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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第二章
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第百二十一話「妨害楽しい!!」「この人マジ迷惑ッス!!」

「『アルスト』に帝国騎士が入り込んでいた、そして各地の騒動はカイトさんの仕業である可能性があり、おまけに『穴持たず』の発生……はあ、やることが減るどころか増える一方ッスねぇ……」


王宮の会議室でジブリールは大きなため息をついた。


「騒動については騎士団や冒険者を派遣して四割が解決、カイトが絡んでいたのかも含めて、原因を調査中です。それから『穴持たず』については『月鏡刃』のレン一行が───魔晶竜(クリスタルドラゴン)鮮血樹(ブラッディツリー)の二体の討伐を確認しました」


驚くべき速さです、と近衛騎士長のグラジオが驚きを隠せない様子で書報告を読み上げる。


魔晶竜(クリスタルドラゴン)は魔力を多く含んだ鉱物を主食としており、それ故に魔法に対する高い抵抗力を持つ。鮮血樹(ブラッディツリー)はなによりも血を好み、地中から根を伸ばして近くにいる生物を串刺しにするという性質から、大きく成長する前に倒さなければならない。


グラジオも何度か戦ったことがある魔獣だ。どちらも準Aランクと高く、しかも『穴持たず』は移動する。特に成長した分に比例して攻撃範囲も広がり、放置すれば周囲の生物を殺し尽くす鮮血樹(ブラッディツリー)が動くのはあまりにも厄介だ。


「危険ではあるものの動かぬ樹に変わりはない。獲物を狩り尽くし、養分となる血を得られなくなれば枯れ、朽ちる存在。それが唯一の弱点だったというのに……」

「『穴持たず』になった途端、根を足の代わりにして動き出すから驚きッスよね。被害が無くて本当に良かったッス」


『穴持たず』となった魔獣は動かない種族であっても何らかの方法で移動し、人が多くいる場所に一直線に向かう。通常種よりも大きく、特殊な力もあるから、ただ迎撃すらばいいという訳ではないのだ。


「魔獣の方はこのままレンさんと騎士団に任せるとして、ラウという女の帝国騎士……それから逃亡を手助けした誰かの行方はどうなってるッスか?」

「ラウのものらしき足跡と、ラウとは別の何者かの足跡が『アルスト』から内陸方面の森林地帯にある大樹まで続いているのを発見。大樹の樹洞にももう一人誰かがいた形跡がありました。そこから何処へ向かったかは不明です」

「てことは、少なくとも三人───ラウと、ラウの逃亡を手助けした誰か、そして樹洞にいたもう一人……帝国騎士がいたってことッスね……」


確証はありませんが、とグラジオは補足しながらも頷く。


「『サザール騎士団』の中では……ラウではない足跡の者か、樹洞にいた者が、裏切り者───つまりカイトではないかという声があがっています」


それはジブリールも考えていた。


カイトの立ち回りは、彼を私兵として使う際に本人から聞かされている。そして『サザール騎士団』も、肩を並べて戦っていたことがあるのだから、カイトのやり方はよく理解しているだろう。


彼曰く、なるべく遠く、なおかつその場所からでも手を出せる安全圏を好むと。


「しかし、カイトが裏切って以降、騎士団は血眼になって王国をくまなく捜索しています。彼らの目敏さはカイトも承知のはず……そんな状況で再び王国に戻って来るでしょうか」

「ただ安全圏を好むだけなら来ないはずッス。でも、彼が好むのは、なるべく遠くにいながらも手が出せる場所ッスよ」

「では……」


グラジオの顔が険しくなる。


「目的は分からない、けど……いるッス、カイトさんは。この国に……」


同時多発的に、()()()()()とは別に各地で起こった、小火と言える騒動。個々の規模は小さくとも、全体的に見れば大規模な騒動を起こした目的は───恐らくは戦力の分散だ。


「敵になると嫌な存在ッスよ、ホント。あの人が何をしてくるか気になって、冬明けの大戦に備えた準備、それに騒動への対処が遅れてしまうッス」


最初は各地に゙駐留する王国軍や、貴族の私兵だけで対応は間に合っていた。しかし大量に起こった小火の騒動により手が足りなくなり、今は王都からも騎士団や冒険者を派遣しているが、積雪により遠方への移動が困難で到着するまで時間がかかる。


そんな時に追い打ちするように現れた『穴持たず』は、嫌なタイミングだが、まあこれは偶然だろう。冬場は餌が少なくなるから、腹を満たそうと人を狙って姿を現したに違いない。


「カイトの目的……そうですね、各地に派遣した騎士達を各個撃破していく……いえ、そのつもりならもう被害報告があがっている、目的は戦うことではない。とすれば───いや、待て……」


