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第三話


「これで、リアーナ嬢は俺の魔道具研究所の職員というか、研究パートナーになったわけだ。ということで、俺はリアーナと呼ぶから、気兼ねなくリアーナもカイルと呼んでくれ」

 ふっと優しい笑顔を向けながらカイルはリアーナにそう言った。


 二人の関係性が変わったことで、カイルは改めて呼び方を変えた。

 落ちた王族などと呼ばれ、元々が日本人であるカイルは基本的に王族であるという自負はあまり持っていない。


 そんな彼だからこそ様づけで呼ばれるのは違和感があり、一緒に今後も働いていくことを考えると自分も彼女のことを気安く呼べたほうがやりやすいと考えている。


「あ、あの、私のことをリアーナとお呼びになるのはもちろん問題ないのですが……」

 しかしながら、カイルは王弟で王族である。

 更には同じ学年ではあるものの、年上である彼に対して呼び捨てというのは、これまで厳しく教育を受けてきたリアーナにとって大きな抵抗があった。


「……ふむ、そういうものか――と納得したいところだが、そこはあえてカイルで頼む。理由としては、今回リアーナを助けたのが一時のきまぐれだと思われないようにしたい。恐らくはこの先、学院に通う中で君のことを悪く言うやつはたくさんいるだろう……そこで、俺の悪名と地位が効果を発揮するんだ」

 落ちた王族、されど王族、変わり者、影使い――。

 彼のことを揶揄する者は少なからず学院内にいる。

 それでも、王弟の彼に直接関わろうとする者はいない。


 だから、そんな彼の庇護のもとにあると知れば、リアーナに何かをするような輩もある程度は避けることができるというのが、カイルの考えだった。


「……わかりました。それではカイル、今日からよろしくお願いします」

 彼の気遣いを感じ取って気持ちを切り替えたリアーナも自分の今の状況を考えると、カイルの選択が正しいと判断し、改めて頭を下げる。


「よし、それじゃあ次だ。研究所自体は俺が住んでる宮殿……というと大袈裟か。屋敷があって、その敷地内に研究所が作ってある。で、リアーナにはそこで一緒に研究をやってもらうことになるんだが、そこから通ってもらおうと思う」

「――えっ!?」

 まさかの提案にリアーナは驚いている。

 しかし、この提案に王と伯爵は頷いていた。

 これには、彼女が現在学院の寮に住んでいるというのが関係している。


「リアーナ、そうさせてもらいなさい。うちから通うのは少し現実的ではないし、寮にいるのはお前の状況から考えて避けたい。しかし、カイル様の屋敷ならば学院までの距離も近く、手出しできるような者もいないから安心してお任せできる」

 父親の顔で優しくリアーナを見つめる伯爵の言葉。

 リアーナを守るための一番の策は、他の生徒と触れる機会を極端に減らすことである。

 そのためにも、リアーナには安全な場所に住んでもらいたかった。


「私も賛成だ。カイルが変わり者なのは自他ともに認めることだが、悪いやつではないからな。それに、カイルや屋敷に何かをしようとする者がいれば、王族として守るために動けるからな」

