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良縁悪縁ひっさげ歩む我が人生  作者: あすか
第二章
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第百七話「見た目は悪の幹部」「中身は男子高校」

「───なあ、間違ってたら盛大に貶してくれていいんだが、その爪……最近話題のネイルアーティスト、フレイダにやってもらったか?」

「あら、彼女を知ってるの? 素敵よね、指輪をつけなくてもこんなに手を華やかに出来るんだもの」

「それから、使ってる化粧品は『キビシス商会』が扱ってる物の中でも最高級品とみた」

「待って、なんで顔を見ただけで分かるのよ!? 化粧品なんて男からしたら興味のない物でしょうに」


ククルカン宮殿のとある一室。赤い円卓を挟んで、やや斜め前向かいに座る女性が驚愕して立ち上がる。


「最近は男だって化粧するぞ。それにあそこの若旦那とは懇意にしていてね。買うのにさぞ苦労したんじゃないか?」

「懇意ぃ!? そんな、私なんて『どれだけ権力があろうと商品をお売り出来ません』って断られたのよ!? 何回も何回もアタックして、やっと買えるようになった時には二年経ってたわ!!」

「ちなみに化粧水は幾らで買ってる?」

「えぇ? ……五本入りで、金貨二十五枚……だけど」

「あー、まだただの客として見られてるだけだな。俺なら同じ物を買うと十本で金貨十枚だ」

「なんでぇぇえ!!」


ダンッと円卓を叩く女性。よしよし、あとはトドメをさして終いだな。


「ねえ貴方、懇意にしてると言ったわよね!? なんとか仲を取り持ってくれないかしら!?」

「お安い御用だ。俺くらいに、とはいかないと思うが今よりは安くしてくれるように言ってやるよ」

「是非お願い。助かるわ、他にもあの商会で欲しいものがあったのよ。セレネス、良い男を連れて来たじゃない」

「喜んでもらえたようで何よりだ、タタル」


平静を装っているが興奮を隠しきれておらず、やや頬を紅潮させながら彼女はセレネスを称賛する。対してセレネスは嬉しそうに俺と彼女のやり取りを眺めながら、優雅に紅茶を飲んでいた。


「まーじかよ、タタルを口説き落としやがった。こりゃ賭けは負けだな、イブキの旦那」

「ウム、これはお見事と言う他ないですな、ガーシュ殿。その手の話は我らは疎い故」


セレネス以外に二人の───ガーシュと呼ばれた若い男は予想外だと金貨五枚を、イブキと呼ばれた初老の男は感心しながら金貨一枚を懐から出して、円卓の上を滑らせてセレネスに渡す。


「なんだセレネス、俺で賭け事してたのか」

「ガーシュの提案でな。誰が先に口説き落とされるか、という内容で賭けをした」


それ、賭けになってねえな。だってこの部屋に来る前に俺、セレネスに先に誰に仕掛けるか言ったし。


「あー、しくじったな。セレネスはソイツがどんな奴か既に知ってるんだ、その時点で察して止めるべきだったぜ」

「我はちょっと面白そうだから、と参加したまでで。なんとなく負けを察していた故に懐具合と相談して金貨一枚に抑え、ガーシュ殿は強気に五枚でありましたな。ちなみにセレネス殿はタタル殿を、ガーシュ殿と我はお互いに相手を指名して賭けを行い、このザマです」

「男共はいつもこうよ。事あるごとに何かしら始まって、最後はセレネスが勝つの。真っ先に負けるのはガーシュね」


……コイツら、中身は男子高校生か何かか?


