最終章 さらば!エール!
とある駅に新幹線が停まって、多くの乗客が降車していく。
そうしてそんな中から恵とエール、そして出流と大荷物を担いだ亨が降りてきたのだった。
「トール!ほら早く来なさいよ!他のお客さんの迷惑でしょ!」エールが振り返って言った。
「やかましい!そう言うなら少しは手伝え!」
大荷物の要であるフライボーダーを担いで運ぶ亨が怒り顔で返すのだった。
「私、触れないもんねー!」それへ意地悪っぽく返答したエールは、恵の手を取って売店の方へ駆けだした。
「あ!この『あんころもっち』、カレンさんに買っていこうよ!」
「えぇ・・・地元のお土産を地元の人に買うのはどうかな・・・まぁ、おいしいけどさ」
「じゃ、私へのお土産ってことで!」
そう言うと、目を輝かせたエールは恵の悩みもそのままにして、地元のお土産を買うと、ホクホクとした笑顔を見せるのだった。
「なんでこんなところで土産を買うんだ?」
「無駄遣いすんなよな」
そこへ遅れてやってきた出流と亨からもツッコまれてエールは「う・・・」と声を詰まらせた。
「い・・・いいじゃない!東京でまともにお土産買えなかったんだから!」
「お前が寝過ごして出発時間ギリギリになったからだろう」
亨の手厳しい指摘にまたしても声を詰まらせたエールは「むぅぅ!」と不満の顔を見せた。
「ううううっさい!トールのアホ!B級サメ映画!!」
最後のは、けなしている内に入るのかは疑問だが、それを捨て台詞にしてエールは駅を一足先に飛び出していくのだった。
※
「ついたー!ただいまー!!」
駅を出てバスを乗り継ぎ、のらりくらりと移動した一行はいつものお寺へとたどり着いたのだった。
「カレンさーん!」
一人お土産を持って駆け足で母屋の玄関扉を開けるとエールは大声で、花蓮の名を呼んだ。
「おー!帰ったのエルっち!」
その声に応えて奥よりジャージ姿の花蓮が現れるとエールに向けて自慢の笑みを見せた。
「今、戻りました華蓮さん」そこへ恵が告げると、亨と出流も荷物を降ろしながらに「ただいまと」頭を下げた。
「おかえりおかえり!・・・あら、なんか大荷物ね・・・お土産?」
と、亨が担いでいたフライボーダーを降ろしたところへ華蓮の目が言って思わず問いかけた。
「あ、あれは私の落とし物というか探し物というか、か・・・華蓮さんのお土産はこっち!」
「おろ、あんころもっち!」
するとエールが間髪入れず会話に入って、持っていたお土産を華蓮に差し出した。
「ありがとエルっち!わたしこれ大好きなのよねぇ!エルっちも一緒に食べる?」
「いいの!?食べる食べる!!」
そうして地元のお土産であるに笹くるまれた餡子餅を一緒に頬張り始めたのだった。
「おいエル子、それよりツール全部集まったんだろ?あの胸・・・助手のお姉さんに連絡しなくていいのか?」
ガス!っと一瞬の言い間違いも見抜かれて恵の手刀が亨に突き刺さった。
「リーナスよ、このエロトール!メグもっとやっちゃって!」
「お・・・おい・・・待て、恵・・・」
ドゴォ!
