第13話 悲鳴を上げる世界
人類はジリ貧に成っていた。魔物相手に戦っては居るのだが、戦える人間が少ないのだ。今の世界は平和ボケして世界中で軍縮が流行っていて兵士の数が極限まで減らされていた。カッコの良い兵器や見栄えの良い兵器は有るのだが、魔物を相手に戦闘できる歩兵の数が足らないのだ。
「何故だ! 何故こんな事に」
連日テレビやネットでは、魔物による被害が増え続けていると言うニュースが流れている。そして当然の様に政府や軍隊に対する批判が大きく成っていた。
「当たり前じゃん、馬鹿じゃね~の」
そして毎日悲鳴を上げるマスコミや評論家を見て俺はため息をついていた。毎年防衛予算は増え続けているが、世界中で歩兵が減りまくっているのだから魔物の被害が増えるのは当たり前なのだ、ステルス機はゴブリン討伐の役に立つか? イージス艦や最新の弾道ミサイルがオーク討伐の役に立つのか? これは魔物には使えない武器なのだ、都市部に入り込んだ魔物と効率よく戦えるのは歩兵しか居ないのだ。それを評論家連中はまるで分からずに泣き喚いているのだった。そして何の役にも立たない連中が、実際に体を張って市民を守っている軍隊に対して文句を言っているのだ。
「マスター、知り合いが来ていますよ」
「誰だい?」
「アメリカの隊長さんですよ」
「そうか、会おう」
そこには憔悴しきった顔をした隊長が座っていた。ダンジョンから離れてまだ一月程だと言うのに痩せて別人の様に成っていた。
「おや? 階級が上がったのか、今度はメジャーだな。おめでとう」
「有難うよ、全然めでたく無いけどな」
実戦を経験した隊長は暗い目をしていた、地獄を見てきた人間だけが持つ暗い雰囲気を纏った目だ。まあこれを乗り越えれば一人前の兵士になるのだが、今の人間は乗り越えられない奴も多くいるのだな。
そして隊長がポツリポツリと話をしだした。現場で見たことや実際に経験してきた事、そしてこれからのこと等、俺には聞いてやる事ぐらいしか出来ないが、話せば楽になる事だってある。最も本物の悩みって奴は誰にも話せないから辛いのだがな。
「それじゃあ、今度は実戦経験を生かした教育隊の教官になるのか。良かったな、生きて帰れて」
「良かったのか?」
「そりゃあそうさ、日本だったら戦果を上げると漏れなく最前線で死ぬまでこき使われるぞ。後輩の指導をして部下を育てるのはアメリカ軍の良いところだぜ」
「日本って馬鹿なのか? 貴重な出来る人間を使い潰すと全体が損をするぞ」
「ハハハハ、日本人が馬鹿なんじゃないぜ。上の連中が馬鹿なんだ、馬鹿とゴマすり程出世するのが日本って奴なのさ」
まあここら辺は第2次大戦の頃から変わらない様だ。アメリカ軍で活躍すると、死なない様に直ぐに本国に呼び戻して教官にして後輩を指導させるのだ。これによって実戦で生き延びるコツの様な物を教えるわけだ。そして日本軍は実戦で活躍すると更に最前線に送って休暇無しでこき使って貴重な人材をすり減らすのだ。まあ今の社会と同じだな、優秀な人間は手抜きしないと過労死するまでこき使われるのだ。
そしてアメリカ軍のお偉いさんが俺を訪ねて来る事になった。俺の事を少佐が報告した様で、それが軍の上層部にまで伝わったらしい。
「すまん! 俺のせいだ。頼むから怒らないでくれ! 何でもするから」
「何だよ、気持ち悪いな。アメリカ人らしくね~な、ハッキリ言えよ」
少佐が血相変えて俺の所にやって来た、暗い瞳は無くなって今度は青い顔をしている。今度俺に会いに来る人間が非常に曲者なんだそうだ。少佐からすると雲の上の存在、アメリカ軍のナンバー3の将軍だって話だ。言いたい事は何でも言う、上層部に受けの悪い、それでいて兵士には大人気の将軍らしい。
