第9章 同時回収作戦
「ねぇ!華蓮さん!これで大丈夫かな!?私まだこっちのファッションセンス、よくわかってないんだけど!
「大丈夫、大丈夫、私に任せておきなさい!」
エールの居候するお寺では、騒がしいまでの女子の声が飛んでいた。
フライボーダーを追って、東京行きが決定したことになって皆は準備に取り掛かりそれぞれに集合し直すことになったのだった。
しかしエールは端から荷物を持ってなどいなかった。したがって、華蓮から遠出用の荷物をあれこれ借りている最中であった。
首都である大都会に行くことになるのだ。それなりのオシャレは必要だと感じて衣服を借りては何度も確認していた。
「まぁエルちゃん可愛いし何着ても似合うわよ、出流くんだってイチコロよ」
「・・・そ、そうかな・・・・・・。・・・!?」流れで照れながらに頷いたエールだったが、すぐに華蓮の言葉を振り返って否定の返答を行った。
「ちっ!違いますからね!別にイズにそんな・・・・!」
「イズだって、そんな風に呼んでるんだ?」にやにやとイヤらしい目つきで言う華蓮に、エールは顔を真っ赤にして反論する。
「だから!!」
――と、そこへ。
「エル子ーー!準備できてるかーー?」
母屋の外から亨の声がした。
どうやら迎えに来たようで、二人はそこで衣服のやり取りを終えて荷物を纏めると忙しく玄関前にまで駆けていくのだった。
※
エールらが母屋の玄関に向かうとそこには、亨、恵、出流らが準備万端といった感じで待っていた。
「・・・ねぇ亨も出流君もそれで東京行く気?近所のコンビニいくんじゃないんだよ?」
「ん?」「なにか変かい?」亨と出流は、恵が不満そうに問いかけたことに特に何を言われているのかわからないと言った感じに己らの服装に目をやった。
めかしこんだ恵とは対照的に、亨たちはジーンズにTシャツといった普段着と別段変わらぬ出で立ちであった。
「なにやってんのよ男共・・・せっかくお洒落した女の子の気持ちをなんだと思ってんのか」
そこへ軽蔑気味の視線を飛ばす華蓮の声が飛んだ。
「ね?エルちゃん?恵ちゃん?」そうしてニッコリと女子二人に話題を振った。
「うぇぇ!べ・・・別にそういうのじゃ・・・!都会に行くからであって・・・その・・・」
「わわわ私も・・・カレンさんが用意してくれだけだし・・・」
急に振られたこと待って顔を赤くして、照れた表情を見せる恵とエール。
「あーはいはい、反応は高得点だけど・・・男共がそれをくみ取ってくれてれば満点だったわね」
「?」
「なんだ?」
呆れ顔の華蓮に対して亨も出流も首を傾げている。
「・・・これはあんまり期待できないわね」
と、溜息交じり呟いた華蓮は肩を落とすと、そのまま上体を起こすと同時にポケットから車のキーを取り出した。
「ま、若者をいじるのもほどほどにしときましょうか・・・さて、駅まで送るってあげるから、乗った乗った!」
そうしてクルクルと指でキーを回しながらに、止めてあるバンへと足を進めた。
それに従って「お願いします」と亨たちは、それぞれに車へと乗りこんでいくのだった。
※
東京へ向かうに至って新幹線を使うことになり、その最寄り駅でもある県庁所在地の駅へとやってきた一行。
「じゃあねー!頑張ってね!特にめぐちゃん!エルちゃん!」
停車している新幹線に乗り込む亨たちに華蓮が見送りの手を振っている。
それに頬を赤らめて困り顔で手を振り返す恵ら。
そうして発着ベルが鳴って、4人はフライボーダー回収のため東京へと旅立つのだった。
※
「ふーむ・・・まだ・・・このあたりか、これなら先回りできるかな」
出流がスマートフォンで動画やSNSのチェックをかけ、UFO関係の目撃情報から位置関係を計算する。
どうやら未だ直進を進めているようで、このまま行けば上手く東京で確認できるはずである。
「そっか・・・でもやっぱ問題は、どうやって回収するかだな・・運よく落ちてくるなんてないだろうし・・・おい、エル子」
と亨がそこまで呟いてから、一度向かいの席で恵と座るエールに声をかけた。
が、エールは恵との会話に夢中でまったく返事をしないのであった。
「ニンジャ!トーキョーにはニンジャがいるの!?」
どうやら恵が東京のいろんな情報を得るためにスマートフォンでの調べ物しているのを一緒に見ていたのだろう、その際に出てきた忍者情報に凄まじい勢いで食いついていた。
