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行ってしまったホニャ先輩  作者: 鈴木智一
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ぼくたちはキャンプに来たわけではないはずなのだが?

 見るのをやめて、スマホをベッドに投げ捨てる。

 先輩であり幼なじみである剣崎百合香のブログを拝見したのだが、やはり、というべきか面白いものではなかった。

 ホニャ先輩の情報もないわけではないが、ほとんど自分の趣味や愚にもつかない世間話以下のどうでもいい戯れ言が繰り返されるだけだった。

 それに、なんの面白味もない風景写真を見せられても、なんとも思わないし━━せめて、ビルとビルの隙間の写真とかじゃなければ、綺麗だなぁ、くらいの感想は持てるのに。やつはなぜか、よくわからない写真ばかりをアップする。

 車道の潰れた軍手とかね。


 義理で目は通したけれど、百合香のブログなどは最初からどうでもいいし、きっと最後までどうでもいいんだけど、それよりも今度の土曜日だ。

『入部早々で申し訳ないが、次の土曜日に辺根地亜川に調査へ赴くので、新入りも必ず参加するように』と、日比野部長に言われてしまっていた。もちろん、断っていない。できるはずがない。必ず、なんて言われては。

 はぁ、と、ため息も洩れる。

 流れのままに、いつの間にやら河童部などという変態集団さながらの集まりに加えられ、しかもなぜか休日に活動させられるなんて……こんなことが許されるのだろうか。

 親友の暗黒ダーク黒豆太郎が言うには「どうせ暇なんだから、いいんじゃね?」とのことであるが、ぼくはそこまで暇でも……ないとは言い切れないが、それでもやりたいことくらいはあるわけで。

 ゲームとか、あとは……。

 まあ、暇と言えば暇なんだけどね!

 よし、諦めよう━━人生を!

 そう思い、土曜日の準備をする。おやつは三千円以内とか言われたけど、三千円分も持っていくわけがないだろう。部長は、いったいどんな高級菓子ばかり食べているんだよ。


 ☆★☆★☆


 驚くべきことに、自宅前まで送迎バスがやって来た。もちろん事前に聞いて知ってはいたけれど、実際に来られると、やはり驚いてしまう。

 しかも学校が用意したものではなくて、日比野春風部長が個人的に手配したというのだから、驚かないわけにはいかない。

「おはよう、宙太郎」

 新入り、とは呼ばれなくなったが、普通に下の名前で呼ばれるのには慣れなかった。百合香以外の女の子から呼ばれることがなかったので、なんだか恥ずかしいものがある。

「よく眠れたか? まあ、宙太郎は毎晩擦ってるだろうから、寝不足かもしれないが」

「いや、まったく不足してませんし、毎晩擦りません━━って、なにをですか」

 それよりも、とバスの中を見回すも……ああ、やっぱりホニャ先輩の姿はないか。

 わかっていたこととはいえ、落胆を隠せない。

「そうガッカリするなよ、宙太郎。夢原女史はいないが、代わりに衣楚子がいるじゃないか。なんなら、わたしが代わりになってもいいが、なにか目的はあるのか?」

 ありません、と即答する。衣楚子さんはさておき、部長はホニャ先輩の代わりが務まると思っているあたり、やはり大物に違いない!

 ━━あんたが代わりになるわけないでしょ、とはさすがに言うはずもなかったが、心の中では思いました。はい、すいません。

「冗談はさておき、夢原女史はこんなことに参加している場合でもないだろう。彼女のおかけでどれだけの人命が救われたかを考えれば、こんなイベントに参加などさせれば、それはもはや罪悪になるだろう? 彼女には大切な役割がある。我々とは違って、な」

