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第12章 防げ!東京大停電!




「・・・あっち!」

エールはアプリを確認しながらに風を切っていた。

そう、その足元にはホイールの外れた壊れたスケートボードがあり、その上に立つエールは魔法の風で浮かんで進んでいたのだ。

 有名映画のホバー式のボードの如く、すいすいと人込みを縫って目標物を追っていく。

無論、人込みを避けて頭上を飛行すればもっと速いのだが、それはさすがに目立ちすぎて、また怒られてしまうので最低限に周りにバレない程度で魔法を使用しているのだ。

「よし、もう少し!」

そうしてアプリを見て、ついに対象である変換機の反応に追いつけるところにまで迫った。


 たどり着いたのは、とある交差点。人や車が行き交い、夜のとばりがおり始めた町中は、薄っすらと灯が灯り始めていた。

しかし今のエールにそんなことは関係なく、目標のスーツの男を探すだけである。

「うぬぬ・・・華蓮さんが言ってったっけ・・・木を隠すなら森の中って・・・」

辺りを見渡すが一向にスーツの男が見当たらずに、焦りを見せ始めるエール。

「・・・そうだ・・・あの変換機、起動してるなら周りのヒィアートを電気に変換てるはず・・・さすがに生物の体内ヒィアートまでは吸収してなくても・・・空気のヒィアートを取り込んでいるとすれば・・・」

すると何かを思いついたのか荷物に持っていた飲料水を取り出すと、急いでキャップを開けて、手を添えた。

「ここでヒィアートツールを使っているのは私のスマートツールか、あいつの変換機しかないはず・・・近づけばヒィアートを吸収して変化があるはず・・・」

言いながらに風の魔法で、見事に飲料水を手の平に浮かべると、それを小さな粒上にして辺り一帯に撒き、浮かべた。

「・・・・大丈夫、反応もまだある・・・それに怪しまれていない・・・たぶん・・・」

粒上の水を魔法で操作するため両手を伸ばした妙な姿勢になってしまっているが、きっと変質者とは思われていないだろうと、ポジティブに考えて魔王の操作に集中した。

 人々に気付かれないよう、小粒の水の帯をあちこちに移動させて反応をみるエール。しかし、なかなか思ったとおりの結果が出ずに苛立ってきていた。

「・・・・は、早く見つかって!」と、いうよりはさすがに周りが指さしてクスクスと笑っていくのがわかって、恥ずかしくなってきたからである。

と、その時。

「・・・・・・!」「つめた!」

どこかで声がして、そちらに視線を向けた。

ビンゴ。小粒の雨が当たった男性が思わず声を上げていたのだ。

そう小粒の水が落ちたということは、それを支えていた風の魔法の源であるヒィアートがなくなって、支えを失ったということ。それは変換機が周りのヒィアートを吸収したという証である。

「つまりあの辺にいるはず!!」

魔法を解いて、エールは一気に目を凝らした。

水滴が当たって首を傾げている男を中心に、鋭い目つきで人込みを睨み続ける。

そして。

「見つけた!」

その先の路地に進もうとしているスーツの男を見つけることに成功したのだった。

瞬間、エールは浮遊するボードで飛び出して、一気に男の背後にまで迫った。

「そこまでよ!とまりなさい!!」

「・・・・・・なっ!!」

ド!ガ!!

