洋子さんのお悩み相談室(有料)
快刀乱麻なお答えに相談者は苦情噴出? いえいえ、好評だったそうです(汗)
私、宮本洋子は今とても困惑している。
就寝してまもなく、例の不思議な空間に招かれていた。
招いたのはマーズ様だった。それはいいのだ。わーい、イケメンと二人っきり~♪、とか喜んだのも束の間、傍迷惑な依頼をされてしまった。
アリアちゃんの育ての父こと、勇者ライトさんの相談を受けて欲しいというのだ。
いや、なんでライトさんが私の事知ってんの? と尋ねたら、前々からどうも娘の様子が変だし、今回例の王様達の件でふさぎこんだ娘が気になるしで、マーズ様に相談したという。それをマーズ様が、そのまま私に丸投げしたといのが今この状態の真相である。
私は思わず無報酬ですか? とその場でまた尋ねたら、マーズ様が美しいお顔に困った様に眉を下げてるのが大人可愛かったので、取り合えず受けますと承諾してしまって、今に至る(汗)
で、振り出しに戻る。目の間にはマーズ様に代わり、ライトさんがいるのだった。
「相談って何ですか? 私がいる訳はマーズ様から聞いたんですよね」
発する声が冷たくなってしまうのは勘弁して欲しい。
目の前の勇者は、ほんとに魔王倒したんかい、という程しょぼ~んと情けない表情をした40代前半位の人だった。
正直に言う。普通のお顔で、あまり身なりに気を使わない感じの歳よりもふけた人である。しかも無口(汗)
中々口が重いこの人の言葉を要約すると、今まで娘に可哀想な事をしてしまった沢山の過去を知り、動揺してるとのこと。これからどうしたらいいのか相談したいという。
まあ、確かにそう思うわよね。でもこれだけは言わないと。
「ライトさんのせいもあるけど、悪いのは神様達です。独身男性にいきなり娘を育てろなんて無理、男の子を二代目勇者として鍛えろっていうんならまだ分かるんだけどね。だから気にしなくていいですよ」
そう、この人は悪くない。ただ育て方が分からなかっただけ。
私は面倒くさいので、もとい、心配しすぎるのも子育てに触るとお茶をにごし早々に終了するようにしむけた。
そして報酬である。
え? マーズ様誤魔化したじゃんって? いえいえ、勇者から貰いなさいと、これまたそっと後から丸投げしたのである。マーズ様ったら。
仕方ないので報酬は情報で貰うことにした。勇者の恋バナを聞かせて貰いましょう!
「ほうほう、成程、パーティー組んでた頃、ヒーラーの娘と将来を約束してたと? それで? え、振られた? それでその後も何回かそんなんあって疲れたと? なんで振られたの? ん、気が利かない? 女心が分からない? わ~、神様ったら、なんでこんな人に子育て頼むのかなぁ」
結果は散々だった。まあ、でも悪い人じゃない。人となりも知れて良かったと思う。最後にアリアちゃんのこと、女性として意識したことある?、と聞いたら、それは無いと怒られた。でも、父親との結婚エンディングもあるんだよ、と教えたら、赤くなってゴニョゴニョ言って逃げた。それでも勇者か、と言いたいけどいいや、帰ろ。
と思ったら、
「待て!」
野太い声に呼び留められた。振り返れば、
「げ、魔王、」
「げ、とはなんだ。お前か、勇者の娘のあどばいざーとかいうのは?」
「ちょっと待ってよ、此処、神様の用意した空間でしょ? 魔王がなんで来れるの? てかなんで、私の存在知ってるのよ」
オーガーみたいな顔したゴリラなおっさんこと魔王が偉そうに仁王立ちしていた。
魔王いわく、神の思惑なんて知るのは容易いし、神々の実験の今までの事も把握してたんだそうな。
で、結婚エンディングで魔王との結婚がなかったと文句を言って来たのだ。知らんがな(汗)
おまけに、今回最後の人生なのに、魔王の酒宴に何故来ない? と泣きつかれた。
そうか、娘の過去人生で魔王との結婚はなかったんだね、よかったぁ。思わずほっこり安心してたら、なんでだー、と煩いこと々。だから、説明した。顔が怖すぎると。これが乙女ゲームの魔王だったら、さぞかし美青年設定で、娘もドキドキだろうけど、あんたじゃ顔怖すぎてドキドキでしょと。
魔王の酒宴も、私はアリアちゃんに行かそうと思ってたんだけど、真面目なアリアちゃんに、そんなことイヤと断られた。だから今回行ってないのだ。それにしても無報酬で、ゴリラの相手は腹立つ。だからダメ元で聞いてみた。
「ねえ、ちょっとでもアリアちゃんによく思われたいんなら、ひとつ教えて欲しいんだけど。消したい記憶だけ消す方法ってないかな?」
そう、アリアちゃんが傷ついた過去世は様々あるが、最たるものは、街娼落ち、他にも愛人落ち、詐欺師、などのパターンが多かったみたい。中途半端以下な評価、能力、非行歴、家出、援助交際、そして、因業の消し忘れでこうなってしまうのだ。因業は教会に100ゴールド献金するごとに10消してもらえる。そう、金で解決出来るのにやらないとこうなってしまう。うっかりさんな勇者父には激怒ものだ。
期待はしてなかったのだが、魔王いわく、そうことは精霊に聞いて見るとよいとのこと。そう言えば行商人から買った精霊の指輪を返すイベントやったから、もしかしてお礼イベントの時相談出来るかもと、ちょっと希望が持てた。
魔王には一回だけそのうち酒宴に行ってあげるから、手打ちにしよと持ち掛けて無事終了。さあ帰るぞ・・・?
