイフを撃ち落とす。


洞窟前で持久戦する予定が狂った。あちらはデコイだけでなんとかしのぐしかない。ワタシはここで、どうにかしてこの死線を越えなければならない。


「ほんとに気に入らない……裏切られたとしても、カイトの隣に、忌々しい帝国騎士が……私以外のオンナがいるなんて……!! あなたの全て、その何もかもが気に入らない!!」


オウカ・ココノエが叫び、鬼の形相で木から飛び降りてくる。


「あなただけは、あなたのような存在はっ、絶対に許容できない。───だから消えて、ラウ・カフカアアアァアァァ!!」

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