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54話 貴豹国王都、ダーラント町

 54話 貴豹国王都、ダーラント町




 ケントが人間族だという事を商人たちが兵士にバラしてしまった。


 それはいいのだが、いつの間にか商人たちが兵士を取り囲んで、ライオンを倒した時の事を我先(われさき)に説明している。



「人間族のケント様御一人で3頭のライオンを倒したのですが、なんと! その内の一頭は雄ライオンです」

「えっ?」


「ですから、群れを率いる雄ライオンをケント様御一人で倒されたのですよ」

「それは凄かったですよ! 目にも見えない速さで動き、自分の何十倍もあるライオンを倒すのですから」

「えっ?」



······何十倍は話しを盛り過ぎだろう······



「それに雌ライオンを一瞬で2頭も倒してしまわれたのです!!」

「もちろんファビオ様とニコロ様も凄かったですが、神業(かみわざ)とは正にケント様の事だと思いましたよ」

「彼は貴猿ではないのか?······グラウド殿からそのような話は······」


「ケント殿は自慢なさらないのですよ」

「ケント様が人間族であることを俺たちに話してしまわれたニコロ殿が、ケント様に叱られておいででした」


「あっ! 俺たちも兵士さんにばらしてしまったよ」

「本当だ! ハハハハハ」

「ハハハハハ」



 兵士は大笑いしている商人たちの話をにわかには信じられない風だが、戸惑いながら俺の前にやってきた。


「人間族というのは誠でしょうか?」

「はい」


「ライオンを3頭倒したというのも誠ですか?」

「はい」


「······私は野蛮獣制圧隊カッサーノ・ジュストと申します」

「倉木賢斗です」


「えっと······急ぎますので、失礼します」


 戸惑いながらジュストは馬に乗って、既に通り過ぎて行ってしまった部隊に向かって走っていった。




「あれは信じていない目でしたね」

「ケント様が人間族と信じたくない様子でした」

「本当にライオンを倒したのかって思っているよ。 あれは」

「巨大なライオンを見て驚くぞ」

「ハハハハハ、本当だ。 腰を抜かすぞ」


 商人たちは兵士の後姿を見送りながら、面白そうに喋っている。


「そろそろ行くで! 兵士の事はもうええやんか」


 ニコロの一言で再び出発した。




 ◇◇◇◇




 王都に到着した。 町の名前はダーラント町だそうだ。


 カッターラ町以上に高い隔壁に囲まれたこの町も壁の中までクラスリが立っているのが見える。



 立派な門は大きく開かれている。 俺たちが近付くと、貴狼族と貴猿族は通ってよいと言われた。 しかし商人たちは通行証を確認され、荷物の中も調べられていた。




 商人たちの案内で第二地区の診療所に急いだ。



 診療所の前でグラウドが待っていて、俺たちを見つけて手を振っている。


「ケント様、ここが分かりましたか?」

「商隊のみんなに案内してもらった」


「ケガ人は?」

「あぁ、まだ治療中ですが、命に別状はないそうです。 しかしもう少し遅ければどうなっていたか分からなかったと言われました」


 商隊メンバーはホッとしていた。



 ゾロゾロ入ってくのもどうかと思うので、ケガ人と付き添いだけ入っていった。


 何度もお礼を言われてから、俺たちも別れて宿に向かう。 グラウドがライオンを倒した報告ついでに宿も予約してくれていたそうだ。



 ◇◇◇◇



 しかし美しい街だ。 貴狼国とも貴猿国ともまた(おもむき)の違う美しさだ。


 既に日が落ちて暗くなっているが、カッターラ町よりクラスリの木の数が少ないために、巨大な月の明かりが届く。

 しかしそれに負けないほど多くの街灯が並んでいて、街は明るく人も多い。


 グラウドに案内されて馬を()きながら宿に向かって歩いていると、グラウドの背中が血で汚れているのに気付いた。



「グラウドさん、背中が血まみれだぞ」

「あっ、そうですね。 後で洗ってもらいます」


