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第四話


「ここが俺の屋敷だ」

 カイルが案内したのは、城から少し離れた場所にある彼の住居である。


「こ、これは……」

 そこは伯爵家であるリアーナの実家よりも何倍もの大きさであり、彼女は言葉を失ってしまう。


「デカイけど、住んでる王族は俺だけで使用人が何人かいるくらいだから、気楽に過ごしてくれればいいよ。事前にこうなることは家のものに言っておいたから……」

 そこまで説明したところで屋敷の玄関が開かれていく。


「おかえりなさいませ、カイル様。そして、ようこそいらっしゃいましたリアーナ様」

 二人を出迎えたのは、カイルに仕えるメイドのミーナだった。


 茶色のショートカットに、フリルのついたメイド服で二人のことをニコリと笑って迎えてくれる。年齢はリアーナより一つ、二つ下に見える若い女性である。


「紹介する。彼女はミーナ、うちの屋敷の全てを取り仕切ってくれている。若いけどすごく優秀だ。あとは、昼間だけいるメイドが二人に庭師とシェフがいるくらいだ」

「リ、リアーナ=シナバーと申します。その、お世話になります」

「ミーナと申します。よろしくお願いします」

 カイルが紹介すると、二人は互いに名乗りあって一礼しあう。


「ミーナ、リアーナを部屋に案内してやってくれ。今日はこのまま休んで、明日色々話をするから入浴と着替えも頼む」

「かしこまりました」

 指示を終えるとカイルは自室へと戻って行く。


「あっ、カ、カイル様!」

 これからどうすればいいのか、何をすればいいのか、リアーナはそれがわからずに不安そうな顔になっている。

 

「リアーナ、今後の流れとかはまた明日説明するから、今日のところはゆっくり休もう。わからないことがあればミーナに聞けば大体教えてくれるはずだ」

 この言葉を受けて、ミーナは笑顔でリアーナに頷く。


「あと、敷地から出なければ自由にしてもらって構わないし、なにかやりたいことがあればミーナに言ってくれ」

 カイルはリアーナのことを縛りつけるつもりはなく、やりたいことを最優先にして、自由にしてほしいと思っていた。


「……その、私のような傷のついた女を助けて下さって本当にありがとうございます」

 リアーナは素直に感謝の気持ちを伝えたいはずだったが、つい自分のことを卑下するような言葉を付け足してしまう。


「ふむ」

 それを聞いたカイルは彼女のもとへと移動する。


「リアーナ、そんな風に言わないでくれ。君はアースティアという小さな小石につまづいてしまっただけだ。今度小石が邪魔をしてきたら俺が弾き飛ばしてやる。だから、前を向いて立ち上がって、俺とともに進もう」

 カイルは優しい表情でそう言うと、ポンポンと軽くリアーナの頭を撫でる。


(さっきの彼女の顔は、前世の俺を思い出させる……)

 カイルの前世は地球の一般家庭の大学生だった。そんな彼は、小さい頃から常に出来のいい兄や姉と比較されて生きてきた。


 その時に、彼女と同じようにできの悪い自分なんか……と卑下していた。親に刷り込まれ続ければそれが真実だと思ってしまう。


 それは、これまで貴族の中で王妃になるために研鑽を積んできた彼女も同様だった。それが当たり前だと思って生きてきた彼女だからこそ、その道が閉ざされた今は自分に価値がないとすら思えていた。


「他のやつらがどう考えているのかは知らんが、俺はリアーナのことを必要としている。だから、俺に力を貸してほしい」

 カイルは一度言った言葉を、改めて彼女に投げかけて手を差し伸べる。


 その言葉の一つ一つがリアーナの心にしみわたっていた。アースティアにみんなの前で捨てられ、もう令嬢としては傷ものとされている。父にも王にも迷惑をかけてしまった。


 そんな自分に手を差し伸べてくれて、必要だと言ってくれるカイル。


「わかりました、改めてよろしくお願いします!」

 カイルを手伝うと一度は返事をした。しかし、先ほどは、これしか道がないから選ばざるを得なかった末の返事である。


 今度は、心の底からこの人の力になりたいと思ったがゆえの返事だった。


「ははっ、そんなに気張らなくてもいいさ。でも、そう言ってくれるのは嬉しいよ。それじゃ、ミーナあとのことは頼んだぞ」

 リアーナの目に再び輝きが戻ったのを確認したカイルは、今度こそ自室へと戻って行く。


「…………はあ」

 その背中を見送ったあと、リアーナは一つため息をついてしまう。それは、憂鬱なものではなく、むしろ感嘆のため息だった。


「ふふっ、カイル様にあそこまで言われる方は珍しいですよ」

 気に入った職人などを引き入れようと声をかけることはある。しかし、ここまで熱烈な勧誘をする姿を見たのは長いこと仕えているミーナも初めてだった。


「そう、なのですね。気に入って頂けたのならよかったです……あとは、私がどれだけお役に立てるかですね」

「もう、リアーナ様。あんまり気負いすぎないで下さいね。それと、私には敬語を使わないで下さい。あくまで私はこの家に努める使用人であり、リアーナ様は伯爵令嬢であらせられて、カイル様の大事なお客様でもあるのです。むしろそのような言葉遣いをされてはこちらが困ってしまいます」

 ミーナは苦笑しながら、リアーナに提言する。


「あ……そう、でしたね。いえ、そうね。ごめんなさい、あなたに気を遣わせてしまったわね。これから色々と世話になるけど、よろしくお願いするわ」

 王弟であるカイルの家の者というだけで、いくつもの壁を感じていたが、ここまで彼女はずっと優しく応対してきてくれていた。


 そんな彼女が言うのであれば、そのとおりにしたほうがいいのだろうとリアーナは言葉遣いを改めることにした。


「ありがとうございます。それでは、お部屋へご案内します」

 こうして、やっとリアーナは休める部屋へと案内されることとなる。思い返してみると、今日は朝からパーティの準備に終われ、パーティではあんなことがおきてしまい、その後は王の私室でやりとりをして、最後には王弟のカイルの屋敷で休む。


 とんでもない一日だなと思いながらも、彼女の表情は笑顔になっている。これこそが、今日一日に対するリアーナの印象だった。一日を終えて、良き日だと思える。それはカイルがもたらしたものだった。


お読みいただきありがとうございました。

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