勢いのついた速度のまま男に体当たりをかましたエール。

そのまま男もろとも路地を転がって、「いたた・・・」と痛みに涙目を見せる。が、同時に男の持っていた変換機も路地に転がっているのを確認できて笑みを作った。

「・・・ぐ・・・お前、どうやって」

すると同じくスーツの男も気が付いていたのか、既に転がった変換機へと手を伸ばしていた。

が。

フォン!突風が男を襲って、変換機から体を遠ざけられてしまった。

「・・・な?・・・??」なにが起こった理解できず男は疑問符を浮かべてしまう。

「あんたらにはツールも魔法も早すぎるのよ・・・えーと・・・数億年ぐらい?神話時代分でいいのかな?うん、まぁ、そんぐらい」

そう言いながらに男と変換機の間に立った、エールは男に手を翳してニヤリと笑った。

男は呆然としながらに、エールの手から何故だか風が吹いて髪を揺らしたのに固まったままになってしまっていた。

「・・・さてと、もう邪魔してくほしくないけど、私、ミカお姉ちゃんと違って暴力って嫌いなのよね」

言ってニッコリと笑ったエールは大きく息を吸い込んだ。

そして。

「きゃー!!痴漢です!!誰か助けてーー!!」最大級の大声で叫んだのだった。

「・・・お!おい!!」

男の声もむなしく、路地を二人を中心にあっという間に人だかりができて、その注目はスーツの男の方へと向けられていた。

「この人痴漢です!私が可愛すぎるからって、私の私物を盗もうとしたんです!」集まった全員に聞こえるように叫ぶエール。

「痴漢だって!」「それに窃盗犯だ!」「なんてひどい!」「可愛すぎというのは言い過ぎでは?」

同時に周りから様々な意見が上がって男の立場は最悪のものにまで達していく。

「誰かこの人捕まえてください!」

止めの叫び。その声と同時に人だかりの中の数名の男性たちがスーツの男を取り押さえると、そのまま交番の方へと運んで行ってしまうのだった。

それによって、事態は収束。スーツ男の断末魔のような叫びを路地の向こうからからろうじて聞いて、エールは深いため息をついた。

「・・・はぁぁ。やっと回収できるわ」

そう呟いてエールは足元に転がったままになっていた変換機へと手を伸ばした。

その時。

「はえ?」

変換機が強く輝いたかと思うと、目の前が真っ暗になった。



                             ※


 一方、恵は出流の指示のもと、亨の降りてくるであろうビルの近くにまで移動してきていた。

「ここだよね・・・」

ビルの高さや、さらにその上の空を眺めたり、あたりの人通りの多さを確認しながらに、そわそわした表情を見せる。

と、そこへ。

「恵ちゃん!」「出流君!」

出流がやってきて恵と合流したのだった。

「亨はまだ降りてきてないか?」

「う、うん・・・たぶん・・・そういえばエルちゃんは?」

一緒にいたはずのエールがいないのに恵は問いかけた。

「変換機を追いかけてる。少しは魔法も使っていいと言ったしたぶん心配ないさ」

「そ・・・そっか、なんかエルちゃんの保護者みたいだね出流くん?」

「そうかな?あいつが考えなしに飛び回るから諫めてるだけなんだけど・・・」

どこか照れくさそうな顔を見せ出流に、少しだけ笑みをこぼした恵だったが、すぐに亨のことを優先と頭を切り替えた。

「出流君!このビルでいいんだよね!」指さして言う恵。

「あぁ、そのはずだ。非常階段があるはず・・・さがして上まで登ろう」それに応えて出流は言うと、早速と動き始めてビルの敷地へ足を踏み入れた。

 ビルは変哲のない商業用ビルといった感じで、側面には屋上まで続く非常階段が備えられていた。

「よし」「・・・・勝手に入ってごめんなさい」

出流を先頭に、恵は小さく謝りながらもそれに続いて非常階段を登っていく。

そうして、何度か折り返しの階段を進むことで、目的地であるビルの屋上にたどり着いたのだった。

「・・・はぁ、スカイツリーのエレベーターで楽覚えた後だときついな、これは・・・」息を切らして恵が呟いた。

見れば出流も息を切らして膝に手をついている。彼は運動部ではないため、体力に差があるのはわかっていた。が、それでもどうにかと気合を込めた顔を見せた出流は、空を見上げて友が降りてくる位置を睨むのだった。

