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異世界移転するたびに俺が伝説の英雄になる件  作者: 杏子
第一章 人間世界から昆虫世界編
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20話 頑固なサムリクの誤算

 20話 頑固なサムリクの誤算




 俺はテントから飛び出した。 まだみんなは顔を突き合わせて話し合っている。


「おい! キムル!」


 声をかけると、全員が驚いた顔で一斉に振り返った。 しかし俺は気が付かないふりをして、キムルの横にデンと座る。

 

「矢尻に石を付ける事は出来ると思うか?」

「は···はい······出来ると思いますがなぜですか?」



 俺が早々にテントに入ってしまって、みんなが心配してくれていた事は表情で分かった。 しかしその事への感謝と謝罪はまたの機会だ。



「遺体回収に行くならズブグクをどうにかしなければ遺体が増えるだけだ。 奴は今日、タムを食っているから恐らく狩りをしないだろう。

 しかし出会ってしまうと防衛本能で必ず襲ってくる。 ただ思ったんだが、今なら出会っても俺達にそれほど執着はしないと読んだ。 違うか?」

「大きくなって性格が変わってしまっていれば分からないですが、元々は大人しくて臆病な動物ですから、その読みは正しいと思います」


「近づくのは危険だが、何か衝撃を与える事が出来れば? 

 そいつを倒せるとは思わないが、追い払うくらいは出来るかもしれない」


 キムルとガルヤは、顔を見合わせた。


「チョールの木で作った弓は強力です。 矢の先に重い石を付けても飛ばす事は可能です。 矢の飛び方が変わるから練習が必要ですが、当たれば結構な衝撃を与える事が出来ると思います」

「やっぱりそうか! 試してみよう!」



 さっそく矢じり作りを始めた。


 みんなと相談しながら試行錯誤するうちに、何とか良いのが出来た。

 キムルがそれを射てみると、60タール(20m)ほどしか飛ばなかったが、それだけの距離があれば充分だろうと言う事になった。




 ◇◇◇◇◇◇◇




 朝早くに出発する事になっている。 東のサールに遺体回収の荷車が続々と到着してきた。

 そして一本でも多い方がいいだろうと石矢作りをしながらサムト達が来るのを待っていた。



 すると彼が村の中をタムに乗って走って来るのが見えた。 よほどの緊急事態でない限り村の中をタムに乗って走ってくるなんて危険な事はしないはずだ。


 


「何かあったのですか?」

「ち···父がいないのです! 朝早くに何人かを連れて森に入ったらしいのです」

「何だと?!」


 ガルヤが立ち上がった。


「あいつ、何をするつもりだ」

「父はナムルトの腕を見ても信じてくれませんでした。 そんな化け物のようなズブグクなどいるはずがないと言っていました。

 ですから、もしかすると自分の目で確かめようとしているのかもしれません」


 俺は立ち上がった。


「俺にも弓と石矢をくれ! マリを連れて来てくれ!」

「おいおいケント、タムで行った方が良くないか?」

「タムに乗っていても襲ってくるのだから一緒だろう。 それならマリの方が動きやすい」


 周りにもテキパキと指示を出す。


「弓を使える者が先行してサムトさんの捜索をします。 遺体を回収する方々は荷車もあるので後から来て下さい」


 塩採取の一団の遺体がある場所を知っているダムダを案内人として後続隊に残し、俺達は出発した。



 ◇◇◇◇



 昨日の遺体発見場所まで来たがサムリク達の姿は見当たらない。


「サムリクさ~~ん!!」

村長(むらおさ)~~っ!!」


 みんなで呼ぶが返事はない。 俺たちが呼ぶ声以外はシンと静まり返っていた。




 その時だった。 アンが道の先に向かって唸った。


「何か来るぞ! 石矢を構えろ!」


 アンには制止をかけ、アンが見ている道の先へ弓を向けた。 しかしズブグクではない何かが走って来た。


「待て、タムだ! 父さん達です!」


 みんなが胸を()でおろした。 サムトは迎えに行こうとしたが、サムリク達の様子がおかしい。

 必死の形相でタムを全速力で走らせて、こちらに向かっている。



「サムト待て! 下がれ! 追われている! 後ろからズブグクが来るぞ!」



 再び弓を構えた。



 サムリク達3頭のタムの直ぐ後ろから、巨大なズブグクが追って来ていた。 サムリク達3人が俺達の間を走り抜けると同時に、キムルが叫んだ。


「撃て!」


 キムルの号令で一斉に石矢が飛んだ。 さすがに今までの矢と違うので殆どの矢が外れたが、キムルと俺の矢がズブグクの頭に当たった。 


 ズブグクは突然の衝撃にグエッ! と声をあげて立ち止まった。

 すぐに二射目を射ると、今度は何人かの石矢が当たり、ズブグクは(きびす)を返して逃げて行った。




「サムリクさん、大丈夫ですか?」

「ケント殿、ありがとうございました。 そしてとんでもない誤解をして、大変失礼な態度をとってしまいました。 本当に申し訳ありませんでした」


 サムリクはハァハァと肩で息をしながら深々と頭を下げた。


「いえ分かっていただければそれでいいのです。 それよりサムリクさん、三人だけで出かけたのですか?」

「······いいえ······二人······()られました。 私のせいで······」

「······それでは······襲われた二人も探しに行かないと······」




 そうこうしているうちに、後続の遺体収容の一団が到着した。

 遺体を荷車に乗せている間もいつズブグクが襲ってきてもいいように、常に弓を構えたま警戒する。


 そしてサムリクの一団が襲われた場所に用心しながら向かうと、タム二頭とフォーアームス二人の無残な姿がそこに横たわっていた。



 俺は複雑な気持ちで横たわる二人の遺体を見つめ、手を合わせた。




「連れて行かれてないな」

「昨日、タムを襲ったばかりだからな。 腹が減っている時以外は、連れて行かないのだろう」

 

 キムルのつぶやきにツーラが答えるのを聞いて、疑問に思った。 やはり昨日の今日なら腹がいっぱいなのだろうが、腹がいっぱいならなぜタムに乗るサムリクさん達をわざわざ襲ったんだ? 突然出くわしたのか?



「サムリクさん。 もしかしてズブグクの方から襲って来たのですか?」

「いや······気付くとすぐ近くにやつの姿があったので慌てました。 しかし奴はこっちに気付いたにも関わらず動こうとしませんでした。 ただ、あまりの恐怖の為に一人が矢を射てしまったのです。 それで襲ってきました」


「やはり······腹が減っていなければ、こちらが刺激しない限り襲って来ないようだ。 とにかく急いで戻ろう」

 





 村へ帰ると、みんなが心配そうに村の入口で待っていた。 塩採取の一団の家族は泣き崩れ、サムリクのお供をして殺された者の家族も遺体に(すが)り付いて泣いていた。





 その日の夜は塩採取の一団と、サムリクに同行した2人も一緒に葬儀が行われた。









頑固なサムリクのせいで、犠牲者がまた二人、増えていまいました(|| ゜Д゜)

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