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第3章 エールちゃん大活躍



「よ、よし・・・なんとか慣れてきたぞ・・・と!」

家の屋根屋根を飛んでは跳ねて進む亨は、身を包むサポーターのフレームに馴染みを覚えながらに目標物を見失わいように集中を続けていた。

 まだ、妹の乗った空飛ぶ円盤は何処へと突き進んでいる。なんとか高高度への上昇は行われていないが、それでも落下すればひとたまりもない高さを飛んでいるのは確かである。

妹は必死にしがみついて落下に至ってはいないが、それでも小学生の少女の力では長くは持ち堪えられそうにない。

だからこそ急がねばと、亨は未知の機械の力を糧にさらに速度を上げる。

完全に本来、人の出せる速度を超えている。学校で使ったときは制御しきれず吹っ飛んでいたのをそのまま速度へと変えているわけだ。

「・・・あれは!」

と、勢いののってきた亨が追いかけていた妹の行く先に背の高い建物が迫っているのを見つけた。

赤と白に彩られた電波塔である。ところどころにアンテナを備えて町の暮らしのために日夜役立っている。

 しかし、今、そんな電波塔へ空飛ぶ物体が迫っている。速度もそれなりに出ているそれがぶつかれば、どちらも支障が出るのは当然である。

「くそ!間に合えよ!!」

亨は焦る気持ちを抱いて、一直線に電波塔へと足を進めた。

サポーターのおかげで凄まじいまでの速度を実現させてグングンと電波塔へと近づいていく。風を切る音は轟音に聞こえ、風圧に目も開けているのも辛くなってくるが、そこは妹のためと踏ん張って更に屋根や地を蹴って進んでいく。

 そうして亨は円盤が電波塔に到達する前になんとか電波塔の真下までやってくることができた。

「・・・はぁ、はぁ・・・よし!」息も切れ切れ、上を見上げると妹の乗った空飛ぶ円盤は揺れに揺れていた。その衝撃に妹の握力も限界を迎えそうで、このまま電波塔に衝突すれば、その衝撃で落下するのは間違いないだろう。

 ぶつかる前になんとか助け出したい。そう考えた亨は、急ぎ電波塔を上りだした。

赤と白の巨大なジャングルジムのような骨組みを、サポーターの力を借りて一気に登りあがっていく。鉄骨を蹴ったり、腕の力で身体を引き揚げたりと、全身を使っての電波塔登りは忙しいモノであった。

 このまま重力を無視してまっすぐ天へと走り抜けれれば楽なのだが、と考える亨だが、そんな願いなど叶うはずもない。

 そうやって体力も限界に近い中、天辺まであと少しとなった。

その時。

「お兄ちゃん!」

「真里!!」

妹の声が頭上から飛んだ。それに視線を向ければ、すぐそこに円盤が迫っていた。

あと僅かで手の届く位置にまでやってきた妹に向けて亨は踏み出した。が。

ガツン!!

次の瞬間、激しい金属音を立てて円盤と電波塔の頂点部分が激突した。

「きゃああ!!」

真里の悲鳴があがった。

ぶつかった衝撃で電波塔の先端はひしゃげ、円盤のほうは弾かれてまた別の方向へ進み始めた。それも、見事に上下左右と回転しながらである。

ぐるぐると目まぐるしく回転する円盤。無論そんな凄まじいまでの衝撃と遠心力に少女は耐えられるわけもなく、真里はしがみついていた手を放してしまうのだった。

「―・・・ッ!!」

「真里!!」

瞬間、落下を始めた妹に亨が叫んだ。

乗組員を失った円盤が、おかしな軌道で空の彼方へと消えていくがそんなことはどうでもいい。

亨は目の色を変えてしっかりと妹を目に捉えると、電波塔の足場を思い切り踏みつけ――ダンッ!!と力強く踏み込んだ。

サポーターの恩恵をその踏み込みすべてに賭けたように、その場が一足分へこんでいる。そして、その反動を利用して飛び出した亨は、一気に落下中の妹に迫った。

「真里ー!!」「お兄ちゃん!!」

ガシ!

一陣の風と化した亨は遂に妹を抱きしめることができた。

だが、それは落下を続ける空中での話だ。喜ぶのは早い、このまま地面に落下すれば二人ともに無事では済まない。このサポーターの力で、落下の衝撃に耐えられるかと亨は脳裏をよぎらせたが、それしか方法はないと妹を抱きしめながらに足を地面に向けだした。だが、その時。

「!?」

なんと、身を包んでいたフレームが縮こまって本体部分に収納されてしまったのである。

あとには生身の体が残ってしまった。

地面はグングン迫ってきている。サポーターの異変など考えている暇はない。せめて妹だけでも無事にいてほしいと、瞬時に考えを巡らせるが・・・。

何も思いつかない。

もはや激突寸前の地面に顔が青ざめる。妹は怖さに顔をうずめている。亨も覚悟と恐怖に思わず目を瞑った。

そして――。


パシ!!

