19話 化け物との戦いと俺の心の中の闘い
19話 化け物との戦いと俺の心の中の闘い
「ケント······大丈夫か?」
「う···うん。 すまない」
「帰るぞ」
俺はゆっくり立ち上がってタムに乗った。
塩場に行く必要はなくなった。 塩採取の一団は全滅していたからだ。 急いで村に帰ってその事を報告する必要がある。
先頭をサムトが走り、俺とガルヤ、キムルとダムダが続き、その後ろをツーラ、そしてアストとナムルトが最後尾を走っていた。
村まで半分くらいの距離まで来た時、最後尾の2人が「わあっ!」と声をあげた。
振り返ると巨大な黒い物体がすぐ後ろにいたのだ。
それはタムよりデカイズブグクだった。
ナムルトは恐ろしさのあまりタムの手綱を引いて、その場に立ち止まってしまった。
「ナムルト! 逃げろ!」
ツーラが叫んだが、ナムルトは動けない。
「ちっ! アスト! ナムルトのタムを引け!」
ツーラとアストがナムルトの所に向かう。
巨大なズブグクが鎌を振り上げながらナムルトに向ってきた。 ズブグクがナムルトに襲いかかろうとした時、怖がったナムルトのタムが棹立ちになる。 ズブグクは少し躊躇ったが、再びナムルトに向って鎌を振り上げた。
「ナムルト! 逃げろ!」
ツーラは槍を握り直してズブグクに向って行ったが、ツーラの槍がズブグクに届く前に巨大な鎌が振り下ろされ、ナムルトの腕を切り落とした。
ドサッ!とナムルトの腕が地面に落ち、同時にナムルトもタムから落ちてしまった。
「ぐわっ!」
ナムルトが地面で丸くなり、腕を押さえて叫ぶ。
ツーラはズブグクに槍を突き刺した。 いや、突き出したが刺さらず、槍の先が折れた。
「ナムルト!! 手を!!」
アストはタムの上から手を伸ばす。 ナムルトは痛みをこらえてアストの手を掴んでタムに飛び乗った。
ツーラは折れた槍の後ろでズブグクの顔を渾身の力で殴った。 しかしズブブクはほとんどダメージを受けていない。 ただほんの一瞬、ズブグクの動きが止まっただけだ。
その隙にツーラも逃げたが、ズブグクが追ってくる。
速い! 追いつかれる!
その時、ナムルトのタムが横を走っているのが目に入った。
ツーラは弓でそのタムを射た。 射られたタムはもんどり打って、ドウッ!と倒れる。
そのタムを目の端で見ながら、ツーラは目の前を走るアストとナムルトが乗るタムの後を全速力で追った。
チラッと後ろを振り返ると、ズブグクはタムにのしかかっていた。
それらは一瞬の出来事だった。
ツーラが「逃げろ!!」と叫びながら走ってくるので、全員全速力でタムを走らせた。
◇◇◇◇
二つ目の太陽が沈む頃に村に帰って来た。
途中でナムルトのケガの応急処置はしたが、アストはナムルトの治療の為にタムに乗ったまま村の中に入って行った
みんなが集まって来た。
「やられた! バカでかいズブグクだ! ナムルトが腕をやられた」
サムトはまだ緊張している様子だ。 村人たちも驚きを隠せない。
「タムよりでかいズブグクだ。 真っ直ぐこの村に帰っては、やつをここに連れてきてしまうと思って、ナムルトには申し訳ないが遠回りして帰って来た。
しかし四角い家が落ちてきた辺りに塩採取の一団が全滅していた。 出来るだけ早く遺体の回収をしてやりたいが、ナムルトを助けてくれたツーラの槍が折れた」
ツーラはみんなに自分の槍を見せた。 ポッキリと先が折れている。
「やはりあいつには槍は効かない。 大きくなっても動きは素早いままでタムより速い。 やはり10タール以上はある化け物だ。 どうやって倒す」
全員が一斉に俺に視線を向けた。 いや、全員が俺に期待する視線を感じた。
しかし俺は顔を上げる事が出来なかった。
「すまない······今日は疲れた······」
俺はアンを連れて自分のテントに逃げ込んだ。
そして毛布をかぶって丸まった。