今度は亨の鳩尾に渾身の一撃が決まって地に伏せさせたのだった。
「あらら・・・亨君も、うかつねぇ・・・」
「か・・・華蓮さんはそれなりにあるからね・・・・」
餡子餅を、もしゃもしゃと食べながらにエールの視線は華蓮の胸部に注目していた。
そこへ。
「エール、それでどうするんだ?」
ごちゃっと集めたままのツールの前に立って出流の声が取んだ。
「わ・・・わかったわよ!あ・・・でも、また屋根の上に登らなきゃだめなのよね・・・」
言われてエールはチラリと本堂の屋根の上を眺めた。
前と同じく空に小さな穴が空いたままになっており、よく見なければその奇妙さはわからないものであった。
「華蓮さん、和尚さんっている?やっぱ、お寺の屋根の上登ってたら怒られるよね?」
前に登った時は、たまたま見られなかったからよかったもののと思い返しながらにエールは問いかけた。
「・・・・うん、まぁ、そりゃあね。ま、でもエルっちの魔法絡みの事なんでしょ?それなら私がお父さん引き留めておいてあげるよ」
グっとサムズアップして応えた華蓮にエールは満面の笑みを作って「ありがとう!」と声を大きくするのだった。
※
「よっと・・・」
竹箒で空を舞い、そのまま本堂の屋根に跳び移ったエールは空に空いた小さな穴に向けてスマートツールを掲げた。
するとスマートツールの画面の電波状態を表すシンボルマークが回復に代わって通話ができる様を教えるのだった。
「よし!」
と、エールは手早くスマートツールを操作し、パパっとテレビ電話の機能を起動させるのだった。
屋根の上で通信中の待機音が響いていく。
「繋がったか?」
「本当に未来の宇宙と繋がってるんだね?」
「この穴どうなってるんだ?」
そこへ後からやってきた亨たちがエールの周りを取り囲んだのだった。
瓦屋根をカチャカチャと鳴らして4人は、次に起こることに期待を膨らませていた。
「・・・あんたら、リーナス目当てじゃないでしょうね・・・」
ガルル!と狂犬のように唸ってエールは亨と、今度は出流にまで睨みを強めた。
「大丈夫よエールちゃん、私が視てるから」そこへ目の据わった恵の声が飛んで、亨は背筋が凍る思いであった。
「み・・・未知なるものとの遭遇に興味があるだけだ・・・!な、出流!」
「あ・・・あぁ、音で会話する準備はできてるぞ!」
「・・・・・・・怪しい」
亨はともかく出流まで声を詰まらせたことに、眉間に皺を寄せるエール。
しかしちょうどそこへ待機音が切れて、スマートツールの画面に誰かを映し出したのだった。
『やぁ!エールくん!!』
そこに現れたのは元気いっぱいに挨拶する薄紅色の小さなイルカであった。
「メガット博士!」
同時にエールが目を丸くして驚いた。
『どうやら全部集めたようだねエールくん・・・・・・・む!』
そう言ってメガットと呼ばれたイルカは車いすの様な動くイスを動かすと、カメラの焦点が遠目になってもっと全体を映した状態になった。
すると博士の後ろには、あの紅い肌の女性リーナスが白衣姿で本を調べていた。
「「おお!」」亨と出流が見を乗り出して歓喜の声を上げた。どうやらリーナスはカメラに映っているに気づいていないようで、調べ物をする仕草の中で身を屈ませたことによって、そのたわわの胸の谷間が見事に映し出されたからであった。
ドゴスッ!!
