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宮廷プリンセスナイト  作者: 友浦
城での暮らし
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城での暮らし<4>

「もう。史上最強の剣士なら、無駄に危ないことはしないでよ。けがして二度と戦えなくなったらどうするの? プリンセスナイトがやってくれるなら、まかせればいいじゃない」

 ソラトが史上最強の剣士だとしたら、プリンセスナイトは無敵の戦士だ。しかし、プリンセスナイト、という言葉にソラトはまた眉根を寄せる。

「だめだ! ぜんぶ、俺が倒す。だいたい、本来国の問題は国の者が解決すべきなんだ。誰とも知れぬ部外者に任せていいもんでもないだろ」

「む。けど……」

 たしかにソラトの言うことも一理ある。プリンセスナイトは正体不明の秘密の戦士――ということになっている。正体不明の者に国の安全を任せることは、王に警護をたのまれている衛兵としての誇りが許さないという気持ちもあるのだろう。プリンセスナイトを疎ましく思う兵士が多いのもまた事実なのだった。ただソラトがプリンセスナイトを好ましく思っていないのは……私怨によるものだろう、と番子は呆れた気持ちになる。

 なにが手柄を取られた、よ、もう……。せっかく守ってあげたのに。

「――あっ!」

 ソラトの大きな目が急に鋭くなった。番子がその視線の先を追うと、そこには、ここらではあまり見かけない装いをした剣士がいた。高貴さを感じる軍服の上には銀一色の鎧、そして曇りのない白マントを左肩から纏っている。

「リキヤだ……あいつ。「近衛(このえ)」の。たしか東家って有名な貴族の、……東之リキヤ」

 ソラトがつぶやく声が聞こえたのか、彼は頭の上で一つに束ねている腰下までの長い黒髪をなびかせてこちらを向いた。

 ぱく、とサンドイッチを口に入れたまま、番子はリキヤを眺める。

 大人っぽく精悍な顔、わずかに振り向くだけの仕草にさえ漂わせる、育ちの良さの風格――その雰囲気にのまれてわかりにくいが、よく見るとソラトとそう歳は変わらないように見える。

「あいつ、ユカリコ姫の身辺警護見習いを任されてる「近衛」の若手ナンバーワンだとよ……」

「近衛の方……」

「近衛」というのは、生まれながら王族の守護を任せられ育てられる、エリート兵のことだ。貴族などの後ろ盾があり、王族を守る最強の近衛兵になるために最良の環境で生まれながらに育てられる。王や妃を守るとあって常に注目される分、その重圧に耐えるために各々自然と己を厳しく磨く。才能も出自も育ってきた環境もピンからキリまでの「(そと)()」とはちがい、責任と栄誉を約束されて英才教育を施され血筋も確かな、全体的に高質な剣士が揃っている。王族に近い位置で剣をとる「近衛」は、身を挺して王を守るなどの大きな成果を上げる機会も「外衛」よりずっと多くあるために『光鳩勲章』も自然と出やすくなる。これまでにその受賞者は、「近衛」からしか出たことがなかった。

「外衛」最強と噂されるソラトの鋭い視線を受け止めて、「近衛」のリキヤは何も言わず、腰元までの真っ直ぐな髪をなびかせてまた後ろを向く。そして、外門の方へ歩いていってしまった。

 ソラトは、けっ、と悪態をついたかと思うと、

「な~にが近衛はエリートだ! 衛兵の花形だぁ? ぬくぬくとした温室育ちがよ……。俺ら外衛なんて、入隊したばっかの頃からもう実戦にばんばん出てるし、そんでもって俺なんか! 団長にだってもう何度も、勝っちまってんだもんね~~~!」

「ソ、ソラト……」

 番子が制するのもきかず、罵詈雑言と自画自賛。だが実際、ソラトは「外衛」初の『光鳩勲章』受賞もあり得るかもしれないと、平メイドの番子ですら風の噂で耳にしたことがあった。ソラトとあのリキヤ様が直接対決したら、どちらが強いんだろう。本当のところを聞いてみたいところである。うまく尋ねる方法はないものかと考えていると、

「ちょっと、あなたっ! そう、ヒラメのあなた!」

 どこからか声をかけられた。ここにいる平メイド(ヒラメ)といえば、番子のことだろう。

「はっ、はい!? なにかっ」

 ぱっと振り返ると、そこには紅メイド服の上役メイドがいた。急かすように早口で、かなり慌てた様子である。何か仕事を押し付けられるのだろうかと番子は身構えたが、

「もうすぐ、ここにユカリコ姫様がいらっしゃるよ! 騎士様と昼食取るのは咎めないけどね、もしも姫様にお目にかかっちゃったりしたら、さすがに厳罰だよ! 厳罰!」

「ええっ! ユカリコ姫様が!? あ、ありがとうございますっ!」

 番子はびっくりして立ち上がる。こうしてはいられない! ソラトとサンドイッチはぽーいとそのままほっぽって、大慌てで駆けだした。上役メイドに指差された方とは反対側に。

 本来、平メイドは城の主に姿を表に現してはならないのだ。城に妖精が住んでいるかのように、いつも綺麗に掃除をしていなければならないのである。それを破ればまた何らかの仕置きだ……。

「こーんにちはっ❤」

 男臭い鍛錬場に不似合いな、耳に涼やかに甘くとけていくような声がかかった。花に声があったらこんな調子で歌うのだろう、というような……

 え? と顔を向ければ、

 深い味わいを感じさせる真っ赤な腰リボンの飾り、

 シンプルでごまかしのない高貴なドレス、

 むき出しの背や肩を覆う、温かそうな純白のストール、

 ゆるやかに首下で揺れる、光の加減で桃色にも見える淡い色素の巻き髪、

 輝く金のティアラと、

 髪にかかるようにそこから伸びるパールや宝石のチェーン。

 片方の瞳をぱちっと閉じ、長いまつげが涙袋に影を落とす。

「ゆ、ユカリコ姫……っ!」

 そこにいたのは、まさしくこの国の第一王位継承者――(おう)()()()()()姫だった。

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