その時だった。

フッ・・・。

一瞬にして辺りから灯りが消え去ったのであった。

「え!?なに?停電!?」

「・・・ここら周辺だけでか?」思わず出流が辺りを見渡して呟いた。

いま自分たちのいる周辺は確かに灯りが消えて、真っ暗だが、向こうに見えている街の灯りはそのままであった。

ずいぶんと狭い範囲で停電が起こったのだと考えた。

と、そこへ。

薄暗くなった夜空の中から何かがゆっくりと落下してくるが見えた。

「・・・あれか?」

「暗くてよくわかんない・・・その分、他の人にも気づかれてないみたいだけど・・・」

と、ふたりして目を凝らす中で恵が「そうだ!」と言ってスマートフォンを取り出すと、備え付けられたライト機能を起動して灯りを灯した。

「これで!」「いいぞ恵ちゃん!」

灯のサインの如くスマートフォンを大きく振って、空より舞い降りる何かに合図を送った。

そうするとその何かは、ジグザグに妙な動きを見せながらにどうにかこうにか二人の元まで降りてくるのだった。

「亨!!無事だったのね!!」

「やったな!回収できたんだな!!」

それはまさしく、スカイツリーより空へと消えた亨本人であった。

彼はフライボード―を両手で挟んで柄み、頭上に持ち上げた状態で降り立ったのであった。

「・・・な、なんとかな・・・こいつめちゃくちゃ暴れるんだよ・・・!サポーターの力でどうにか抑えてるけど、やっとこさ誘導して、ここまで来たんだ・・・というかよく降りてくるとこわかったな・・・」

「あぁエールのアプリでな」

と、亨の解説とここまでの説明を行っている途中で灯りが元に戻って、周辺は停電から回復するのだった。

「・・・で、・・・・エル子はどうしたんだ?出流と一緒だったんだろ?」

「あぁ、盗まれた変換機を追っている・・・」

「盗まれた・・・?」恵と一緒になって暴れるボーダーを押さえつけながらに亨が聞いた。

「まぁいろいろあってな、回収出来たら連絡するように・・・」

あれこれと説明しようかと口を開いた出流だったが、そこへ恵のスマートフォンから着信音が鳴って会話を中断した。

「い・・・出流くん代わりに出て・・・!たぶんエルちゃんだと思う・・・!」と、ボーダーを抑えながらに片手でスマートフォンを取り出し、そのまま出流へと渡す恵。

言われるがまま彼女のスマートフォンを手に取った出流は、着信画面に自分の名前が出ているのに気が付いて、エールに渡した自分のスマートフォンからかけているのだと確信して電話に出た。

「もしもしエールか?出流だ」

『え!?なんでメグのケータイでイズが出るの!?え?え?え?そそそそういうことなの?!』

いきなりの意味不明な言葉に出流は呆れた顔を見せながらに息を付いた。

「恵ちゃんは亨と取り込み中だ」

『と・・・取り込み中・・・そ・・・そう・・・あ、あははは・・・そう・・・』どこか照れた声を織り交ぜたエールの声が電話の向こうから聞こえる。そんな出流の後ろからは「出流くん!言い方!」とヤジが飛んでいた。

「・・・それで変換機は取り返せたのか?」

『あ!そう!そのこと!というかやっと繋がったんだから、今のうちに一気に説明するわよ!』

「やっと繋がった・・・?」

と、出流はエールのセリフに一つ疑問がわいた。

 ケータイが繋がらないという状態に陥るはずがないからである。こんな大都会で電波が届かないというのは可笑しいし、電波障害でもあったのならこっちも繋がらないはずである。――地下にでもいたのだろうか?

