俺はあいつを愛し、僕はあいつに素直になれない
「のりいいいいいい!好きだ愛してる結婚してくれ~~!!」
「無理無理無理!寄ってこないでこっち来んなうざい!」
大木蓮、13歳。身長168cmで帰宅部。スタイルが良く黒髪のポニーテールと青色の瞳が特徴的で、隠れファンも存在するが「小宮のり」を愛し追いかけ回す行為にまで至り、残念だと思われがちである。また、一人称が「俺」で男のような口調であることも非常に残念に思われている。それでも蓮のファンでいれる奴はある意味強い。
そして蓮に追いかけ回されているチビは小宮のり、12歳。身長149cmのチビで美術部。地毛が金髪で右耳に赤いピアスを2個しており、目つきが悪いことからヤンキーだと思われて恐れられている……と思いきやそうではなく、チビすぎて「かわいい」程度にしか見られることが多い可哀想な子。ちなみに一人称は「僕」。
この二人は、幼馴染である。
時計の針は10時50分を指し、学校にチャイムの音が鳴り響く。
「ちぇっ。もうチャイム鳴るのかよ早いなー。ま、先生に怒られるのめんどいし、さっさと戻るかー」
頭の後ろで手を組みながら蓮は自分の教室へ帰っていく一方、のりは……。
「はあ、はあああっ、まじでつかれた、無理いいいいぃぃ……」
便所で息を荒くしながら大声で文句を言っていた。
徐々に呼吸を整え、ため息を吐いて顔を上げると、
「 」
なんと目を丸くしてのりを見下ろし、言葉を失う女子が目の前に。
「……俺は悪くねぇぇぇえええ!!!!」
のりは激しい羞恥心に見舞われ、顔をりんごのように真っ赤にさせて叫びながら逃走。
このあと、先生に叱られ廊下に立っていましたとさ。
「こんにちは」
放課後になり、僕は美術部の部室のドアを開けて挨拶した。まだ先輩たちは来ておらず、僕の挨拶に窓から入る風だけが返事をしてくれた。
自分の席は部室の一番奥で水道の隣にある。この席にしたのは水道が近いのと、部屋の隅っていうのはなんだか落ち着くから。荷物を置いて早速作業!といきたいところだが、図書室に一度行ってから作業を行うのが日課になっているため部室を出て図書室へ。
「失礼します」
やはり本を読んでいる人は少なく、美術部部員たちのたまり場でもあるこの場所。話をしている人が大半で調べ物や読書している人は少数。ここは本当に図書室なのだろうかという疑問はさておき、僕がここへ来たのは最近取り寄せてもらった本が何冊かあるからという理由だ。ちなみにライトノベルである。
タイトルは「望んでもいない異世界旅行」。本屋で表紙の絵が綺麗だったから気になって、その時は買わなかったけど取り寄せてもらおうとは思った。そして図書の先生、通称「河先生」に頼んで一か月後、その本は新しく増えた棚に置いてあった。あと、みんな「河先生」って呼ぶけど、本名は「河瀬圭」で河瀬の最後が「せ」だから呼びにくいねってことになり、呼びやすいように生み出されたあだ名みたいなものである。最初は僕と友達の裕正だけがそう呼んでいたのだが、知らないうちに伝染していき今では「河先生」と呼ばない人はいないほどにまで達した。ついでに言っておくが、女性の先生である。
椅子に座り、「望んでもいない異世界旅行」のカラーイラストを堪能してから本文へ。読みやすい文章と面白い話の構成ですらすら読める。
「つめたっ!」
首に何か冷たいものが当たって思わず本を落としそうになった。一体誰がこんなことを……って。
「背後には要注意だぜのり~。エロ小説でも読んでたら危ねぇぞ」
「お前かよ鬱陶しい!あとエロ小説なんか読んでない!」
冷たいもの=手の正体は僕をさんざん追いかけ回しやがった大木蓮だった。それにエロ小説読んでるとか言い出しやがって、これは純粋なファンタジーものだっての。
「鬱陶しいって失礼な!俺がどんだけ探したと思ってんだよ!」
「知らないよそんなの。なんで探す必要があるわけ?」
「なんとなく今日一緒に帰りたかったからだが」
「はぁ?」
こいつ帰宅部じゃなかったっけ?なんでわざわざ僕と一緒に帰ろうとしてるんだよ。
「お前帰宅部でしょ。とっとと帰ればいいのにさ」
「だぁってさ~?一人で帰るってけっこう寂しいもんだし、話し相手いねぇと落ち着かないんだよ」
確かに一人で帰るのは寂しいとは思うが、部活が終わるのは5時で、今はちょうど4時になったばかり。あと一時間も何をして過ごすというのかねこいつは。
「はっ。ただの寂しがり屋かウサギか」
僕はあまのじゃくだ。本当はどこかで一緒に帰りたいって言ってくれるのが嬉しいと思ってるくせに、素直になれず嘲笑ってしまう。そんな行動をとる僕を、大木はどう思っているんだろう。
「嘘つきだなお前は。寂しがり屋なのはのりだろ?そう強がるなってーの」
「うーるーさーい。僕そろそろ部活行くから帰れよ」
「気が向いたら帰る」
「普通は気が向いた時に一緒に帰りたいっていうもんだけどねぇ、まあいいよ。待っとけば」
「一緒に帰ってくれるのか!?」
「じゃないと待っとけばなんか言わないでしょ」
異様に目を輝かせながらこちらに近づいてきた蓮の長めな前髪の上から、軽くデコピンして「失礼しました」と言い図書室を出た。そして、自然に笑みがこぼれる。寂しがり屋は僕のほうだと言われてむかついているはずなのに、それを分かってくれている嬉しさがあった。
「昔はあいつのほうがずっと寂しがり屋で弱虫だったのに、いつからあんなに強くなったんだっけな」
今はもう中学一年生になって秋が訪れている。一年前まで小学生だったのが遠い昔みたいになって、蓮が強くなったのも昔からみたいに思ってしまって、少し寂しいような切ないような気持ちになった。
僕はいつから、こんなに弱くなったんだろうか。
こんにちは氷室です。この作品は男の子が小さかったらかわいいなと思ってひらめいたものです。(私がショタコン気味だなんて言えない)女の子は「俺」にして、男っぽい子にしました。(イケメン女子わっしょいとか言えない)はじめは短いですが、次回からはこれより長めになる予定なのでぜひ読んで下さい。 氷室