17話 夜の街の火事 前編
17話 夜の街の火事 前編
それにしてもこの世界の傭兵たちには困ったものだ。 乱れ切った彼らを上手く使う事は出来ないものかと考えてみた。
「ちょっと考えてみたんだけど······」
「何をですか?」
「この世界の傭兵の事だけど、もう少しうまく使えないかと思うんだが」
「しかし傭兵たちは国の管轄ではないですから······」
「でもあの無頼漢たちはほっとかれへんよな。 何かいい考えでもあるんですか?」
「俺の世界には警察というのがあって、この世界で言う兵士のような物なのだけど、警察が街の治安を護ってくれているんだ」
「「けいさつ?」」
「事件や事故が起きたら犯人を捕まえたり、事故の原因を調べたりする。 常に街を巡回して、犯罪を防止したり、不審者を職務質問して犯罪者を見つけ出したりもするんだ」
「それは大変ですね」
「それ以外にも、落とし物を探したり、道案内をしたり······街の事をよく知っている警察官が、街の人たちの為に働いてくれる、とても頼もしい存在なんだ」
「そんな人たちがいれば、ほんまに街の人は助かるやろうな。 でもそれを兵士にやらそうって事ですか? そんな余裕があるかな?」
「それを傭兵にやらせてはどうかと思うんだ」
「傭兵は地区ごとに雇われていますから、国で雇うとなれば予算が出ないかと」
「地区ごとに雇われているのはそのままで、詰所勤務で兵士に指揮官をしてもらう。
もちろん兵士の意識改革が必要のようだが、傭兵と一緒に定期巡回したり、詰所も広いので訓練したりもできるし、休憩所としても使える」
「面白い考えですが、傭兵たちが素直に従うでしょうか」
「予算が許すなら手当でも付けてあげるというのも手だが、それよりも傭兵たちの意識も変える必要があるな。 街を護るという使命感だったり、達成感だったりが芽生えると一番いいのだが」
「それは面白いな。 全員がファビオみたいな性格やったら、意識改革の必要なんかないねんけど、こんな堅物はめったにおらんやろうし」
「ありがとう」
「「褒めてないって······ハハハハハハ!」」
俺とニコロは思わず顔を見合わせて大笑いした。
「今度、女王様に報告してみます」
「そうだな。 そうしてくれると助かる。 多分重臣たちは反対するだろうから、俺が説明してもいいぞ」
「承知しました」
「じゃあ、飲むで!」
「「おう!」」
◇◇◇◇
ニコロが来た事を報告する必要があるという事で、早めにお開きになった。
······明日でもいいじゃん······クソ真面目なんだから······
店を出ると、先の空が赤い。 夕焼けでもあるまいしと思った時、ワオォォォォと遠吠えが聞こえてきた。
「ケント殿、火事のようです」
「火事?!」
俺は赤い空の方に向かって直ぐに走り出した。
「野次馬根性か? ケント様も好きやなぁ」
「そんな御方ではない!!」
厳しい表情のファビオも後追い、ニコロも慌ててついてきた。
◇◇◇◇
火事現場に到着した。
4階建ての御屋敷の3階から炎が噴き出している。
野次馬は大勢いるのだが誰も消火活動をしていない。
「おい! 消火しないのか?」
「あんな高い所まで届く梯子もないから水はかけられないし、仕方がないだろう? ほら、隣の家を壊しているだろう? あれで類焼はしないから、あの家が燃え尽きれば終わるだろう」
この街中には井戸が多くある。 それもくみ上げ式の桶も付いているが、横には手漕ぎ式のポンプも付いているのだ。 しかし消火栓などはないし、そう言えばホースなども見たことがない。
今の状態で3階に水をかける術はないのだ。
その時、「誰かいるぞ!」と声がした。
見上げると、4階の窓から女性が身を乗り出して手を振り、助けを求めている。
俺は窓の下まで走った。
「お嬢さん!! 少し下がって!! そこに飛び乗るから!!」
俺が手で避けるように身振りで示すと、一瞬ためらっていたが、窓枠の横に避けてくれた。
俺は窓に向かってジャンプして中に入る。 周りからは「おぉぉぉぉ~~」と声が漏れた。
部屋の中は煙が充満しているが、まだ炎は入ってきてはいない。 しかし、炎が酸素を求めてドアの隙間から噴き出してきている。 この部屋が燃えるのも時間の問題だ。
「ケガはありませんか?」
「大丈夫です」
「抱いて飛び降りますから、しっかり捕まって、なるべく小さくなっていてください。 いいですね?」
「はい」
女性を抱き上げると、小さな俺の首にしっかりとしがみついてきた。
『ぐ···ぐるじい······』
絞め殺される前に急いで飛び降りないと!
「じ···しっかり···捕まってくださいね」
「はい」
一段と首を絞めてきた。 俺は窓枠に足をかけると、一気に飛び降りた。
周りからは歓声が上がり、拍手が起こった。
俺は女性の背中をポンポンと叩く。 未だに首を絞め続けているからだ。
「ぼ···もう大丈夫ですよ」
「あ······」
やっと女性は力を抜いて離れてくれたが、そのまま腰を抜かしたのか、座り込んでしまった。
そこに使用人らしき男性が走ってきて、女性の様子を確認してからしきりに俺に向かって礼を言って来た。
「奥様を助けて頂いてありがとうございました! 本当にありがとうございました!」
「ケガがなさそうでよかったです」
そこへファビオとニコロがやって来た。
「ケント殿! 大丈夫ですか?」
「もちろん」
「やっぱり凄いねんな。 びっくりしたわ! あの高さまで飛べるなんて」
ファビオは心配そうだが、ニコロは面白くて仕方がないという顔で俺と燃えている建物を見比べていた。
◇◇◇◇
その時、数人の兵士と傭兵が走って来た。
この街の詰所の兵士と警備の傭兵だろう。 到着するなり火事現場から野次馬を遠ざけるように人員整理を始める。
その傭兵たちの中に例の4人組がいた。 俺を見つけてバツの悪そうな顔をしていた。
兵士の一人がファビオを見つけて走って来て、手前で直立不動になる。
「サルバトーレ様!」
「あの座り込んでいる女性の家のようだ。 火事現場から助け出された。 ケガはなさそうだが、一応医者に診てもらった方がいい」
「承知いたしました」
兵士は医者の所に連れていこうと座り込んでいる女性の所に行ったのだが、何かもめている。
ヨロヨロと立ち上がった女性は暗闇の中でゴウゴウと燃えている家に入って行こうとしている。
それをみんなに止められているのだ。
消防車ぁ~~!!( ̄□||||!!




