表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第二章
134/170

第百三十四話「頑張れラウちゃん」「死力を尽くします」

火属性付与(フレアエンチャント)───紅蓮刃……」


短剣に炎を纏わせる。


属性付与は、武器そのものを魔力でコーティングし強度を底上げするだけでなく、その属性が持つ性質も付与される。


あの赤い線が入った純白の刀……ユキナほどの剣士が使う刀ならば、恐らくただの業物ではない。こちらの短剣は特注品というだけでまともに打ち合えば壊される。やるならばただ強化するだけじゃなく、更に一段階上乗せするべきと判断。


今回選んだ属性は火。炎で熱せられ、紅く輝く刀身は鋼鉄をも灼き斬る刃と化す───!!


「『初夏ノ祀(しょかのまつり)』!!」

「"小夜(さよ)"」


回転を主体にした炎剣による連撃に、ユキナの刀がカチンと鞘を鳴らす。一見、抜刀の構えのまま動いていないというのに、私の短剣は大きく弾かれる。


(全く見えない!! 鞘を持つ左手も、柄を握る右手も、その位置から動いていないのに……私は確かに彼女の抜刀で迎撃されている!! まるで、斬撃そのものが空中にいきなり発生しているような……っ)


直ぐに態勢を立て直し、追撃に備える。


「"小夜嵐(さよあらし)"」

「っ……土壁(ウォール)!!」


僅かに見えた閃きに、土属性魔法による壁で対抗。これでもまだ安全ではないと思って大きく飛び退くと、


「凶悪すぎるでしょ!!」

「んー、カイトくんの武器でも出来るんだしそこまで言うことでもないと思うけどなぁ」


何かが貫いたようにボンッと土壁に無数の穴が出来上がる。


「"小夜"はとにかく最速で抜刀する技。そして"小夜嵐"は単に"小夜"を連発する技で、今回は抜刀してから切っ先で突くのを繰り返しただけ。威力と速度は見てもらった通り、目で追えなかったでしょ?」


自慢気にさきほどの技の説明をするユキナ。


「でもオウカの技もちょっと驚いたかな。初撃で潰したとはいえ、あれは魔力で強化した武器を用いた舞のような連撃を繰り出す技。とても見事だ。弾いた時に感じたけどかなりの威力だよね」

「…………全部当たってれば両手両足を斬り落とした後に、心臓に突き立てていたよ」

「うん、やっぱり容赦ないね。流石は元『偵察班』。狂信者たちを相手にしていた時も思ったけど、しっかり殺しにかかるよね、キミは」


ここで、ユキナの背後に移動させた『野狐』を起点に雷属性上級魔法『ライトニング・ドライブ』を発動。


「へぇ?」


回転し射出される雷電球。命中と同時に大規模な雷撃を周囲に放つこの魔法を、やはりユキナは不可視の抜刀で両断する。今度は構えてすらおらず、なのに斬撃だけは発生している。


「お見事、直前まで気づかなかった。隠形に関してはそちらが上のようだ。これは種族の差かな?」

「対応されるんじゃ意味ないよ。……でも、そうだね、化かし合いなら自信はある。普通に攻めるだけじゃ、あなたには勝てないし、別の手札を切らせてもらうよ!!」


『野狐』を複数召喚、更に『変化』で姿を変える。


「これは───」

「『盛夏ノ幻(せいかのまぼろし)』」


私自身に化けた『野狐』たちがユキナを囲み、冬場にはあり得ない陽炎が周囲に発生する。ユキナの顔色が変わり、少しだけ警戒しているのが分かる。


「魔法……いや、幻かな。それに獣人と使い魔の獣とはいえ、種族は同じだからか、どうもオウカと使い魔の見分けがつかない。うん、この陽炎のせいか」


直ぐ見破るじゃん。ホント嫌になるよ、その眼。まだ手札はあるにしても、長期戦になればなるほど不利になるのは確実かっ。


電撃(ショック)

霜針(フロスト)

風刃(ウィンド)

魔弾(バレット)

「おおっと!?」


先ずは、私と『野狐』たちによる、魔力量に物を言わせた魔法の弾幕による制圧戦。ユキナはたまらず不可視の抜刀だけでなく動き回って回避もしながら凌ぐ最中、私は視線で合図し、隊列を組み直したみんなが動き出す。


「前衛各自、魔導盾を起動。対物結界を展開し、剣聖の斬撃に備えろ!! 後衛は魔法と弓でオウカの制圧に加われ、剣聖に反撃する機会を与えるなァ!!」


新たな装備だろう。重騎士や、それ以外の前衛の騎士たちの盾が輝いて、広範囲を覆う結界が展開される。その内側から後衛が魔法と魔力で強化した弓でユキナを狙う。


狙いは甘く、徹底した面での攻撃。


その攻撃の隙間を縫うように私と『野狐』が直接狙いに行く。


どの方向に回避しても攻撃が当たる、そしてその場に留まって守りを固めたのなら、消耗するまで攻め続ける。彼女を抑えるには私が必要、でも私だけでは無理なことを私もシム団長も理解していた。


「アハハハ、スゴいスゴい!! 一気に忙しくなった!!」


全方位から来る攻撃の全てがユキナに当たる前に斬り払われている。しかも、ただ防御に専念するのではない。対物結界に遮られているけど、騎士団へ斬撃を飛ばしている。


「これだけ攻め立てられていながら、反撃する余裕がまだあるというの!? なら、ここは───シム団長、お願い!!」

「応ッ!!」


弾幕の中を黄金の光が駆ける。


「我が一撃、受けてみろ剣聖!! 」

「───!?」


ここでユキナの顔が驚愕に染まる。


彼女の中でシム団長をどう評価していたのかは分からない。けど、強いとは認めていたから、それなりに高い位置には置いたはず。でもあの顔はその評価が間違っていたことの証明に他ならない。


シム団長はかつて剣聖になろうと日々剣を振っていたけど、元団長のセレネスの一件の後、()()()()()()()()()()()()()()()彼が後釜として新たに団長となることになった時、騎士団を率いるには多くの力と知識が必要だと考え、剣聖の夢を諦めた。


でも、騎士団の団長として先頭に立ち、数多くの戦いを乗り越えたある日、シム団長はあることに気付いた。



 ───オレの拳、強くね?



