西の砂漠へ
幸せになってほしいと願いをこめて。
なんだか最近お父さんやキューブが優しい・・・・
ううん、前から優しいのは知っている。そうじゃなくて、積極的にいろいろ気を使ったり、話しかけたりしてくれるようになったと思う。
前は、私の方から話しかけたり気を使ったりだったと思うけど、同じことをしてくれるようになったのかな。
洋子さんに聞いたら、やっと気がついたんじゃない、お互い遠慮してると仲良くなれないしねと笑ってた。
他にも、お父さんは旅行に毎シーズン連れってくれるし、キューブは武者修行の手伝いをしてくれるようになった。
これも、当たり前よ、お金稼いでいるのは私達だし、もう強制力はないのだから、もっと早く手伝うべきと洋子さんは怒っていた。
ふふふ、洋子さんは私のお母さんみたいだね。
でも、私は洋子さんのアドバイスを素直に受け入れていたのは最初だけで、後は割と却下している事が多い。なんだか申し訳ないけど、ゲームと現実は違うからそれでいいのよとも言ってくれた。
確かにそうかも。だって洋子さんたらゲームでは、家事評価や社交評価を上げる時、真面目に【気だて】や【話術】を、家事手伝いや酒場のバイトでどちらも1年以上かけて100まで上げていたそうだ。でも、家事はともかく、いくら健全安心な酒場とはいえ、知らない人とお喋りするなんてとても無理。
だから、家事や社交は、【妖精のお茶会】や【妖精のダンスパーティー】で上げることにしたのだ。ただ、ダンスパーティーの方は、行くと体力が減ってしまうので困ってしまう。
なので、今年の料理コンクール優勝賞品である、【不死鳥の卵】は食べる事にした。これを食べると体力が100上がるのだ。ごめんね食べちゃって。ちなみに食べないと、雛が孵って飛び去り、一年後に【感受性】を上げに来てくれる。
もうすぐ15歳になる。
もう望めば、あとちょっと努力するだけで、どんな職業にも就けると思う。でもまだ何も考えていない。
お城の面会は途中で止めた。お金に困らなくなったので、そんなにお店で値引きしてもらわなくてもいいし。少しの値引きならしてもらえるようにもなったし。
毎日がのんびり過ぎていく。これはこれで幸せかな?
「アリア、誕生日おめでとう。その・・今年も【本】でいいのか?」
「お父さんありがとう。うん、【本】がいい!」
私は最近、安いからでなく、面白いから【本】がいいと思うようになった。読んでいる間は辛い事も嫌な事も忘れられるからだ。
「お嬢様、来月の予定は全部武者修行でよろしいでしょうか?」
「そうして。西の砂漠へ行くわ」
洋子さんが珍しく、どうしても行きましょうと言って行く予定にした。こんなに強引と言う事は、多分理由があるのだと思う。
「あ、そうだキューブ、今回は私一人で行くわ」
「え? 何故ですか?」
「ん~と、そういうアドバイスをちょっとある人から受けて・・・」
「ある人ですか・・ 分かりました」
そう、洋子さんから今回は一人で行こうとも言われたのだ。これもきっと理由があるのだと思う。
で、私は今戸惑っている。
だって此処はドラゴンの遺跡なんだけど、いつものように通り過ぎようとしたら、中に入りましょうと洋子さんは言うのだから。
「ええっ、入り口にはドラゴンユースがいるし、奥にはドラゴングランパァがいるからやだっ」
「大丈夫よ、挑戦状叩きつけられたり、セクハラされたりはしないから」
「なんでそんな事分かるの?」
「うん、あいつらさ、この間マーズ様とのミーティングの後ちゃっかり来てさ、アリアちゃんに来て来てって煩くて。だからそんなに来て欲しいなら挑戦もセクハラも無しでお小遣いよこしないって言ってあるから大丈夫」
ほんとかなぁ(汗)
仕方なく行ったら、ホントに大丈夫だった。ユースは何か言いたげで口がパクパクしてたけど黙ってたし、グランパァは手が不穏にワキワキしてたけど愛想笑いでお小遣いをくれた。あと、【龍のレオタード】も貰った。
良かった。でも帰り際にまた来てと言われてしまった。どうしよう? 気が向いたらまたね。
ホッとするのも束の間、「次は魔王の酒宴よ~っ」て、嘘でしょ?(汗)