「・・・ま、まぁ、こういうのはコスプレだったりパフォーマンスだったり、あとは体験とかサービスにいたりするだけでね・・・」
恵も目を爛々とさせるエールに少々戸惑いながらに、簡単に『本物』の忍者ではないと悟らせるように言う。
「カレンさんが見せてくれたタクシー映画とかでも作戦名だったりしたの!ニンジャー!!って!」
勢いで手を組んでめちゃくちゃな印を結んでエールが叫んだ。
「ちょ・・・!エルちゃん声大きいよ・・・」シーっと指を口先にあてる恵。
「でねでね!カレンさんが一回教えてくれた、忍者の呪文?ってのが格好いいの!ニン!ニン!ニン!ってやつ!」
「・・・ニン???・・・わかった、わかったからエルちゃん・・・他のお客さんもいるからね・・・静かに・・・」
それでも興奮が止まらないエールだったが
「エル子!」「おいエール!」
向こうの席から、声を抑えながらもしっかりとした制止の声が飛んで、ハッとし動きを止めて何度か目をパチクリさせた。
見れば通路を挟んだ向こうの席から亨と出流が眉間に皺を寄せて睨んでいた。
「う・・・うぅ・・・別に怒らなくても・・・」一気に灯を失った蝋燭のように表情が暗くなるエール。
「エルちゃん、別に二人とも怒ってないから!ちょっと声を抑えてくれればいいだけだから!・・・そうだ、それに忍者のことは二人のほうが詳しいからさ、聞いてみたら?ね?」
しょげ返ったエールを慰めながらに恵は亨へと視線を移す。それに少々首を傾げながらも「お、おう」ととりあえず首を縦に振る亨。
「本当?じゃ、ニンニンニン!て呪文教えて!」再び瞳にきらめきを取り戻したエール。
「ニンニンニン・・・?呪文・・・?」首を傾げる亨。
「あれじゃないか?臨、兵、闘、者・・・ってやつ」「あぁ・・・あれか・・」
と、出流からの応えに「なるほど」と相槌をうつ亨。
「わかったわかった、後で教えてやるから・・・それより先に俺たちの話を聞け」
そうしてこたえながらに釘を差すように亨はエールに指さして言うのだった。
「いいか?問題はどうやって、あんな高い所にある円盤を掴まえるかだ・・・」亨が改めて話題をきり出した。
「エル子、お前箒でどこまで飛べるんだ?」
「『飛ぶ』だけならどこまでもいけるけどね・・・あんたたちは空の上ってのを甘く見てるわ」
と、エールから思いがけない真面目な返答があって亨は少しだけ驚いた。
「いい?地上から離れれば離れるほど空には強風が吹いているのよ?そりゃ気候にもよるけど、500メーターを超える上空を飛ぶには特級のライセンスが必要なくらい操作が難しいのよ?」
「・・・箒乗るのって免許制なんだ・・・」横で恵が苦笑いで呟いている。
「で、お前はどこまでなら飛べるんだ?」今度は出流が聞いた。
「30メーターよ」
「全然だめじゃねぇか」亨が本音を漏らした。
「うっさいわね!学生じゃこれが普通なのよ!」当然、噛みつくエール。
「そりゃこの層のライセンスは取りやすい分、通勤通学で使う人が多くて渋滞も起こりやすいから、少し頑張って上のラインセンス取る人もいるけどさ・・・魔法惑星の女子高生の間ではそこまで求めないのがイマドキなんだから!」
「・・・お前の話はファンタジーなのか現実的なのかわからんな」溜息交じりに呟く亨。
「でも、どうするの?エルちゃんが届かないなら・・・」と、恵みが問いかけた。
「ま、もうひとつの手としては・・・エル子、あれ持ってきてるんだろ?」
「ん?あぁサポーターね?持って来てるわよ」
亨の言葉にエールは頷きながらに自分の荷物をバス!と叩いた。
「俺がサポーターを付けて、どうにか飛び上がる。東京は背の高い建物も多いからな」
「うまいことそういった場所を通ってくれればいいけどな」
亨と出流と顔を向かい合わせて考え込んだ難しい顔を見せる。
「・・・まぁ、とりあえずは向こうに着いてから考えようぜ」
「そうだな、実際見てみないとわからない部分もあるしな」
車内で騒ぐなと言い聞かせたエールが窓の向こうに興味のあるものを見つけたのか、またもはしゃぎ始めたのをきっかけに、この話題を一度預けて二人は、やれやれと溜息をつくのだった。
※
4人が東京に着いたのは昼過ぎだった。
日本の首都であり国内最大規模の都市である。
無論、地方からやってきた亨たちはある程度の情報を持っているため目の前に広がる建築物の密林に多少の驚きの声を上げるだけで過度にあちこちを見渡すといった仕草を見せはしなかった。