「そういうアンタは、っと……『天輪公』は加わらないのか?」

「タタルでいいわ。私、あのノリが苦手なのよね。横で見てる分に楽しいからいいけど。それより『キビシス商会』の方は本当にお願いしてもいいのね?」

「任せろ。若旦那にも損させない程度に、安くなるようにする。他にも伝手があるから困ったら言ってくれ」

「……ここ帝国よ? あなたが前にいた王国じゃないわ」


帝国に来たばかりのお前にそんなのがあるのか、と言外に聞いてくるタタルだが俺はそれを鼻で笑う。俺の『縁』をナメてもらっちゃ困るね。


「人脈に関してなら、俺は誰にも負けない」

「断言しちゃうのね。じゃあ期待しておくわ、新人さん」


パチリとウインクするタタル。うーむ、その辺の男なら一発でハートを撃ち抜かれそうな威力だ。コロッと落ちた先に待ってるのは身の破滅っつータイプだが。





「───では、改めて同士の紹介といこう」


ひとしきりタタルや、ガーシュ、イブキとの雑談が終わったところでセレネスがそう言った。


「先ずは一番に口説き落とされた彼女から。『天輪公』の名を持つ、技術開発局で魔道具を専門に研究している魔女、タタル・オルト・ダクネだ」

「はぁい、よろしく」


魔女、確かにそう呼ぶに相応しい姿をしている。


鍔の広い三角帽子に、胸の谷間と背中を大きく露出させ、足の付け根まで大胆にスリットが入ったロングドレス。それらを深紅に染めた出で立ちの、長い金髪に金眼の美しい女性だ。


うーむ、この起伏に富んだ女優体型に、露出の多い服装だというのに恥じらいを感じさせない堂々とした着こなし。これはアーゼスさんと良い勝負するな、どちらもとんでもなく美人だ。


「次に『悪路公』の名を持つ、帝国正規軍『赤枝騎士団』の中でも少数精鋭で任務を遂行する特殊部隊『マクール』のリーダー、ガーシュ・オルト・クリシュナン」

「おう、うちの部隊が世話になったようだな。お互い会わなかったことにしながら情報交換したヤツがいた、って聞いてるぜ」


帝国騎士が身につける赤い鎧を改良したのだろう。体の要所を重点的に厚くしながらも、動きやすさを重視している。見た感じ、歳は俺と近いか。タタルと同じく金髪で、長く伸ばして一つに束ねた金眼の男が言う。


コイツは、どちらかと言うと……悪縁寄りだな。それに、なんだろう。見てると妙に苛つくというか……。


なんにせよ要警戒だな。


「そして彼は前に軽く話したな、私の代わりに将軍として正規軍全体を指揮し、最近は見習い騎士を育成に力を入れている、我らにとっては師と呼べる偉大な存在。『泰山公』のイブキ・オルト・タチムカイだ」

「偉大な、とはちと恥ずかしいですな。セレネス殿が選んだ御人であるなら我にとっても友、我のことは気兼ねなく爺さんでもジジイでも、好きに呼んでくれて構いませんぞ」


あ、やっべぇなこの人。


一目見た時から感じてたけど、こうして面と向かって話すと余計にヤバさが伝わってくる。まるで前世で剣道を教えてくれた先生のようだ。


黒い道着と袴の上から帝国騎士の鎧を侍の甲冑のように改造した物を付けている。ガタイが良く衰えを感じさせない鍛えられた肉体と、そこにいるだけで無視できなくなる凄まじい存在感。短く後ろに流した頭髪は白くなっており、ニッコリと細めた黒い目で彼は一礼する。


「そして私、帝国正規軍元帥にして『剣皇公』の名を持つセレネス・オルト・アンバース。今まではこの四人だったが、最後に本日新たな同士となった男を紹介しよう。───実力は既に三人に話した通り。暗躍と要塞竜討伐を同時進行し、己の目的と私からの試練の二つを見事達成させた」


セレネスは自分のことはそこそこにして俺の紹介を三人に向けて話しだした。


「力とは武力のみにあらずを体現した、異世界から転生してこの地に降り立った男。その能力によって出現される武器の部位の名称そこに込められた意味と、彼の立ち回りから、私はこの名を送ろう」

 

そこで一度区切り、セレネスは賭けで勝ち取った金貨を俺に投げ渡す。結んでもいないのに重ねた状態のまま飛んできたから難なく受け取れた。



「『撃鉄公』───これからはそう名乗るといい」



撃鉄、ね。……そういえば、セレネスに一度リボルバーを見せて簡単に各部名称を教えたことがあったっけ。それを覚えてたのか。納得。確かに合ってるわ、その名前。


(さて……【設定変更】───スキン『黒羽』とオプションの迷彩マントの色をプリセットCに変更。追加オプションとしてスカルフェイスを装備っと)