 そう言えば俺も返り血がついているしニコロも少し汚れている。 しかしファビオの服は一つも汚れていなかった。



「ファビオは返り血を一滴も受けていないな」

「ほんまや、流石(さすが)やな」

「当然です」


「一応俺も気をつけていたのに、どうしても飛んでしまうな」

「剣を斬り下ろす角度と深さを考え、相手の動く角度と血管の位置を計算して移動するのです。 以前教えましたよね」


「き···聞いたけど······」

「嫌味な奴やな、お前みたいに計算しながら動けないんや」


「計算などはしていない。 体が覚えている」

「俺は剣術を習い始めてまだ3年だから、そこまで体が覚えていないな」


「ケント殿ほどの身体能力があれば、3年もかからないはずですよ」

「わぁ······ムカつく奴やな。 ケント様、一発どついてもええか?」


 小声で聞いてくるニコロに俺は声を落としてこたえる。


「じゃあニコロは頭を、俺はケツを蹴ってやる」

「承知!」


「聞こえていますよ」


 ファビオはスッと横に避けて馬の陰に隠れた。


「逃げられた」

「またの機会やな」

「おう」


 そういう俺たちのふざけたやり取りを、グラウドは笑いながら見ていた。



「みなさん仲がいいのですね。 そうだ、夕食は知り合いの店に案内したいのですが、構いませんか?」

「もちろん。 楽しみだ」



 という事で宿に入った。



 今回は一人部屋だ。 荷物を置いて服を着替える。 そして汚れた服を洗ってもらうために洗濯受付に出してから店に向かった。



 知り合いの店はそれほど遠くない場所で、路地を二度ほど曲がったところにあった。


「いらっしゃい! あっ! グラウドさんじゃないですか! もしかしてまたこっちに······お連れさんですか?」

座部屋(ざべや)はまだあるか?」


「もちろんです。 貴猿さんがご一緒なら座部屋(ざべや)がよろしいですよね。 どうぞこちらに」



 貴豹族のテーブルは高くて、見たところ貴猿用の子供椅子のような座面が高い椅子はない。 

 案内された部屋は絨毯(じゅうたん)が敷かれた何もない10畳ほどの部屋だった。


 適当に座るように言われて待っていると、食膳(しょくぜん)のような個別で高さの違うテーブルに食事が乗せられてきた。



······これなら問題なく食べる事ができる······さすがグラウド······



 出てきた料理も、もちろん肉メインだが、今までの貴豹族の料理に比べると、断然美味しかった。


「ここの料理はなかなか美味しいやんか。 そうやケント様、ここにくるまでに何人かがライオンの話しをしとったのに気づいとったか? その者たちは俺たちが倒したことを知っているような視線やったわ」

「そうなのか?」

「広い街なのに既にかなり知れ渡っているようです」


「あっ······すみません、私のせいかもしれません」

「いやいや、別に知れ渡るとダメだという事はないぞ」


「実は、あのライオンの群れはこの町の近くをテリトリーにしていたそうですが、あのライオンには頭を悩ませられていたそうです。

 ですから報告に行った時には、いつ誰がどうやってとしつこく聞かれましたので、人間族の事以外は全て報告いたしました」

「それは当然の事やな」


「しかし、当然のことながらケント様が倒したという事は信じてもらえず······貴猿族という事では納得してもらえず······その······最後には······」

「気にしなくてもいいぞ。 絶対に話してはいけない事でもないし、あの商人たちや兵士には話した事だし。 ウソの報告をさせるところだったな」


 この男もファビオ並みに堅物のようだ。 嘘八百並べる事が出来ない(たち)なのだろう。

 逆に信用できそうなので、俺は好きだ。



「申し訳ありません」

「こちらこそ気を使わせてすまなかった。 そういう時は遠慮しないで話してくれていいからな」

「わかりました」



 申し訳なさそうにしながらもグラウドは、嬉しそうだった。












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