刹那、恵の鉄拳とエールの蹴りが二人を襲って、屋根の上から落ちるぐらいの勢いで転がらせてしまうのだった。
「・・・ぐ!」「うぉ!」
どうにか堪えて、瓦屋根でふんばる亨と出流。
そうしてそんな二人を差し置いて映像は続きを見せるのだった。
『博士、セクハラです』メガットの方など見もせずにリーナスの声が響いた。
『え?いや・・・なんの・・・ことかなぁ?ちょ・・・ちょっとカメラの位置を調整してただけでな・・・』
『あ、奥さん来てますよ』
その言葉を聞いた瞬間、メガットはしどろもどろだった対応を打ち消して即座に自らのドアップ映像へと切り替えるのだった。
『さ!さて!さっそく本題に入ろうか!!』
「そうですね、続けてたら死人が出てたかもしれまんせし」
気合を込めて言ったメガットに対してエールからは冷たい言葉しか返ってこなかった。
『オホン!とりあえずツール集めご苦労様!こちらで確認した5つは全部あるね?』
「うん。大丈夫だと思う。だけど、あんまり変なの作んないでよね、変換機なんかすっごい大変だったんだから」
『変なのって・・・みんな実用的なものばかりのはずなんだけど・・・』
困った表情をみせるメガット博士は、引き笑いまでしながらに呟いてしまう。
『ま・・・まぁ、ツールが集まったのはこれで良しとして!問題は、こっちへの帰還方法だね!』
「そ、そうよ!どうすれいいの!?」
そこでようやく話が進んだのか会話が弾んだ。
『エールくん、まずこれを見てくれ』
するとカメラがまた動いて映像が他のものを映し出した。
今度はリーナスではなく何か大きな物置のような部屋で、散らかった部屋内の一角を映し出していた。
『ここをよく見てくれ・・・空中にちいさな穴が空いているだろう?』
「・・・あ!本当だ!」
メガットの声に従って映像を食い入るように見ていたエールは、何かに気付いてい声を上げた。
そう、確かに博士の言う通り空中に小さな穴があいているのだ。まるで、こちら屋根の上の中空に空いた穴と同じようであった。
『おそらくこれが、エールくんの通った空間亀裂・・・・その跡であり、たぶんだがそちらと繋がっていると思われる』
そこでようやく亨らも復活して映像を一緒に見だすのだった。
『さて・・・これを、ようは君とそしてツール達を通れるくらいに拡げなければならないわけだ』
「そうよね、私ひとりならいくら亀裂が細くても通れるんだけど」
「そうか?」
ズゴオ!
エールのちょっとしたジョークにツッコんだだけの亨だったが、お返しは地獄突きであった。
『いいかいエール君?この亀裂は本来「時空介入機」の副産物的現象で生まれたんだ』
「・・・は、はぁ・・・」
突然、難しい言葉が出てきて頭を傾げるエール。
『しかし、介入機はもうないし作る気もない』
「えぇ!?」
『慌てなくていい。たとえなくても疑似的に現象だけを引き起こす装置は作ることに成功した』
「・・・ほっ・・・」
『・・・と、安心するのは早いぞ。疑似装置は出来たものの、亀裂を生み出すには波があるようでね・・・・タイミングがシビアなんだ』
「・・・つ、つまりどうしろと?」
『まず装置を使って疑似的に現象を起こしつづける。そして亀裂が生まれたドンピシャのタイミングで、君がそちら側の亀裂を拓くんだ』
「こっち側って・・・・ど、どうやるの?」
『現象自体はどちらにも影響あるのだが、そちら側に足りないものは流れ込むヒィアートエネルギーの量だ。簡単に言えば、亀裂が拓くタイミングで、君が魔力を全開に亀裂の穴に叩き込めばいい』
「な、なるほど・・・タイミングを見計らって魔力全開ね・・・!」
そう考えをまとめたエールはグッと握りこぶしを作ると、簡単なシミュレーションを始めた。
そんな彼女を見て、帰還の方法がわかったのだと理解した亨らは顔を見合わせあって、大きく頷いた。
「ちょ・・・ちょっと待って!エールちゃん!」
と、そこへ恵の声が飛んで、今にも己の魔力を解き放とうとしていたエールを引き留めたのだった。同じようにスマートツールの画面の向こうでイルカ博士が目をパチパチしている。
「・・・そ、その翻訳されてないから何言ってるかわかんないけど、たぶんその穴を拡げるんだよね?」
「そうだけど・・・なんかダメなことあるかな?」
「当たり前だ、こんな日中にやって誰かの目についたらどうするんだ?」
不思議がるエールへ向けて恵に続いて亨が言って、彼女を感ずかせた。
「そ・・・そっか、あんま派手にやるとまずいわけだ・・・」
呟くエールが本堂の下の方をみやると、何処から近所の子供たちが遊び来たのか、笑い声が聞こえたりその姿がチラリと見えたりしていた。
『どうかしたかエールくん?』
すると今度はメガット博士から問いが飛んだ。
「博士、この時代じゃこういった類のこと目立っちゃうのうよ」
『なるほど・・・人目について歴史に影響を与えてもよろしくはないか・・・』
「だったら、夜に出直したらどうだ?」
そうして最終的に出流がズイっとエールによって提案を告げた。
「そうね・・・その方が一目にはつかないのは確実ね・・・」そう頷いたエールは、一度瞬いてから博士を再度見やった。
「博士、夜に・・・こっちの時代で夜になったら決行するわ」
『そうか、だったらその時にまた連絡してくれるといい・・・ところで』
そうすると通話を終えようとしていたメガットはいやらしい笑みを見せた。
『男が二人見えるが、どっちがエール君の本命なんだい?やっぱり・・・』
ブチッ!!
