第十一話「一つの始まり」「終わりの始まり」
この世界に存在しない武器を見て彼ら彼女らはどう思っただろう。俺が分かったのは、土の人形が崩れた辺りで大勢の人が息を呑んだらしき雰囲気と、撃つ前以上に警戒されている、ということだけだ。
「カイト君、その……ジュウ? はそれだけなの?」
「形が似た物でも、射程距離や性能が違ったりと色々あります。まだ全部把握しきれてませんが」
「射程、距離……つまり、狙う相手との距離によって使い分けたりするのね」
バーストアサルトライフルを消しながら頷く。
「そうですね。さっきの銃は中距離からの射撃と遠距離からの狙撃で使ってます。あとは近距離で使うもの、中距離で連射しまくるもの、超遠距離から強力な一発で狙撃するものがありますね」
『ファストナ』で出てくる銃は基本的にショットガン、ハンドガン、サブマシンガン、アサルトライフル、マークスマンライフル、スナイパーライフルの六種類で各種類ごとに性能が違う銃が幾つもある。シーズンが変わる度に新しい銃が出たりするものだからその数は膨大だ。
「じゃあ、それぞれの距離で使う所も見せてくれる?」
「分かりました。オウカさん、また土の人形を頼む。えーっと、今度は四体ほど。場所はそこと、あそこと───」
「はいはい」
オウカは俺が指差した所に一体ずつ先程と同じように土で人形を作り出した。しかし、動かない的を撃つだけというのも詰まらないか、あの人形動かせないかな。
「オウカさん、あの土人形って動かせる?」
「可能だけどそれぞれ違う動きをさせるのはまだ上手くできないの。真っ直ぐ歩かさせるくらいならいけるけど」
オウカは指を立てて指揮者のように振ると土人形がゆっくり動き始めた。
「おっ、いいね───先ずは一番後ろの奴から……」
召喚するのはヘビースナイパーライフル。
ただのスナイパーライフルよりも威力が高く、元ネタとなる銃は兵士が単独で運用出来るよう、重量や操作性と火力を両立を目指した対物ライフル。
『ファストナ』ではこれを担いでは離れた位置から戦闘中の奴らを狙い撃って嫌がらせしてたもんだ、って思ってるよりも重いなコレ!? ゲームじゃ普通に立って撃ってたけど!?
「ご丁寧にバイポットまで付いてるし……まあ、こっちの方が狙撃手っぽいか……」
ヘビースナイパーライフル、略してヘビスナの銃身の先にあるカメラの三角立てのような二本足の器具を立てて、うつ伏せの姿勢になる。
……そういやこの姿勢も『ファストナ』には無かったな、ゲームでは立ったたまのスタンディングと膝立ちしかなかった。
「映画の見よう見まねだけど、こうやって、ここは肩に当てて……ズドン」
「ひゃあっ!?」
バーストアサルトライフルよりも大きな銃声にオウカが耳を抑える。
「……命中」
一番後ろの土人形の上半身が吹き飛ぶのを確認。その後、一番前の土人形が俺の目の前まで来てたのでヘビースナイパーライフルを投げつけて蹴り倒す。
次に召喚するのはサブマシンガン。連射性能の高さに物を言わせて前から二番目の土人形を蜂の巣にし、蹴り倒した土人形が起き上がってきたのでショットガンを召喚して銃口を頭に押し付けてドカンと頭が爆散。
「最後はアサルトライフルで、っと」
残った最後の一体にアサルトライフルで連射。胴体にいくつもの穴を開けて、四体全て倒し終わった。
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カイトが言っていた、人を殺す武器。その言葉が決して間違いではないとこの結果を見て理解した。
(魔力が一切感じられなかった。ただただ火薬の爆発で小さな弾を撃ち出すだけなのに、あれほどの威力を出せるなんて……っ)
私は獣人。人よりも優れた耳や鼻のお陰であのジュウというものの構造が少し分かった気がする。カイトが撃つ度に響く音と微かに火薬や爆薬のような変わった匂いがしたから、きっとそれを武器の内部で爆発させて、魔弾のように弾となる物を撃ち出しているのだろう。
そして威力は見た通り。ただの衣服程度だけでは無惨な結果にしかならない。特に最初に使った長いジュウは恐らく鎧を身に付けていたとしても無傷では済まないはずだ。あんなもので狙われたら、気付く前に撃ち殺される。
「今使って見せたようにそれぞれ距離によって向き不向きがあります。あと相手が素早かったりすると狙うのが難しくなるので、必ず命中するとは言えません」
「そう、ありがとうカイト君。貴方のお陰で戦略の案が浮かんできて頭の中が一杯になってきたわ……」
アーゼス副団長が困り顔で笑う。それは私も同じだ。彼の武器があれば楽にやれたと思える、過去にこなした仕事がいくつも浮かんでくる。
「攻撃手段はこの武器以外にもありますよ。設置するタイプの爆発物とか、破裂すると物凄い臭い煙を吹き出すやつとか、衝撃波で敵味方関係なく飛ばすやつとか」
「えっ、なにそれ、面白そう」
思わず口から出てしまった。
「ねぇ、カイト。その道具について、もっと詳しく教えてくれない?」
「やはり食いついた。もちろん、それは良いがそっちの得意技も詳しく教えてくれよ」
「人に対して使う魔法だけど物にも使える」
そう言うとカイトは心底嬉しそうな笑顔を見せた。
「最高じゃん」
「アハッ」
この時、私は確信した。
「俺が仕掛けて」
「私が誤魔化す」
「矢面に立たず」
「嫌がらせする」
恐らくカイトも同じことを思っただろう。
「私たち、最高の偵察騎士になれそう」
「だな」
私とカイトは同類。類は友を呼ぶというけど、今はそれに感謝したい。良くも悪くも、暗躍するなら相棒はこの人しかいないと言えるくらいの優良物件なのだから。
「カイト君の武器にオウカちゃんの魔法か、これは……厄介なコンビが出来たものね」
「「ありがとうございます!!」」
厄介。それはもう誉め言葉でしかないですよ、アーゼス副団長。
「……もう息ぴったりなのね。まあいいわ、カイト君の能力についてはだいたい把握できた。道具の方は任務で必要な時に使って見せてくれればいいわ。とは言っても今のところ任務はないから、先ずはゆっくりでいいからこの都市での生活に慣れるよう頑張ってみて。オウカちゃんは良い相棒を見つけたんだし、彼のサポートをお願いね」
「了解しました、アーゼス副団長」
「はい、これからよろしくお願いします副団長」
そうしてカイトの能力のお披露目は終わった。
彼は私と同じ偵察班の偵察騎士の一人として『サザール騎士団』に所属していることになった。
彼は私の最高の相棒として私と共にいくつもの任務に赴き活躍して騎士団を影から支え勝利に導いた。
「カイト、そっちに行った!!」
「オッケー全弾外したァ!! 助けてぇ!!」
「なにやってるの馬鹿!!」
彼はいつも私たちを驚かせるやり方で失敗や敗北を勝利へと変えてきた。
「囲まれたと思ったら敵が全て吹っ飛んだぞ!?」
「爆弾仕掛けてたんで」
「オレたちがうっかり踏んだらどうすんだ!!」
そして私は、そんな彼のことが───
「どうしてなの……?」
「………………」
そして私は、最高の相棒である彼を───
「答えてよ、なんでそっちにいるの……カイト!!」
「全ては帝国の勝利の為に……」
どうして、こんな事になったのか。
それが分かるのはまだまだ先の話───………