と、あれこれ思考を巡らせていた出流へエールの声が響いた。

『あのね!かなりまずい状態なの!変換機が完全に暴走状態なの!』

「・・・?暴走って言っても・・・その変換機ってのヒィアートとかいうエネルギーを電気に変えるだけなんだろ?」

『バカね!!その逆もできるのよ!!電気をヒィアートに変えてるのよ!!』

「・・・・・・・それがなんなんだ?」大声のエールとは対照的に出流が冷ややかな声で尋ねた。

『さっき停電になったでしょ!?あれ変換機のせいなのよ!!あたりの電気エネルギーを吸い取ってヒィアートに変換して放出してるのよ!!この時代でヒィアートをどれだけ出しても無意味なだけよ!』

「なるほど・・・スマホの電気まで吸われてたわけか・・・、ん?でも停電は直ったんじゃないのか?それなら・・・・」

『今はね!暴走して電気の変換とヒィアートの変換がランダムで起動してるのよ!今はヒィアートを電気に変えてるけど変換量が異常で、過剰な電力を与える危険があるわ!』

「・・・わ、わかった・・・なんにせよ早く回収した方がいいな」

『私が直接触れると更に暴走しちゃうから、風で浮かせてるけど・・・またいつ変換が切り替わるかわからないわ!たぶん範囲も変換量もどんどん増大してる感じ・・・!このままだと東京全体に及ぶかも!!』

