ニョンニュピョニャピロミャンプリチョンピッピョニュニャン船団の攻撃と、ホニャルコニャンコ・ルリレロラリエル・ユーウェンファウラァが残したもの
「ホニャルコニャンコ・ルリレロラリエル・ユーウェンファウラァ様が帰られるのを、すべての同胞が待ち望んでいました」
母船中央に位置する式典の広場に、ほぼすべての乗員が集まっていた。
壇上に立つのは、ニャンニュピョニャピロミャンプリチョンピッピョニュニャンの王女であり、長く地球で暮らしていた夢原ホニャ子ことホニャルコニャンコ・ルリレロラリエル・ユーウェンファウラァである。
ユーウェンファウラァとは、王家のある首都の名称であり、ルリレロラリエルがファミリーネーム、ホニャルコニャンコがファーストネームにあたる。ホニャ子の本名はホニャルコニャンコだった。
そしてその神々しいまでの美しさは、ニャンニュピョ以下略においても並ぶ者のない至高のものだったし、誰もがその美しき王女の帰還を心待にしていた。すべての同胞が、王女が使命を終えて戻る日を、長い間待ち続けていたのだ。
「みなさま、長い間お待ちいただき、本当に感謝しています。おかげで、わたしは地球での使命をほぼ問題なく達成することができました。ですが、最後の使命は終わっていません。これから会敵するデスビッチ破壊神惑星の無差別殺戮船団を壊滅させてはじめて、地球の未来が守られます。失敗は許されません。また、失敗することはありません。みなさまの力があれば、必ず成し遂げられることです」
その演説に歓声が上がる。
ある者は感極まって涙を流し、またある者は感極まりすぎて気絶する。
そのような者たちは大抵、あまり重要なポジションにいない人々であり、上層部の者たちは皆気を引き締めたまま、ホニャルコニャンコの言葉に耳を傾けていた。
すでに主力武器である超広域型全方向カヴァー宇宙エネルギーで悪いやつだけ消滅させる兵器の起動操作は完了している。
この後、超光速航行に移る前に、すべての準備は整えてあった。
あとは敵を射程範囲に捉えるのみであり、ホニャルコニャンコの一言だけで、すべてが終わる。
地球を存続させるために行うべき、任務のすべてが。
デスビッチ破壊神惑星の殺戮生命体デスビッチーズにおいても、未来を予測したり、あるいは予知、予言などといったものは当然あるし、それらを最大限利用していることは間違いない。しかし、それすらも上回るのがホニャルコニャンコの超越的知性であり、神だけが成しうるような作戦を構築することが可能だった。
敵の予知を出し抜いて、圧倒的優位なままで攻撃を加える。それには何者にも感知できないようにするシステムを、兵器と船団そのものに搭載することが不可欠だった。これは、幼少期のホニャルコニャンコが開発を行ったものであり、他の何者にも作り得ない驚異のテクノロジーであった。
「それでは、超高速航法に入ります。あとは、ホニャルコニャンコ様の合図で、攻撃を開始します」
副艦長という立場を任されている、オップロパッチョ・イッパロペロッチュ・ナンダースンが言った。直後、船団は攻撃範囲ギリギリの場所まで、時空間を飛び越える。
高速航法を抜ける━━その先はもう、敵船団を射程に捉えることができる。
そして、この距離で対処しなくてはいけない最大の理由があった。
それは、これ以上進まれることで、敵船団の破壊兵器が地球を射程圏に置いてしまうということだった。なので、ここで食い止めるしかない。すべてを予測していたホニャルコニャンコは、計画通りに事を進める。
敵はまだ、気づいていない。いや、気づけないのだ。ホニャルコニャンコの技術によって、船団は宇宙の闇に紛れている。肉眼も含め、どのような探知方法からも逃れることができるのだ。
「準備をしてください━━三分三十四秒後にはじめます」
とは言え、すでに準備は終わっている。全員がすでに、それぞれの配置で構えていた。あとは、心の準備だけだ。
カウントが減っていく。
オップロパッチョ副艦長がゴクリと唾を飲み込んだ。
「ホニャ子ちゃん光線(超広域型全方向カヴァー宇宙エネルギーで悪いやつだけ消滅させる兵器)発射!」