 息子がしでかしたことであるため、王としても親としてもリアーナの力になってやりたかったが、そのためには大義名分が必要となる。

 そこで、弟のカイルを守るためという理由をつけることで動きやすくしたかった。


「ま、そういうわけで、荷物は明日以降なんとかするとして、今日のところはうちのメイドに用意させるから安心してくれ。さ、行こう」

「は、はい、お二人とも失礼します」

 カイルは二人に軽く手を振ってリアーナの手を取ると部屋を出て、慌てたように立ち上がったリアーナは王たちに頭を下げてからカイルに続いていく。




 二人が出て行き、足音が遠ざかっていったところで王と伯爵は大きく息を吐きながら難しい顔をして互いを見た。


「はあ、全くなんという日だ。カイルがここに来ると話していた時点でなにかあるだろうとは思っていたが、うちの息子があそこまでバカだったとは……伯爵、申し訳なかった」

 硬い顔をしたままの王は息子のやらかしたことを、親として代わりに頭を下げ、謝罪する。


「お、王が頭を下げるなどおやめ下さい! それに、王子とうまくやれなかった娘にも落ち度がないとは言えませんから……」

 慌てたように遠慮しながらそう答えた伯爵だが、どこか苦虫を潰したような表情になっている。


「いや、やはり謝らせてくれ……というか、その硬い態度も今はやめようじゃないか。学生時代に戻ってあの頃の互いに一人の男だった頃の感じでいこう。な?」

「……ふう、わかりました。じゃないか、わかったよ。とにかくうちの娘を傷物にしやがったお前の息子は一発痛い目にあってもらいたいところだな」

 素を出した途端に、怒りの表情をにじませた伯爵はアースティアへの不満を王へと代わりにぶつける。


「あぁ、それに関しては本当に申し訳ないと思っている。あいつには責任をとって何かしてもらうつもりだ。これだけのことを大勢の前でやらかしたとなれば、お小言ではすまない」

 王も憤慨しており、今から何の罰を与えようかと思案している。

 第一王子としての振る舞いとして、リアーナにしたことは明らかに間違っている。

 王子だからといって何をしても許されると思われては困るため、王は厳しい表情をしてこの先のことを考える。


「あぁ、頼む。これは伯爵家をバカにしたのと同等のことだからな……しかし、カイル様がたとえ研究のためとはいえリアーナのことを気に入ってくれたようで本当によかった」

 国内で、今のリアーナが頼る相手として最も適任なのがカイルだと二人は考えている。

 カイルがリアーナに興味を持ってくれて助かったというのが両者の意見だった。


「うむ、確かにあいつの言うとおり魔道具の研究に関してはリアーナ嬢がいればはかどるだろう。――ただ、本当にそれだけか?」

 カイルは自分の研究第一で、あまり周囲のことを気にしていない節があった。

 それこそ若いうちから婚約者がいてもおかしくはないのだが、一切そういった話は寄せ付けず、結婚などにも全く興味を示さずにいた。


「……それは、つまりリアーナ自身にも?」

「あぁ」

 王はカイルが話している様子を見て、どこかその視線の中に研究以外の思いが含まれているのではないかと感じ取っていた。


「そうならば、私としては嬉しいことだ。是非そうあってほしい……」

 それは伯爵の本音だった。

 リアーナのことを最も必要としてくれて、きっと大事にしてくれるであろう相手が夫となってくれれば、安心することができる。

 アースティアのように突然現れた者に現を抜かしてしまう者に大切な娘を預けるのは彼にとって本心ではなかったからだ。


「そうか? まあ、あいつも根はいいやつだが、ちょっと……いや、ちょっとどころじゃなく変わっているから、果たしてリアーナ嬢があいつと結ばれても幸せになるかどうか……」

 王は信じられないというようにどこか懐疑的な顔をしている。

 兄弟であるからこそ、小さい頃から彼のことを見てきており、女性を幸せにできるようなタイプであるとは到底思えなかった。


「ははっ、そのあたりはリアーナとうまくやっていけるかもしれんな。幼いころから己を厳しく律してきたあの子も恋愛というものを知らずに育ってきた。今回の婚約破棄に関しても、好きな男に振られたという感覚よりも、王太子妃としての、ゆくゆくは王妃としてという、未来に対しての長年の努力を踏みにじられたことへの悔しさが強いだろう……」


 仕事が一番という点を考えれば、二人とも似た者同士といえる。


「そして、これまでの努力が全て徒労に終わるところで、新しい可能性を提示してくれたカイル様。そんな方のことを悪くは思えんよ。娘のためにもな」

 伯爵も、これまでカイルと多く接してきたわけではないため、人となりをさほど知らない。

 それでも、娘の窮地を助け、今もずっと手を差し伸べ続けてくれていることに感謝を抱いていた。


「なるほど……それでは、我が弟と、そなたの娘、二人がどのような道を進んでいくか見せてもらうとしよう」

「えぇ」

 優しい表情になった二人は若い二人が出て行った扉を眺めて、彼らの行く末に期待していた。



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