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雅子は秀郎と仲人のおばさんの三人で食事をしていた。
「さて、二人は相性ぴったりだと思うわ。お母様からも聞かれてるの。結婚式はいつにする?」
おばさんが弾むような声で言った。
雅子はその時飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。まさかそんな話題になるとは思ってもみなかったからだ。
秀郎とは数回デートを重ねたが、未だに手すら繋いだことはない。
男女として付き合ってすらいない感じであった。
驚いて雅子は秀郎を見た。まさに秀郎も雅子と同じく面食らった表情をしてると思った。
しかし彼は違った。少し照れたように「よろしくお願いします」と雅子を見て言った。
雅子の頭はパニック状態だった。
何をよろしく?
結婚をよろしくってこと?
ていうかなんでそんなに落ち着いた表情なの?
雅子はとりあえず笑ってその場をしのいだ。
こんなに早く? こんな展開?
お見合いってそういうものなの?
帰りのタクシーで秀郎は雅子に言う。
「またラインします」
デートの帰りの別れ際、毎回彼はこのセリフを言う。
まるでその言葉しか知らず、それしか発することができないオウムのように。
タクシーのドアが閉まり車が去る。