「砕けろ、『城崩し』!!」

「ぐぅ!?」


大きく踏み込み、地面を踏み鳴らして、ユキナへと放たれた正拳突きは、脇腹に深々と突き刺さり、轟音と共に彼女を遠くにある家屋まで吹き飛ばした。


「ふぅ───……」


シム団長の武器は剣ではなく拳。


『アダマス騎士団』の団長候補だった彼の一撃は、魔法で固めた城壁をも砕き、破壊したという。


これは、団長という職務そして指揮する立場から、剣を振る機会が減った彼が、体が鈍らないようにと一日のルーティンとしてこなしていた拳撃の打ち込み稽古、その成果だ。


愚直に取り組み、動作を体に刻み込んで、正拳突きという基本的な一つの技を極めた結果、元からあった城壁を破壊する力はさらなる高みへと至った。


「単純、故に強力。……よし、良いのが入った」


黄金の闘気を纏い、前に突き出した右手拳を見ながらシム団長は頷く。


「手応えはあった。肋骨は粉砕、内臓はめちゃくちゃになっただろう。生きているとは思えないが……」

「私が見てくる。シム団長とみんなは洞窟に行って。たぶん、カイトはそこにいる」

「分かった、気をつけろよ。───お前ら、行くぞ!!」


そうしてシム団長たちは洞窟がある山へと向かうのを見送った後、ユキナが飛んでいった家屋へと近づく。


家屋は完全に倒壊していて、積もった雪と土煙が舞っていた。そしてその中に、仰向けに倒れて動かないユキナの姿を見つけ、


「……"黒き神が振るいし刃よ。かの者の御霊を刈りとり、深淵の底へ連れ去れ"───グリム・リーパー」


精神に直接作用する、肉体は傷つけず魂のみを刈り取り即死させる闇属性上級魔法『グリム・リーパー』を放つ。宙に禍々しい魔力を纏う鎌が現れ、そのまま倒れるユキナへと振り降ろされる。


「"夜の帷(よるのとばり)"」


しかし、死の鎌が当たる瞬間、黒い何かがユキナを覆った。


ギャリギャリと金属同士がこすれるような音と、物凄い火花が散り、死の鎌は黒い何かに触れた端から()()()()()()


「もう、寝てる人にいきなり即死魔法を放つのはどうかと思うなぁ、オウカ?」

「っ……さっきの一撃を受けていながら身綺麗だったから、おかしいと思った。いったい、どうやって防いだの!? シム団長の『城崩し』を受けて、平気だなんて!!」


『グリム・リーパー』が完全に削り尽くされ、ユキナがゆっくりと立ち上がる。


「それは秘密。……いやー、()()()()()()!! まさか初見殺し型とは思わなかったよ、あれほどに重い一撃を受けたのは久方ぶりだ」


死んだ? 今、死んだと言った……?


気になることを言いながら、何事も無かったように、しかし正拳突きを受けた脇腹をさすって、ユキナは何が面白いのか笑みを浮かべている。


「良いものが見れた。この一撃の返礼として、剣聖としての本気を見舞おうと思ったんだけど、団長さんは行っちゃったかぁ」

「残念だったね。直ぐにカイトはシム団長たちに拘束される。悪魔と契約なんてこと、絶対にさせない」

「なんだ、こっちの目的はバレてるんだ。参ったな。これが成功しないと彼、後が無いんだけど……」


後が無い……? 彼って、カイトのことを言ってるのっ?


「ねえ、カイトの身になにが───」


気になって問い詰めようとした、その時。村の外から大きな爆発音が響いた。


「っ、なに!?」

「私を突破すれば後は大丈夫とか思ってた? カイトに付いて来ているもう一人のこと、忘れてはいないかい?」

「あ───」


そうだ、カイトはユキナの他にもう一人、ラウ・カフカという女の帝国騎士を連れていた。ユキナと一緒じゃないということは、


「王国騎士には少し同情するよ。これから大きな戦いが起きるかもしれないっていう時に、ここで大勢の騎士が、あの子の手で、再起不能にされるんだから」

「ユキナ……っ」

「もちろん、オウカを行かせはしない。流石に今のオウカと戦わせたら、あの子に勝ち目はないからね。団長さんの代わりに……我が殺人剣、味わってもらわなきゃ」


ユキナからの圧力が強まり、逃げられないと悟る。


「さあ、第二幕といこう。殺すつもりは無いけど、甘い動きをしたらうっかり殺すかもしれないから、そうならないよう気をつけてね」

「くっ……」


覚悟を決めて構える。うんうん、とユキナは頷いて鯉口を切ると、スッと目を伏せて、



「目覚めの時間だよ───『白喰禍津(しらはみのまがつ)』……」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