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夏っぽいことしてみた。

作者: 嘘月

こんばんは、今回はリハビリ中にパッと浮かんだものを書きました。

  3月29日、まだ桜が散るには早い時期なのに、今日の最高気温は25度を超えると、朝のニュースで報道されていた。

  そんな今日も、こうしてリハビリから始まった。

  外は見せつけるように快晴で、生憎の青空に一段と落胆する。なんでこんなに晴れているんだろう、私はまだ、まともに走れないのに。

  足首の電気治療のあいだ、私はスマホを開く、タップしたのは写真のホルダー。そこにはいくつもの笑顔が咲いていた。

  学校の帰宅途中に撮った1枚、雪で真っ白に染まった公園をバックに撮った写真、真ん中には私と彼が写っている。

「夏樹君…」

  ボソッ彼の名前を呟いた、それだけで救われる様な気がして…

 


  まだ、桜が咲く時期から2ヶ月ほど前、その日は雪が降った。関東では数十年ぶりに大雪が降り、その積雪量は60センチを優に超えた。

  そんな日でも2時間遅れの登校で、結局休校には至らなかった。

  何とか学校に着いものの、慣れない雪道を歩いたせいで、疲労困憊した私は4時間全て寝てしまい、なにをしに学校に行ったのかよく分からない。

「うぅ、寒いね。」

「うん、今日は一段と寒いや。」

  その日、寒さを舐めていた私はブレザーの上に羽織るコートを、すっかり家に置き忘れてしまった。だからこうして身震いしながら彼と帰宅途中という訳だ。

「ねぇ、そのコート貸して。」

「えー、やだよ、俺だって寒いもん。」

  と彼はコートを守るように深く羽織り直す。

「寒くて死にそうなんだけど。」

「大丈夫、ほらこれあげるから。」

  ホッカイロと手渡され、しぶしぶそれを握りしめる。たしかにじんわり温かい…

  だいたい15分ぐらいたった、私達は公園まで歩いてきた。

  思わずわぁーと声を上げる、そこは別世界に踏み込んでしまったのではないかと思わせるほどの、白銀の世界。

  木々は樹氷のようにふんわりと雪が乗っかり、すべり台やブランコにはその機能を失ってしまうほど雪が降り積もり、かき氷のシロップを掛けたくなる。公園の真ん中に位置する噴水は凍って水が出ない、その代わりオブジェから垂れ下がる氷柱が幻想的だ。

「綺麗だね。」隣の彼が息を呑む。

「私のこと?」と、ちょっとだけ、ふざけてみた。

「いや、公園。」

「そこは嘘でも私って言うところよ。」

「ごめん、嘘はつけない。」

「ちょっとなによそれ!」バシッと肩を叩いた。

  すると、彼はコートを脱ぎ始め、それを私の肩にかけて、

「これで許して。」と微笑んだ。

「卑怯な男。」とつぶやくと、彼は苦笑いを浮かべる。

  少し歩いて、噴水の前で止まった。

「ちょっとさ、写真撮っていかない?」せっかくの雪だからさ、スマホを取り出す。

  私は彼に寄った、そっと触れた肩は妙に暖かい。

「それじゃ撮るよ。」

  ハイチーズ…彼のスマホがパシャリと音をたて、その時間の一瞬を切り取る。

 ―――これが夏樹君との最後の写真になった。




  ふぅ、と息を吐き、病院を出たのは午後の2時ぐらいの事だ。

「うわ、日差しが…」さんさんと降り注ぐ日光が肌を焼くのが分かった。

  これはもう夏だね…

  モヤモヤと陽炎が立ち始めていて、桜の薄桃色を濁す。

「かき氷、食べたいな…イチゴ味のやつ。」

  とぼとぼと帰宅することにした、でも、なんか寂しい。

「ねぇ、夏樹君、寂しいよ。」

  私はボソッつぶやく、でもそれは陽炎に濁される。

  気がついたら、あの公園の入口まで歩いてきた。もう、一人じゃ絶対に来ないって決めてたのに…

  彼が死んだあの日から私は、この公園を遠回りしてきた、この道が1番家に近いのに、避けるように、逃げるようにして。

  なのに、暑さで頭がおかしくなったのだろうか、私の足は公園の中へ吸い込まれていく。

  止まってと願っても進む足は、あの噴水の前でやっと止まった。

  オブジェのてっぺんから水が吹き出し、それが水面でジョボジョボと跳ねる。それに揺られた桜の花びら。

  入ったら気持ちいいのかな?この気持ちどうにか出来るかな…

  靴と、靴下を脱いだ、一応濡れないように、長い髪を後で束ねる。

  あの日から止まった季節を動かそうと、水面に足先をつける、波紋が広がり桜の花びらが揺れた。

  ちょっとぬるいけど、気持ちいい…

  足をバタバタとする、まるで子供がそうやるように。

「でも、寒いよ。」

  どうしてだろう、雪なんて降ってないのにすごく寒い…

  バタ足をやめたのに、水面の波紋が消えない。まるで雨が降っているみたいに。

「あ、」一瞬、水面に私が映った。反射した向こう側の私は泣いていた。

  それに驚いて私は自分の頬に手を当てる。

  再び驚く、「私、泣いてる。」

  その事に気づいたら、一気に涙が溢れ出してきた。嗚咽も漏れて、もし彼が見ていたら恥ずかしくて明日には自殺してしまいそうなぐらいに。

  彼のことを思い出すと、胸が痛い。今日だって気温は高いはずなのに、ずっと寒いよ。ずっと雪景色のままだよ。

「ねぇ、1回だけでいいから、声を聞かせてよ。」

  嗚咽混じりの声は、どこに届くのか?

「せめて、あと1回ぐらい私の名前を呼んでよ!」

  自制が効かなくなったように叫んだ。

「ねぇ、夏樹君!」

  お願いだから、涙を止めてよ…

 

  ――夏っぽいことをしてみた。誰でもない、君の事を忘れるために。


 

 

 

 

 

こんばんは、嘘月です!

今回はリハビリ中に浮かんで来たものを、そのまま書いてみました。いかがだったでしょうか?

ちなみに裏設定的なものを言うと、彼女達は付き合っていません、あくまで友達以上、恋人未満の関係です。あと、夏樹くんの死因としては事故に巻き込まれた、という設定です。このことを踏まえてもう一度読んでくださると嬉しいですね。

さて、今回はここら辺で失礼させていただきます。もしまた嘘月という名前を見かけたら読んでくださると幸いです。

それでは、おやすみなさい。


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