で、先輩はいったいどんな部活に所属しているのだろうか?
「で、ホニャ先輩はなに部に所属しているの?」
「それはね〜」
自分から言いたそうにしていたわりには、もったいをつける百合香。昔から、めんどうくさいやつだった。
「なんと」
早く言えよ、時間だって無限にあるわけじゃないんだから。始業のベルも、いつ鳴ったっておかしくないし。
「カッパ部なのです!」最後に、百合香はそう言った。
は?なんだその部は、聞いたことがないぞ。
内容がまったくわからない。想像もできない。
「それって、どんな部活なの?」
「さあ?わたしもよく知らないんだけど、三年女子の、なんかすごく変な先輩が部長やってるってことくらいしか、聞いたことないなぁ。あ、変な先輩っていうのは、別にホニャ子が言ってたわけじゃないからね」
友達としてのつとめか、ホニャ先輩のフォローをする百合香だったが、そんなことは言わなくてもわかるのだ。ホニャ先輩は他人の悪口など、絶対に言わない。まあ、言う必要がないというのもあるだろうけど。
それはそうと、カッパ部である。
そんな正体不明の怪しい部活が、本当にあるのだろうか?あるとして、その活動内容とは?
今のところ謎だらけだし、疑問しかないな。
「どう、気になるかね?」と、百合香に訊かれて、ちょっと悩む。
「まあ、いろんな意味で」
気にはなるけれど、それはあくまで未知のものへの好奇心程度に過ぎなくて、入部を希望するだとか、そういうことではもちろんない。
でも、考えてもみると学校自体、先輩を追いかけて入学したという事実があるので、そうなると部活動に関しても、先輩を基準に選ぶべきなのかもしれない。
どうせなら徹底的に。なりふり構わず。
カッパ部というものに関しては現状、謎でしかなく、不安しかないが、なんでもできるホニャ先輩が正式な所属先としてそこを選んだのならば、なにか理由がありそうなものではある。
その理由は置いておいても、実際その部に籍を置くことで、先輩と接する機会の増加が見込めるかもしれない。それだけでも、入部するメリットとしては十分だ。
けれど、やりがいはあるのだろうか?
そして、どんな活動をしているのやら。
☆★☆★☆
全国各地から集まった有象無象との、腹の探りあいがはじまる。どいつが一番危険なのか。自分のほうが優位な相手は誰か。前科者は?最初にしかけてくるやつは━━それを見極めなくては。
なんてことはまったくなくて━━
入学早々、クラスの連中はさっそく打ち解けていたし、和気あいあいとした空気が教室を満たしていた。
その理由のひとつは、ぼくと同じ中学出身の同級生が多かったことと、その近辺の学校からやってきた顔見知りばかりだったというところにあった。
よく見ると、クラスの半数以上の顔と名前を、ぼくはすでに知っていた。
この中の何人かが、いや、あるいは全員が夢原ホニャ子先輩を追いかけてきたのかと思うと、ライバルは多い。さすがにそんな馬鹿げたことはないと、知らない人は思うかもしれないが、あの先輩にはそれほどの魅力があるのだ。
もしかすると新入生全員が、ホニャ先輩を目当てに入学したという可能性も、なくはない。
実のところすでに世界的に話題の人ではあるので、海外からのライバルが入学して来なかったことを喜びたいくらいなのだ。
こないだネットで見た記事には、ハリウッドからの映画のオファーを断ったという話もあった。
日本の芸能関係も然りで、そういう誘いは断るんだよなぁ、先輩は。
ということは、その美貌を生かした仕事には興味がない、ということなのだろう。嬉しいような、もったいないような複雑な気持ちになる。
みんなに知ってほしい反面、あまり知られたくない、みたいな。まさかホニャ先輩を独り占めできるはずもないが、そう思わせる要素はある。
世界的に有名となったホニャ先輩ではあるけれど、実は名前や存在が広まっているというだけで、実際の姿を見たことがある人は世界にはもちろん、日本国内においてもそれほど多くはいないはずだ。
原因は、ホニャ先輩の映像が撮れないことにある。
スマホのカメラはもちろん、ビデオカメラでも撮影することができない━━ホニャ先輩を撮っても、その画像は真っ黒か真っ白か、あるいは撮影自体が失敗していたりと不可能なのだ。
それゆえにネット上ではホニャ先輩が実は幽霊だとか、あるいは神なのではと云った都市伝説が囁かれたりしている。
どちらかといえば後者のほうをぼくは推すが、実はそれに関しては中学時代に聞いたことがあった。
『自分で開発した、カメラに写らないようにするシステムを展開しているのです』
と説明を受けた記憶があるが、いまだにそのシステムについては正体がわからないままなのだ。
そしてホニャ先輩は、カメラで撮られるのが嫌いみたいだ。
もったいない。
以上の理由から、ぼくも先輩の写真は持っていない━━と言いたいところだが、実は一枚だけ持っているのだ。
それは、中学時代の百合香とホニャ先輩のツーショット写真なのだが、ぼくが百合香に頼み込んでコピーをもらったものである。
当然、最高級の写真立てに入れた状態で、日焼けしない場所を選んで飾ってある。
神聖なるホニャ先輩のお写真なのでヘンなことには使わないが、それでも就寝前と出がけには必ず挨拶をするし、なんなら拝んだりもする。
世界的に見ても貴重なホニャ先輩の写真は、ぼくにとっては命の次に大事で、お金よりも大切な宝物だった。場合によっては命より大切になることもあるかもしれない。
そんな貴重なものを所持しているというだけでも、ぼくの優越感は計り知れないものがあった。