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22:

 その夜、雅子はソファでテレビを観ていた秀郎に、声をかけるタイミングを伺っていた。

 

今だ。秀郎さんに聞いてみよう!

 雅子はソファに近ずき、少し緊張しながら秀郎に声をかけた。

「秀郎さんは子作りとかはどう考えてるの?」

 秀郎は一瞬びくっとなり、

「そっ、それは、それは、まだまだ仕事が落ち着いてからだよ!」と少し強い口調で答えた。

 まるでこれ以上何も聞かないでほしい、という怒りにも似た口調である。

 怒り口調の秀郎に不安を感じつつ、雅子は続ける。

「そういう経験はあるよね?」秀郎の目を真っ直ぐ見て聞いた。

「あっ、あるよ」と少し声を上ずりながら目をそらして秀郎が答えた。

 それを最後に秀郎は立ち上がり、「トイレ行ってくる」と言い、部屋を出た。

 

雅子は先ほどの秀郎の反応に疑惑を持ってしまった。

「そういう経験はあるよね?」

「あっ、あるよ」

 普通だったら、少し笑いながら「あるよー」

 とか「俺童貞だと思う? ははは」とか……。

 経験済みであれば、そんなリアクションではなかろうか。


 もしかして経験がないのか? つまり彼は童貞なのか? 四十歳過ぎで。

 しかし、彼の「あっ、あるよ」の言い方は緊迫した雰囲気があった。

 何か違法のものを所持していて隠していたそれが警察に見つかってしまい、それを差し出さなければならない。

 そんなある種の緊迫した雰囲気。

 

無いものをあると言う時、人は自身の想像を駆使し、言葉を通じてそれを現実に存在させようと試みる。

 しかし、そこには何も存在しない。


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