「何をやってる少佐! アメリカの将校が民間人にペコペコするな! 馬鹿野郎!」
「イエス! サー!」
いきなり一人で俺の部屋に入って来た将軍、大声で少佐を怒鳴りつける。少佐は直立不動で涙目に成っていた。
「貴様がダンジョンマスターか?」
「そうだ、あんたが将軍か?」
「礼儀を弁えろ! 民間人風情が!」
「ふふん、礼儀知らずには無礼で返すのが俺の流儀だ。文句が有るなら帰れ」
俺と将軍が睨み合っている間で少佐は直立不動のままでオロオロしていた。中々器用な奴だ、魔物との戦いを生き延びただけのことはあるな。いきなり睨み合っていた将軍がニヤリと笑うと右手を差し出して来た、俺と握手したいようだ。
「失礼した、チョット試したかったんだ。半分馬鹿だと言う評判は間違いだった様だな」
「そうだな、半分馬鹿じゃなくて。全部馬鹿なのさ」
「「ブワッハッハハハハ~!!!」」
将軍と俺が2人で大笑いしていると、少佐が更にオロオロしだした。何故俺達が笑っているのか訳が解らないのだろう、勿論俺にも良く分からないんだがな。どっちにしろ、将軍は俺の事を探っていたのだ、自分の目で見て俺と言う人間を評価しようとしていたのだ、弱気に出れば将軍は強気で話。話す価値が無いと思えば当たり障りの無い話をして帰っただろうと思う。
「気にいったぜ! マスター。空軍のオカマ野郎とは違う様だな!」
「ケケケケ、そっちこそ中将の癖に度胸があるじゃね~か。俺が大統領に電話すれば即座に首が飛ぶぞ」
「大統領が怖くてアベンジャーに乗れるかよ! 舐めてもらっては困るなマスター」
「何だと、Aー10乗りだったのか」
それから俺はアベンジャー乗りの将軍とA-10の話で盛り上がった。将軍は湾岸戦争でタンクキラーとして名を馳せた戦士だったのだ。撃墜されること3度、受けた弾丸は300発以上、受けた対空ミサイルは4発、墜落するたびに違う機体に乗り換えて再度出撃する本物の戦士だったのだ。対空ミサイルを撃って逃げる空軍の戦闘機乗りとは金玉のデカさが違う漢だった。
「いや~、マスターを見直したぜ! クソ良いヤツだな! クソ仲良くしようぜ。欲しい物が有ったら言ってくれ何でもクソ横流ししてやるぜ! ワハハハ~」
「流石は攻撃機のパイロットだ! 融通が利く奴は大好きだぜ、クソ将軍にしておくのがクソ勿体無いぜ!俺の会社に来いよ、給料10倍出すぜ将軍」
普通の人間は戦闘機のパイロットが一番だと思っているかもしれないが、戦闘機のパイロットと攻撃機のパイロットとは金玉のデカさが違うのだ。相手の尻を追い掛け回してミサイルを撃って逃げる戦闘機にたいして、攻撃機って奴は目標に向かったら進路を変えない、進路を変えたら当たらないから。だから彼等は対空砲火やミサイルが飛んできても根性で航路を維持して攻撃する連中なのだ。対空砲火を機体に受けながら鼻歌交じりで攻撃出来たら1人前と言うブッ飛んだ連中なのだ。そして俺は根性の有る奴が大好きなのだ。
「あっそうだ、マスター。うちの連中に訓練してやってくれないか。魔物との戦い方を教えてくれ」
「良いぜ、ただし俺の訓練はキツいぜ、実戦よりもな!」
「クソ分かってるな! マスター。訓練は厳しく、実戦は楽にって言うのがアメリカ魂ってヤツだぜ」
何故か将軍と気があって、俺はアメリカ軍の訓練をする事になった。勿論俺は弱いので部下にやってもらうつもりだが、どうやら又俺は調子に乗ってしまった様だ。
ご機嫌で帰った将軍は後からAー10をくれた、どうやら自分用に隠していた機体が有ったようだ。Aー10は大好きだが、俺は乗れないので飾っておく事にした、う~む、クソ格好良いぜ。