第13章 おつかれ
合流を果たした4人はエールの意見の元、どうにかボーダーの電源を落とすことに成功し、変換機ごと再び起動しないよう慎重に運ぶことを決めていた。
そうすると、出流がひとつの問題をあげた。
そのことに皆も納得して、今度は出流の案内の元、停電騒ぎの治まった街中へと移動を始めた。
※
やってきたのは、とある路地裏であり、そこには一人の男性が倒れたままであった。
「・・・え?もしかして相田先生?」恵が倒れた男性を見て思わず言った。
「科学のか?なんでうちの先生がこんなところに・・・?」それに続いて亨も言って、不思議そうな顔を見せる。
「・・・・・・・なんとなく事情はわかっているが、やはり本人の口から説明してもらうのが一番だろうな」
と、そこへ出流が一歩踏み出して、亨に反対側を持つよう言って二人して彼の肩を担いで、傍のビル壁へと添わせるように寄せ掛けた。
「先生!相田先生!」そして亨が、肩を揺らして彼の名を何度も読んで起こし始めた。
だが、相田はなかなか目覚めることはなく、「うぅ・・・」とうめき声をあげるだけであった。
「面倒くさいわね・・・水でもぶっかければ?なんなら私が魔法で・・・」
「エルちゃん!そこまでしなくていいから・・・!」
後ろで溜息交じりのエールに制止の声をかける恵の声が飛ぶが、亨と出流はそのまま相田先生の目覚めを見張っていた。
そして。
「・・・・・・う・・・・・・あ、あぁ・・・あれ・・・ここは・・・おれ・・・」
何度目かの掛け声と揺さぶりで、ようやく意識を取り戻したらしく相田先生は半覚醒のままであたりを見渡し始めた。
「・・・はっ」と目を見開いて更にあたりを見渡す相田先生。
それと同時に亨らが目に入って、飛び起きるのだった。
「き、君たち!!・・・!そうだ・・・!あの男は・・・!!」
だが亨たちに驚いたのも束の間に相田は、だれかを探してそこかしこに視線を巡らせた。
「先生の探している男なら、もうここにはいませんよ・・・・・・先生を気絶させた後、そこの金髪が返り討ちにしたけど、さっき見たらもういなくなっていました」出流がエールを指さしてから言った。
「・・・・・・き、君たちはいったい・・・あの妙な機械のことも知っているのか・・・?」
「知ってるけど、それよりなんで相田先生が変換機持っててこんなところにいるんだ?」今度は亨が尋ねた。
それによって相田は声を詰まらせては険しい表情を見せた。
「・・・ど、どうやら君たちには隠してはおけないようだな・・・というよりは私もあれがなんだったのかを知りたい気持ちもある」
相田は一度、大きく瞬くとゆっくり立ち上がって、あらためて事のしだい話し始めるのだった。
※
「あれは、夏休みに入る少し前だった」
相田の思い出しながら語り、亨ら4人は真面目な顔でそれを聞いている。
「ある日、遅くなった夜の帰り道・・・空が淡く光ったのを覚えている・・・」思い返す相田の口ぶりが重くなる「・・・・・ちょうど学校に近い寺院あたりのだったと思うが、妙なこともあるなと思いながらも帰路を急いでところに、足元に何かが転がっているのに気が付いて拾い上げてみたんだ」
「・・・・・・それが変換機だったと・・・?」亨が聞いた。
「・・・・・あぁ、わかったのは、もう少しだけ先だけどね」相田は頷いて自虐的に笑った。
「本来なら警察に届けるべきだったのだが、疲れていることもあって明日にしようと家に持ち帰った・・・・・・・それが私の好奇心を掻き立ててしまった」少々、雰囲気が変わった様子で言う相田。
「おそらく故障していたのだろう、機械が起動したかたと思うと私の家の電力がすべてストップして、その影響は私の家を中心に広範囲に拡がってしまった」
