16:
結婚式数日前から前日にかけて、世の花嫁の大半がそうなる傾向があるように、雅子は最高のマリッジブルーにとらわれていた。
本当に秀郎で良いのか?
正直なところ、雅子はこの一ヶ月の間、秀郎が嫌いとさえ思う時があった。
なぜなら、秀郎はクリニックの開業で忙しく、秀郎のドタキャンが増え、連絡すらとれないことが多くなったのだ。
仕事がかなり大変なのは聞いてた。
しかし、それなりの配慮は雅子にするべきであろう。
秀郎は全く器用なタイプでは無いため、そんなことは到底無理のようだった。
「開業医になったら人が変わるよ」
と、数人の開業医妻の友人からはそんな話しをよく聞いていた。
彼女達は旦那のことを「自分の城という感じでクリニックが第一になる」や「旦那がすっごくえらそうになったり殺気だつ」と話していた。
開業のプレッシャーやストレスからか、とにかく肉体的、精神的に開業した本人が大変なのだそうだ。
本来であれば、結婚式は婚約後の半年後くらいが理想だと雅子は考えていた。
しかし、秀郎が式は婚約後の二ヶ月後ということを強く希望したのだ。
秀郎自身が結婚時期を早めたくせに、忙しいから、と結婚準備や雅子に関して配慮できないとはいかなるものか。
また、未だに秀郎について、何処か不可解なことが多く、謎めいている部分を感じる。
それは良い意味の謎めきではなく……。




