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第10章 ツールを狙う者



 「亨、本当にここから円盤を取りに行くの?」

「あぁ、ここが一番高い建物だからな」

亨と恵は、フライボーダー回収のためスカイツリーにやってきていた。

元よりルート的にスカイツリー付近を通るのはわかっていたので、無難な判断ではあったが、それでも恵はここからどうするのかと心配の顔を見せていた。

展望台にやってきたものの、周りは観光客や家族連れ、カップルなど等といたって普通の光景が拡がっていた。

亨とふたり、本来ならここに混ざっていても可笑しくないはずなのに、と、恵は溜息を漏らした。

「・・・さすがにまだ見えないか」

「うわぁすっごい高い・・」

しかし、それでもと展望ガラスの前にやってきた二人は、そこから超高層域の景色を見やって思ず息を呑むのだった。

眼下に広がるのは大都会東京の壮大な建築物の海。とても片田舎では味わえない景色に二人ともに「凄い」と思わず呟いてしまっていた。

と、そこへ、亨のスマートフォンが鳴った。画面には出流の名が表示されていた。

「もしもし」

『亨、そっちはどうだ?』

密集地帯から少し離れて通話を続ける亨。

「まだ見えないな・・・けど、日も暮れてきた・・・あまり暗くなると難しくなるな・・・」

『そうか・・・こっちもできるだけ早く回収してそっちを手伝うようにするさ』

「そっちこそ大丈夫そうか?特にエル子は?」

『あぁ、とりあえず「観光に来て大はしゃぎの外国人」で通すつもりだから、なんとかなるさ』

そう応える出流の後ろからは騒ぐエールの声がちらほら聞こえていた。

「はは・・・まぁエル子の魔法も役には立つだろうから頑張ってくれよ」

「あぁそっちもな」

それだけ言って電話を切ると、恵の方を確認した。

「出流くんなんだって?」

「あぁ、あっちが終わったら手伝いに来るってさ」

「ふーん・・・エルちゃんも二人っきりになりたいだろうに・・・」ボソッと恵が呟いた。

「ん?エル子『も』ってなんだ?」それにスマートフォンをしまいながらに亨が問いかけた。

「うぇ!?べべ別に深い意味はないわよ!ほほほほら!外に出られる場所探さないと!さささ行こう亨!」

急に顔を紅くして身振りを大きく喋り出した恵は、ぎこちない動きのまま展望台内部を歩き始めた。

それに首を傾げながらも、亨は恵みを追って展望台から外に出られる場所がないか探し出すのだった。


                             ※


 一方、エールと出流は電気変換機を回収しに別行動を取り、ちょうど目標物に近い駅に降り立ったところであった。

「おおー、またちょっと雰囲気の違うところね!」

はしゃぎっぱなしエールは雑居ビルが羅列する様子を眺めて声を大きくしていた。

それはもはや、出流の言った通り、日本大好き外国人の観光客にしか見えず、かえって目立たないぐらいになっていると、出流は良しとしていた。

「おい、日が暮れる前に済ませるぞ、反応はどうなってるんだ?」

「うぇ~、ちょっとぐらいいいじゃん・・・ったく」

出流に促されて渋々アプリを確認するエール。

と、

「あ!かなり近い!!」

ほら!とアプリの画面を出流の目の前まで近づけて、確認させた。

確かに、現在位置からほど近い場所に反応があるらしくてポインターが狭い感覚で点滅している。

「えー・・・と、こっち!行くよイズ!」

「えらいはりきってるな」

先行して駆けだしたエールを追って出流もまた駆けだした。

しかしエールはそんな出流の言葉を背中で聞いて「しかたないでしょ」と思っていた。

なぜならば華蓮の煽りもあって、現在、出流と二人っきりで都会を街歩きしていることを意識しないはずもなく、別のことに意識を向けていなければぎこちない対応しかできないことはわかりきっていたのである。