それを聞いて恵が「そういえば夜中に停電があった日が・・・」と思い出して呟いている。
「仮にも科学をかじっている身としては、それは魅力的なものに見えて、解析を始めた・・・・・・・・だが、私には結局解き明かすことはできなかった。」
「そこで私は大学時代の師である教授に連絡をとって相談を試みた・・・・が、機械の力は教授を巻き込んでしまっていた」
溜息をもらして間は続ける。
「教授を通して未知のテクノロジーの存在は、あらゆる方面へ拡散されてしまった。教授はいろんな知識を集めて解析を進めようとしだだけなんだけど・・・」
首を横に振って言う相田に四人の視線は集まったままである。
「あらゆる方面・・・・そう、悪い方面にも情報は渡ってしまったらしい・・・」
「・・・あのチンピラね」エールが思い返して言った。
「そうだ。私も良くないと感じてはいたが、解析の援助とバックアップを約束するというので、ここまでやってきたのだけど・・・」
「騙されたわけだ」亨が言った。
それに相田は困ったような顔を見せながらに頷いた。
「・・・・・・あの類の連中は、解析よりも機械の価値を吊り上げて他所へ高値で売り飛ばすだけのあくどい奴らだ・・・」
「なるほど、じゃ、やっつけちゃって良かったわけだ」エールは「ふふん」と鼻を高くして笑って見せた。
「やっつけた?そういえばさっきもそんなこと言って・・・それに君は、うちの生徒じゃないみたいだけど・・・」
そこでようやくエールの存在に疑問を持った相田は、彼女の容姿を見ながらに首を傾げた。
「あ・・・あぁ!この子はエールちゃん!え・・・と・・・最近知り合った私たちの友達なんです!海外の学生で今は休暇で日本に来てるというか・・・その・・・そん感じです・・・!」
そこへ恵が割って入って、取り繕った言葉でどうにかエールの事を説明するのだった。
相田も、何故だか必死の恵に推されるように「お、おう・・・」と頷けさせられるだけであった。
そうしたところで、相田の変換機についての話は一段落して皆もそれぞれに息を付いていた。
「先生、あの機械はもともとこのエル子のものなんだ、だからあれはエル子に返さくなくちゃいけんないんだ」
「・・・そうか・・・もったいないが、正当な持ち主がいるなら仕方ない・・・教授にも私から伝えおくさ」
言いながらに、四人それぞれに頭を下げた相田は汚れたスーツを払いながらに踵を返した。
「私は帰るとするよ・・・もちろん君たちのことは他言しない・・・が、まぁ、夏休みだからと言って受験生に遊べとは言えないか・・・」
すると、少しだけ振り向いた相田は亨と恵、それからエールと出流をチラリと見やって笑みを作った。
「なにより、青春の邪魔をするほど野暮ではないよ」
そうだけ言い残して、相田は夜の都会へと消えていくのだった。
「・・・なにが言いたかったんだ相田先生?」相田がいなくなった少し後で亨が呟いた。
「じゃ、邪魔しないってことは・・・止める人がいないってことだから・・・そ、その・・・」
「・・・・さ、さいごまでいっちゃう・・・ってこと・・・」
一方でぶつぶつ呟き続ける恵とエールは顔を真っ赤にしていた。
と、そこへ。
「とりあえず戻って休もう、さすがに疲れたろ?」
出流が言って、皆の視線を集めた。
「そうだな、やれることは全部やったんだ、あとは帰るだけだな!」
やれやれと亨は深く息をつくと、恵とエールにも声をかけて宿へと戻るよう足を進めるのであった。
※
四人は宿にしている出流の親戚の家へと帰ってきた。
回収した変換機とフライボーダー、それに亨のつけていたフルサポータ―も完全に沈黙させて、別部屋に集めて置いた。
「はぁ・・・終わった終わった・・・」
