20話 使役獣認定証
20話 使役獣認定証
9時になると、モリスとゴーチェが一人の小柄な男性と厩舎に入ってきた。
その初めて見る男性は俺と同じ位の年齢で、髪色は緑色。 そして瞳の色も緑色をしていて小柄で華奢な感じだ。
「おはようございます」
「おはようございますケントさん。 こちらは御者のノアイユさんです」
「「よろしくお願いします」」
お互い頭を下げる。
「ノアイユさんは魔法保持者で、風魔法を得意にしています」
「得意だなんてとんでもないです! まだDランクです」
「デュトワ様がノアイユさんの潜在能力は高いはずだと期待されているのですよ」
ノアイユは「恐縮です」と頭を掻いた。
そこにゴーチェが「ちょっとよろしいか?」と、話しに入ってきた。
「ケントさん、昨日あの後でレアンドルの件を報告しようとデュトワ様の所に行ったのじゃが、グラジオ殿も一緒に来ての······押し切られてレアンドルはグラジオ殿の馬になってしもうた。 すまんのう」
「いいえ、仕方がないです。 しかし······」
俺はアダンに説明を求めた。 俺にしか懐いていないのを、どうすればいいものか······
「何かあるのかの?」
「ゴーチェさんが心配していた通りでした。 私たちに対しては以前と変わらずで触らせてくれません。 もちろんケントさんには異常なほど懐いていますが」
ゴーチェはニッコリと笑った。
「そうか······それは困った事じゃのう」
困ったと言う割には、大笑いしそうな雰囲気だ。
「デュトワ様も心配されておった通りになったの。 強引な調教ではたまにあるのじゃ。
ワシもグラジオ殿にそう言ったのじゃが、一度調教を受け入れれば、後は簡単に制御できると言っておっての。 もちろん再調教できればグラジオ殿の馬という事で、ダメならケントさんの馬にすることで了解は得ておる。 まぁ、グラジオ殿の技量に任せるとしようか」
「すみません」
俺はあのやり方しか知らないが、やはり強引過ぎたんだ。 しかし馬に慣れている人が再調教すれば、大丈夫だろうと思った。
「いいや、ケントさんが謝る必要はありませんぞ。 恐らく普通の馬なら問題なかったと思うのじゃが、レアンドルが頑固過ぎたのじゃな。
どちらにしてもケントさんのお陰でレアンドルは肉屋に売り飛ばされる心配はなくなったし、グラジオ殿が調教できなければケントさんが使ってくれればいいという事じゃからな。 フォフォフォフォフォ!」
なんだかとても楽しそうだから、良しとしよう。
◇
ノアイユはレティ専用の、一頭立てで二人乗りキャビンの仕組みや馬の繋ぎ方など、丁寧に教えてくれた。 そしてモリスは馬で、ノアイユは馬車で正門の前まで行きレティを待つ。
モリスが馬から降りて、俺の前に来た。
「ケントさん、お嬢様を送った後、護衛についての話しをしたいので、時間を貰えますか?」
「もちろんです」
「1時間ほどで戻れると思います」
「オドランさんとアルカンさんの話しの方が早く終われば、レアンドルの所か厩舎の手伝いをしていると思います」
「わかりました。 馬を返すときに探してみます」
暫くすると向こうからレティが歩いてきた。
『あっ! レティさんだ!』
コウレンがレティの胸元に飛んでいくと、レティは慌てて受け止めて、そのままコウレンを抱っこしてこちらに歩いて来る。
······おいおい、コウレン! 羨ましいぞ!······
レティは俺の前まで来て、笑いながらコウレンを差し出すので、受け取った。
「ウフフフ、おはようございます。 ケントさんも来ていたのね」
「おはようございます。 見送りだけですが」
「モリスさん、ノアイユさん。 おはよう」
「「おはようございます」」
ノアイユが馬車の扉を開けると、レティが乗り込んだ。 そして窓を開けて俺に向けてヒラヒラと手を振る。
「行ってきます」
「お気を付けて。 試験、頑張って下さい」
「ありがとう。 じゃあね」
別れを惜しむ間もなく、馬車は俺を置いてサッサと行ってしまった。 当然だが······
······ちょっと寂しい······
『さてと·········厩舎に行くか』
『先にレアンドルの所に行く!』
コウレンは先にパタパタと飛んで行った。
放牧場でレアンドルの上に乗って遊んでいるコウレンは放っておいて、厩舎の手伝いをして時間を潰す。 そして10時になったのでコウレンも連れてデュトワ氏の事務所に向かった。
◇
コウレンとシルを肩に乗せて中に入ると、オドランとアルカンは既に来ていてソファーに座っていた。 しかしそれ以外に10名ほどの男女が部屋の片隅に立っている。
そして俺たちが入ると「「「オォォォォ······」」」という声が漏れた。
······えっ?······何だ?······
「ケント殿、座りたまえ」
デスクに座っていたデュトワ氏が立ち上がり俺と一緒にソファーに座った。
「オドランさん、アルカンさん。 おはようございます」
「「おはようございます」」
「先ずは私から」と、オドランが何かを俺に差し出す。
「これを······」
差し出されたのは軍隊で使う認識証のような、文字が書かれたプレートが付いたペンダントだ。
「こちらは認識証です。 提示義務がありますので、常に持っていてください」
「提示義務ですか? 例えばどういう時にですか?」
そんな事も知らないのか?的な顔で見られた。
······知れないから聞いているんだよ······
「剣などの武器を持ち歩くには許可が要ります。 ですから剣を佩いていれば職務質問されますので、その時に提示しなければ逮捕される場合があります」
「えっ? そうなのですか」
······それは知らなかった! 誰でも武器を持っていいと言う訳じゃないのか······日本で言う銃刀法違反みたいな?······
「今度はこれですが······」
今度は使役獣審査官のアルカンが、免許証サイズのプレートを俺の前に押し出した。
「これは使役獣認定証です。 それのこの部分を持って、自分の名前を言ってみてください」
「ここを持つのですね」
認定証の右下に金色の丸い模様がある。 その部分をつまんで「クラキ・ケント」と言うと、なんと!! 俺とコウレンの姿が浮かび上がってきたのだ。
「わお! 凄い!」
······ホログラムだ······
アルカンは俺の驚きにフッと笑う。
「そこにも書いているように使役獣認定されているので、それを提示するだけでも大丈夫だとは思いますが、それでも納得しない者には姿映しを見せれば納得するでしょう。 ちなみにシルさんの画像はありませんが、そこに小さく【従属妖精、風の精霊シル】と書いてあります。
ただコウレン殿なのですが、腕輪を着けているので問題はないと思うのですが、誤解を生まないように、これを着けてもらえればもっと確実だと思いますが······できますかね?」
アルカンが出してきたのは10㎝ほどのシルバーのプレートを二つ折りにした物だ。 そこにも俺の名前とコウレンの名前が刻まれている。
「しかし、これは耳に穴を開けないといけないので······嫌なら付ける必要はありませんが······」
······耳に付けるという事は、魔獣用のイヤーカフのような物か······