 日比野部長が言った言葉は、まさにその通りだと思えた。

 ホニャ先輩には会いたいけれど、こんなことに付き合わせたら、それこそ世界中を敵に回すことになるだろう。


 つい先日、第三次世界大戦の皮切りとなるであろう核ミサイルが北部親愛(ほくぶしんあい)神民友愛(しんみんゆうあい)共生王国(きょうせいおうこく)から、大国へ向けて発射されたのだが━━連続して二発、発射されたうちのひとつは日本の上空で「富士山のお尻」のレーザー兵器により消滅し、さらに大国本土まで接近したものに関しても、ホニャ先輩が関わったという最新のNMDナショナル・ミサイル・ディフェンスシステムにより上空で破壊されたらしい。

 本来であれば、すぐさま報復がなされ、北共生は破壊的なダメージを被るはずだった。

 しかし、ホニャ先輩の存在によって報復攻撃は行われず、平和的な手法で北共生への指導、あるいはペナルティが与えられたのだとか。

 一介の高校生の身では、それ以上のディテールは知りようもないけれど、ごく近しい人がそんな大事に関わったという誇りのようなものを感じていた。

 同時に、やはりホニャ先輩はそんなレベルの凄い人だったのだと、改めて実感する。

 部長には悪いが、あの人の代わりなんて、誰にも務まりはしないだろう。


「戦争なんざ、クソくらえだ。やりてぇやつだけ、勝手にやってればいい。オレの相手は人間じゃねぇ、妖怪だからな」

 最後部のど真ん中に座る高橋先輩が言った。彼は一学年上の先輩だった。そして「高橋ケイジ」と紹介されたファーストネームの漢字は「刑事」だった。由来は、親の職業らしい。妖怪退治なんて言っている場合じゃない気がする。親御さんは、彼のことをどう考えているのだろうと、いらぬ心配もしてしまう。

 そんな高橋刑事も含めて、磯野衣楚子と山田萎靡奇と、驚くべきことに、ホニャ先輩以外の部員全員がきっちりと参加していた。ちなみに、三人ともが一学年上の先輩であるが、山田に関してはあまり尊敬したくなかった。とはいえ、なにか事件を起こさない限りは、人間として扱うつもりではあったが。


「さて、そろそろ辺根地亜川のキャンプ場に到着するぞ」と、日比野部長が報せる。

 これが、キャンプをしに来たのであればよかったのだが、残念ながら、ぼくたちはキャンプをしに来たわけではない。


 ━━などと思っていたら、バスの運転手さんをしていた男性がテントを張りはじめた。手際よく、一つ二つと完成させる。

 さらにバスから運んできたバーベキューセットのようなものも設置して、おそらく食材が入ったクーラーボックスまで用意されている。

 まるで━━というか、キャンプそのものだった。


「彼は今回バスの運転手と調理係、その他もろもろの世話をしていただく仲腹茂男(なかはらしげお)さんだ。貴様ら、茂男さんに挨拶をせよ」

 日比野部長の号令一下、ぼくたちは男性に頭を下げて「よろしくお願いします」と言った。驚いたことに高橋刑事先輩のみ、九十度以上に身体を曲げて「おねがっしゃーっす!」と物凄い声量で挨拶していた。

 それを不思議に思っていたら、日比野部長が「彼は、わたしの友人の家に勤めている人なんだが、ケイジも無関係ではなくてな」と説明された。当の高橋先輩にも聞こえていた様子で、近づいてきた彼の口からも、説明を聞くことができた。

「藤原一家の組長さんは、うちの親父と親しくしてるんだ。仲腹のアニキはそこの若頭でな、オレもずっと世話んなってる。妖怪退治すんのにも、藤原一家の助けがなけりゃ、好きにはやれねぇんだよ」

 と、言われてもぼくにはよくわからないことばかりだったが、言葉から、つまるところ男性は極道の人間で、しかもけっこう位の高い人なのね、とうっすら認識しておくにとどめる。

 はっきり意識すると、恐怖で萎縮してしまいそうだったから。


 それよりも、日比野部長がそんな人を使える立場だなんて、いったい本当に、何者なのだろうか。

 実はこの町の支配者だったとか、そんなことを明かされても不思議ではないような気がした。

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