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第七話


 研究といっても、問題点を見つけたらそこからはカイルが改良するために工房で作業をすることになる。


 その間手持ち無沙汰となってしまうリアーナはミーナの案内で宮殿の中を見て回ることにする。


「それでは僭越ながら私がご案内させていただきます。興味がある場所などありましたらおっしゃて下さい。また、なにか気になることがあればご遠慮なくお願いします」

「ふふっ、そんなにかしこまらなくてもいいのに。でも、はい、それではお願いします」

 リアーナはミーナがどこか緊張しているのを見て、可愛らしいなと思い笑顔になっている。


 初日は会話は必要最低限だった。今日の午前中はミーナは食事のあとはリアーナの荷物を回収に行っていた。

 だからこそ、二人きりで話すのは初めてであり、その相手が第一王子の元婚約者ともあればさすがのミーナも緊張を隠せなかった。



 しかし、案内をしていくうちに徐々に二人は打ち解けていく。


「リアーナ様は博識でございますね。飾ってある絵画の作者のことをご存知だとは思いませんでした。これらは全て王様が選んだもので、カイル様はあまり興味がないようですから」

 廊下には絵画や壺などの調度品が飾られており、リアーナはそれらの作者が誰なのかまで把握していた。


「ふふっ、カイル様らしいですね。といっても、あの方とちゃんとお話をしたのは昨日が初めてなのですけれど……でも、なんとなくそんな方なんだろうなと予想ができてしまいます」

 やはり二人の共通の話題といえばカイルのことであり、彼のことを話す二人は自然と笑顔になっていた。


「……あの、カイル様はミーナさんから見てどのようなお方なのでしょうか? 私、助けていただくばかりであの方のことを全く知らないことに気づいてしまいまして」

 学院でカイルの噂を聞くことはあったが、それはどれも聞こえの良くないものばかりだった。


 曰く落ちた王族、王族のはみ出し者、変わり者、呪われた男などなど、およそ好意的な意見という者は全くといっていいほどなかった。


「あー、そうですね。学院ではあまり他の生徒のみなさんとは話すことがないようですし、みなさんが良い印象を持たないのも理解できますし、およそ大半が事実だと思われます」

 つまり、ミーナはカイルが噂通りの人物であると言外に言っている。


「そ、そのようなことは! わ、私のことを助けて下さいましたし、気にかけて下さって、とても良いお方だと思います……」

 いつの間にかリアーナがカイルのことを擁護する側に回ってしまっており、ミーナはそんな彼女のことを微笑ましく見ている。


「リアーナ様、我が主をそのようにおっしゃっていただきありがとうございます……主に代わり、感謝の気持ちを伝えさせて下さい」

 周りに良く思われておらずとも、自分にとって大事な主であるため、それをわかってくれているリアーナに改めて好感を持っていた。


「い、いえいえ、本当のことですから。それで、ミーナさんから見たカイル様はどのようなお方ですか?」

 自身から見たカイルについては、およそ先ほどの言葉で示している。だからこそ、やはりミーナたち使用人から見た彼の印象などが気になっていた。


「私から見たカイル様……そうですね。とても変わったお方で、お優しい方です。私のような使用人のことも気にかけて下さって、他の使用人にも家族のように接して下さっています。そんなカイル様だからこそ、誰一人として辞めたいと思わないのでしょうね」

 ここにいる使用人は、カイルに雇われた時は彼のことを色眼鏡で見ていた。王族の中でも特異な立場であるため噂だけは色々と漏れ聞こえていた。


 それらはおよそ良い噂ではなく、使用人たちも警戒しながらここにやってきていた。しかし、それらが杞憂であり、彼と話すことで人となりを知ってここに勤めたいと自ら思うまでになっている。


「ふふっ、やはりよいお方ですね。働いているみなさんを見てもそれがよくわかります。結果を出せば、それにしっかりと応えてくれる……私も少しでもあの方のお役にたてるように尽力するつもりです」

 少し気負った様子のリアーナを見て、ミーナは優しく微笑む。


「リアーナ様、大丈夫です。カイル様は、過程も見てくれていますし、仮に何もできなかったとしても一緒にできることを探して下さいますから」

 仲間になった者、部下になった者、雇った者、それらを決して見捨てることがない。それがカイルという人物であるとミーナは伝える。


「……はい」

 それでも、まだそれを完全には理解しきれていないリアーナは表情に少し陰りを見せていた。それに気づいたミーナは、努めて明るく振る舞い、少しでもリアーナの気持ちが軽くなるように案内を続けてくれた。




 ひと通り見て回ったところで、カイルが二人を探しにやってくる。


「お、いたいた。リアーナ、少し外出するつもりだがついてくるか?」

 慣れない場所でずっと閉じこもっているのも息が詰まるだろうと考えたカイルは、自分の外出に同行するかわざわざ聞きにきてくれていた。


「えっと……」

 どうしたほうがいいのか、自身の立場が不安定なリアーナは判断することができず、思わずミーナの顔を見てしまう。


「リアーナ様、気分転換にお出かけになるのは良いと思いますよ。もちろん外出の準備は手伝わせていただきますので、ご安心下さい」

 この言葉が背中を押すことになって、リアーナはゆっくりと頷いた。


「よし、それじゃ決まりだ。えーっと、さすがに本来の姿のまま出かけるには渦中の人過ぎるから、アレを使ってやってくれ」

「承知しました。それではリアーナ様、準備に参りましょう」

 カイルのアレという言葉だけで全てを察したミーナは、そのままリアーナを部屋へと誘導していく。


「えっ? アレってなに? どうなるの?」

 到着するまでそんな疑問を口にし続けるが、カイルはニコニコと笑顔で見送り、ミーナは頭の中で何をどう準備していくのか、頭の中でイメージしていた。



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