――と、もはや諦めていた亨だったが、なかなか地面に激突しないことに恐る恐る目を開いた。

「んな!?」「へ!?」

すると亨と真里と兄妹揃って驚きの声を上げた。

なんと、ぶつかるはずだった地面の上を僅かだが浮いて移動していたからだ。

目を見張る亨だったが、何故だか息苦しいのを感じた。それもそのはず、だれかが自分の服の襟首を掴んでいたからだ。丁度自分の『上』の方から伸びている腕があり、その腕は肌白く、そしてその主は長い金髪を揺らし、なにより箒にまたがっていた。

 「ギリギリ・・・だったわね・・・」

亨の服の襟首を掴みながらにエールが言った。

寺で竹箒を借りてここまで全力疾走・・・疾翔?してきたのだ。なんとか地面に激突寸前の兄妹を救うことができたのだが・・・彼女の腕はプルプルと振るえていた。

亨と真里の兄妹を腕一本で支えながらに、エールは竹箒で空を飛び続けている。二人を救い出した時の速度を減速させて、どこかに着陸したいと思っているのだが。

「だ、ダメだ―・・・やっぱりこんな多いと・・・操縦が・・・」エールがつぶやいた。

その瞬間、竹箒がぐらぐらと揺れ始めた。

「お、おい・・・!」

「ご、ごめん!」

グルン!!

瞬間、ちょうど川の上を浮遊していた竹箒が一回転した。同時にエールもろとも亨と真里も川へと落下してしまうのだった。

バシャン!バシャン!バシャン!と、三つの大きな水音を立てて浅めの川に3人が落っこちた。

後から円盤と竹箒も落ちてきて、それぞれが亨とエールにぶつかった。

「あ痛っ!」

明らかに竹箒よりも硬い鉄塊が頭に当たって亨が涙目になる。だがしかし、それよりも妹の方が先で円盤片手にそちらに意識を向けた。

 高校3年生の彼の膝までも及ばない水位の川に立って、妹へと歩み寄る。真里は、驚きと恐怖の連続で縮こまっていたものの、怪我などはなく兄と同じく全身ずぶ濡れの被害だけで済んでいた。

「真里!大丈夫か!」

「お兄ちゃん!」

次には真里がじゃぶじゃぶと川中を進んで兄に抱きついた。望まない空の旅路を終えることができて感極まったか、濡れた姿に涙を上乗せしていた。

「・・・よかった。さぁ。戻ろう」

「・・・うん」

髪からしずくを垂らしながらも兄妹揃って優しく頷いた。どうにか一件落着。あとは、一度恵らのところに戻って――。

「ちょ、ちょっと・・・!待っ・・・!!うわ!?」

――バシャン!と、川岸に向かっていた亨と真里を、騒がしく水音を立てる何かが振り向かせた。

エールだ。

「ここだけ深くない?!ガボ・・・!待って!ガボボ!ねガボガボ!私、泳げな・・・」

浅い川で派手にバシャバシャもがく金髪少女、彼女の脇を真っ二つになった竹箒が川下へと流されていくのが見えた。そんな光景に、亨はせっかく一段落していた気持ちがぶり替えたようで溜息を洩らした。

「真里、先、戻ってろ」

「う、うん」

妹に岸に上がるよう指示すると、亨は溺れる魔法少女へと歩み寄った。

ジャブジャブと、今来た道を戻っていく。視線先では小学生のプール遊び並みの水飛沫が上がっている。それだけ必死にもがいてるだろうと、なんだか同情しながらも手を差し伸べた。

「おい!ほら掴まれ!!」

そう叫ぶも、エールからの応答はない。というよりも、生きようともがくことにとても忙しそうであった。

そんな動き回る彼女の腕を、隙を見て見事につかんだ亨はそのまま一気に引き上げた。

瞬間、ザバー!とエールの身が川中から立ち上がった。ずぶ濡れになった長い金髪を揺らして、何度も目をパチクリさせている。

「・・・こんなに浅かったの・・・あ、アハハ」と、顔を赤くして乾いた笑いをこぼすエール。それにあきれ顔の亨は疲れ切った溜息を洩らした。

「お前、空飛べるのに泳げないのか?」

「・・・だって空飛べるんだし、泳げる必要ないでしょ?」

あっけらかんとして応えるエールは、犬の様に髪の毛をふるって滴る水滴をはじけ飛ばす。それらはほとんどが亨に当たって、不快な思いを与えた。とはいえ、既にびちゃびちゃに濡れたくっているのだ、この際関係ないかと目をつむった。

 と、小さく息をついた亨が川岸の方に目を向けると、真里が手を振っており、ちょうどそこへ恵とその弟達も駆けつけてきたところであった。

 やれやれ、と亨は心で呟いた。

これで、本当にどうにか一段落である。しかし、まだまだエールからは聞きたいことが山ほどある。けれどまずは彼女の居場所についてだ。それに魔法や変な機械のことも隠さなければならない。別にそこまでお節介にならなくてもいいのだが、朝、助けた縁もあって放っておくのも忍びなかった。

 そうして、向こう岸から手を振る子供らに何も考えてなさそうな顔で手を振り返すエールを見て、亨は一段と気が重くなった。

「どうなるんだ、これ・・・」

後先のことを深く考えるまでもなく亨は思わずつぶやいてしまうのだった。





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