第11章 作戦失敗?
『亨!サングラス買ったよ!』
ツリーの先にて恵からの電話を受けていた亨は、「よし」と目を細めて夕日の方を眺めた。
予想通り、フライボーダーは夕日を背に飛んできているようで、うっすらとだが逆光を受ける小さな影が見えている。
あとはあれを、しっかりと確認して見事回収できればいいだけである。
そのための恵からの連絡でもあるのだ。
「恵!円盤の位置わかるか!?」
『う・・・うん・・・ちょっとまって・・・』
電話越しに指示された恵は、お土産用のサングラスを掛けたまま展望内をかけて、夕日を拝める位置にまで移動した。
「え・・えーと・・・あ!」と、はたから見ればちょっと怪しい雰囲気を出しながらも、恵は夕陽に隠れるボーダーの正確の位置を割り出そうと、今一度サングラス越しでどうにか日暮れの太陽を覗いてみる。
先ほどよりも確実にスカイツリーの方角へと近づいている。が、挙動が怪しく、微妙にブレながら直している。というよりはどうにか直進しているだけであって、いつ妙な動きを見せて軌道がそれても可笑しくないと言った感じである。
それにもともと動画が上がっていたほどのものである、早々に回収しなければ、こんな大都会の中心では存在が確立すればあっという間に情報が拡散されてしまう。
『・・・亨!円盤との対面になる位置にいるんでしょ?だったらそのまま待機して!それで合図したら真っすぐ上に跳んで!』
「そのつもりだ、こっちからじゃ逆光でよく見えないからな」
亨はツリーの先端で、目を細めながらに応えていた。
恵の言うとおり、ボーダーの影が大きくなってきている。接近している証拠なのだが、眩しさから視界が制限されて距離感いまいち掴めないでいる。
『いい!?絶対に派手にやらないこと!あんたが動画に挙げられたんじゃ意味ないんだからね!』
「・・・こんな都会の真ん中で・・・難しいけど努力するよ・・・」
そう応えて亨はじっくりと目標を見据えた。今か今かとボーダーを狙う狩人のような目つきの原因は、装備してきたサポーターによる増加脚力で回収できる位置まで跳びあがれるのかが心配なこともあった。
まだ完全に使いこなせているとも言えないフルサポーターの全開起動で、どこまでやれるのか。それに着地などもどうするかを考えてきれていない。
空中でボーダーを捉え、その浮力と推進力で最寄りのビルの屋上にでも降りれればぐらいにはと思っているが実際のところ、どうなるかは出たとこ勝負である。
「・・・・・・・・よぉし、そろそろだろう・・・恵たのむぞ」
『う・・・うん、必ず一発で決めてよ』
そうして電話でやりとりをして二人は上と下で同じように頷いた。
やがて目を凝らす恵の視線の先にフライボーダーが確実に確認できたのだった。
『来た!!亨!準備いい!?カウント行くよ!!』
「・・・おう!任せとけ!」
言われて、力強く屈むとジャンプに一転集中するために脚力をため込んだ。
『・・・7!・・・6!・・・・5!』
「7からなのか・・・?普通10とか5とかだと思うけど・・・」
と、そんな亨の小さなツッコミもそのままに電話越しの恵のカウントダウンは続き、亨も上空にボーダーが近づいてきているのだと確信をもつことができている。
『・・・4!・・・3!・・・2!・・・』
「・・・いくぞ」
『・・・1・・・今よ!!亨!!』
「あぁ!!」
ドン!!
と、瞬間、サポーターより受ける絶大な脚力を発現させて、亨はスカイツリーの先端より真上に飛び上がった。
ギュオオオオ!!と風切る音が亨の耳を掠めて、ただでさえ高い位置にいたのを更に押しあげて東京の上空へと降臨させる。
「――っし!あとは――」
ゴンッ!!
跳躍の頂点に達して、ボーダーを捉えようとしていた亨だったが、その刹那、大きく鈍い音をあげて何かとぶつかったのであった。
無論、フライボーダーであった。あまりにもジャストなタイミング過ぎたのである。
「いっ・・・・!!」空中で涙目になる亨。しかしなにが起きたかを理解すると同時に落下も始まっているのもわかって、痛みもそのままにボーダーへと手を伸ばした。
ガシ!ガシ!