「・・・あ、あっち!」

「あのビルか・・・?まさかどこかの店内とかか?」

エールが指さしたのはとある雑居ビルであり、大きな猫カフェの看板が掲げてあったのだった。

「・・・あの猫カフェにいるのか?」足を止めて出流が問いかけた。

「猫?あれ猫って書いてあるの!?」と、目を煌めかせてエールが尋ねてきた。

同時にチョーカーは言葉の翻訳であって文字や文章はまだ、よく理解してないんだったなと出流は頭を掻いた。

「猫カフェって猫がいっぱいいる喫茶店でしょ!私行ってみたい!」

「あぁ、また今度な。それよりアプリでもう少し詳しく反応を探ってみろ」

と、エールの嬉々とした言動を軽くあしらって、出流はツールの反応が本当に猫カフェからなのか確認するように言うのだった。

「う~・・・なによ・・まったく・・・」愚痴をこぼしてアプリを再確認するエール。

しかしスマートツールを触りながらに(ん・・・?また今度?)と先程の出流の言葉を思い返していた。

と。

「・・・あ!本当だ!ちょっとズレてる」

「どこだ?」

アプリで反応を確認していたエールが猫カフェから視線を外すと、少しだけ身をずらして視線を定めた。

「こっち!」

ビシっと指さした先に出流も同じく視線を移した。

「路地か・・・」

それは雑居ビル同士の間の路地であり、その路地自体には人気がなかった。

ということは路地の先、おそらく路地裏にいるのだろうと考えて二人は変換機回収のために足を進めるのだった。


                           ※


 『おぉー、やっぱこっちの方が良く見えるぞ恵!』

「・・・ちょっと、本当に大丈夫なの?」

恵は展望台ホールの隅の方で亨と通話をしていた。

というのも、亨が一度下にまで降りてフルサポーターの力でスカイツリーの頂上まで登ってしまったからである。

サポーターを付けているとはいえ生身で遥か超高層にいるのだ、万が一のことがあれば命の危機なのは目に見えていた。

「絶対に落ちたりしないでよ・・・!」

『わかってるって・・・それより、恵そっちからも探してくれ、もうすぐ通るはずなんだ・・・』

電話の向こうでビュービューと風音をきらして亨の指示を受ける恵。

それに少々溜息をつきながらも恵は展望台のガラスの方に近寄って、空の方を睨んだ。夕暮れでオレンジに染まってきた都会の空は鮮やかで、息を呑むほどであった。

が、今は綺麗な景色に見とれているわけにもいかない、間もなくやってくるはずのフライボーダーを確認しなければならないのだ。

「う・・・うーん・・・わかるかなぁ・・・・」

恵は困った顔を見せながらも東京の空を見渡すのだった。


                           ※


「おおっと・・・!流石にすごい風だな・・・」

スカイツリーの最先端で、亨は強風に堪えていた。

フルサポータ―のおかげでなんとか耐えられてはいるが、それでもなかなかにギリギリの工房である。ちょっとでも踏ん張りが足りなければ、一気に煽られて落下は免れない。

「早いとこ・・・回収しないとな・・・」

そうして強風吹きつける中、夕暮れ空を睨む亨はやってくるはずのフライボーダーを探した。

「西日が眩しいな・・・それにここから跳んでもとどかないぐらい上空だったらどうするかだな・・・」

眩しさに目を細めながらも、回収のプランを脳裏に巡らせた。

単純にスカイツリーの先端から跳躍してキャッチできれば一番簡単なのだが、それ以外の時が問題であった。

もしも跳躍しても届かなかった場合である。

「一応持ってきたけど・・・こいつで落とせればいいけど・・・」

と、亨はポケットから野球ボールを取り出した。

最悪届かなかった場合は、この野球ボールで撃ち落とすつもりであった。フルサポーターの威力で投げれば、おそらく凄まじい威力を発揮して、もしかしたらフライボーダーを破壊してしまうかもしれない。だが、それでも回収できなくなってしまうよりはマシである。