台詞の途中で通話は一方的に閉ざされて、メガットは暗い画面に追放されてしまった。
「・・・あのイルカの人、なんか言ってた途中じゃないのか?」
「ななななななんでもないわよ!ただのセクハラ発言だから!!」
すぐ横からの出流の問いかけに顔真っ赤にして応えるエールは慌ててスマートツールを隠して、身振りを大きくさせた。
「ということは夜まで待機か」
「そうだね、一回帰ってまた集まろうか?」
亨、恵と顔を見合わせて言うと、それに納得してエールと出流も首を縦に降るのだった。
※
夜になって、再び亨らは寺の母屋の前に集まっていた。
また華蓮の部屋にでもダベッて出てこないかと思っていたら、今回は母屋の前に二人そろって待ち構えていたのである。
それも花火をしながら。
「来たわね御三方!」手持ち花火をいくつも持ちながらに、華蓮が自慢げな顔を見せていた。
「・・・・なにやってんですか?」亨が聞いた。
「見てわかるでしょ、花火よ花火」
応えながらに亨らに花火の火のついた側を向けて華蓮が笑う。
「華蓮さん!あぶない!ってか人に向けないでください!」今度は恵が言うと、そのまま亨を盾にした。
「おぉ、そうね!わかった?エルっち?花火のルールその1よ」
と、華蓮は後ろに居て同じく手持ち花火を楽しむエールに告げた。
が。
「え?その1は水を用意するじゃなかったんですか?」
くるりと、手に持った花火をそのままにエールは華蓮の方を向いた。
「あっつ!あつ!エルっち!向き向き!!」
人にやっておいて自業自得だが、花蓮は火花を払って急いで距離を取った。
「あぁ、ごめんなさい・・・あ、終わっちゃった」
そうして笑ってごまかすなかエールの手持ち花火は役目を終えて静かに灯を消すのだった。
「・・・・で、なんで花火なんてしてるんですか?」
そうすると、ようやく静けさを取り戻した二人に出流が問いかけた。
「なんでって思い出づくりよ。エルっち今夜で帰るんでしょ?だったらちょっとでも私たちとの思い出作ってあげなきゃね」
そう言うと、華蓮は新しい花火の袋を開けて再び笑みを作った。
「あり?これ線香花火だ・・・ま、いいか」
と、まだまだ花火を続ける気満々で開けた袋から線香花火を取り出して皆に手渡すのだった。
「ほらほら、あんまり五月蠅くできないからさ、これなら静かにできるでしょ」
そうして皆に線香花火が行きわたったのを確認して、華蓮は自分の花火に火をつけた。
「へぇー綺麗ー、こんなのあるんだ!」
「お!やっぱりエルっち見るの初めてか!」
エールからの新鮮な感想に更に笑みを作った華蓮は、皆もやれとマッチを渡すのだった。
「あ、ほら、私の方が亨のより大きいんじゃない?」
「そうか?一緒ぐらいだろ?勢いは俺の方がある感じだろ」
亨と恵がしゃがんで自分たちの線香花火を見つめては言い合っている。
「違う違う、擦るんだよ、マッチもつけられんのかお前は」
「ううううっさいわね、魔法でつければ早いのよ!」
一方ではいがみ合いながらもどうにか線香花火を開始した出流とエールがいる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そうして、その間では一人、線香花火を嗜む華蓮の姿があり、その瞳はどこか虚しさを帯びていた。
「わ・・・!ちょっと亨近づけすぎよ!」
「そっちだろ!」
亨と恵の線香花火の玉が大きくなるにつれ距離が迫ってしまったのだろう。
「「あ」」
そしてしまいには両者の灯はひとつになってしまった。