が。
エールはものの見事に、あちらこちらをキョロキョロと見渡して「ニンジャ!ニンジャどこ!」と騒ぎまくっている。
とはいえ、目当ての忍者探しに夢中なだけで、大都会の雰囲気には特段反応を示しているわけではなかった。
「エルちゃん、忍者はまたあとでね・・・」恵が騒ぐエールを抑えて言った。
「え~・・・まぁしょうがないか・・・」ちょっぴりしょげた声を漏らしてエールは息を付いた。
そうして、4人はとりあえず東京にたどり着いたことを華蓮にメールすると、そのままこれからの行動をどうするか決め始めた。
「さてと、まずはなにより円盤がどこを飛んでくるかだな」亨が切り出した。
「そうね、それに時間も気になるわ」それに恵が続いた。
すると出流がスマートフォンを取り出して、例のUFO関連の動画を探して皆に見えるように画面をそちらに向けた。
「・・・運よく直進を続けているようだ・・・時間的にもう数時間でこの上を通るだろうな」
再生数の少ない動画を見ながらに、空飛ぶ円盤ツールの今飛んでいる位置を調べ計算すると、皆は「なるほど」と相槌を打った。
「数時間?ってことは時間が空くわけね!そんじゃその間にニンジャ・・・」
「いや」
エールの弾け声を出流が遮った。
「先に宿に行って荷物だけ預けてこよう。その方が動きやすいしな」
「おぉ、そうだな、そうしよう」
出流の提案に亨が「そうだそうだ」と首を縦に振った。
と言っても、亨と出流は荷物らしい荷物をほとんど持っておらず、必要最低限の着替えなんかを詰め込んだ小さな鞄を持っているだけであった。
「・・・や、宿」「と・・・・泊り」
一方で大荷物の女子二人は『宿』というワードが出ただけで、少々頬を赤らめては息を呑んでいた。
「そうと決まればさっさと行こうぜ、出流場所わかってんのか?」
「あぁ、こっちだ」
そうしている間に男二人はスタコラと歩き始めて、戸惑っていた恵たちを距離を作ってしまった。
「・・・・・・・おーい、なにやってんだ?」
「うぇ!?う・・・うん!大丈夫・・・!今行くから!ね?エルちゃん?」
「ううう・・・うん」
お互いに何度も瞬きをして、妙な緊張感を持ちながらに二人は亨たちの跡を追いかけるのだった。
※
「こ、ここが泊まる宿か?」亨が少々戸惑った声で言った。
「そうだ」と、出流がなんら問題ないと言った感じで首を縦に振った。
「これって・・・」「普通の民家じゃ・・・」それにエールと恵が亨と同じような戸惑った声で言うのだった。
出流の案内でやってきたのは、繁華街から離れた住宅の一角。その中にある別段他とは変わりない一軒家の前で4人は立ち尽くしていた。
「お、おい出流?・・・ホテルか旅館かと思ってたけど・・・」
「もしかして民泊ってやつ?」
亨と恵が続けて尋ねて出流の顔を覗き込んだ。
しかし当の本人は笑みを作っていた。そして。
「いや、民泊じゃない・・・ここは俺の兄家族の家で、今は家族で旅行中。だから誰もいない間だけ、一泊借りたんだ」
「はぁ、つまりあんたの親戚の家・・・」
エールがポリポリと頬を掻きながらに一軒家を眺めた。
二階建ての大きくも小さくもない家屋。出流の言う通り誰もいないのだろう、戸や窓もカーテンで閉め切っており人気のなさを伝えている。
「・・・え・・・と鍵はここだな」
言いながらに家の裏側に回った出流はなにやらガサゴソ探し物をし出すと、すぐに戻ってきて玄関前に立った。
ガチャリ。と見つけてきた鍵で玄関扉を開けると、皆に入るよう勧めた。
「よし、とりあえず荷物を置いてツール探しに本腰を入れよう」
そうして出流の勧めのまま各々に荷物を置き、簡単に準備に取り掛かる3人。
「・・・もうちょっとロマンチックなところに泊まれると思ってたのに・・・」
「そ・・・そんなこと言わないのエルちゃん・・・」
エールのぼやきに苦笑いで応える恵。
「ま、いいじゃないか。宿代浮いたし、これでお土産多く買えるぜ」
そこへ、亨が割って入ったが、女子二人からは冷たい視線が返ってくるだけであった。
「な、なんだ?そんなにお土産いらないのか?」
見当違いな言葉を吐く亨に恵が深いため息をつくと、そそくさと準備をして再び玄関まで戻っていってしまうのだった。
※
「よっし、そんじゃ円盤とッ捕まえるか」
亨が肩をぐるぐると回して、やる気十分と声を大にした。