【プリセットC『エンパイア』に変更しました】

【追加オプション『スカルフェイス』を装備しました】


スキン『黒羽』は黒基調なのはそのままに赤いラインを入れ、マフラーは無くしてマントをフード付きに、そして目元から下の首周りまでを隠すタイプのフェイスマスクを付ける。ミリタリー界隈とかでよく見かける髑髏柄で、首元まで下げればネックウォーマーにもなるタイプだ。


そして、セレネスから渡されていた───帝国のシンボルマークであるとぐろを巻く赤い竜が記された腕章を付ける。


「長い前置きをどうも、セレネス。……コホン、そこの元帥殿から『撃鉄公』を拝命したカイトだ。これからなにかと頼ることがある思うが、そん時は優しく教えてくれると嬉しいね」


良さげなのがこれしかなかったから仕方ないにしても、これ完全にサバゲーみたいな格好だな、とは思いながら挨拶する。


「ねえセレネス、この後の彼の予定はどうなってるの? 無いなら色々とお話ししたいのだけど」

「カイトには監視役を兼ねた副官を選定する為に、これからイブキの教練所に行く予定だ。申し訳ないが日を改めてくれ」

「監視役? ……ああ、彼の古巣のことで過敏に反応してた輩が何人かいたような……そういうのは早いウチに片付けた方がいいのは確かね」

「俺からすればアンタら全員が俺をあっさり受け入れてるのが驚きなんだが」


正規軍元帥が直々にスカウトした、ってなってもここまで警戒心が無いことにかなり驚いている。


「ウム、そう思うのは無理もないでしょうな。カイト殿の気持ちは分かります。しかし問題ありませんぞ。───()()()()()()()()()()()について、セレネス殿から聞いておりますからな」


イブキが俺の隣まで歩み寄り、背中をトンと軽く叩く。


「───……っ、……!!」

「立っているだけでも相当お辛いのではないですかな? だから装いも新たにしつつ顔を隠した、我らに悟られないように」


小声で話しかけてくる爺さん。チッ、完全に見透かしてやがる。なるほど、()る力か。レンといい、あの女といい、強いヤツは標準装備してんのか?


「あまり俺の中を覗かないでくれるか、爺さん。不愉快だ」

「おおっと、それはすまなかった。……では、予定通り教練所に行きますかな?」

「ああ、案内してくれ」


触られたくないところを触られて怒気が混じってしまったが、イブキは気にした様子もなく、ウム、と頷いた。


「では参りましょうか。我の可愛い教え子達がいる教練所、帝国騎士育成機関───『泰山校』へ」


待て、なんだその名前。


それ『泰山公』と似てて紛らわしいから、結局は呼称を『泰山校』じゃなくて『教練所』にしてるパターンだろ。


「悪いことは言わないから改名しろ、その名前。どこのどいつだ、そんな名前付けたヤツは」

「私だ、カイト」

「やはりテメェ(セレネス)か!!」


確信した。あの元帥殿は戦闘や現職に能力が特化してる代わりに、その他のセンスがあまり宜しくない!!


「ははははは!! だから言ったじゃねえかセレネス、どうせ付けるなら『デスコロシアム』とかが何倍も───」

「テメェのも却下だ、ガキ臭いったらありゃしねえ」

「ンだとぉ!? お前、新人の分際で先輩のネーミングにケチつけんのか? 喧嘩なら買うぞ、萎びた根菜が」

「おお、いいぜヤってやんぞコラ。新人だからって甘くみてんじゃねえぞ。その頭を丸坊主にして、素っ裸にしてから正門に吊るし晒してやるよ、乳臭いヤンキーが」


売り言葉に買い言葉。


気付けばびっくりするくらいに、俺はガーシュのやっすい挑発にノッてしまった。


「アアン? いいのか、マジだぞ? マジでヤんぞ?」

「だからヤってやんぞって言ってんだろ、頭わいてんのか、オオン?」


なんかヒートアップしてくるのが分かる。このまま続けても意味無いのに、向こうから止めない限りは退けないと、変に意固地になってる。


「モヤシ! 女々しい貧弱野郎! 根暗男児!」

「クソ猿! 体臭がくせぇ! 一生童貞な不良!」


ダーメだ、止まらん!!


「フム、これはなんというか……」

「類は友を呼ぶ、と言ったところか」

「いや、同族嫌悪でしょ」

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