「くっついちゃったじゃない!」
「だから俺のせいじゃないだろ!」
言いあいながらも、くっついた線香花火を介して自分らも距離が近くなっているのに気付いているのかいないのか、華蓮の荒んだ瞳のチェックが入っていた。
「これって綺麗だけど地味ね・・・」
「線香花火ってのはこういうもんだ、家族とか恋人とかとまったりとすることが多いかな」
「・・・こ・・・こい・・・・」急に顔を紅くして下を向くエール。
もちろん、華蓮のチェックはすかさず入っている。
「まぁ、あとよくあるのは先に落ちた方が負けとか、玉が落ちなかったら願いが叶うとかかな」
「願いが・・・叶う?本当に?」
「ジンクスってだけだ」
出流が呆気らかんに言う一方で、どこか真剣眼差しを見せる。
「じゃ・・じゃぁ・・・もし願いが叶ったら・・・・その・・・私と・・・」更に顔を紅くしてエールは言葉を詰まらせる。
そして
「一緒・・・
ポト
「「あ」」
エールの線香花火は彼女のセリフの途中で力尽きて、光を失い地に堕ちたのだった。
「えぇー!!」
「残念、願いは叶わないし俺の勝ちだな」
未だにチカチカと線香花火を輝かせて、出流は笑って言うのだった。
「ううう・・まだよ!こうなりゃ忍法・・・・じゃない、線香花火十番勝負よ!」
「お前は線香花火で決闘する気か?」
両手にありったけの線香花火をもったエールに、出流は呆れ声で呟くのだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・チッ」
そんなイチャイチャな光景を見せつけられた(られてしまった)華蓮は思わず舌打ちが漏れてしまった。
しかし、そんな音も二組には聞こえていないようで、更に華蓮の心が虚無に染まっていった。
「花火なんかしなきゃよかった・・・」
眉間にしわを寄せ、虚しさを極めた瞳を手に入れた華蓮はじっと己の線香花火を睨んだ。
元気にチカチカと火花を散らし、まったく落ちるような様も見せてはいない。
しかし逆にそれが、また一つ怒りの対象となって舌打ちをさせてしまうのだった。
※
「エルっち全部持った?忘れ物ない?」
「う・・・うん、大丈夫かな」
花火を終えて(強制終了させた)、母屋の部屋に戻った華蓮は荷物をまとめるエールに過保護のごとくかまっていた。
それは先程の悔しさを晴らすためか、ちょっとでも二組が桃色の空間を作り出そうとすれば割って入っては邪魔していたのだが。
「・・・あ、そうだ!華蓮さん!最後に記念写真撮りましょう!」
と、そこへエールからの提案が上がって華蓮の動きがピタリと停まった。
「ううう・・・さすがエルっち、我が最後の弟子よ・・良いこと言ってくれるわ・・・」
「最初の弟子とかいたんすか?」
切り替わりの早い華蓮に呆れ声で告げる亨。
するとエールは己のスマートツールを取り出すと、「集まって!」と皆を呼び寄せた。
「ほら寄って寄って!」
「・・・・おいエル子、全員あつまったら誰がシャッター押すんだよ?」
すると集まり終わったところで亨から当然の質問がとんで、皆が頷いた。
「ふふふ、どうやら私の魔法の神髄をお見せするときが来たようね!」
瞬間、自信満々の表情に変わったエールが手に持っていたスマートツールをふわりと宙に浮かべた。
「ほっ!」そうすると、エールの掛け声ともスマートツールはカメラのレンズをこちらに向けたまま、全員を映せるくらいの位置で、空中浮遊して停まるのだった。
「へぇ魔法で浮かせてるんだ」恵が言った。