「・・・!なんだって!?」思わず出流が声を大にした。

「エル子のやつ・・・なんだって・・?」いまだボーダーを抑え続ける亨が聞いた。

「・・・・・・東京大停電の危機だ」

「「はぁ?」」亨と恵と揃って首を傾げた。

そこへ。

『聞いてる!?あのね!どうにか風の魔法でできるだけ高い位置に浮かせてるけど限界があるわ!その間にそっちで回収方法考えて!!早くしてよね!!』

スピーカーにしなくても聞こえるくらいの大声がスマートフォンから響いて3人に事態の切羽詰まった感覚を教えた。




 「前の氷滅機みたいに、ツール本体に電源があるなら直接オフにすればいいわけだな」亨が言った。

「でも、エルちゃんが触ると暴走しちゃうから無理だし・・・・」

「俺たちの誰かが直接電源を落とすしかないな・・・」出流の言って亨と恵を見た、

そうして少しの沈黙のあと、亨がボーダーを押さえつけながらに口を開いた。

「・・・わかったよ俺が行く、この円盤もどうにか操作していけばなんとかなるはずだ」

「・・・あぁ、それが一番早いと思う・・・が、位置はわかるか・・・?」

と、出流の問いに亨は眉間に皺を寄せた。

「ここに降りてくるまでにも相当面倒だったんだろ?それを今度は目標地点を定めて飛ばなきゃならないわけだ・・・」

「そ、そうか・・・ならケータイで誘導してもらって・・・・って、さっきのやり方だと両手塞がってケータイなんか持てないしな・・・」

「せめてもうひとり、ナビがいるわけね・・・」そう呟いた恵だったが、何故だか二人からの視線が集まっているのに気が付いて目を瞬かせた。

「・・・・・・え?なに?」

「それだよ!恵ちゃん!」「よし!すぐにいくぞ恵!」

「え?え!?」

よくわからないと焦った表情を作る恵。

「俺はさっきみたいに円盤にぶら下がるから、お前は上に乗ってナビをしてくれ!」言って円盤を抑えつけた亨は、そそくさと準備掛かっていた。

「は?はぁぁ!?私が円盤に乗るの!?」

「お前が言ったんだろ!ほら早くしろって!」

それでも渋っている恵へと今度は出流が歩み寄ってきた。

「恵ちゃん、スマホ返すよ!エールの持ってる俺のスマホの位置がわかるようGPS機能もちゃんとしておいた!この反応の真上に変換機は浮かんでるはずだ!」

「わ、わ!え、ちょ、ちょっと!」

返されて慌てる恵に今度は亨の声が響く。

「乗れ!恵!出流はエル子のほう頼むぞ!」

「あぁ!上手くやってくれよ!」

そう応えて出流はビルを駆け降りると、もと来た道を戻って駆けていくのだった。


                          ※


 「ね、ねぇ・・・本当に乗らなきゃだめかな?」

「しかたないだろ!しっかり掴まってるんだぞ!」

渋々、暴れる円盤の上に乗った恵は小さな悲鳴をあげながらも、落とされまいと円盤のふちを掴んで堪えるようにした。

同時にそれを確認した亨は、サポーターの力を全開に、恵み乗った円盤をまるごとガバっと持ち挙げてビルの屋上を駆けだした。

「おぉおおお!」

「わわわ!もも、もっとゆゆゆゆっくりりりり・・・!」

掛け声と凄まじい振動の中で恵は涙目になって、円盤の上で堪え続けていると、その身はどんどんとビルの端にまで達していき、そうして屋上の外にその亨の足が達したときには、彼が地を蹴って空に羽ばたいた瞬間でもあった。

「とととと飛んでる・・・・!」

へっぺり腰になって今の状況を呟く恵。

ビルの屋上から地を蹴って飛び上がった円盤は、亨と恵を乗せたまま、グライダーのように夜空に飛翔したのであった。

 上に恵を乗せ、下には亨がぶら下がっている。しかし人間二人など重荷にしないくらいにフライボーダーはパワフルさを見せて、また一段と暴れ出すのだった。

「うわわ!わわわ!!」激しい揺れに目を回しそうな恵は声が漏れてしまう。

「恵!堪えろ!円盤の操作は俺がする!お前は変換機の位置を教えてくれ!」

そう言って下部で円盤にぶら下がる亨は、両手にサポーターよりの力を込めて暴れるボーダーを無理やりに抑えつけるのだった。

「・・・・・・・わ、わわわかった・・・頑張る・・・」

どうにか安定したボーダーの上で青い顔した恵は、ポケットよりスマートフォンを取り出すと、先ほど出流が設定してくれたGPS機能の画面を確認した。

「も、もう少し西・・・!あの大きい看板の方!」言って、すぐにスマートフォンを片付けると、また円盤の縁を掴んで堪える姿勢に入る。

「・・・よし!あっちだな!」

亨が片方の腕に力を込めて円盤の進む方角を改めて定めると、恵のナビ通りそちらの方向へと飛翔を続ける事に成功するのだった。



                             ※


 一方で、エールはひとり変換機を空に浮かせている状態で頑張っていた。

「早くしてよ~!私の魔力も無限じゃないんだから・・・」

魔法で浮かべ続けるのにもいずれは限界がくるのだと愚痴をこぼし始めていた。

しかし魔力が尽きるよりも、どちらかというと空に向かって手を伸ばし続けている姿勢の方が苦しくて先に、そちらでへばりそうになっていた。

おまけに人通りの少ない場所だったとはいえ、それでも通行人はときどきいて、万歳に近い状態で固まっているエールを見ては、まじまじと眺めていくというのが繰り返されていた。