ホニャルコニャンコが命名したホニャ子ちゃん光線が発射される。
全艦、全射出装置から一斉に発射されたその消滅光線は音もなく、何者にも気づかれることなく━━敵の艦隊が、消滅間際にその攻撃を認識した頃には時すでに遅く。対処行動すら取れないままデスビッチ破壊神惑星の無差別殺戮船団はすべて残らずこの宇宙から消滅した。
一方その頃━━ホニャルコニャンコの去った地球では、火星に程近い宇宙空間に突如として現れた巨大な隕石を破壊するために、彼女が作り上げたアニメに出てくるような戦闘機が、出撃準備に入っていた。
この戦闘機は地上から飛び立ち、そのまま宇宙空間を飛行することができるように開発された、特殊なものである。
パイロットは全人類の中から、もっとも成功が期待される人物を、ホニャルコニャンコ自らが選抜し、訓練を重ねていた。
機体には、余分な装備が付いていない。たったひとつだけ「対超弩級隕石用ホニャ子ちゃんのペッタンコ爆弾」と名づけられたものを搭載しているだけだ。
これを作るのに、ホニャルコニャンコが地球で十年近くの歳月とエネルギーをかけたという、最初で最後の、ひとつ限りの爆弾。
なので当然、予備はない。
万が一にも作戦が失敗しようものなら、その時点で地球の運命が、人類の命運が決してしまう。一度きりの作戦。
そのパイロットに選ばれたアメリカ空軍パイロット、ジョン・チーズバーガーがサムズアップする。準備が整った合図だ。
パイロットとしての操縦技術。そして、それに裏付けされた冷静な判断力と対応力。肉体的資質、勇気、知性、人間性。
そしてなにより、人類に対する、地球に対する愛がある。そのような総合的な判断で、ホニャルコニャンコに選ばれた男は、内面の重圧や背負った責任を感じさせることなく、いつもの笑顔で覚悟を決める。
全世界、すべてのテレビがこの瞬間を放送していた。
世界中の人々が、彼に、自らの未来を託している。託すしかない、現実。
隕石の出現と、その破壊作戦の存在が同時に発表されてから、世界はこの話題で持ちきりとなった。危惧された暴動や自殺は━━皆無だったわけではないが、最小限に抑えられた。理由のひとつには、誰も、実感がなかったということがある。
肉眼で見えるものではなく、それに、発表の中でホニャルコニャンコ━━夢原ホニャ子による説明の映像を見ていたので、安心感があったのだ。
彼女の声、喋り方、説明の内容に、誰もが納得し、不安を上回る安心を得たのは間違いなかった。
滑走路に大音量の音楽が流れる。
日本のアーティストが作った楽曲の、イントロがはじまった。
もちろん、その音も全世界へ発信されている。
戦闘機の近くに立つ、日本人の少女がマイクを持っている━━アイドルの寿々木初雪の姿が、そこにあった。
「過去と未来の真ん中で━━ぼくたちは━━生きている━━」
ゆっくりと、歌い出す。
それに合わせるように、戦闘機のエンジンが始動する。だが、ホニャルコニャンコの作製したこのエンジンは、圧倒的に音が静かな静音仕様の省エネ大賞だった。
ほとんど燃料を必要とせずに、火星あたりまでなら行って戻ってくることが可能なのだ。
「過ぎ去った昨日のために━━未来のキミのために━━」
ここから、曲のテンポが一気に上がる。
そのタイミングで、ジョン・チーズバーガーの乗った戦闘機が加速して、地上を飛び立つ。
歓声が上がった。
世界中の人々が、不安や希望を超越したなにかを感じて、見入っていた。
アイドルは歌いつづける。
ジョン・チーズバーガーの戦闘機はあっという間に成層圏を突破すると、目標に向かって飛んで行った。
この星に、大切な仲間たちを残して。
この星を、救うために━━。
全世界数名のお目通しいただきました神様方、ありがとうございました!
あなたたちのような希有な理解力のある方々こそが、この世界にとって真に必要な人間ではないのかと、わたしは考えます。
なんつって。
「妹のトモダチが全員なんかおかしい」と同じ世界のお話になっていました! 実は!
なんつって。
またどこかでお会いしましょう、さよならー!