「そうよ、さらにこのままでも距離感もわかるしシャッターも押せるわ!魔法族女子なら誰でも練習し会得している、あるある技よ!」
ふはは!とエールは笑い飛ばすが、どうやらスマートツールに向けて手を伸ばしたままの状態は変えることができないようで、それに華蓮が気が付いた。
「でも、エルっちそれじゃ可愛いポーズとれないじゃん?」
「う・・・!さすが師匠、この技の唯一の欠点を見抜くとは!でも大丈夫、私はその部分も克服しています!」
と、いつの間に師弟関係になっていたかは知らないが、エールは再び掛け声をかけて伸ばした手を動かし始めた。
「わ・・・私ぐらいになれば・・・あそこに固定させたままでも・・・・可愛いポーズを・・・・!!」
ぐぐぐぐぐ!とゆっくり動かした手を折りたたむように、彼女が思うを可愛いポーズへと移行していく。
「ど・・・どう!・・・できてるでしょ!?」
「・・・え、うーん・・・可愛いかは置いといて、すっごい震えてるよ」
激しくぐらつくエールを見て、華蓮が言い放った。
「あ・・・あの、華蓮しゃん・・・・おおおお抑えてくれたら、たたた助かる・・・」
すると限界なのか、いっぱいいっぱいの顔を見せたエールの声が飛ぶのだった。
「ダメじゃねぇか」「エルちゃん、無理しなくても」亨と恵がそれを見て、告げた。
「抑えてればいいのね?エルっち?でもそれなら私じゃなくても」とそこまで言うと、出流へと視線を向けた。
「イズくん、ほら、エルっち抑えてあげて」
「え?あ、あぁ、はい。別にいいですけど」
それを聞いた瞬間、エールの目がカッと見開いた。
「ふぇ!?ちょちょちょちょ!華蓮さん!!待って待ってまっ・・・」
ガシ
顔を真っ赤にして何かを抗議しようとしたエールだったが、次には崩れそうな体勢を出流に抑えられて押し黙ってしまった。
「・・・・・・・・・・・・・ぁ・・・う」顔を真っ赤にして固まるエール。
「おい、大丈夫か?」尋ねる出流だが返答はなかった。
「はいはい、大丈夫すぎるくらいだから、さっさと撮るわよ」
そうして改めて全員が寄り集まったところで、スマートツールのシャッターは押されて、その内部に記念写真の画像を収めるのだった。
※
「華蓮さん!心臓停まるかと思ったじゃないですか!」
「ふふ・・・まだまだ修行が足りないなエルっちは」
母屋を出て本堂に移った一行の中で、エールは華蓮に意見していた。
「「よいせっと・・・」」
そんな脇では亨と出流がツールを一まとめにした大袋を、ドサッと降ろして準備を進めていた。
「エルちゃん、ツールも全部も持ってきたし、準備万端よ」
そこへ恵の声が飛んでエールと華蓮を振り返らせた。
「ほらほら、準備できたって」
「もう、華蓮さん・・・!」
そうして二人してツールの方へと進んでいくのだった。
「えーと、フルサポータ―、フライボーダー、滅氷機、地層記憶機、電気変換機、それに私のスマートツールと翻訳チョーカー・・・と、よし全部あるわ」
集まったツールを指さし確認してエールは言うと、そのまま本堂の屋根を見上げた。
「華蓮さん屋根の上登っちゃうけどいいよね?」
「Ok、Ok、私もたまに登ってるから全然かまわないわよ」
そうして華蓮の軽い了承を得たエールは、先に持っていた竹箒を使いふわりと舞いがって屋根の上へと降り立った。
「・・・・よし、博士にかけてと・・・」
そのまま空に空く小さな穴を確認すると、スマートツールを操作。メガット博士へ向けて通信を始めた。
プルルルと待機音を鳴らしてスマートスールが博士を呼び出す。
