先輩騎士Wの悲喜劇
R-15指定は保険です。
俺、アイザック・ウォルターは同期のクリストファー・バートンと一緒に、これまた同期のアネッサから普段近寄る事もない騎士団広報課の応接室に呼び出されていた。
「2人共、いきなり呼び出して悪かったわね。今度、騎士団の広報紙で号外出す事になったの!で、その取材をさせてくれない?今回は大々的にバラ撒く予定だから、その分内容も充実させたいのよ」
「はぁ??広報の取材なのに何で俺らなの」
「ウォルター、止めた方が良いと思いますよ?自分で自分の傷口を広げる事になりますから」
アネッサが言う事が理解出来ず言い返せば、呆れた顔のクリスに止められる。
いや、何で俺が呆れられなきゃいけないんだ。
こっちは女神の婚約で傷心中だってのに!
…あれ?
「何言ってんのよ!ハマス隊長とジョージアナの婚約よ!?何なら来年には結婚よ!?!?治安維持部隊ハマス隊所属な上にアイザックはジョージアナの指導担当だったし、同じ所属のクリスは問題児キースの指導担当だったでしょ。2人の出会いはキース事件だし、アンタ達以上に今回の適任は居ないでしょうよ!」
「っっ!!!あんまりだ!!!アネッサの鬼!悪魔!人でなし!」
「ですから、止めた方が良いと…」
アネッサの言葉でトドメを刺された気分になり、テーブルに突っ伏す。
そんな俺の背中を摩ってくれるクリスの優しさが滲みる。
ツラい。
別にジョージアナと恋仲になれるとか、なりたいとかは思ってなかった。
ちょっと嘘付いた、なれたら泣いて喜んだと思う。
いや、心臓止まる。
確かに思ったけど、それよりも彼女は俺にとって女神だったのだ。
体がデカくて黙っていると怖いとかまで言われてたんだ。
そんな事ばかりで女性に避けられがちだったのに、彼女は普通に接する所か気遣かってくれて、俺が優しいと親切だと指導が的確だと沢山褒めてくれたんだ。
先輩と慕って貰えて、そんなの崇拝だってしたくなるだろう。
良い匂いだし。
誰にでも平等に優しいジョージアナだっただけに、悲しいというよりは寂しいのかもしれない。
そんなジョージアナが心底嬉しそうに対応するのが、ハマス隊長だってのも前から知っていたけど。
いや、違うな。
そういう意味じゃない例外は他にも居た。
マルロウ隊長にだけは嫌味が多かった。
聞いてるこっちがヒヤヒヤするくらいには。
なのに、嫌味すら褒め言葉として受け取られてジョージアナの目が余計に死んでたわ。
「うぅ…有難う、クリス。でも、ジョージアナとハマス隊長がどっちも幸せになってくれるのは嬉しいんだ。まだ気持ちが消化し切れてないけどな。てか、アネッサは何をどう載せんだよ?2人の私生活を無断で暴くようなら協力しないぞ!」
「…アイザックって本当良い奴よね。良い奴で終わるけど」
「アネッサ、ウォルターの傷口に言葉という香辛料を塗り込むのは止めなさい。それに、ジョージアナは私にとっても女神ですからね。寂しい気持ちは分かりますよ」
一度前を向いた俺は、アネッサの言葉で呻き声を上げながら再びテーブルへと沈んだ。
アネッサが酷い、ジョージアナとはタイプの違う美人だが性格は雲泥の差だ。
コイツは俺に対して優しくない。
その分、クリスがとてつもなく輝いて見える。
「アイザック、何か失礼な事考えてない?それより、クリスまでジョージアナを神聖視しちゃってたの!?そっちがビックリよ」
「女神は倒れた私が残した言葉通り、問題児を見捨てずに助けてくれましたからね。彼女には恩があるんですよ…」
「そっちかぁ〜!まぁ、ジョージアナは問題児の調教師としても有名だからねぇ…」
そう、色素のせいか全体的に幸薄そうだと定評もあるクリスだが、その中身は騎士団の常識として知られている。
規律の鬼として名高いフレア副隊長とは違った意味で怖い時がある。
そんなクリスが根を上げて、心労から入院騒ぎにまでなった問題児キースをジョージアナは、少し癖が強い奴にまで矯正してくれたのだ。
女神のお陰で今やキースは、ただのリリアン馬鹿で済んでいる。
「私の見舞いに関しても、女神の助言がなければ問題児は来る事もなかったでしょうしね」
「あ、そこ凄く怒ってたのね…あ〜、まぁ、入院中は娘さん達に満足に会えなかったもんねぇ」
「奥さんも子ども2人の面倒見つつ、入院したお前に色々と届けてくれてたもんなぁ…」
今はリリアン馬鹿でも、キースの罪は重いな。
後でジョージアナにも伝えておこう。
そうすりゃ、リリアンへも伝わってキースも反省するだろう。
俺は、お前が泣いても何とも思わん。
