プロローグ 1話 昆虫世界の始まり
プロローグと1話です。 楽しんでいただけると幸いです。
《異世界移転するたびに俺が伝説の英雄になる件》
第一章 昆虫世界編
プロローグ
『助けて······ケント······』
異国の服を着た美しい女性が両手を伸ばし、腰まである薄茶色の髪が風に揺れ、吸い込まれそうな大きな紫の瞳に涙が溢れてきた。
――― 君は······誰?―――
そこで俺は目が覚めた。
「またあの夢か······」
布団から起き上がり、少し伸びてきた髪をかき上げた。 そしてカーテンの隙間から漏れる春の優しい朝日が作る光の筋を、見るともなく見つめた。
俺は倉木賢斗。 高校二年生の17歳。
身長186㎝、9等身のモデル体型で、誰もが振り返るようなイケメンだ(と、みんなは言う)
芸能事務所から何社もスカウトされたが俺は全く興味はない。
俺自身はこの女のような顔はあまり好きではない。 男らしく見せようと日焼けをし、水泳部とジムで体を鍛えている。
我が家ではベドリントンテリアという日本では珍しい犬種を飼っている。
名前は杏子。
ベドリントンテリアは特殊なカットをする。
子供の頃は自分でカット出来るようになりたいと思ってトリマーを目指していた。 しかし当時飼っていた先代のベドリントンテリアがその犬種特有の病気で亡くなった。
それから俺の目標は獣医になる事に変わった。
そういえばあの夢に出てくる女性だが、まだ小学生だった頃から俺の夢に出演(?)している。
全く見たこともない女性で、日本語を喋っているが日本人とは思えない。 年齢は20歳前後だと思うのだが、初めて見た時から歳を取っていない。 夢だから当然と言えば当然だろう。
しかし初めの頃はおばさんだなと思っていたのだが、最近では完全に射程距離に入っている。
なんとも透明感があり、妖精のような人間離れした超絶美人だ。
俺も女の子と付き合った事はあるのだが、なぜか夢の女性と比べてしまってすぐに別れてしまう。
どうやら夢の女性に恋をしてしまっているようだ。
決して報われない恋。 夢でしか会うことが出来ない女性に······
最近では開き直って「夢子さん」と名前まで付けて、彼女が夢に出てくるのを楽しみにしている状態だ。 そんなだから現実の女性に告白されても「好きな女性がいるから」と、断ってしまう一種のオタクだ。
······俺って一生結婚できないかも······
◇◇◇◇
俺の家は結構な高台にある。
自転車通学なので、いつも母さんに「スピードを出してはダメよ!」と小言を言われる。
急な下り坂で急カーブが多い通学路だからだ。
ついでに言うと、俺の家族は優しい両親と、最近生意気になってきた3歳違いの真鈴という名前の妹がいる。
······と、説明している場合ではない!! 俺は飛び起きた。
「やべ! 今日はミーティングだった!」
慌てて制服に着替えて、机の上に置いていた携帯と財布をカバンに放り込む。
バタバタと階段を降りてきた俺に、喜んだ愛犬の杏子がじゃれてきてこけそうになった。
「ごめん杏子! 帰ったら遊んでやるから! 父さん、行ってきます! 母さん、今日は少し遅くなるけど、晩飯は食うからよろしく!」
「賢斗! スピードを出しては······」
「わかってるって!」
「お兄ちゃん! 私ももうすぐ出るから一緒に······」
「残念だったな、真鈴! クラブのミーティングがあるのを忘れていたんだ! 急ぐから先に行くぞ! じゃあな!」
これが家族との最後の会話になるとは思ってもいなかった。
カバンを前籠に放り込んで自転車に飛び乗り門を出た。 するとポツポツと冷たいものが顔にかかる。
「ゲッ! 雨かよ! まあいいか」
この辺りの道路は崖を削って作ってあり、所々に下の町が見渡せる絶景の場所がある。
もちろんガードレールはあるのだが、下は絶壁になっていてちょっと怖いカーブとしても有名だ。
ちょうどそのカーブに差し掛かった時、雨のせいでタイヤがスリップしてしまった。
「わあっ!!」
ガードレールにぶつかって、俺は自転車から投げ出され、ガードレールを飛び越えてしまった。
死ぬ前には思い出が走馬灯のように流れるという。
つい先ほど家族と交わした会話が思い出された。
······父さんと母さんが悲しむだろうな······ごめん······
