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第九話


 馬車は各宮殿に支給されている王族専用のものを使っている。


 その場車内の空間にカイルとリアーナは二人きりになる。御者はミーナが担当しており、車内の会話はよほど大きな声でもなければ聞こえない仕様になっていた。


「あ、あの、どちらに向かわれているのでしょうか?」

 外出するとだけ言われており、向かう先についての説明は未だ受けていなかったため、リアーナは質問を投げかける。


「あぁ、説明してなかったか。それは申し訳なかった……俺が向かっているのは書庫だ。王城にあるやつで色々希少な本が所蔵されているんだよ」

 そこまで言って、カイルは口元に手をあてる。


(これは参ったな。もしかして、本とか興味ない可能性があるのを失念していた……その場合は、どこか遊べるような場所があるか? 母さんにお茶の相手をしてもらうのは……嫌だろうな)

 カイルは色々と頭の中で考えを巡らせていく。ちなみに、彼の母とは先代の皇后、つまり皇太后のことを指している。


「まあ! 王城の書庫といえば、王族しか入ることのできない特別な場所ですね! 一度行ってみたかったのですが……」

 もし彼女がそこに行けるしたら、元婚約者のアースティアに頼むしかない。


 だが今回の婚約破棄事件でもわかるように、アースティアはリアーナに対して友好的ではない態度をとっており、そんなことを頼める間柄ではなかった。


「あっ、でもカイル様は入れますけど、私は……」

 王族ではないから入れないのでは、と肩を落としてしまう。


「いやいや、俺がいるんだから大丈夫だ。あそこに入れるのは正確には、王族とその同行者、あとは管理担当者になる。つまり、俺がいるからリアーナも入れる」

 カイルは慌ててリアーナも一緒に入れることを話す。内心では、彼女が書庫に興味を持っているということに安堵していた。


「いいのですか! すごく楽しみです! どんな本があるのでしょうか……うふふっ」

 自分もいけるとわかった途端に、リアーナは目を輝かせて書庫に思いをはせている。


(よかった、彼女も本が好きなのか……だったら、あそこを選んだのは正解だったかもしれないな)

 収蔵されている本は、歴史書、言語、芸術、音楽、絵画、魔導学、物語などなど多岐にわたっており、あの本の量であればリアーナが気に入りそうなものもあると考えていた。


「なんだか……カイル様に助けられてから、まだ一日しか経過していないというのに今までとは全く違う生活を送っているのが不思議です」

 本来ならば、婚約破棄された場でみなに糾弾され、白い目でみられ、今も罰のために幽閉されるか一人寂しく部屋にこもっていたはずである。


 それなのに、現在はそんな悲壮感あふれる状況は見る影もなく、今までよりも有意義に時間を使えているような気がしている。


「それがいい生活なら連れてきてよかったよ。あんな馬鹿のためにこれまで時間を使って来たんだ、これからは自由に楽しくやりたいことをやっていこう」

「はい!」

 これまでは遠慮がちな返事がチラホラ見受けられていたが、心からの笑顔を伴った返事にカイルも安堵していた。


 城に到着すると、衛兵たちがカイルたちを迎え入れてくれる。この対応にリアーナは内心で首を傾げていた。


(カイル様は、王族の中でも微妙な立場だからあまり良い扱いを受けないのではないかと思い込んでいました……みなさん、心から受け入れているようです)

 リアーナはカイルについては、噂で聞く程度の情報しか持っていなかった。それは、あのパーティ会場でも噂されていたような内容である。


 しかし、ここまでともに行動をしていくなかでカイルはそのような人物ではないということがわかってきていた。ゆえに、彼に対する印象はプラス方面に大きく傾いている。


「さて、それじゃ書庫に向かおう」

「えっと、書庫があるというのは聞いたことがあるのですが、どちらのあるのでしょうか?」

 リアーナも第一王子の婚約者という立場であるため、何度か王城に足を運んだことがある。しかしながら、書庫らしきものがある場所は見当がつなかった。


「あぁ、少しわかりづらい場所にあるからな。こっちだ」

 カイルはここでもリアーナの手をとって、書庫へと案内していく。


 この様子を見かけた使用人たちは遠巻きでひそひそと何やら噂話をしている。それに気づいたリアーナは、空いている手でギュッとスカートをつかんでいる。


「大丈夫だ、ちょっと待ってろよ」

 それに気づいたカイルが声をかける。そして、噂話をしている使用人を二人呼び寄せた。


「カイル様、何か御用でしょうか?」

 執事の一人である彼は、そんなフランクな話し方をしてくる。


「あぁ、お前たちさ、さっき俺たちを見てなにかヒソヒソと話していただろ? ぶっちゃけていいから、なにを話していたんだ」

 ストレートな質問を投げるカイルに対して、リアーナは隣で目を丸くして驚いている。


「そんな風に聞いていいんですか? お隣のご令嬢が信じられないものを見るような目をされていますが」

 自分を話の流れに組み込まれたことで、リアーナは更に驚きの表情を見せる。


「あぁ、いいんだ……っとその前にリアーナに紹介しておこう。彼はブレイン侯爵家の五男だ。本人の希望で王城で執事をしてもらっている。こちらはリアーナ嬢、アースティアのバカがやらかしをした相手だ」

 それを聞いたブレイン侯爵令息は思わず天を仰いでしまう。


「……あー、やはりそうでしたか。リアーナ伯爵令嬢、初めまして。私は、トールマン=ブレイン。先ほど王弟殿下がおっしゃったように、ブレイン侯爵家の五男でございます。以後、よろしくお願いします」

 優雅に頭を下げる様子は、やはり貴族の一員であるのだなということを実感させる。


「い、いえ、その、こちらこそ自己紹介が遅れて申し訳ありません。私はリアーナ=シナバーと申します。ブレイン侯爵閣下には、父がお世話になっていると聞き及んでおります。父ともどもよろしくお願いします」

 リアーナが頭を下げる様子は様になっており、カイルだけでなくトールマンもそんな彼女に興味を惹かれていた。





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