「女神の事務仕事の的確さは新人の頃から本当に凄かったかし、キースの扱いも上手かったよな。事務方に取られなくて本当に良かったって、隊の皆が言ってるし。本人にとったら、最初から負担はデカくて大変だったろうけど。たまーに、訓練でも怖いくらいの動きもするしなぁ…女神が入団した年にハマス隊長とした模擬戦は伝説だな!」
「あ!それそれ!それ聞きたかったのよ〜!クリスも入院してて訓練の様子は知らないのよね?」
「えぇ…復帰まで3ヶ月掛かりましたからね。短時間からの復帰が、新人歓迎会の丁度1ヶ月前です。女神が居なければ、それも難しかったと思いますよ。未だに胃薬のお世話にはなりますが、これくらい可愛いものです。私と入れ違いのように女神が入院された頃で、問題児が珍しく大人しくしていて気持ち悪かったのは覚えています。指導を優先していましたから、詳しくは分からないですね」
「クリスは胃薬に詳しくなったよなぁ。で、模擬戦だっけ?あの模擬戦は、一言で言えば金色の獅子と銀色の狼の戦いだな。ハマス隊長に真っ直ぐ突っ込むかと思ったら、横のキースを踏み台にして真上から狙う姿はエゲツなかったけど。それよりも、目が離せないくらいに美しいって思ったなぁ。キースは地面に埋まったけど。まぁ、真上から突き刺さってくる木剣と女神を自分の木剣一本で受け止めて、反対の腕一本で女神を吹っ飛ばした本気のハマス隊長の方がヤバいけどな…どっちも人間の動きじゃなかったわ」
「うわぁ…取り敢えず、怖いんだけど。私、広報課に配属されて良かったって初めて思ったわ…てか、ジョージアナはよく生きてたわね?そんな事聞いたら、今更あの時の入院が2週間って短過ぎる気がして来たんだけど。まぁ、でも、それで戦女神かぁ!ハマス隊長だって誠実だわ、無敗の獅子の二つ名で逸話は多いわで話題に事欠かないし。お付き合いする前にハマス隊長から髪紐と髪飾りをジョージアナへ贈ったってリリアンとキースから聞いたし、どうしよう!?新人歓迎会は箝口令が敷かれたから無理だけど、熱烈な告白劇のあった慰労会の話しはきっと載せられるわ…号外1回じゃ収まらない!!!何回かに分けるべき!?どうしたら良いの!!!」
俺の話しを聞くと、今度はアネッサが頭を抱える。
広報課は、騎士団の知名度と好感度を上げる為に王都からの苦情処理もやっている。
鼻持ちならない貴族ばかりだとか、平民なら荒くれ者ばかりじゃないってイメージを確固たるものにしたいなら、今回のハマス隊長と事件の被害者にも誠実で好感度の高い女神の婚約を大々的に報じたくなる気持ちも分かる。
「てか、髪紐と髪飾りって…あの普段使いしてた髪紐、やっぱりハマス隊長からだったのか!?いや、色がハマス隊長の瞳の色だったけど!!!」
「新人歓迎会で付けていた髪飾りが件の物だそうですよ」
「いや、何でクリスは知ってるんだよ!?知らなかったの俺だけ!?!?」
頭を抱えるアネッサの横へ、またしても俺はテーブルに沈んだ。
クリスから可哀想なものを見るような視線を感じたが、色々あり過ぎたんだから仕方ないだろう!
ハマス隊長がジョージアナを気に入っていたのは分かっていたけど、そこまでの独占欲とか思わないじゃないか…
お互いが思い合ってたとか、どんな恋物語だ。
そんな事を思っていたら、つい口から出ていた。
「なぁ…いっその事、長くなるなら小説にしちまえば良いんじゃねぇの?私生活をバラすのは駄目だけど。ハマス隊長は平民から隊長になった出世頭だし、女神は女神だしな!」
「ウォルター…言いたい事は伝わりますが、もう少し言葉は選びましょうね?ですが、ハマス隊長も女神も元々好感度が高いですからね。平民同士という事も大衆には受け入れられやすいと私も思いますよ。私生活は謎なままの方が、より興味を引くでしょうね」
「あー!!!それよ!こんなラブロマンス、大衆に受け入れられない訳ないわ!!!男性だって英雄物語が好きだしピッタリよね!アイザック、たまには良い事言うじゃないの!早速、上司に提案してくるわ!2人共、有難うね!」
アネッサはやっぱり一言余計だと思ったが、口に出す前に部屋を飛び出して行ってしまった。
それから、本当にハマス隊長とジョージアナの恋物語が市井で一代ラブロマンスブームを巻き起こす事も、それに照れた可愛い顔の女神から怒られる事も、俺だけハマス隊長からの訓練が厳しくなる事も、この時の俺は知る由もなかった。
いや、アネッサは所属が違うから仕方ないとしても、何でクリスは無事なんだよ!?!?
俺だけじゃないですよ、ハマス隊長!!!
評価やブックマークを頂けた事で、シリーズ第3弾まで書く事が出来ました!
本当に有難う御座います!