「は・・・恥ずかしい・・・」

注目される度にうつむいて、顔が見られないようにするエール。

こんなこと早く終わってほしいし、なにより腕が疲れてきた。

と、あきらめかけた、その時、伸ばした手の先にある空で異変が起こったのがわかった。

「・・・!また!」

立ち並ぶ雑居ビル群の屋上付近の看板や屋内の電灯が、着いたり消えたりを繰り返し始めたのである。

またしても変換機の切り替えの暴走である。

それもビル群とはかなり離れた上空にあるにかかわらず、範囲が広くなって巻き込んでしまっているもわかった。

これでは、いつ地上にまで範囲が拡大するかわからない。

「・・・もう!あとちょっとしか、もたないんだからね!!」

そう言って自らに喝を入れたエールは、改めて腕を伸ばすと上空での変換機の浮遊の維持を継続するのであった。 


                             ※


「見えた・・・!あれよ・・・!!」夜空に恵の声が飛んだ。

スマートフォンを片手に、揺れる円盤の上でなんとか振り落とされずに目標の物体を探し当てていた。

「よし、わかりやすく光ってるぜ」下にぶらさがった亨も対象物の発見に笑みを浮かべていた。

それは小さな直方体の物体で、中央部分がオレンジと緑のランプを交互に光らせていた。

遠目に見れば形の変わったドローンに見えなくもないが、今の自分たちの格好の方が、空飛ぶ怪人のような状態なので人目につく前に事を終わらせたいというのが本音であった。

「起動している証拠ね・・・!亨!すぐに回収してもっと上空にまで移動するわよ!」

「あぁ!それなら停電の被害は出ないだろうな!」

恵の指示に大きく頷いた亨は、フライボーダーに力を込めて方向を定めようとした。

その時。

ガクンッ!

「「え?」」

突如として暴れん坊のフライボーダーが意気消沈したように沈黙したのである。

「え!?ちょ・・・なんで!?」

「おい!嘘だろ!?」

上と下とで突然ことに焦った言葉を吐く二人。

同時に浮遊力がなくなっていくも感じて一気に顔が青ざめていく。

「・・・なんで、突然」と呟く亨は、装着しているサポーターもまた起動していないのに気が付いて、事態が飲み込めた。

あの変換機である。たしかヒィアートを吸収して電気エネルギーに変換する機械。つまり周りのヒィアートを吸い取ってしまっているのだ。そしてフライボーダーもフルサポータ―もヒィアートエネルギーで動いているため、その動力源を奪われてしまったのだ。

だが、そんな一瞬の閃きも束の間、無情な落下は始まってしまうのだった。

ゴォォオオオオオオオ!!

「と・・・亨!!なんとかしなさいよ・・・!!」

「そんなこと言ってもな・・・・・!!」

東京の夜空を風を切って一直線に落下していく円盤と二人。

サポーターさえも動いていいないため、このままでは助かる見込みはゼロである。しかし、そんな刹那的状況で恵はスマートフォンを手に取って口を大きく開いた。

「エルちゃん!お願い!魔法で助けて!!」

そう、落下地点近くにはエールがいるはずなのである。緊急事態ゆえに一瞬でもいいからこちらに浮遊の魔法を向けてくれれば助かるはずである。

亨もなるほど!と落下途中ながらに感心した顔を見せた。

が。

なんと突如として恵のスマートフォンは電源が落ちて起動しなくなってしまうのだった。

「え!?ええええ!?なんでなんで!?」

「バカ!ちゃんと充電しとけ!!」

「違うわよ!突然切れたのよ!それに誰が馬鹿よ!!」

言い合う二人だったが、次の瞬間。

ガッゴオン!!

今度は急ブレーキがかかったように空中で制止したのに驚いて言葉を失ってしまった。

「・・・・・・・円盤が・・・う、動いた?」

「・・・・・・・今度はなんだ?」

それぞれに呟くふたり。亨はフライボーダーが再起動して、再び暴れ馬になっているのを振動で確認した。どうじにそれを抑えつけるためのサポーターも起動していると確認できた。

どうして復活したのか考える亨だったが、それより先に上から恵の声が飛んだ。

「亨!見て!」と恵が眼下に広がる東京の街並みを指して言った。

「・・・・!これは!」

そこには、少しばかりだが灯りを失った街並みが拡がっていた。とはいえ、建物の上層部分だけで下層から地上に至っては通常通り灯りが灯っている。

つまり上の方だけ停電したような奇妙な光景があったのである。

「・・・そうか!切り替わったのよ!変換機はいま電気を吸収しているのよ!」

「それでケータイも切れたのか!」

「でも逆に円盤も復活したわ!亨!今しかないわ!」

「おう!!一気にいくぞ!!」

恵の言う通り、このチャンスを活かすしかない。

そう決心した亨は勢いよくボーダーを操作、変換機目がけて一気に飛翔した。

グォォオオオオオ!!

