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店が閉店時間になったので、帰ることとなった。店を出て雄二と手を繋ぎ、夜道を歩く。大通りを出て、タクシーを停める。
「気をつけて帰ってね。雅子ちゃん」
停車したタクシーに乗り込む雅子を見送りながら雄二は微笑んだ。
「ありがと。雄二。楽しかった。おやすみなさい」
タクシーのドアが閉まり、雄二の姿が見えなくなる。帰りのタクシーの中で雅子は一人でつぶやいた。
「何かが起こっちゃった」
雅子は酔いと眠気の中、夢心地で今夜起こった出来事を回想する。
***
翌朝、雅子は清々しい気持ちで目覚めた。
心が満たされる。こんな気持ちは一年ぶりだろうか。
昨日の夜は本当に楽しかった。私の知らない間についていた傷を、雄二優しく包み込んでくれた、そんな感覚。
ぼんやりと昨夜のことを思い出した。十年男女問わずの関係が何もなかった雄二とキスをした。
無垢なキス。ドキドキも無く自然なキスだった。
ドキドキも無く。ん? なぜドキドキしなかったんだろう。
雅子は雄二にラインを送った。普段通りに。
雅子:昨日はありがとう
雄二:こちらこそありがとうまた行こう