「それ結構疲れるのか?」
フルサポータ―を外したことで解放感をあふれ出している亨へ向けて出流が聞いていた。
「ん?あぁ、だいぶ慣れたけど窮屈なのには変わりないからな」
「ふーん、まぁもともと介助用ってんならあんまり変な使い方してても良くないだろうしな」
腕を腰に当て軽く笑いながらに言う出流。
と、そんな会話をする中で亨は背後より女子二人の恨めしそうな視線感じて振り返った。
「・・・・・・なんだよ」
そこにはぶつぶつと愚痴を垂れる恵とエールがいた。
「せっかくの東京なのに・・・」「夜はこれからなのに・・・」
暗い顔とダークな瞳で亨と出流を睨んでいる。
「ろくに観光できなかったから拗ねてるんだろ」出流が言った。
「しかたないだろ、ツールの回収で来たんだし。それにスカイツリーにはいったろ?」
「・・・・・・・・メグはね。私は路地裏ばっかりだったけど」
ぶー、と、ふくれっ面を作って亨に告げるエール。その横では恵が少し照れた顔を見せている。
「・・・・・・おい、どうする?さすがに今から動くのは辛いぞ」亨が出流へと問いかけた。
「たしかにな・・・・うーん」言われて悩む出流。
「・・・そうだな。それじゃ回収記念のパーティーでもするか・・・」
「あ!それいい!するする!」それにエールが飛びついた。
「えぇ・・・それはあっちに戻ってからでもいいだろ」亨が呆れ気味に言った。
「それはそれでするの!というか華蓮さんは初めからそのつもりだったし!」
はしゃいで言うエールは勢いを取り戻して「なにする!?」を連呼している。
「・・・と、いっても学生の俺たちでは、そんな盛大なのはできないし・・・」
「ならコンビニで適当に見繕ってくるよ」
考える出流のセリフに続いて亨が言うと、そのまま重い腰を上げて「やれやれ」と首を振った。
と、そこで、はしゃぎまくっていたエール動きがピタリと止まり何かを思いついたようにポン!と手を叩いた。
「は!はいはい!トールひとりで行くのは危険だから、メグも一緒に行ったらどうかな?!」
「エ・・・エルちゃん!?」
突然の名指しに顔を紅くして驚く恵。
「・・・なんだよ危険て」
「え!?・・・・え・・・え・・・ち、痴漢とか?」
一瞬だが、時が停まった。
「・・・・・・・・・・・・そ、そう!痴漢!!メグが痴漢にあったら危ないでしょ!私だったらもっと危ないし!」
「・・・・・・・さりげなく自己主張するやつめ」ボソッと亨がツッコんだ。
「いいから!!二人して買い出し行ってくる!はいはい!!」
そうすると、妙に張り切ったエールは亨と恵の腕を掴むと無理矢理玄関の方まで引っ張り出した。
「ちょっと・・・エルちゃん、これって・・・!」
「そんなにパーティーしたいのか?」
遂には玄関前まで送り出してエールは満面の笑みを見せる。
「じゃ、買い出しヨロシクね!・・・それと頑張ってねメグ」
その言葉を別れにエールは玄関扉を閉めた。それと同時に恵が顔を真っ赤にしているがわかって
、更に笑顔を見せるのだった。
「ふふふ・・・上手くいったわ・・・我ながらに博士譲りの完璧な作戦ね」
自画自賛か、玄関前で妙な笑いを行うエール。
「えらい張り切ってるな」
そんな背後には様子を見ていた出流が呆れ顔で立っていた。
「・・・・!わ、わかってないわね!メグのためにも二人っきりにしてあげたのよ!」
「・・・ふーん、まぁなんでもいいけど。それじゃ俺たちはパーティーする場所片付けるぞ」
「え?あ、うん・・・」
「親戚とはいえ他人の家だからな、多少は遠慮するようにな」
「それ、二人が帰ってきてから言えばいいじゃない」
そんな会話をしながらに、あれこれと片づけをおこなうエールと出流。