こっちも大丈夫なのかな。心配したけど、行ったらすごい歓迎された。お酒は飲めないと言ったらジュースくれたし、なんか何でも能力上げてくれると言うから、【話術】と【気立て】を100まで上げられる?と聞いたら、本当に上げてくれたからビックリしちゃった。
こちらもまた来てって言われた。どうしよう・・だいじょぶ々また行きましょうなんて洋子さんったら調子が良いんだから。
こんな調子で西の砂漠の武者修行を過ごしていたのだけど、最後の週は例の【精霊の指輪】こと、精霊の卵を返した精霊さんのいる泉に来た。
するとやっぱり、卵を返してあげた精霊のお母さんが現れた。
「どうしたの? 何故また此処に?」
聞かれて困った、私も洋子さんに言われて来ただけだから。戸惑っていると、私の中に居る洋子さんが、私に代わってと言ってきたから、代わってもらった。
「精霊さん、お聞きしたい事があります」
「なんでしょう」
「アリアちゃんの中にある、辛い記憶だけを消す事は出来ないでしょうか?」
「貴女はこの娘の中にいる人ね。この娘は・・・ 」
精霊さんがじっと私を視ている。その表情が段々悲しそうになった。
「天界の娘、貴女は浄化されているのにも関わらず、カルマが消えずにいるのですね」
「カルマ?」
聞きなれない言葉に、私は思わずまた洋子さんに代わり問いかえした。
「カルマとは業とか宿命とか人間が言っているもののことです。原初人間にはそのようなものはありませんでしたが、知恵を付け永く在るようになってから、それを残すようになりました。そして本来なら天界の娘である貴女には浄化の際消えるはずなのですが、残って・・ いえ、再現してしまうようですね」
「精霊さん、私は神々の意思の元、同じを時を繰り返し過ごし、他者に身を委ねる形で生きてきました。今世が最後です。辛い記憶や余計な記憶は消したいです。これがあると、人を好きになる事が出来ないです」
私の言葉に精霊さんが頷き、洋子さんもやっぱりと呟いた。娼婦や愛人になった過去世だけが悪いとは言わない。そもそも、他者と結婚し夫婦とした記憶が数々ある事も問題だと思う。私は未婚で潔い身だと言いながら、そんな生々しい記憶が沢山あることが怖いのだ。勿論、辛い事や惨めな記憶もいらない。
それに前世の記憶ってあること自体問題だと思う。
極端な例で言えば、前世男性の記憶がはっきり残ったまま女性に生まれたら混乱すると思うのだ。勿論あくまでも私の場合そう思うだろうと予想するだけで、そんな事全く気にせず楽しく生きる人だっているとは思う。でも、私は出来ない。私の過去世は神様が消したはずのに、時と共に思い出していっている。
このままだと、人と恋愛するのは難しい・・・・
俯く私に精霊さんが言葉を続ける。
「天界の娘アリア。カルマというのは、悲しみ憎しみそして喜びさえも深く執着し思う事で残るものなのです。魂の心からの執着の解放をする事がカルマを手放す事になります」
「それはどうすれば?・・・ 」
「それはね、とても簡単なのだけど、とても難しいの。本来神様や誰かにしてもらう事ではないのよ。自分と向き合う。ただそれだけ。辛い時、何が辛かったか、どう思い感じたか、誰かのせいにしたか、自分を責めたか、惨めに思ったか、何故そう思うのか、とことん逃げずに向き合うとカルマは段々解放されていくはず。一度に消えないかもしれないけど、もしよかったら此処に来てこの泉に身を浸しやるといいわ」
とことん、向き合う?・・・でも、自分でやるしかないというのは分かったわ。私の為に洋子さんは此処に来させてくれたのね。
「分かりました。精霊さん、ありがとうございます」
「いいえ、これで【精霊の卵】のお礼が出来たわ」
私と精霊さんの言葉を聞いて洋子さんがぶつぶつ言っている。何を言ってるのかしら?
(やっぱり、お礼案件になったかぁ。これで、精霊の子供が卵から孵った時、大金くれるイベントはなくなったかも・・・いや、これでいいのよ。アリアちゃんの幸せが一番よ、でも、惜しいわね。それにしてもカルマかぁ、深いわ~、なんか聞いてるだけで出家できそう~、泉に身を浸す、つまり禊ね! ぶつぶつ・・・ )
アリアちゃんのゲーム知識は洋子さんのレクチャーによります。