「よ・・・よし・・・!」
円の両端を掴んでどうにか固定に成功する。
が。
「・・・うおぉ!めちゃくちゃ揺れる・・・!」
半暴走気味のフライボーダーは抑えられた動きを振り払うように、暴れ出したのだった。
もともと半壊状態で、動作も可笑しかったのが今の激突の衝撃で更に可笑しくなったのだろう。
空中で、物凄い勢いで上下左右に動き回り始めたのだった。
「ちょ・・・ちょっ・・・!ま・・・!」
ボーダーを掴んだままの亨は、円盤の動きに振られるまま身体を躍らせると空中でのたうち回る様を見せてしまう。
そして。
「・・・・お、おい・・・!?」
さんざん暴れ回ったフライボーダーは、やがて一点に進路を決めたかと思うと円盤は亨もろとも真上へと上昇していってしまうのだった。
※
「えぇ!?亨!?」
スカイツリー展望台から、空での一連の捕り物を目を凝らして見ていた恵は思わず叫んでしまった。
おかげで周りの客からは妙な目つきで見られるも、それどころではなく急いで電話を掛けるのだった。
「・・・・・・・・・出ない・・・」
発信中の画面表示を見つめて、険しい表情を作る恵。
そうして今一度空を眺めても、そこに円盤も亨も不在であり、ただ高層ビル群に映える日暮れの空が拡がっているだけであった。
フライボーダーが真上に上昇したのは確認できたが、まさか視認できない上空にまで昇ってしまうとは思いもよらなかった。
「・・・どうしよう・・・亨・・・」サングラスを外して心配の声を漏らす恵。
「・・・そ、そうだ!エルちゃんのアプリ!あれで詳しい位置を教えてもらえれば!」
するとひとつ対策を思いつくと急いでスマートフォンを操作した。
エールは通信手段をもっていないため、一緒にいる出流に電話を掛けるのだ。
「・・・お願い早く出てよ・・・!」
再び発信画面を見つめると懇願の声を漏らすのだった。
※
一方で、出流とエールはいったい何がどうなっているのかと難題を向けられたような顔を見せていた。
電気変換機のツールを持っていたのは、亨らの通う高校の物理教師・相田であり。その彼はいかにも怪しい黒いスーツの男によってスタンガンで気絶させられてしまった。
そうして変換機は今、その黒スーツの男の手にある。
「・・・・・・あんた、何者だ?なんだって相田先生を気絶させてまでそれが欲しいんだ?それが何か知ってるのか?」
「お前らこそなんだ?この男の仲間かなにかか?」
「・・・俺の学校の教師だ」
そう出流が応えたがスーツの男は特に何を応えるでもなく鼻で笑うのだった。
と、そこへ。
「ちょっと!!あんたもその先生も誰だか知らないけどね!そのツール私のなんだからね!!とっとと返しなさいよ!」エールが叫んだ。
「・・・お前の?この男は拾ったと言っていたぞ?」
「そうよ!私がこっちに来た時に落としたのよ!」
続けて叫んで言い返すエール。
「・・・・・・・そうか、相田先生は亨たちと同じように偶然あの変換機を拾ったんだ。それでその機能も偶然ながらに知ってしまった・・・だとすると・・・」
すると隣で出流は、何故相田がここにいるかを推理し始めた。
「・・・・・・機能を知った?・・・お前ら、この機械が何か知ってるのか?」そこへスーツの男の問いが飛んだ。
「当たり前でしょ!それは電気変換機って言う、ヒィアートエネルギーを電気ってエネルギーに替えるツールよ!ヒィアートは無限のエネルギーだけど、ここじゃまだオーバーテクノロジーなんだから私に返しなさい!!」
「ばか!言うな!」反射的に言い過ぎていると出流がエールにツッコんだ。
「・・・ほぉ」すると、スーツの男は怪しく笑って呟いていた。
「なるほど、この男が言っていたこととほぼ同じだ。ヒィアートという単語は初めて聞いたが・・・いろいろと知っているようだな」
ギラリと怪しい視線が出流とエールを捉えていた。
「・・わわ、なんか変質者な感じ・・」
「・・・君の恋人は失礼極まりないな」
エールの心無い感想にスーツの男が出流へ一言返したが、それが一気にエールを赤面させた。
「・・・こ、こここ、こいび///」
「・・・・そうだな」「え!?」
続けて出流が応えたが。その言葉にエールの脳裏では「どっちが」という疑問が何度もリフレインしていた。
『君の恋人』と『失礼極まりない』のどっちに対して肯定したのか。
しかしそれを問えば、同時に意識していると丸わかりなわけで、エールにとってには聞くに聞けずのジレンマ的状況に陥ってしまうのだった。
しかしそんなエールを無視して出流は一歩、スーツの男に踏みよった。
「あんたがどんなやつか知らないけどな、とにかくそいつは返してもらう」
「・・・ふん、ちょっとは協力的な姿勢を見せれば話し合ってもよかったのにな」
そう言うと男は再びスタンガンを構えると、今度は亨たち向けて駆けだしてきたのだった。
ダダダダ!と近づく足音が迫る危機を煽ってくる。
「・・・エール!風だ!!」瞬間、出流が叫んだ。
「・・・へ!?あ、う、うん!!」
同時に少々油断していたエールだったが、急ぎ反応すると、迫ってくるスーツの男に向けて両手をかざした。