そして。
『やあ!エールくん!準備は整ったかい?』
またまた薄紅色のイルカが画面いっぱいに現れて、問いかけてきたのだった。
「うん。ツールもみんな揃ってる!他に目立つ心配もないし準備OKよ!」
そう応える共に「了解だ!」と頷いたメガットは、画面の奥に消えると、そのままリーナスを呼ぶ声が聞こえた。
『疑似装置の発動だ!慎重に頼むぞ!』
『はいはい』
その声だけが画面から聞こえると、次には奇妙な機械音と共に画面が揺れ出したのがわかった。
「博士?大丈夫なの?」
『だだだ、大丈夫だ!よぉーし・・・・こっちの亀裂は拡がり始めた!次はそっちの番だ!』
慌ただしい衝撃音の中で博士の声が飛んで、エールはとりあえず頷いては息をのんだ。
「よ・・・よし・・・魔力をこの穴に送ればいいのね」
そうすると、ちょうど頭の上にある小さな穴に両手を伸ばして力を込めた。
ブゥウウウウウウン・・・!
と、エールの身体から緑色の淡い光があふれて空の穴を包み込んでいく。
「おお、エル子のやつ魔法っぽいことしてるぞ」
それを屋根下の本堂から眺めていた亨が呟いた。
月明かりぐらいしか灯りがない場所で、彼女を纏う緑の光はとても神秘的に見えた。
「はやりの『映え』ってやつね、エルっちそこまで習得していたとは・・・私も鼻が高いわ・・・」
「華蓮さんはエルちゃんを、まったく特別視してないんですね・・・」
変なところで感心する華蓮に戸惑った顔をみせる恵。
すると、そうしているところで屋根上では変化があった。
ギン!!
一瞬、稲光のような光が走ったかと思うと、緑の光が膨張し本堂の上を染め上げたのだった。
そうして亨らが驚く中、屋根上では空に空いた大きな穴の前に立つエールがいた。
「トール!ツールを出して!」
すると間髪入れず上からエールの声が飛んだ。
「お、おう!出流!」
「あぁ!」
そう言われて亨と出流は大きな風呂敷に一まとめにしたツールの束を力を合わせて、よいしょと持ち上げた。
「エル子!これでいいか!?」
本堂の屋根下から風呂敷を見せて告げる亨と出流。
と、二人がかなりの重量に音を上げそうになっていると、急にその重さがなくなったように感じたのだった。
「サンキュー!あとは任せて!」
そう、それはエールが魔法で浮かせたからであり、大きな風呂敷はふわりふわりと浮かんで、彼女の元にまで浮かび上がるのだった。
時空間の亀裂の前で、全てのツールを持ったエールはじっとそれらを見つめていた。
そこへ。
『エール君、亀裂を長時間持続させておくのは危険だ。別れの言葉を贈るのなら手短にな』
スマートツールより博士の声が届いた。
無論、そう言われることなどわかっていた。先に挨拶を済ませておけば良いだけのことでもあったのだが。
――するとそこへ。
「よっと・・・、ほら恵・・・」「・・・うん」
亀裂を前に渋っているエールの元へと、亨らが屋根に登ってきたのだった。
「それが時間の・・・・・・まぁタイムマシンみたいなもんか?」
亨が告げるその後で、恵、そして出流、華蓮と登ってきて屋根上で揃ってエールへと視線を向けたのだった。
「みんな・・・」振り返って皆と視線を合わせて、照れくさそうに瞬くエール。
「いや、あれ自体はタイムマシンじゃないだろ?」
「そうか?引き出し開けるタイプのやつはあんなじゃなかったか?」
「あれはもっとひん曲がった時計がいっぱい貼っついたみたいになてって・・・」
「そんなデザインの話してないで!みんなちゃんとエールちゃんに挨拶しないと!」