そのまま下の方にある雑木林に向かって落ちていき、激突するかと思った直前、目の前が真っ暗になった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「彼よね!」
「うん、彼に間違いない」
「本当に大丈夫かしら?」
「私の目に間違いはない。 彼なら幾多の困難に打ち勝つ事ができる」
「あらゆる世界で英雄伝説が生まれるのね」
「さぁ、彼が目覚める前に力を与えないと」
「わかったわ」
「いくぞ!」
「いいわよ」
1話 昆虫世界の始まり。
俺は仰向きに倒れたまま目を開けた。
空には眩しい太陽が2つ······
「2つ?!!」
上半身を起こして辺りを見回した。 そこには見たこともない美しい景色が広がっている。
大きな木々は鮮やかなオレンジ色や紫色など、原色のような鮮やかな色をしていてCGではないかと思わせるような美しい色合いだった。
そして広い海岸の砂も、光の加減で赤や青、黄色など、キラキラと鮮やかな色に輝いている。
一つ拾って太陽にかざしてみると、太陽の光が透けて見えた。
もしかしたらこの石は宝石か? ルビーやサファイヤ、ダイヤモンドにガーネット!!
スゲェ!! ハハハハハ······実は宝石などまるで分からないし興味もない。
ガラスのようなのがダイヤモンドという以外は、どの宝石が何色なのかも分からない。
······聞いたことがある宝石の名前を言ってみただけだ······
海も砂の色の影響か、不思議な輝きを放っている。 二つある太陽の光をキラキラと照り返し、穏やかな波の音が心地よいBGMを奏でていた。
「そうか······やっぱり俺は死んだのか······しかし天国って綺麗な所だなぁ······」
暫くボーっと海を見つめていたが、いつまでもこうしている訳にはいかない。
とりあえず天国を探検しよう!
俺は勢いよく立ち上がって驚いた! 物凄く体が軽い。 重力を感じないほどで、勢いよく立ち上がったので、体が少し浮き上がってしまったほどだ。
「天国、ヤバい!」
今いる場所から森の入り口まで目測で約30m。 何歩で行けるかと試してみると、なんと、2歩!
1歩が10m以上という事だ。
「俺はスーパー〇ンかよ」
森の手前から中を見ると、森の中に道らしきものがあるのが見えた。
「道? もしかして動物とかいるのだろうか? それとももしかして天使の道?······って羽が生えていて飛ぶイメージだけど、天使も森の中を歩くのかな?」
今のところ他の生き物の気配はない。
「天使のお迎えは来ないのかなぁ······ここでずっと一人ぼっちって事はないよな······」
ちょっと寂しくなってきた。
「あっ! 携帯!」
ポケットを探したが入っていない。
そうだ、財布と携帯を鞄にいれたんだった。
周りを見回しても鞄が落ちている訳もなく、どちらにしても天国だから、お金も携帯も使えない事に気づいた。
気分を切り替えて、今度は海に向かった。
海岸に5mほどの高さの大きな岩が突き出している。 その岩に登ってみた。
笑えるほどスルスルと登れる。 傍から見るとワイヤーで吊られて登っているようにみえるだろう。
「ククク、今度はスパイダー〇ンだな」
岩の頂上に立って不思議な輝きの海を見渡した。 水平線を見ると、地球のそれより丸味がはっきりとわかるようにカーブしている。
「天国って地球より小さいのかな?」
······しかしこれからどうなるのだろう?······
······天国にいるというより、異世界に来た気分なんだけど······
······もしかしてここは天国じゃなくて、夢?······
······そうか! 崖から落ちて死にかけたけど助かって、集中治療室で眠っているとか?······
······でも天国とはちょっとイメージが違うんだよな······
······夢か···そうか······早く目覚めないと······
と言ってもどうやって目覚めていいのかわからない。
「くそぉ~~~っ! 早く起きたいのにぃ!!」
お読みいただきありがとうございました。
特殊なカットのベドリントンテリアを見たことのない方が多いので、挿絵を入れてみました。
私も飼っています。
次話から異世界での冒険が始まります。 よろしければ続けてお読みください。