「エル子は壊すなって言ってたけど・・・その時はその時だな・・・」

ボールを握って、エールの言葉を思いだす亨。

と、そこへ――。

『亨!聞いている!?来たわよ!フライボーダー!!』

恵からの通話が響いて、亨の集中を電話に向けさせた。

「・・・本当か恵!?・・・どこに・・!」思わず聞き返す亨。

『夕日の方角!他の人はまだ気づいてないみたい!』

そう言われて夕日を見やった亨だったが、当然のごとく直視などできるはずもなく、最大限に目を細めて睨むの精一杯であった。

「・・・うっ!もしかして夕日を背に向かってきてるのか?」

いやな予感が胸中を巡ってボールを握る手に汗がにじむ。

『亨!?大丈夫・・・?』そこへ恵の声が聞こえた。


「・・・そ、そうだ恵!」と、思いついたように亨が返答した。

『な、なに?』

「そっちにサングラス売ってたろ!?それ付けてそこから電話で位置を教えてくれ!」

『うぇえ!?そ、そんなので大丈夫なの!?』

「夕日が眩しすぎてよく見えないんだ!それにサングラスを取りにいく暇もなさそうだ!」

『・・・うぅ、そ・・・それで失敗しても私のせいにしないでよ!』

と、電話越しに仕方なく動き出した恵に礼を言うと、そのままもう一度夕日を睨んだ。

「・・・さて、上手くいくか・・・恵、頼むぞ・・・!」

恵からの指示を待って、亨は眩しさに目を細めるのだった。


                       ※


 一方で路地を駆けるエールと出流がいた。

猫カフェを恨めしそうに通り過ぎてエールはアプリの反応を見ながらに、出流を誘導しながらにツールのあるはずの位置まで駆け抜ける。

そして。

「ここ!ここにあるはず!!」

バッ!と路地裏の溜まりに出てエールが声を大にした。

四方をビルの背に囲まれた暗い場所にて、二人は電気変換機なるヒィアートツールを見つけようと目を凝らした。

だが、なによりも先に驚いた表情でこちらを見やる二人組がいたのに気が付いた。

一人は真っ黒なスーツに身を固めた険しい表情の中年男性。

そしてもう一人は、相手よりも幾分か若く感じられる男性で、身なりも綺麗めな服装で整えられている。そしてなにより、彼の手には奇抜なデザインの物体が握られていた。

「あれよ!間違いないわ!」

エールが指さしてアプリと照らし合わせては言った。

だが、それよりも出流はツールを持っている男性の顔を見たことがあって戸惑っていた。

「・・・相田先生?」

「・・・百海くんか?なぜここに・・・?」

そこにいたのは出流や亨らの通う高校の物理科学を受け持つ教師であった。

「え?え?なにイズの学校の先生なの?」

「・・・物理のな」

小さく応える出流。

そうして状況が理解できないままの出流らだったが、黒いスーツの男が懐に手を差し入れると、そのまま口を開いた。

「・・・約束が違うぞ、一対一で会う予定のはずだ」

「ち、違う・・・!私は何も知らない・・・!」

と、その時だった。

スーツの男は素早く懐から手を抜くと、何かを握ったままで相田へと密着させた。

「・・・まっ!!」

瞬間、バチィバチィ!!と電撃が相田を襲って、彼はその場に倒れ伏せてしまった。

「・・・!」「え!?え!?」

驚いて思わず出流に飛びつくエール。

そんな二人からの怪訝な視線を浴びながらにスーツの男は間の手から転がった電気変換機を拾い上げるのだった。

「この技術は我々が独占する、他に情報を与えるわけにはいかないんでね」


そう告げる男の言葉にエールと出流は冷や汗を見せる。

「なんか・・・いかにも悪役っぽい台詞・・・華蓮さんのビデオにもよくいた気がする」

そうして電気変換機を巡って、事態の把握もままならぬままエールたちはスーツの男と対峙するのだった。


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