音を立て変換機に迫る亨たち。下の方では停電で騒いでいるのか、こちらには誰も目を向けていないようで好都合であった。

「あと少し!」「そこだ!!」

目と鼻の先にまで迫った変換機に片手を伸ばした亨。だが。

スカ。

「「え!?」

捕獲寸前、変換機は浮遊力を失って落下を始めてしまったのであった。

「・・・・・・・!!エル子!なにやってんだ!!!」

「ちょ、ちょちょ!亨・・・!」

落下の原因を思い当たって叫ぶと、今度は変換機を追って真下に跳ぶのであった。


                       ※


「はへぇ・・・もう限界・・・」エールは完全にバテていた。

空に向けていた腕が完全にだらりと降りて、傍の壁に寄りかかっている状態であった。

無論、このままでは変換機が落下してきて、地上にまで落ちればそこを中心に電気エネルギーの吸収が始まってしまう。それも超広範囲での可能性もある。

すぐにでも上空での浮遊状態にもどさねばならないのだが、どうしても腕があがらなくて弱り切ってしまっていた。

視線の先では上から順に灯が消えていくさまが見えている。

非常にまずい状態である。

「・・・・・・ど、どうしよう」あきらめた声をもらしたエールだったが

そこへ。


バタン!と一台のタクシーが停まったかと思うと誰かが客席により飛び出してきて、一目散にエールに駆け寄ってきたのであった。

「エール!!なにやってる!!」

「・・・イズ!!」

やってきたのは出流であった。彼はエールを見るやいなや彼女の両腕を掴んだ。

「ふぇ!?///」変な声を出すエール。

と、出流はそのまま支えとなって再びエールの腕を空へと向けさせた。

「このまま落っこちたら地上どころか地下にまで影響するぞ!!ふんばれ!!」

「・・・え・・・あ・・・う、うん!!だ、大丈夫、なんか元気出たから・・・!」

どこか顔を赤らめながらもエールは再び風の魔法を繰り出すのだった。


                        ※


 「うぉおおお!」「ううううう!!」

ほぼ直角に地上へ向けて一直線に進む亨たち。

目指すは電気変換機。だが、このまま地上に落下すれば非常に危険であり、空を飛んでいる自分たちの存在もバレてしまう。なんとかビル群にエリアに突入する前に回収すべきだ。

そうして片腕でボーダーを抑えて、もう一方の腕を伸ばし続ける。恵に上に乗ったままで、怖さに目を瞑りながらも事の次第を見守っている。

瞬間。

「・・・!!」

ふわ!っと変換機に浮遊力が復活して落下を停めたのである。

「今だ!!」同時に亨が叫んだ。


パシィ!!


