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第八話


 準備を終えたカイルは一階にある応接室でお茶を飲んで待っている。


 すると、ノック音とともにリアーナがミーナを伴って部屋にやってきた。


「お、準備できたか……ほう、こうなったか」

 派手すぎない水色を基調とした動きやすいドレス、髪型もシンプルに後ろで一つにまとめたもの。なによりその髪色が茶色だった。


「こ、これは一体どうやっているのでしょうか? ミーナさんはカイル様に聞くようにとのことで、何も教えて下さらなかったのです……」

 リアーナは少し恨みがましい視線をミーナへと向けている。


 そんな彼女の反応を可愛らしく思ったカイルとミーナは微笑んでいた。


「ははっ、そう言ってやらないでくれ。実際のところは俺が作った魔道具によるものだから、詳しくは知らないってことなんだろうさ。あとは、俺との会話の機会を増やしてあげたいとでも思ったんだろ?」

 カイルがミーナの思惑を言い当てると、彼女は視線を逸らして誤魔化している。


「カイル様との会話、ですか?」

 そうする意図がわからず、リアーナは首を傾げている。


「あー、こう言うのもなんだが、俺は女っ気が全くない。王弟なんて面倒くさい地位のやつのところに嫁ぐやつはそうそういないからな」

 説明しながらカイルは自分の髪を軽く引っ張る。落ちた王族だということで避ける者も多い。


 それでも、と縁談の話を持ってくるものは王に意見できる立場を狙っている。もちろん立場だけを狙ってくるような女性と結婚をするつもりもなかった。


「なるほど? でも、それが私がカイル様とお話することにどう繋がってくるのでしょうか?」

 色恋沙汰にうといがゆえに、ミーナの狙いが未だにわからずにいる。


「まあ、ぶっちゃけさ、ミーナは俺とリアーナをくっつけようとしてるってことだな」

 身も蓋もない言い方のカイルに、ミーナは顔を覆ってしまう。


「私とカイル様がくっつく……」

 それを聞いたリアーナはポツリと呟く。まだ言葉を理解しきれていない様子。


「……ええええええっ!?」

 しかし、ここで顔を真っ赤にして大きな声で驚いてしまった。


「まあ、そうなるわな……」

 カイルとしては、自分のような面倒くさい立場の人間とくっつけられても困るだろうと思っている。


「わ、私がカイル様と……」

 しかし、当のリアーナはまんざらでもない様子で、カイルの顔を見て頬を赤く染めて、恥ずかしそうに視線を逸らしている。


「まあ、そんなことを言われても困るだろうから、魔道具研究のパートナーってことで頑張っていこう。さ、行くぞ」

 説明を終えたカイルは、この苦手な恋愛話の空気感がいたたまれずに、無理やり話を切り上げて立ち上がった。


「は、はい、きゃっ!」

 カイルが少し急ぎ足で部屋を出ようとしたため、慌てたリアーナはバランスを崩して倒れそうになってしまう。


「おっと……大丈夫か?」

 それに気づいたカイルが素早く手を出して、彼女の身体を支える。


 当然ながら二人は密着する形になってしまう。


(華奢な身体だな……)

 カイルは彼女の細さを見た目でなく、腕で感じることでそのか弱さに改めて気づかされてしまう。その結果、まだ年若い女性に対して、あのように大勢の前で糾弾しようとした甥に対して苛立ちを覚える。


「あ、あの、ありがとうございます。で、でも、その、近くて、えっと……」

 腕に抱かれた状態でカイルが動きを止めてしまったため、リアーナはそのまま抱きかかえられた状態にあり顔を真っ赤にしている。


「あ、あぁ、すまない」

 カイルは謝罪してから、ゆっくりと彼女の姿勢を戻していく。


(カイル様、細身のように見えて鍛えてらっしゃるのですね……たくましいお身体でした)

 リアーナは自分の足で立ったところで、先ほどのカイルの力強さを思い出して頬を赤く染めたままでいた。


「リアーナ? どうかしたか? どこか痛めたか?」

「きゃっ! そ、その、お顔が近いです、近いと、照れてしまいます……」

 心配したカイルが顔を近づけたため、リアーナは再び小さな悲鳴をあげてしまう。その時に、ぴょんっと跳ねて距離をとっている。


「すまなかった。とっさのことだったから、強く抱えてしまったかと思ったもので……だが、大丈夫そうでよかったよ」

 距離をとっても、痛そうな顔をしていないためカイルはホッとして笑顔になる。


「あっ……い、いえ、なんでもないです」

 その笑顔は、これまでに見た中で一番優しいものだったため、リアーナは小さく声をだしてしまう。


(あ、あのような笑顔、ずるいです……)

 ドキドキしながら、リアーナは先ほどの笑顔が頭に焼きついていた。


「少しゆっくりと行こうか」

 そう言って、カイルは彼女をエスコートするために手を差し出す。


「は、はい。ありがとうございます」

 ドキドキが収まらないまま、リアーナは手をのせてカイルと共に宮殿の外に用意されている馬車へと向かって行く。


(ふふっ、これはとてもいい感じなのではないでしょうか。カイル様の対応も悪くないですね、反応はいまいちですが……リアーナ様は反応もよさそうです)

 ミーナは二人の様子を見て、これならばいつか……と期待を持っていた。


 もちろん、さすがに婚約破棄を言い渡されてから一日二日でそれが受理されておらず、加えて彼女の立場や風聞を考えるとすぐにどうこうというのは難しい。


 しかし、女っ気の全くなかったカイルが、対等に向き合おうとしている初めての女性がリアーナ。


 リアーナからすれば、カイルは婚約破棄され糾弾される状況で唯一声をかけ助けてくれた男性。


 最初は変わり者としか思わなかったが、魔道具研究に向かう真摯な様子や、先ほど転ばないように抱えてくれた時などに感じた力強さに惹かれつつあった。


 そんな二人の今後をミーナは楽しみに見守ることにする……。



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