エピローグ
とあるどこかの一室には空間に亀裂と稲光が走り、突風が吹き荒れている。
ガランとした寂しい空間のその部屋には白衣の女性と車いすに乗った薄紅色のイルカが、突風に負けじと何かを待ち構えていた。
そうして。
バチィ!!
一度大きな音が鳴り、眩しく輝いたかと思うと亀裂は中から何かを吐き出して、そのままプッツりと消滅してしまうのだった。
「おっとと・・・!」
中から現れたのは一人の金髪の女性で、その傍らに風呂敷で包まれた機械群がどっちゃりと置かれていた。
「やった帰れたんだ!!」
すると女性はあたりを見渡して、すぐに白衣の女性とイルカを見つけると飛び上がって喜ぶのだった。
「おかえりなさいエール様」
「よく無事で帰ってきてくれたエール君!」
「うん!ただいま!リーナス!メガット博士!」
それぞれに名を呼びあって、しっかりと己の存在を確かめ合うと一度大きく息をついた。
「・・・あれ、なんかさっぱりしてるね?私がいたときはもっといっぱいツールあったのに?」
「そりゃ流石に引っ越しは終わってるからね、結局はリーナスに手伝ってもらったよ」
「・・・う・・・でも、もともとミカお姉ちゃんのを代わってたわけだから・・・責任はお姉ちゃんにあるわけだし・・・」
「そうですね。と、いうより博士がやればいいだけの話だったんですけどね」
と、リーナスがぴしゃりと言ってメガットを睨んだ。
「ま・・・・まぁ!エール君も無事戻ったんだ!それは良しとしようじゃないか!それになにより間に合ってよかったじゃないか」
「・・・・間に合う?」
するとメガットの言葉にひとつ疑問を持ったエールは、ポカンとした顔を見せて問いかけた。
「間に合うってなに?なんか期限のあることあったっけ?」
「ははは何を言っているんだ、今日で長期休暇は終わりじゃないか。明日から学校だ、本当に間に合ってよかった」
「はい。周りをごまかすのもなかなか苦労したんですから」
笑って言うメガットの横で、リーナスはエールが持ってきたツールの山を片付けながらに言うのだった。
「は?はぁぁ!?」
「なに、向こうでしっかり休暇を楽しんだみたいだからいいじゃないか」
「えぇ、エール様の青春しっかり見させてもらいました」
そう言うと困惑したままのエールへとメガットとリーナスのにやついた笑みが飛んだ。
瞬間、エールはハッとしてさっきまでの行動を思い返した。あの時、チョーカーを外して想いのタケを叫んだ時、あの時まだスマートツールは通話状態であったはずである。
ということは。
「・・・み・・・見たの?せっかくこっちの言葉ならわからないだろうと工夫したのに・・・」
「はい。見たし、ついでに録画もしてあります。いつかくるエール様の結婚式には大画面で映し出したいと思います」
「ぬわぁああああ!!」
一気に顔が真っ赤になって、どうしていいかわからず我武者羅に動き回るエール。
「はっはっは!!若いなエール君!!でもわからなくしてどうするんだ?絶対伝わっていないぞ、雰囲気と表情とか読み取れると思わない方がいい、それが男だ、ははは!」
それを見て大笑いするメガットだったが、傍の机に置いてあったスマートツールから通知音が鳴って、何かのメッセージを表示していた。
『トキエイドでドラゴン騒ぎ、既に収束の模様・・・』
そんなメッセージなど後回しなのか、エールの悶える姿に笑い声が飛ぶばかりであった。
「・・・ううう、ど、どうにかして伝えてみせるんだから・・・」
そうして顔を紅くしたままにエールは両手を見やった。
右手にはスマートツールがあり、そこには最後にみんなで撮った集合写真が表示されていた。
そして左手には――出流にもらったピックがあった。
エールはそれをギュッと握りしめるのだった。
※
一方で、とある地方の町を歩く3人の学生の姿があった。
「相沢先生、本当に何も言ってないみたいだったな」
「そうね、でも結構こたえたみたいでちょっと可愛そうかも」
亨と恵が思い返して言っていた。
今日は夏休み最後の登校日であり、その帰り道であった。
エールやツールのことなどと関わってしまい情報を持っている彼のことには、それまで以上に気をかけてしまっている亨らであった。
「まぁ、仮に話すようなことがあっても、もうツールもエールもないんだ、どうしようもないさ」そこへ出流が言って、少しだけ溜息をついた。
「それもそうだな・・・まあでも、なかったらなかったで少寂しいところもあるかな」
はははと笑って亨は軽く握りこぶしを作った。
「それはツールのこと?それともエルちゃんのこと?」
すると目が笑っていない恵からの質問がとんで、亨は慌てて「りょりょ、両方だよ!」と切り返して難を逃れた。
「・・・それでも、また会えれば面白いかもな」
と、亨と恵が仲良くいがみ合う中で出流はぼそりと呟いた。そしてそれを恵は聞き逃しはしなかったのだ。
(・・・おぉ、エルちゃん・・・ちょっと効果あったかもよ・・・)そう心の中で呟いて、小さく笑みをこぼす恵だった。
そうして3人が話し合いながらに歩みを進めていくと――。
「あー!!もう!せっかく掃除したのに!!」
帰り道にある、いつものお寺の方から華蓮の声が飛んできて、その姿に注目したのだった。
珍しく袈裟姿の彼女は竹箒を手に、誰かにしかりつけているみたいに憤慨していた。
「おのれ夏休みキッズめ!!遊ぶんなら家でゲームでもしてなさい!」
もはや一般論とは正反対のことを叫びながらに、どうやら遊んでいた子供たちによって散らかされた敷地内のゴミを改めて掃き始めるたところであった。
「華蓮さん」
するとそこへ、彼女に気が付いた亨らがやってきて声をかけるのだった。
「・・・あら御三方。そっか登校日か」
彼らに気が付いて、憤った表情を治めると華蓮はくるりと振り向いて軽く挨拶をした。
「掃除ですか?」恵が聞いた。
「改心したんですか?」出流も続いた。
「・・・・・・・屋根に登ってた罰よ。あと改心するほど私の心は荒んでいないからね」
忠告のつもりで言ったのだが、3人ともに首を傾げて「そうか?」という反応を見せたのに華蓮はガックリ肩を落とすのだった。
「いいもん、亨君が魔法少女好きの常に養成ギプスつけてる変態だってSNSで拡散するから」
そう呟いて、華蓮はスマートフォンを取り出すと手早く操作を始めるのだった。
「んな!!やめてくださいよ!!」
「そうです華蓮さん!たとえ本当の事でも傷つくこともあるんですから!」
亨と恵が反論して華蓮の書き込みを阻止しよう動き、その一方で出流は「・・・・そこは否定してあげないんだ恵ちゃん・・・」戸惑った声で呟いていた。
「ふふふ、やめてほしかったら魔法でも使ってみなさい!」
「くそー!ミーハーな人め!」
高笑いと共に回避しながら操作を続ける華蓮に亨が愚痴をこぼす。
そうやって華蓮とのスマートフォン争奪戦を繰り広げる中、夏の終わりの一日は続いていくのだった。
「・・・・・・・・やれやれ」
と、出流は賑やかな一同を見ながらも、ふと本堂の屋根の方を眺めてみた。
そこにはただ突き抜けるような青い夏空が広がっているだけで『なにも』ありはしなかった。
「・・・?」
が、しかし、ほんの僅かだけ・・・
ビビビ・・・
と、奇妙な音が聞こえた。
―――ような気がした。
完