「あぁ、そろそろ近づいてきても可笑しくないだろう」出流が再び家の裏に鍵を隠し終えながらに、スマートフォンで動画を確認すると、そのままエールに視線を向けた。
「エール、今ならツールの探知機に反応が出るんじゃないか?」
「あ!そ、そっか!」
言われて気づいたのか、エールは急ぎスマートツールを取り出すと探知アプリを起動してあれこれ操作を始めた。
「・・・え・・・え、拡大・・・と・・・!あ!あった!!」大きな声を上げてエールは目を輝かせると
、そのまま方角を探すようにあたりを見渡した。
そして。
「あ・・・あっち!あっちのほうから真っすぐ近づいてきてる!」
と、指さした方向に亨たちの視線が集まる。
「・・・あの方角は」出流は目を細めた。
「・・・まぁ好都合ではあるな」亨は少しひきつった笑みを見せた。
「あそこってスカイツリーだよね?」そうして恵が戸惑い顔を見せる中、全員がそれぞれに顔を見合わせた。
「スカイツリーなら高さの問題は解決だろ?そこでそのまま待ってればいいんだし」亨があっけらかんと言った。
「そのまま待つって・・・展望デッキならまだしも外で待つなんてできるわけないでしょ?」
「そうだな許可がでるとは思えん」
恵と出流とが亨の提案に首を横に振った。
「え~・・・うーん・・・それじゃ近くのビルの屋上とかで・・・」
と、そこまで喋っていた亨の声を、突然のエールの叫びが遮った。
「うえぇええ!?なんで!?なんでなんで!?」
スマートツールを覗き込みながらにあっちこっち見渡しては騒ぎまくっている。
「どうしたエル子?」
「ツールの反応があるのよ!!」
エールの声に3人は首を傾げた。
「・・・だから、そのフライボーダー?ってのでしょ?」それに恵が代表して問いかけた。
「違うの!!反応が『2つ』あるのよ!!」
そう叫んでスマートツールの画面を見せつけるエール。
そこには探知アプリの画面が拡がっており、接近するポインターともうひとつ・・・離れた位置にポインターが表示されているのだった。
※
「2つってどういうことだよ!?」
亨が身振りを大きく言った。
皆が探知アプリの画面を見つつ同じ思いであった。
「わかんないわよ!」エールもまた声を大きく反論する。
「こっちの動いてる方が円盤の方でしょ?で・・・動いてないのがもうひとつの反応・・・」
「・・・まだ見つかけていなかったツールか?」
恵の言葉の先に、出流が思いついたように呟いた。
「そうかも!!」それにエールが飛びついた。
「え・・・と・・・なんだっけ・・・なんか地味な名前の・・・!」ここまで出てると言った表情で言葉を詰まらせるエール。
「電気変換機・・・だったか?」
「そう!それ!!」
ズバッと指さして亨の顔を曇らせる。
「だとして何でそれが東京にあるんだよ?」
「そうよね・・・他は全部エルちゃんの落ちてきた付近にあったのに・・・」
「・・・エールそれ拡大できるか?」
と、亨と恵が考え込む中で出流が探知アプリの画面を拡大するように言った。
それに頷きながらに動かないポインターの方を拡大するエール。
「・・・・・・ふーむ、やっぱりこれ動いてるな」それをじっくり見て出流が呟いた。
確かに拡大したおかげで、動いてないように見えていたポインターが実は僅かにだが動きがあるのが確認できたのだった。
「・・・それがどうしたってのよ?」だがそこへエールの粗っぽい問いが飛ぶ。
「動いているということは誰かが持ち歩いているということだ・・・それにどうも同じ場所をうろうろしているようにも見える・・・何かを待っているのかもしれない・・・・」
「何かってなんだよ?」
「・・・そこまではちょっとな」
そこまで話して亨は「ふーむ」と腕を組んで息を着いた。
「どうする?円盤を回収してからそっちに向かうか?」
そうして皆に問いかけた。
「でも、その間にあっちが移動しちゃうかもよ?」恵が言った。
「あり得るな・・・理由はわからないけどここまで移動してきたんだ、また動いても可笑しくない」
出流も続いて、先に円盤回収は無しだと伝える。
「だったら決まりよ!!」
するとそこへエールが自信満々に大声で告げた。
「フライボーダーと変換機!2つ同時に回収よ!!」
ババーンと胸を張って「どうだ!」と威張った顔を見せる。
彼女の言葉に「なるほど」と思いつつも、それしかないと頷いた3人。
そうして同時回収に向けて亨たちは二手に分かれるのだった。