グラジオは机に積み重なった報告書の中から騒動に関するもの一枚一枚確認する。


「───騎士が鎮圧して拘束した、騒動を起こした首謀者達の証言と態度……潔さすら感じる様子で『王国の未来に不安感を抱いての行動』とあっさり白状した」


言ってることは違っても、結局のところ要約するならソレに゙繋がる───という訳ではない。証言そのものが完全に一致しているのは妙だった。


「まるで予めそう言うように指示されていた、としか思えないほどに淡々としていた。それに鎮圧しようとした時は、暴徒のような激しい抵抗はなく、完全に無抵抗だった……」

「んー? でも、騒動を起こしていた時はかなりマジの顔だったとあるッスね。なのに鎮圧される時は無抵抗? 諦めが早かったんスかね?」


敵わないと分かっていた。


でも意思表示はしたい。


だからこそ、捕まってもいいから、とにかく行動を起こせとしか考えていないような───そう考えてジブリールはハッとした。


「まさか……この騒動に関しては、()()()()()()()()()()()()?」

「なっ───では彼は、今の状況を作れるなら何でもよかったと?」

「前にもこんなことがあったんスよ。反抗の意思がありそうな貴族の身辺調査を、彼に頼んだ時に……」



『どうやってあの豪邸に侵入するつもりッスか?』

『そうだな……あちらが無視できないような小火を外にいくつか作れば、自然とそっちを向く。それだけで死角ができる。まあ、適当にやるわ』



そう言った彼のやる気があるのか分からないような、お気楽な様子を見て、本当に侵入が上手くいくのか不安だったのを思い出す。


「実際、あのやり方は刺さったッス。相手に効きそうなやり方をいくつか考えて、その中から適当に『これでいいだろ』と選ぶ。……たぶんカイトさんの中では、この相手にはこのやり方で、と法則が決まってるんスね」


時には幾重に、時には単純に。


その緩急でもって相手の思考を誘導。考えうる策は多彩。意味があるようで無意味。無意味なようで意味がある。


相手にしていたら疲弊するだけなのに、無視もできないやり方で仕掛けてくる。敵として現れるとかなり嫌な存在。


「帝国との大戦が迫る中、民衆は戦争の気配と国の行く末に不安感を覚え、自棄になり暴徒となる者は必ず出てくる。その対処をするのは軍だ、なら雑に暴徒を増やしてしまえば軍は手一杯になる!!」

「そうッス。しかも放置は出来ないッスから、必ず早急に鎮圧しなきゃいけない。でないと不安感が伝播して暴徒は増大するッス」

「おのれ、深読みしすぎていたかっ。現に今は大戦に゙向けた準備が遅れている、春が来る前に従騎士全員の実力を班長クラスまで上げなければならないというのに……!!」


『人とよく会う』───たったそれだけの、一見なんてことなさそうな、しかし特異な力がここまで恐ろしい存在になれるのかと、ジブリールとグラジオは戦慄する。


カイトはこの特異な力で、どこかのタイミングで、拘束した首謀者達と出会い、この状況を作る為に指示したのだろう。


余計なことは言わず、簡潔に。ただ騒げ、と。


「グラジオさん、全ての騎士団に連絡を。───少しでも早く騒乱鎮圧する為に、相手が無抵抗ならそれでいいッスけど、やむを得ない場合は武力を行使することを許可する、と」

「我らの死角をなくす為に、ですね」

「死角を作ろうとしているということは、カイトさんは何かこの王国でやりたいことがあるに違いないッス。終わり次第、彼の捜索を」

「御意に」


言うが早いかグラジオは直ぐに会議室を出ていく。


「……ホントにもう、ここまでやってしまったら、後戻りはできないッスよ、カイトさん」


背中に意識を集中させると、何かが胎動するような感覚がある。


「ん、契約の不履行からだいたい二週間……そろそろ我慢するのがキツくなってくる頃ッスね。不履行即ち呪いによる死。アタシしか解除できない契約から、どうやって逃れるつもりッスかね?」


王国の各地で騒動を起こし、その隙に背中に刻んだ契約をどうにかして無効化すること───それがカイトの目的だろう。


ただ、()()()()()()()と勘繰ってしまう。


逃げ道は少ない方がいいと言うから、わざわざ手間暇かけて契約したのに、早死すると分かっていながら王国を裏切ってまでやりたかったことが、騎士団の仲間や貴族の銃殺だけとは思えない。


(あの契約から逃れる方法がある? いや、でも、そんなのあるはずがないッス、仮に契約の無効化が目的ではないとして、他に王国に来る理由は……?)


思えば、カイトは妙に()()()()()ところがあった。転生した際に一般的な知識が与えられるにしても、それとは明らかに別の……普通は知り得ないことまで熟知していた。


特異な力で構築していった人脈から知り得たか。


だとしたらその情報源となったのは何か。


そんなものが存在するのか。


一度考えてしまうと思考が止まらなくなり、これは沼だとジブリールは頭を振って中断する。


(目的は契約を無効化するだけ、もしくは契約とは別に、アタシの知らない何かをカイトさんはやろうとしている? ……あー、もう、こう思ってしまうのは完全に彼の策略ッスね……)


思考にふけ、決断が遅れれば、今もどこかで暗躍している彼に時間的猶予をあたえてしまう。好き勝手させず、一刻も早く捕まえる為にも、先ずは動かなくては。


「ここまで忙しくさせたんス、捕まえたらただ罰するだけじゃ済まないから覚悟しといて下さいよ、カイトさん」

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