「待て、」
「待ってくれ」
しわがれた声とやや甲高い声の二つに引き止められた。え、また?
振り返ると、人間バージョンになったドラゴンのグランパァこと御爺ちゃんと、昔のツッパリみたいな髪した孫のユースが追い縋って来た。
魔王並みに叡智を誇るドラゴンな彼らもこの空間を嗅ぎつけやって来たそうだ。で、こやつらも勝手に喋り出した。
いわく、何故、ドラゴングランパァの所に来ないのだ?と。それとも、お小遣いが貰えるのは15歳からだから来ないのか?とか心配顔である。孫のユースも俺と勝負しろと煩いことこの上ない。
だから言った。私はどっちでも良かったんだけど、アリアちゃんは、小煩いユースと関わるのはパスだし、グランパァにセクハラされるくらいなら、お小遣いも【龍のレオタード】もいらないから、関わらないと明言したのだと。
そう、このゲーム男性向けだけあって、セクハラが酷い。グランパァにお小遣い貰うには、セクハラ発言された挙句、舐められるイベントを受け入れないと貰えないのだ。こんな爺さんに舐められるのは、確かに私でも御免だ。【龍のレオタード】はキューティーハニーちゃんみたいな感じのレオタードで、色気と抗魔力が上がる。ダンスコンクールにも着て行けるものだが、特に食指は湧かない。
それを聞いて絶望顔になった二人があまりにも鬱陶しいので、セクハラしない、勝負を持ち掛けない、を約束するなら、一回だけ顔出してあげると言っておいた。ただし、それ相当のお小遣いを寄越す事と条件付けたのは当然である。
ふう、も、疲れた、帰る・・・ え、まだ誰かいる?・・・
「・・・・待ってくだい・・」
よく聞くこの声は?、
「・・・・やだ、キューブ、あんたも?・・」
そう、父と娘のスーパー使用人、万能執事こと魔族のキューブが所在無げに佇んでいた。
まあ、キューブも魔族だからね、この場を嗅ぎ付けたのかしらね。聞いてみたらライトさんとマーズ様のやり取りを傍で見ていたそうである。キューブもね、お嬢様がそんな目にあっていたとか知ってショックだったみたい。それと、今世では武者修行もスラッシュさんとレディさんにずっと頼っていたから、キューブの出番ほぼ無しで悲しかったそうな。でもね、これだけは言わせて貰う、
「キューブはさ、戦闘不能になるまで助けてくれないでしょ? 確かに助けてもらうと、評価はあがらないけど、負けそうな時頼れないのは辛かったって、アリアちゃん言ってたわよ。何より一番辛かったのは、賞金首のお尋ね者との戦闘で負けた時、すぐ来てくれなかったでしょ。あれ、最後までされてないけど、かなり性的な事されたわよね。まったく、それで色気の数値が上がるって酷い話だわ」
覚えがあるのだろう、キューブが泣きそうな顔をしている。ただ、これもゲームの強制力というか制約なのだから、一方的には本当は責められない。だから今世はそういう制約はないから、戦闘の手伝いをしてくれる?と頼むと、嬉しそうに引き受けてくれた。よかった、これで王様達がいなくなった後も安心ね。
ではキューブにも報酬を貰いましょう。
「ねえ、キューブ。ライトさんとは何処で知り合ったの? なんで召使いやってるの?」
なんでも昔ライトさんがパーティー組んでた頃、魔族との戦闘で圧勝した時、生き残ったキューブを殺さず助けてくれたんだとか。そうか、その恩を返してるのね。そう言えば、娘とキューブの結婚エンディングもあるの知ってる? え、知らなかったし過去にも無かった? そうなんだ。アリアちゃんのこと女性として意識することある?と聞いたら、お嬢様は僕を異性だと思ってませんよと、自嘲したように答えた。
だから慰めにもならないけど、フォローをひとつ、
「そうね、でもそれって、このゲームのキャラデザインの人の責任が大きいわね。え、何それって? つまりね、この世界の若い男性キャラって、王子もドラゴンユースもキューブもその他も、ショタ顔ショタ姿なのよ。つまり見目がお子様なんで、恋愛対象にならないのよね。ま、世の中ショタ好きも多いから他で頑張ったらいいんじゃない。私とアリアちゃんは素敵な美青年推しなのよね♡」
ガーンと、固まったキューブに、苦笑しつつ、今度こそ私は帰ることにした。
やっとゆっくり寝れるわ。
おやすみなさ~いzzz
マーズ様がスマホでツーショット撮らせてくれると言ったら、多分毎晩でも相談受けちゃうと本人談。