華蓮まで交えて時間の亀裂について話し合いだしたのを恵が一喝して、中断させると、改めてエールと向き合うのだった。
「エルっち、向こうに帰っても私たちの絆は永遠よ!」
「はい、カレンさん!次来るときは博士にデロリアン作ってもらいます!」
よくわからない「1の?」「2の?」「3の列車?」などとお互いに言い合い、さらに笑いあうエールと華蓮。
「おい」
と、出流が声をかけて、エールの動きがピタリと止まった。
「なんか土産でも用意できればよかったんだけど・・・なんもなかったし、これでももってけ」
すると出流は上着のポケットから小さな何かを取り出してエールに投げ渡すのだった。
「わた!た!・・・なに・・・?ピック?」
それは丸みを帯びた小さな三角形、ギターを弾くときに使うピックであった。
「それしかなかったし我慢してくれ」
「え・・・う・・・うん・・・」
「エルっち、顔真っ赤だよ」
華蓮に見抜かれて更に顔を紅くするエール。
そこへ。
「エル子」「エルちゃん」
亨と恵が声をかけた。
「・・・ほんのちょっとの間だけだったけど楽しかったよ、きっと人生で一番の思い出になったと思う」
言ってエールの手を握る恵に、エールも大きく頷いて笑顔を見せた。
「まぁ、おかげで体中バッキバキだけどな・・・」
「あんたの使い方が可笑しいのよ」
そう笑って告げる亨に、同じように笑って返すエール。
そうやって皆との挨拶が済んだ、その矢先。
バチィ!バチバチィ!
亀裂が歪んで危険な音を発し始めたのだった。
『エール君、限界だ!すぐに戻って来たまえ!』
「う、うん!!わかったわ博士!!」
スマートツールからの警告に急いで返答したエールは今一度ツール達を浮かべて自分の脇に寄せた。
そうして。
「トール!メグ!イズ!カレンさん!本当にありがとう!!皆元気でね!!」
大きな声でいうと、次にはとある一人に視線をしぼり、バッ!と首元のチョーカーを取り外すのだった。
「<&$%'〇#△×ーーーー!!」
そうしてそれまで一番大きな声で自分の言語で叫んだのだった。
呆気にとられる亨らだったが、次にはエールは『バイバイ』と手を振ってツールごと亀裂に飛び込んだのだった。
ビビッビ!ビビ!シューン・・・・・・・・
エールが飛び込んだのとほぼ同じタイミングで亀裂は音を立て掻き消えて、後には月夜に照らされる本堂の屋根が残るだけであった。
「・・・あいつ最後なんて言ってたんだ?」亨が疑問を呟いた。
「さぁ?あっちの言葉みたいだったからな」それに出流も同じように不思議がった顔を見せていた。
そんな二人を後ろ方見やって恵と華蓮は溜息をついていた。
「エルちゃんも言い損ね・・・・なんであれでわからないかな・・・・」
「でも亨くんもわかってないみたいだし、そこは同罪よ恵ちゃん・・・」
やれやれと首を横に振る女子二人。
そうしてエールを見送った4人は、屋根を降りようと足を進めた。その時。
「こぉらー!!誰じゃ!屋根の上で遊んどる奴は!!」
母屋の方から怒鳴り声が飛んできて思わずすくみ上ってしまうのだった。
「やば!お父さんだ!!バレちゃったか!!」華蓮がバツの悪い顔で言った。
「私がなんとか誤魔化しておくから、恵ちゃんたちは見つからないように帰るのよ!」
「・・・わ、わかりました・・・すみません華蓮さん・・・」
そうして華蓮の身体を張った(?)作戦により、亨らは本堂から脱して各々の家へと帰っていくのだった。
※




