短編 夢
この世界は、天使が決めた事で動いている。
天使が左だと言えば左だし、右だと言えば右だ。
善も悪も、天使が全て決めるのだ。
だから、その悲劇が起きたのも必然だったのだろう。
「僕の事は気にしなくてもいいんだ」
好き勝手を行う傲慢な貴族。
その貴族の狩りに横やりを入れた友人は、大罪人として捕まってしまった。
貴族に歯向かう事は、重罪だ。
天使がそう定めたから。
貴族同士なら、まだ状況はマシだった。
平等に言い分を聞いてもらえただろう。
けれど、友人はただの平民……どころかそれ以下のエルフだ。
この世界では、死罪になった悪人よりも立場がしたの生物がいるそれは、エルフがいる。
俺は友人を守ろうと思った。
それで結果がついてくればよかったが、残念ながら行きつく先は、ただの牢屋送りだった。
「ウォルド様、ウォルド様、大丈夫ですか?」
揺り起こされて、気が付く。
どうやら、夢を見ていたようだ。
俺の顔を覗き込んでいた少女に返事をする。
「ああ、ちょっとうなされていてな」
すると、すぐさまその少女は心配そうな顔になった。
「もしやっ、お友達の夢ですか?」
「よく分かったな」
少女の顔はすぐに得意げになった。
分かりやすい。
「ウォルド様の事なら何でもわかりますよっ! だって、推しですから!」
「へいへい」
その「おし」と言う言葉はよく分からないが、どうせどうでもいい何かなのだろう。
いつもなら尾を引く悪夢だが、最近はすっと消えてしまう。
元気を見せる少女、五葉の様子に苦笑しつつも、心の中でだけでありがとうと呟いた。
直接言うと、調子に乗るというのもあるが……。
「照れ臭いって感情が俺にあるとは思わなかったな」
人間らしい感情を確認して、苦笑いをこぼした。
「もしあれでしたら、添い寝しますっ! 今なら無料で、大セール中ですよう?」
「遠慮しとく。うるさそーだし」
「なにぬねのっ!」
変な鳴き声を上げた五葉を放っておいて、空を見上げる。
いつもと同じ空だ。
それなのに……。
「もう寝るぞ」
「はーい!」
どこか違う空の下、夜は更けていく。