『知らない······俺は知らない······奴が近づいてきた事にいち早く気付いたアンが行こうとするのを制止した······』
『タムを降りて走って行けば十分間に合ったが、俺に何ができる?······ナムルトのように腕を斬られただろう······塩採取の一団のように首を斬られたかもしれない······』
『あんな化け物を相手に何ができるというんだ?······つい半年前まではただの高校生だったんだ······なぜ俺に超人的な力がついたのかは知らないが無駄死にするのは御免だ』
恨めしそうに俺を見つめる複眼が目の前にちらついた。 この世界に来て多くの動物を殺し、皮をはいできたが、それとは次元が違った。 思い出すだけで体が震える。
こんな惨劇はテレビの中でしか知らない。 自分の目の前で起こるなどとは考えてもいなかった。
『俺に何が出来る?······みんなは何を期待して俺を見るんだ?······俺が助ける義理なんてないんだ······放っておいてくれ!!』
毛布に包まっていると、声が聞こえてきた。
―――「今日は助けてくださって、本当にありがとうございました」
「ました」
母親と一緒に一生懸命お礼を言うヨミの姿が、とても可愛らしかった。―――
―――「足のケガはもう大丈夫か?」
「うん、もう大丈夫! 暗い穴の中に落ちた時は死んじゃうかと思ったけど、お兄さんが助けに来てくれた時は本当に嬉しかった」―――
助けてあげた子供とその両親は、心から感謝してくれていた······
―――「って!!」
「我慢してください!!」
ビルビの機嫌は直ったのかな?―――
―――「そして腕を失くした神は最後にギギを蹴り飛ばして倒れたところで止めを刺したんだ! あのギギを蹴り飛ばすんだぜ! 思わず歓声を上げたぜ!」―――
―――「個性の強いボルナックか、ハハハハハ、それはいい。 分かった、お安い御用だ。 知っていると思うが俺はガルヤだ、よろしく」―――
異世界から来た見知らぬ俺に、本当のボルナック族のように接してくれ、一から十まで面倒を見てくれた······
―――「やっぱりお前は凄いな。 俺達とは発想が違いすぎる」
「これは前の世界にあった武器だ。 便利かと思って作ってみた」
「やっぱり俺達の救いの神か?」
「だから神はよせよ」
「「ハハハハハ」」―――
―――「うお~っ! ケント様! 凄い!」
「ケントさん! 凄いです!」―――
あぁ······みんなが褒めてくれて、感謝してくれて······だからもっと力になりたいと思ったんだった······
感謝すべきは俺の方なのに······助けたいと思ったから助けたんだった。
もちろん義理などはないが、俺がそうしたいと思っているから勝手に体が動いたんだ。
忘れていた······俺はボルナック族だ!
毛布をガバッと剥がして起き上がった。
アンが顔を舐めてくる。 可愛い奴だ。
「ごめん、心配したか? もう大丈夫だ。 そうだ······俺が超人的な力を持ってこの世界に飛ばされたのには必ず何か理由があるはずだ。
······もしかしたらズブグクを倒す事かもしれないし、もっと別の事が待っているのかもしれない。 どちらにしても俺は俺にできる事を精一杯するだけだ」
俺はテントの中で胡坐をかいて考え込んだ。
「あの化け物とどう対峙すればいい?」
弱点は後頭部だけだと言っていた。 とにかくズブグクの事について知らなすぎる。
しかし先ずは遺体回収が先決だ。
奴は今日、タムを食っているから暫くは狩りをしないだろうが、出会ってしまうと防衛本能で襲ってくるだろう。
だからもし出会っても俺たちにそれほど執着はしないはずだ。
威嚇程度の攻撃で逃げていくんじゃないか?
しかし近づいての攻撃は危険すぎる。 槍も矢も奴には威嚇にもならない······
······それなら······
立ち直り、早い!!( ゜ε゜;)