と、そこで、またしてもエールの動きがピタリと止まってしまった。それも今度は顔を紅くして震えだしている。
「・・・・し・・・・しまった・・・!」
「なんだ?」
突然、声を漏らしたエールに出流が視線を向けた。
「あっちを二人きりにするってことは・・・・つ、つまりこっちも・・・・!」自分で言っていて視線がソファや寝室に向いてしまって更に顔が紅潮するエール。
「なんだよ、どうかしたか?」
そんなエールに出流がズイっと迫った。
「!!!!!!!」
近い!!とは声が出ず、顔を最高潮に紅くしてエールは一瞬で何度も瞬きをしてしまった。
「や・・・・あの・・・なんでも・・・なくはない・・・というか・・・」思うように声が出なくてとぎれとぎれに返すだけエールは、頭が沸騰しそうになって一気に動きがスローになってしまう。
対面による近距離は、先ほどおぶわれた時よりも遥かに効果的で、心臓の音さえも相手に聞こえてしまうのではというくらいに激しくなっていた。
「・・・・・あ、あのね・・・・イズ・・・い、言おうと思って・・・・たん・・・だけど・・・・」
そんなエールは自分が今何を口走っているのかさえ理解できていないままに言葉をつづり始めている。内心では「とまれ!」と叫んでいるが現実問題、己の口は次の言葉を吐き出そうとしている。
「・・・す」
瞬間。
ガチャ!!
と、玄関扉の開く音がしてエールは心臓が飛び出すくらいに驚くのだった。
一瞬にしてババッ!!と忍者のように飛びのいたエールは、顔を紅くしたまま玄関の方へと視線を向けた。
「悪い出流!雨降ってきた!傘貸してくれないか?」
と、玄関の方から亨の声が響いて、扉が開く音の正体がわかった。
どうやら雨のため引き返してきたらしく、傘が必要だと言っているのだ。
「そうか、わかった。ちょっと聞いてみるよ」
言いながらスマートフォンを操作して、出流は家主へとメッセージでも送っているのだろう手早く済ませるとそのまま亨らのいる玄関へと向かった。
「小雨なんだどね」
そこでは雨に濡れたのかメガネを拭いている恵と、肩についた雨粒を払う亨がいた。
「まぁ、でも本降りになる前に・・・・・――っと、もう返信きた」
二人を確認していた出流の元に即座に返信、メッセージアプリの画面には「OK」を意味するスタンプと「好きに使って」の文字が添えられていた。
「好きに使ってくれって」
「そうか!」
「ありがとう」
出流の言葉にエールと笑みを作った亨と恵は、玄関に置かれている傘立てから、それぞれに傘をとって再び玄関扉へと手を掛けた。
「そんじゃ、もう一回いってくるから・・・・」
そこへ。
「ちょちょちょ!ちょっと待ちなさい!!」
エールが飛んできて制止するのだった。
「・・・なんだよエル子?」
眉を潜めて、妙に息切れしているエールに亨が聞いた。
「ふ、ふふふ、ふふふたりっきりで行くなんてよろしくないわよ!」
「おまえが行けって言ったんだろ」
「ととととにかく!買い出しは皆で行くの!!」
そう叫ぶとすぐに外履きに履き替えてエールも、傘を一本取った。
「ほら!イズ!」
そのまま出流の分まで傘をとって投げつけた。
パシっと傘を受け取り、「はぁ」と無表情のままで息をつく出流。
「皆で行って皆で準備して、皆でパーティーするの!私は平等主義なのよ!」
そう宣言したエールは、顔を紅いままに玄関扉を開けると先行して駆けだして行ってしまうのだった。
「・・・あいつがいちばん抜け駆けしそうだよな」
ボソッと呟く亨。
それに思わず頷く恵と出流。
そして結局のところエールにしたがって4人で買い出しをして、そのまま小さなパーティーを開いて、長かった一日を終わらせるのだった。