その瞬間、ブワッ!!とエールの両手より突風が放たれた。
「・・・ぬわ!?」
思いがけない突然の突風に、スーツの男は踏ん張ることもできずに勢いよく地面を転がるのだった。
ゴロゴロゴロ!ドン!とビル壁にぶつかって止まった男の手からはスタンガンも変換機も零れ落ちており、地面に無作法に転がっている。
「・・・・・・わ・・・やばっ・・・やり過ぎちゃった?」
動かないスーツの男を見てエールが同様の声を漏らす。
「大丈夫だ、気を失ってるだけだ。それより変換機を回収するぞ」
エールに諭して出流はそのまま変換機を拾い上げようとした。
その時。
バチバチ・・・・バチィ・・・・シュン・・・
と、それまで起動したままだったスタンガンが突然停止したのに意識が向いた。
「・・・・・・?」
そこまで気にかかることでもないが思わず手を止めてしまった。
ただの電池切れか、一定時間付きっぱなしだと自動的に停止するセーフティでもついているのかと考えたが、今はどうでもいいと再び変換機に手を伸ばした。
次の瞬間。
フッ・・・
辺りが瞬く間に真っ暗になったのであった。
「わわわわわ!なになに!?おばけ!?おばけなの!?」暗闇で慌てふためくエールが声を荒げる。
「落ち着け!ただの停電だ!その辺にスタンガンも落ちてるから動くんじゃない!」
急に暗闇に落とされて騒ぐエールに出流が一喝する。反射的に「は、はい・・・」と敬語のエールは少しだけ顔を紅くした。
そうして闇に眼がなれるかどうかぐらいの短い時を経て、あたりは灯りを取り戻したのだった。
が。
「・・・!変換機が!」
闇が晴れると同時に出流は、すぐそこにあったはずの変換機が消えているのに気が付いた。
「イズ!さっきの男がいない!」
そこへ今度はエールの声が飛んだ。
思わず振り返って確認すると、確かにスーツの男の姿はかき消えていた。
「停電の間に持ち去ったか!くそ!」
あたりを見渡して男を探すが無論姿はなくおそらく逃げたあとであった。
「エール!すぐに追いかけ・・・」
と、指示を飛ばそうと出流だったがそこへ己のスマートフォンから着信音が鳴っているのに気が付いた。
すぐさま取り出して恵からだと確認すると急ぎ電話をとった。
「恵ちゃん!?どうした!?」
『出流くん!亨が・・・・!!』
開口一番、言葉が被ったが恵の困ったような声を察して、出流は彼女の要件をしっかりと聞き込んだ。
「・・・亨が!?わかった、すぐに調べてみる!」
と、いったん会話を終わらすと出流はエールを呼びつけた。
「エール!すぐにアプリを開け!変換機を追うにしても使わなきゃダメだからな」
「そ、そうね・・・」
言われるままにエールはスマートツールを取り出してツール検知アプリを開いた。
すると画面には反応が二つ。
「あった!こっちの動いているのが変換機ね!やっぱり持って逃げてるんだ!」
「・・・もうひとつはボーダーだな?動いていないがどうなってる?」
自分たちのいる位置から近い反応はどんどんと離れていっている一方で、あと一つの反応は動かないでいるのが不思議であった。
「・・・動いていないわけじゃないみたい・・・きっと上下しているだけかも・・・」と言いながらにアプリを操作して反応を調べるエール。
「・・・・うぇ!?なにこの高度!!本当に空の上じゃない!?」
「それが亨だ・・・円盤と一緒に飛ばされたらしい」
「えぇ?!なにやってんのよ・・・、あ、でも、だんだん高度が下がってるみたい・・・」
「たぶん亨のやつなんとかしてるみたいだな・・・」
と、そこまで確認すると出流は「よし!」と考えをまとめたように一度大きく瞬いた。
「エール、円盤の降りてくる位置がわかるか?」
「え?このまま真っすぐ降りてくるなら・・・・あの、むこうのビルらへんかな」
エールがビルの隙間から向こうを指さして、それに出流も頷いて見せる。
「・・・わかった。エール、お前はアプリを持って変換機を追え、亨と円盤は任せろ」
言いながらに出流は再び己のスマートフォンをとって恵と通話を始めた。
「恵ちゃん、亨が降りてくる位置がわかった・・・場所は――」いましがたエールに聞いた位置を恵に教えた出流は、そのまま通話を終えると、自分のスマートフォンをエールに投げ渡した。
「もってけ、変換機を回収したら亨か恵ちゃんに掛けるんだ」
「わ、わわわかったわ!」
ひょうなことから出流のスマートフォンを手入れてしまい、動揺を隠せないエールはどうにかこうにかしまいこんでは、次なる行動に移る。
「ね、ねぇ・・・追いかけるにしても走ってたんじゃ追いつけないわ、飛行魔法解禁してほしいんだけど」
「・・・緊急事態だ・・・いいだろう・・・だけど目立たないようにだぞ!」
「やった!わかってるって!」
声色を一段明るくしてエールは、使えそうなものがないか辺りを見渡した。
ビル街の路地裏にあるのは、ほぼゴミ同然の残骸ぐらいで、中には使い古した箒も見えて一度顔が引きつった。
「・・・また箒はちょっとな・・・」呟きながらにエールは更にモノを探す。
と。
「あれだ!」
見つけたのはホイールを失い、放置されたスケートボードであった。