遂にその手に変換機を掴んむことに成功した亨。

「恵!急上昇するぞ!その間に電源を落とせ!!」

「わわわわわかった!」

対象物の回収も束の間に、地上を向いていた自分ら円盤ごとを無理やりに操作して向きを今度は真上に向けたのであった。

そにれよって暴れ回るボーダーの勢いだけが進行方向に充てられて、まるで飛行機の急上昇のごとく、亨たちはすさまじい勢いで更なる上空へ向けて飛翔し始めるのだった。

「わ・・・わわ・・・わわ・・・こここ、こんなの輪さってられない・・・っての・・・」

吹きすさぶ風と、激しい振動で、とても変換機の電源を落とすどころではない恵は、振り落とされまいと掴まって堪えるのがやっとであった。

そうして二人は半停電の町を背後に、一気に空を駆けのぼり、雲がかかる高高度の上空にまでっやってくるのだった。

「恵!急げ!また切り替わったらやっかいだぞ!!」

「わ・・・わかってる!・・・くしゅ・・・!」

流石に遥かな空の上は風が強く、思わずくしゃみが出る恵だが、なんとか頑張って変換機を触りまくるとようやく中央辺り浅いくぼみを発見した。

「これかな・・・」ポチっと指でくぼみを長押しすると、変換機は少しだけ震えたかと思うとそのままランプを消し去って完全に沈黙するのだった。

「や・・・!やったーーーー!!」思わず叫んで、ガッツポーズをとる恵。

「よくやった恵!!あとは戻るだけだな!」

そんな彼女に讃頌の言葉を贈る亨は、ボーダーの方はまだ暴れたままなんだぞと、振動で伝えては亨は操作に専念する。

「はぁぁぁ、どっと肩の荷が下りた感じ・・・・」

円盤の上で深いため息を漏らす恵。

そんな彼女が夜空に目を移した時には、丁度綺麗な月が昇っていた。別に満月でも三日月でもなく、どこか中途半端な欠け具合の月だが、こんな遥かな空の上でみる突きはなんだか特別に見えていた。

「・・・なんかロマンチック・・・」見とれて呟く恵。

「そうか?いつもと変わらんだろ?」そこへ仕方ないとはいえ、情緒もへったくれもない亨の声が飛んで恵はムッとした。

「・・・あーぁ!せっかくなのに台無しなんだから!!」バン!とボーダーを力強く叩く恵。

「お・・・おい!揺らすな!」

それによって、ボーダー揺れて操作の舵が上手く取れなくなって慌てる亨であった。


                           ※


 「・・・・・やったみたいだな・・・灯りが元に戻っていっている」

路地裏にて空を見上げていた出流が言った。

チカチカと元の都会の灯が息を吹き返して、ところどころで「変な停電だったな」と呟く声が聞こえていた。

と、そんな出流の脇からは息を殺したような、か細い声が聞こえていた。

「・・・・・・イズ・・・あの・・・・・・て・・・・手を・・・・・・」

その正体は顔を真っ赤にしたエールの声だった。

どうやら支えに入って彼女を腕を握ったままの出流へ向けての言葉だったようだが、何故だか目を合わせようとしない。

「・・・ん?あぁ、悪い痛かったか?」そう思ってエールの腕から手を離した出流。

「・・・・あ・・・いや・・・別に痛いとかじゃ・・・・・その・・・」

しかしエールはもじもじと応えるだけで、顔は紅いままである。すると。

「・・・わへ・・・!」

ドサッ!とその場で尻もちをついてしまったのであった。

「・・・いてて・・・お、思ったより魔力を使っちゃったみたい・・・、ふらふらする・・・」

紅かった顔を今度は青くして、エールは地面に座ったままで頭を回していた。

「大丈夫か?よくわからんが、そんなに疲れたのか?」

そう言って出流は優しく手を差し伸べた。

だが、エールはその手を取ろうとしたところで一端ピタッと止めると、じーっと出流の顔を眺めた。

「・・・やだ・・・、お・・おぶりなさい・・・」

「はぁ?」

再び顔を紅くして妙なことを言い出したエールに、出流は眉間に皺を寄せた。

「わたし結構頑張ったんだから!ちょっとぐらいご褒美があってもいいでしょ!」

「ご褒美?負ぶるのがか?」

「・・・う・・・あ・・・そ、それは・・・その・・・疲れたから楽させろって意味よ!!」

赤面を最高潮にして声を大にしたエールに出流は「やれやれ」と肩を落として、ゆっくり屈みこんだ。

「ほら、さっさとしろ。亨たちと合流して宿に帰るぞ」

「・・・え、あ、ほんとにいいの?わ・・・ど、どうしよ・・・」

「早くしろって」

自分で言っておいて慌てたふためくエールだったが、出流に急かされて成すがまま彼の背中に収まったのであった。


「よし行くぞ」

「・・・こ、これ・・・結構ヤバいかも・・・」

ものすごいまでの密着度に出流の背で頭を沸騰させるエール。

「おい恵ちゃんに電話して合流地点決めるんだ」

「・・・う・・・わかったわよ・・・ちょっとぐらい浸せてよね・・・・」

言いながらにエールは預かったままの出流のスマートフォンで恵へと電話を掛けるのだった。

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